中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

【中学受験】御三家の凋落は本当か?

最近、中学受験界隈で、「御三家の時代は終わった」「時代は変わった」「これからは共学の時代」などといった言説を目にするようになりました。

本当にそうなのでしょうか?

今回はここを考えてみます。

※特定の学校を持ち上げるつもりも貶すつもりもありません。私の私見にすぎませんのでご容赦ください。

そもそも御三家って?

中学受験の世界で「御三家」と呼ばれる(呼ばれた)学校があります。

男子校は開成・麻布・武蔵、女子校は桜蔭・女子学院・雙葉です。

いったい、いつ頃、誰が、何の目的で使い始めたのかは不明です。

一説によれば、1960年代後半から、都立高校が学校群制度の導入により凋落し、それに代わって存在感を強めた男子校・・・開成・麻布・武蔵を「御三家」と呼ぶようになったのがはじまりだとか。

その後、女子御三家が付け加わりました。

さらに、こんな御三家も。

◆神奈川男子御三家・・・栄光・聖光・浅野

◆神奈川女子御三家・・・フェリス・横浜雙葉・横浜共立

◆新男子御三家・・・駒場東邦・海城・巣鴨

◆徳川御三家・・・尾張・水戸・紀伊

 

そもそも、「御三家」「日本三大○○」「世界三大〇〇」のように、何かのジャンルについて3つのものをひとくくりにして喧伝するのが、日本人は大好きなようです。

世界でも同様に「三大〇〇」を定めているのかどうかは知りませんが、「Big three」という言い方で同じようなことを考えているのかもしれません。

私見ですが、日本においては江戸時代に流行した「格付け」ブームあたりが発端のような気がします。

 

さて話を中学受験に戻します。

この「御三家」という言い方に、おそらくは受験産業が乗っかりました。

2月1日に1回だけ入試を行う最難関校をひとくくりにすることで、塾の合格実績の比較に便利だったからです。

また、東大をはじめとする難関大学への合格実績が突出していた学校群をひとくくりにすることで、保護者にもアピールしやすかったという点もあります。もちろん人気校でもありました。

「男女御三家」とよばれた6校には、以下の特徴があったのです。

(1)2月1日に1回だけ入試を実施

(2)歴史・伝統がある

(3)大学実績が素晴らしい

(4)知名度がある

(5)憧れの学校

 

(1)は、塾屋からみれば、一人の受験生が1回しか合格できないので、塾どうしの実力比較がしやすいという点が重要です。また、受験生からみれば、この日に第一志望の学校を1校しか受けられないので、慎重に検討して学校を選んで受験することになります。そして学校からしてみれば、「第一志望」の生徒しか受験してこないというメリットもありました。

 その観点からは、巣鴨や海城のように複数回入試を行う学校をここに入れるわけにはいきません。また栄光・聖光・浅野のように、2月1日以外の入試日の学校も「御三家」の資格?は無いということになります。

 

(2)については、昨今軽視されがちですが、実は学校選びの際に重視するべき要素です。

開成・・・1871年

麻布・・・1895年

武蔵・・・1922年

桜蔭・・・1924年

女子学院・1870年

雙葉・・・1909年

武蔵と桜蔭は新顔?ですが、それでも大正時代の創立で、すでに100年以上の歴史を誇ります。

ところで、その他の学校も並べてみます。

海城・・・1891年

駒東・・・1957年

巣鴨・・・1910年

栄光・・・1947年

聖光・・・1957年

浅野・・・1920年

フェリス・1870年

横浜雙葉・1900年

横浜共立・1871年

駒東・栄光・聖光を除くと、どの学校も歴史がありますね。フェリスは女子学院と並んで日本最古の女子校だったはずですし。

 

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まあ、歴史だけを単純に考えれば、古い学校はいくらでもありますので、必ずしも歴史があることだけが「御三家」の条件ではないかもしれません。

ただし、伝統があるということは、明治(あるいは大正)の混沌とした時期に、教育について強い信念をもった人物がいて、その信念に共鳴した同志が集まり、困難を乗り越えて学校を設立した、ということは言えると思います。また、その理念に共感した生徒があつまり、教師があつまり、そしてそのサイクルが100年以上にわたって継続していた、そう考えるとこれはすごいことなのです。

「利潤追求」が見え隠れする今時の新興校が決して追いつくことのできない要素であることは間違いありません。

※ただし、新興校については、信念のもとに設立された学校もあるでしょうから、今後の時代を乗り越えていくことで評価が高まることも期待できます。

 

(3)大学実績については後述するとして、(4)の知名度、(5)の憧れについても、おろそかにできない要素です。

「おめでとう! 中学校に合格したんだって?」

「ええ、ありがとうございます」

「それで、何ていう学校に進学することになったの?」

「〇〇中学です」

  A:「それはすごいわね! 難しい学校なんでしょ? 本当におめでとう!」

  B:「・・・。(聞いたことのない学校だなあ。何て言おう)・・・それは良かったわね!」

くだらない、と思われますか?

私はそうは思いません。合格のために必死に努力した成果なのですから。

誰だって、ほめてもらいたいじゃないですか。

知名度のある学校への進学というのも、自己肯定感につながるような気がします。

 

私の高校時代の友人に、「東京医科歯科大学(現東京科学大学)医学部医学科」に進学した男がいました。私と違って優秀な男です。その彼が大学生時代に嘆いていたことを思い出しました。

「地方に行くと、誰も俺の大学を知らないんだぜ。こんなことなら、思い切って東大理3狙えばよかった」

優秀な人間の発想は理解できません。

 

大学実績について

実は、大学実績の比較というものは、単純に見えてなかなか難しいのです。

◆浪人しても東大を目指す風潮

◆現役合格を優先する

◆私大が人気

◆医学部を目指す生徒が多い

◆学部の詳細な分析が難しい

何を基準にとるかによって、実績の評価は大きく変わります。

 

そのあたりについては過去の記事をごらんください。

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そこで、ここはシンプルに、東大の合格者数だけに注目することにしました。

ただ、1つ問題が生じます。

それは、共学校の渋谷幕張・渋谷渋谷の扱いです。

この両校は、男女別の合格実績を公表していないのです。

一般には、東大を目指す層は男子に多いものです。女子は浪人を回避する安全志向が強いということなのでしょう。

単純に東大合格者数だけを比較すると、渋幕・渋渋に比べると女子校が著しく不利になりそうです。

また、各学校の卒業生数が2倍以上も開いている場合もあり、やはり単純比較ができません。

そこで、卒業生数で割り算をして、「100名あたりの合格者数」を計算することにしました。

学校によっては卒業生数を公表していないので、募集定員からみた推計値となります。

男子校比較

まずは男子校比較です。

単年でグラフ化すると、年較差が大きすぎて見づらいので、5年移動平均をとりました。

◆武蔵の凋落傾向、ただし下げ止まった

◆開成の高目安定、ただし近年下落傾向か?

◆麻布の安定、おそらくこの学校はこのあたりでずっと推移するのでは?

◆渋谷幕張の急伸、ただし最近は伸びが止まり横ばい傾向?

◆渋谷渋谷の急伸

◆聖光の急伸

だいたいこのあたりが見て取れると思います。

 

では女子校を見て見ます。

女子校比較

男子校同様、渋谷渋谷と渋谷幕張を入れてあります。

◆桜蔭の高目安定、ただし下落傾向か?

◆女子学院はほぼ横ばい

◆フェリスの低め安定、ただし微減傾向?

◆豊島岡の伸びは止まり横ばい傾向

 

それにしても、あらためて見ると桜蔭の1980年代からの伸びはすさまじいですね。

 

御三家は凋落したのか?

 

個人的な意見としては、NOです。

 

おそらくこの文脈というのは、次のようなものなのでしょう。

「渋谷渋谷・渋谷幕張のような新興共学校の伸びが目覚ましく、従来なら開成や桜蔭を受験した層がそちらに流れている」

「御三家の受験者数が減少した」

「桜蔭や開成を蹴って渋谷幕張に進学する子がいる」

「古臭い別学よりも、今は共学が注目されている」

 

なんだか、「アクセス数稼ぎ」の匂いがするのは気のせいでしょうか?

 

別学が「古臭い」かどうかは、主観の問題ですからここでは論じません。また、開成や桜蔭を蹴って他の学校に行く生徒がいてもおかしくはないでしょう。もっとも両校とも2月1日の単日入試ですので、1月の渋幕不合格だった受験生が、1日に開成や桜蔭を受験し、2日の渋幕で合格してそちらに流れた、というケースもあるかもしれません。ただし、なぜ2月1日は渋谷渋谷を受験しなかったのか、という謎は残ります。この流れは、単純に地域的な問題にすぎないのだと思います。千葉の渋谷幕張のほうが通いやすかった、という理由です。

同じように、聖光が開成を抜こうとしている、というのも浅すぎる分析です。立地が違いすぎますので。両校に等距離に住んでいて、聖光の「面倒見の良さ」に惹かれる層が聖光を選ぶことはあるでしょう。しかし、国内のみならず世界にもある開成のOBの組織「開成会」に魅力を感じる層もいるでしょう。

渋谷幕張も渋谷渋谷も魅力的な学校です。創立者の「田村イズム?」に惹かれる方も多いと思います。

 

つまらない対立の図式で考える必要はないでしょう。

 

しかも、比較の相手は100年以上存続する学校です。ここ数年のトレンドだけを見て語ることは愚かなことだと思います。

こうした学校は、東大の実績だけを見て選ばれる学校ではないからです。

単純に、選択肢が広がった、ということですね。

従来は共学の進学校の選択肢が神奈川の桐蔭くらいしかなかったのに、近年急に増えてきました。

別学よりも共学を好む層もいますし、伝統校より新興校を好む層もいます。「理念についてきなさい」というスタンスよりも、生徒・家庭に対するサービスが充実している学校を好む人もいます。

今まではなかった選択肢が増えたことで、受験生が分散しているだけだ、というのが私の見立てです。

 

もちろん、選択肢が増えることは望ましい変化です。