
今回は海城中、とくに社会科記述問題のお話です。
どんな学校?
まずはいつものように、公式HPから見ていきましょう。
リベラルでフェアな精神を持った「新しい紳士」の育成
戦後の新制中学・新制高校発足時の先生方の思いは、利根山光人デザインの新しい校章に込められています。(校章の頁参照)それはすなわち、「生徒各人の幸せ・善きことは生徒各々の自由意思によって選択、実行、実現されるべきであり、教職員はそれを柔軟な姿勢で支援する。」というものでした。
そこで標榜されているのは「リベラリズム(自由主義)」の立場です。ただし、それはなんでもありの「自由至上主義(リバタリアニズム)」としてではなく、「自由」の前提に「公正さ(フェアネス)」を位置付ける「公正基底的リベラリズム」の立場として発展させられました。
難しい言葉が出てきましたね。
「リベラリズム」と「リバタリアニズム」
リベラリズムのほうはなじみ深いと思います。日本語でいえば「自由主義」になりますが、すでに「リベラル」そのままで使われています。その定義は多様ですが、ここでは簡単に「個人の自由を尊重し国家の介入を制限する」に「社会保障の充実」をあげておきましょう。「小さな政府」と「社会保障」は矛盾するようですが、個人が自由であるためには、社会的不平等を是正しなくてはならないという発想です。
リバタリアニズムについては、リベラリズムの極端な形ともされていますが、個人の自由を最大化し国家の介入を最小化する「自由至上主義」とでもいえばよいでしょうか。「自由」は素敵なワードですが、何をしても許される方向に行くと大問題ですね。
リバタリアニズム信奉者のことを「リバタリアン」といいますが、そう聞くと「オバタリアン」を連想してしまうのは、年齢がバレますので要注意です。1980年代~90年代に書かれた漫画のタイトルから、「あつかましい中年女性」の呼称として流行りました。失礼な呼び名ですが、すでに死語となりました。
ちなみに海城の校章は、KとSをデザインしたなかなかモダンなものです。戦後リニューアルしてこの校章になったのですが、Kの図案は船の帆の形=生徒を表し、Sの図案は柔らかな海風の図案で、生徒を前へ進ませる海風とは教職員のことなのだとか。
制服は古典的な黒の詰襟です。しかし、これは自由なのだそうです。入学時に指定のデパートで購入できますが、別に標準的な詰襟なら何でもよいとなっています。校章が刻まれたボタンだけを購入して付け替えるのです。これは助かりますね。ネットで調べてみると、詰襟学生服は1万円を切る価格でも売られていますし、大手紳士服チェーンの物でも2万円台から買えるのです。どうせすぐに身長が伸びていきますし、買い替えしやすいのは良いですね。黒の詰襟は何とも古風な印象がありますが、むしろ全国標準規格のために入手がたやすいというメリットがあることを初めて知りました。このあたりにも海城らしさを感じます。
1891年(明治24年)に海軍少佐古賀喜三郎によって、海軍兵学校などへの進学を目指す「海軍予備校」として創立されました。そう聞くと「軍人養成学校?」と腰が引けますが、時代背景を考えると、それも教育の一つの在り方だったのです。それに、海軍はもともと海外との交流も多く、リベラルな気風でした。
2011年には、高校募集を停止して完全中高一貫校になっています。
それ以前には、高校から入れる男子進学校としては貴重な存在だったのですが、今やそうした高校は開成・筑駒・桐朋くらいしか残っていません。ちなみに女子では、2022年に豊島岡が高校募集を停止したため、皆無です。

海城の大学実績が急伸したのは、1980年代から1990年代にかけてです。1995年には東大合格者68名という最高値を出しました。そのころだと思うのですが、海城の塾関係者向けの説明会にお邪魔したことがあります。たまたま説明にあたった先生のせいかもしれませんが、鼻息の荒い、上昇志向の強い学校という印象でした。大学実績をここまで急伸させるというのは並大抵のことではありません。そのことが校風を変えてしまうことも多くの学校で見てきたことです。むしろ実績が安定期に入っている現在のほうが、学校にゆとりのようなものを感じます。進学した生徒たちに聞いても印象は良いですね。
ちょうど同じ頃に、全寮制の「那須海城」を開校したことも話題でした。日本ではなかなか欧米のような全寮制の私立校は定着が難しいのです。那須海城も期待を込めて見守っていたのですが、正直成功したとは言い難く、東日本大震災を契機として21年で閉校されました。
海城の社会入試問題
海城の社会科の入試問題が、今のような記述問題に全振りしたのも、1990年代です。
初期の問題は、「記述のための記述」といった印象で、正直にいってさほど質の高いものではありませんでした。しかしいつのまにか高度な思考力を要する良問になっていったのです。
少し丁寧に分析してみます。
海城の社会は、単なる知識の暗記に留まらず、社会の諸課題を多角的に捉え、論理的に思考する力が強く求められている問題です。
このレベルを求める学校は、他には麻布・武蔵・鴎友しかありません。栄光や芝も記述を出題しますが、もっと知識系にふった問題で、そこまでの高度な思考力は要求しないのです。もっともそれでも小学生には難しいのですが。
もちろんこうした出題傾向は、海城が受験生に求める生徒像を反映しています。
〇多角的・批判的な思考力
「伝統行事」だと思われているものが実は近代に作られたものである(初詣や恵方巻)といった視点や、物語(桃太郎)が時代や政治によっていかに書き換えられてきたかという視点など、「当たり前」を疑い、物事を歴史・地理・公民の枠を超えて多面的に考察する力が求められています。
〇高度な資料読解・分析能力
膨大な統計資料、古地図、新聞記事、広告、さらには学術的な図説などを正確に読み取り、そこから得られた情報を組み合わせて、複雑な社会事象を説明する能力が重視されています。この力は、中学に進学してから発揮されますね。海城の社会科の授業は、地理・歴史・公民といった分野別学習に加えて、「社会Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ」となっています。
本校中学の教育課程では、全体として総合学習(社会Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ)と系統学習(1年次地理・2年次日本史中心の歴史・3年次公民)の2本立てで、生徒の自発的な研究能力、積極的な問題解決能力を育みます。
〇社会課題への高い関心と当事者意識
物流の2024年問題、種苗法改正、感染症対策、エネルギー問題など、現代社会が直面する具体的な課題をテーマとして扱っており、これらに対して自分なりの意見を持ち、論理的に記述できることが期待されているのです。
海城中学の社会科は、「過去を学び、現在を分析し、未来を構想する」という社会科の本質を問う出題が続いており、今後もこの姿勢は変わらないと思います。
社会科を指導している立場からすれば、こうした出題傾向は大歓迎です。ただ知識を暗記するだけで得点できる問題はつまらないですから。対策も容易ですし合格点を取ることも簡単ですが、そんな勉強に小学生の貴重な時間を費やすのはもったいないと思っています。
どうせ中学受験に挑むのなら、少しでも思考力や記述力を鍛えてほしいと思うのです。私の授業でも、「テキストを読めば書いてある」ような内容だけを扱いませんでした。わざわざ私の授業を受けるのですから、そこでしか得られない「何か」を提供したいと考えていたのです。
麻布や海城のような出題が増えてくれると嬉しいのですが、さすがにほとんどの受験生にはハードルが高すぎるのでしょうね。まあそれは仕方のないことです。
今後も海城の問題は注目していきたいと思っています。
記述力向上のための本を書いています。麻布中以外にも、海城受験生にも役立つ内容です。
また、記述力向上の塾を開きました。HPをぜひご覧ください。
