中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

【中学受験】桜蔭、女子学院、渋谷渋谷、3択の時代

今回は、女子最上位の進学校の悩みについて書いてみたいと思います。この3校、校風も理念もまるで違いますし、立地も異なります。迷う余地など無いと思うのですが、案外この3校で迷って相談に来る方が多いのです。

※いずれの学校も、必要以上に持ち上げる意図も貶める意図もありません。あくまでも私の主観に基づく感想レベルの記事ですのでご容赦ください。

渋谷渋谷の登場

あらためて調べてみたところ、渋谷教育学園渋谷中高の開校は1996年とありました。ただしこれは、学校が正式にHPで謳っている沿革ではありません。理由はわからないのですが、この学校は「沿革」「歴史」をHPで公開していない珍しい学校(私の知る限りここだけ)なのです。たしか入学案内パンフレットには少しだけ書いてあったような気もするのですが、手元に無いので確認できなくてすいません。

1924年創立の「渋谷女子高」を、学校法人田村学園が吸収?して、1996年に渋谷教育学園渋谷中高としてスタートしたということのようですね。

実はその10年前に、渋谷教育学園幕張中高が創立されています。こちらはHPに沿革がきちんと載せられています。渋谷幕張の躍進は、千葉県における入試地図を大きく塗り替えました。それまでは、東邦大東邦と市川が千葉の難関校の人気を二分していました。1月の「お試し」受験として、この両校を受ける生徒は当時から多かったものです。この2校なら、合格したら多少遠くても通ってもよい、そういうご家庭も多かったことを覚えています。しかし、渋谷幕張が「新しい教育の風」を吹かせると状況は変わり、千葉における最難関校として、千葉のみならず東京からの進学者も集めるようになっていきました。

そんな渋谷幕張の成功を受けての渋谷渋谷開校だったわけです。

ただし、渋谷幕張も当時はまだ開校10年目とあって、大学実績は、慶應49名、早稲田74名とまずまずの数字でしたが、東大は3名しか出ていませんでした。1996年の実績としては、東邦大東邦が東大4名、早稲田55名、慶應32名でした。市川は、東大8名、早稲田139名、慶應90名となっていました。この数字だけを見ると、市川が最も実績が高く、東邦大東邦と渋谷幕張が同じくらいに見えますね。ただし、東邦大東邦は、1992年には東大11名、1995年には8名でしたが、渋谷幕張は2名~3名の年が続いていました。

こうした場合、プロとしての判断は、「渋谷幕張も新しい学校だし今後の伸びに期待はできるが、まだ何ともいえない。東邦大東邦や市川のほうが安心できる」ということになります。

受験はギャンブルではありませんので。子どもの未来がかかっていますから、「今後の伸びに期待」して学校を選ぶわけにはいかないのです。「確固たる実績」に基づいて判断するのです。

そして、渋谷渋谷が開校しました。まず最初に懸念したのは、母体となっている「渋谷女子高」の存在です。1990年代までに渋谷で青春を送った方なら、当時の「渋女」の評判をよくご存知だと思います。「あの渋女が共学進学校として再スタートを切った」と聞いても、わが子を通わせたいご家庭はないでしょう。ただ、学校の説明会等をよく聞いてみると、渋女とは完全に分離した新規開校であることがわかりました。

渋谷幕張もこの10年で伸びてきているようだし、渋谷渋谷にも期待できるのか?

そうは思いますが、前述したように受験はギャンブルではありませんので、「先物買い」はできないのです。

その当時教えていた生徒に、成績が低迷している子がいました。たしかS偏差値で30台がやっとというレベルだったと思います。そしてかなり個性的な子だったので、公立中は無理、だからといって別学私立進学校に行っても「浮く」ことが容易に想像できたのです。また、大学附属校の雰囲気も合わないことは確実です。そこで、渋谷渋谷を検討し、進学しました。「あの子にも進学できる学校があってよかった」という安堵と、渋谷渋谷の将来に対する不安の両方があったことを今でも覚えています。幸いにしてとうべきか、その後の渋谷渋谷の躍進はご覧の通りです。

 そのころまでは、新規開校や、入試制度改革の初年度は、「入り易い」のが通例だったのです。

しかし、ネットとSNSの普及により状況は大きく変わりました。

学校内部の様子までネットに流れる時代になりましたので、新規開校といえども、ある程度の未来が予測しやすくなったのですね。

広尾学園や三田国際科学が開校初年度から人気を集めるようになったのはそれが理由だと思います。

 

3択の時代

もともとどこかの受験産業が言い始めた言葉だと思います。

「女子御三家は桜蔭・女子学院・雙葉」

たしかに、進学校を目指す学力最上位層の女子が受験する学校としては、この3校の名前がよく上がりました。ただ校風や理念がまるで違うため、綺麗に棲み分けがされていた印象です。しかし、今や状況は変わりました。進学校を目指す女子は、桜蔭・女子学院、そして渋谷渋谷の3校に分かれるようになったのです。もちろん雙葉はその校風が魅力的で、他に目もくれずに目指す子も多い学校です。

ただし、渋谷渋谷は共学校ですし、試験日も複数設けられています。桜蔭・女子学院が第一志望の生徒は渋谷渋谷を2日に受験できますが、もちろん渋谷渋谷が第一志望の生徒は1日から渋谷渋谷を受験します。「本当は渋谷渋谷に入学したかったけれど、不合格だったので仕方なく桜蔭・女子学院に進学した」という生徒は今のところいません。

そうすると、渋谷渋谷に進学した生徒は2つに分かれることになります。最初から第一志望だった生徒と、桜蔭・女子学院が残念で渋谷渋谷に進学した生徒です。

これが学校の雰囲気にどのような影響を及ぼすのかはわかりません。桜蔭・女子学院のような「高い自己肯定感」からのスタートではない子もいるのですから。

もっともそうした生徒に話を聞くと、半年もしないうちに、「桜蔭・女子学院じゃなくてこの学校に進学して良かった」となるようですので、さほどの影響はないのかもしれません。

また、もちろんこのことは、桜蔭・女子学院に比べて渋谷渋谷が入り易いということでは全くありません。これは複数回の試験日を設けている学校の宿命?みたいなものです。

校風の違い

校風に対する捉え方は人により異なります。私が「この学校は落ち着いた上品な校風だ」と考える学校に対して、「あの学校は下品です!」と考える方もいるでしょう。

したがって、校風に関して述べることは意味がないのですが、少しだけ書きたいと思います。

入学時の偏差値は同等です。偏差値表によっては桜蔭のほうが少し上に書かれていますが、それは誤差の範囲内でしょう。実際に合格者の成績を見ても、大差はありません。桜蔭ー女子学院ー渋谷渋谷、という年もあれば、女子学院ー桜蔭ー渋谷渋谷、あるいはその逆のときもあります。とくに渋谷渋谷は3回入試を実施しているので偏差値の算出が意味をなさないのです。大学実績についても、男子の数字が混ざりますので、較べにくいですね。

そこで桜蔭と女子学院を比較します。

桜蔭・女子学院東大実績推移

青色が桜蔭、ピンクが女子学院の東大合格者数推移です。どちらも生徒数はほぼ同じですので、単純に合格者数でグラフ化しました。そのままだと年差が大きくて見づらいので5年の移動平均をとっています。

同等の学力だったはずの生徒の6年後がここまで違うとなると、桜蔭一択のようにも見えますね。女子学院は学校で伸ばしてくれないのか? と疑念もわくかもしれません。

もちろんそんなことはありません。これは、学校および生徒が目指す方向が異なることを意味しているのです。価値観の相違といってもよいでしょう。

例えば、東大一直線塾として名を馳せる「鉄緑会」の在籍者数は、塾公表の数字を信じるとするなら、桜蔭が912名、女子学院が307名となっています。そもそも「東大」を目指す生徒数に大きな違いがあることが反映されていると思います。

両校の文化祭に足を運ぶことをお勧めします。

まるで違います。

女子学院の文化祭は、いわば「お祭り」です。そもそも校則もほとんど無く、服装も髪色も自由な学校ですので、文化祭時だけの「弾けた生徒」というより、普段の生徒の様子を垣間見る感じなのだと思います。

それに比べて桜蔭の文化祭は、お行儀の良いものですね。いくつもの学校の文化祭を訪れましたが、桜蔭スタイルのほうがスタンダードだと思います。真面目かつアカデミックな展示が中心ですが、女子校はどこもほぼこんなかんじです。女子学院はむしろ男子校に近いノリかな? ただし、一部の男子校(麻布)のように悪ふざけはありません。節度のある弾けたぶりで、私はこちらに好印象を持ちました。桜蔭は「外部に向けての発表」の場である要素が強いのに対し、女子学院は「自分たちが楽しむ」ことが優先している印象です。ただ、保護者や受験生親子に接する態度を見ると、女子学院もかなり「きちんと」しています。

女子学院の文化祭を訪れていた男子高校生たちが、「JGは可愛い子が多いよな!」と会話しているのを小耳に挟んで思わず笑ってしまいました。たしかに他校の文化祭は制服が基本です。桜蔭も文化祭といえども生徒は例のジャンパースカート姿です。それに対して女子学院は、「好きで旧制服のセーラー服」を着こなしている子もごくわずかいますが、ほとんどは私服です。なんちゃって制服風のチェックのミニスカートにジャケットの子もいれば、お姉さま風ファッションから可愛い系まで多種多様ですね。金髪やピンクヘアにセーラー服なんてJGでしか見られません。彼らはそうした外見に惑わされたのかな?

一見して自由&野放しの印象もある女子学院ですが、キリスト教というバックボーンがしっかりありますので、きちんとした学校だというのが私の判断です。桜蔭については弾ける要素はありません。まじめにコツコツ勉強出来る子、したい子にとっては一番しっくりくるでしょう。

渋谷渋谷については、共学校ですので、女子校の価値基準の物差しでははかれません。きちんと柵で囲われた中を走り回ることのできる自由、というのが私の印象です。ちなみに麻布や武蔵にはその柵が無いと思っています。

そのあたりは、渋谷渋谷の文化祭を訪れるとわかると思います。「弾けて」いないのです。展示等のクオリティは高いのですが、突き抜けている感じは受けなかったかな。また、男子が目立っていない印象もありました。男子中高生って「お馬鹿」な青春を驀進するものじゃないですか。ときにはそれが暴走し過ぎるものですが、とんでもなく化ける子もいるものです。そのあたりが、どうしても共学校だと弱いなあ、というのが私の率直な感想でした。その代わり、女子は元気でした。

 

学校30年一周説

 私が勝手に考えている説です。

其の学校を卒業した生徒が、自分の子どもを入学させるまでに30年、そういう意味です。学校の良さや本質は、卒業生が一番よく知っています。いや、卒業生でなければわからないのです。

図書館や理科室等施設の充実を誇る学校も多いですが、そんなものはお金さえかければ何とでもなる要素で、教育の価値とは関係がありません。

留学制度や海外研修制度が充実している学校もありますが、これも教育の本質とは無関係です。

海外大学実績を誇る学校も多いですが、蓋を開ければ帰国生入試で英語ネイティブの生徒をかき集めただけかもしれません。

説明会やオープンキャンパス等で見せられる厚化粧の下にある教育の本質を見極めるのは、我々プロでもなかなか難しいのです。

しかし、その学校に実際に進学し、6年間を過ごして卒業した卒業生だけが、学校の本当の姿を知ることができるのです。

自分の母校に自分の子どもを進学させたい。そう思う卒業生がどれくらいいるのかが、学校の価値を如実に示すと思っています。

最初の卒業生が自分の子どもを受験させるまでに、最低でも30年くらい。それが「30年一周説」の根拠です。

渋谷渋谷は、来年で開校30年を迎えます。桜蔭は来年が開校102年です。すでに3周以上まわっているのですね。女子学院は、来年は開校156年!です。すでに5周以上まわっています。こうして考えると、渋谷渋谷はこれからが正念場だと思います。

待てよ! そうすると渋谷渋谷に進学したあの生徒の子どもがもう中学受験する年代ということなのか!

歳はとりたくないものです。

 

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