
今回は、あまり書きたくないテーマです。
塾の合格実績がいかに信頼できないか、というお話です。
同様のテーマを過去にも2回書きました。
それでもなお、塾の実績に踊らされる受験生が多いので、定期的に同様のテーマで書くべきだと思ったのです。
塾の合格実績例
とある塾の公式HPの合格実績を見てみました。
派手な色使いで、華々しい数字とグラフが目を惹きます。
この数字、本当なのかな?
そう思ってよく見ると、こんな文言を見つけました。
【合格者数の集計について】
公益社団法人全国学習塾協会が定める基準に従って集計しています。集計対象は、〇〇グループに塾生として正規の入塾手続きを行い、授業に参加した生徒です。
そして、『合格実績適合宣言 公益社団法人全国学習塾協会」というマークがありました。
「よくわからないけど、公益社団法人の全国学習塾協会というところが実績の数値を保障しているのだろう。これならこの数字は信頼できるよね」
と普通は考えますね。
ところで、この「公益社団法人全国学習塾協会」ってどんな組織なのでしょう?
塾を網羅した業界団体は無い
「公益社団法人 全国学習塾協会」という名称からは、全国の8割くらい、少なくとも過半数が加盟しているように思えますね。
しかし調べてみると、実態はだいぶ異なるのです。
公式HPから会員塾を調べてみました。東京都は以下の塾が会員となっています。
いぶき学院
進学塾インサイト
栄光ゼミナール
エ-スセミナ-
ena
エルヴェ学院
(株)スタディラボ
学進会
学文塾
苅草学院
(株)クルイト
啓修ゼミナール
桂馬ゼミナール
個別指導プラスジム
(株)サクシード
(株)さなる
修明学園・修明塾
城北スク-ル
進学個別イクシード
スクールIE
(株)SmartWorx
青藍学院
チーム・ファミリア
翼学院
ナカジュク
日本教育学院
(株)日進研
日本知育子育て脳育協会
ハイブリッド式学習塾α-HERIX
博文進学ゼミ
(株)プラドラーニングスタイル
三井塾
明光義塾
(株)メイツ
(株)スプリックス(森塾)
早稲田アカデミー
ING進学教室
学芸教育研究所
個別指導アトム
創研塾
東京英才学院
文化教育学院
ベストツリー(株)
学び舎オアシス
陵南セミナ-
吉田塾
たった46塾です。
経済産業省の資料によると、全国には塾が49682あるそうで、そのうち東京都にあるのは4042となっています。
つまり、この学習塾協会に加盟している塾は東京都にある塾のほんの1.1%に過ぎないのです。業界を網羅しているどころか、ごく一部の塾が集まっているだけでした。
また、塾名を良くみると、私でも知らない塾がずらりと並んでいますね。大手といえる塾は、集団指導塾では栄光ゼミナール、早稲田アカデミーとenaくらいでしょうか。
日能研もSAPIXも四谷大塚も加盟していません。
全国学習塾協会の定める基準
この「全国学習塾協会」は、合格実績カウントについての自主基準を設けています。
長いのですが、紹介しましょう。
受験直前の6か月間のいずれかに①「在籍」があり、かつ②同時期に受講契約に基づく30時間以上の「受講」の実績がある生徒、あるいは継続して3か月以上の「受講」の実態がある生徒を、合格実績をカウントする対象の生徒とする。
どうやら、8月~1月の6か月の間に「在籍」することが条件その1のようです。
そして「在籍」の定義はこうなっています。
・「在籍」とは、入塾申込書等の契約書面の取り交わしがあり、有料の講座への料金の納入が証明できることを指す。体験授業や模試受験のみ等の生徒はカウントの対象としない。
なるほど。お金を払って契約書を交わさなくてはならないのですね。とにかく書類にサインさせれば、格安の講座でも「在籍」とみなせるというわけです。
さらに、30時間以上か、3か月以上の「受講」の実態が必要となっています。
何をもって「受講」とするのかは、こう定義されていました。
・「受講」とは、対面授業への出席やwebを介してのオンライン受講、映像の視聴等を指す。在籍のみで受講実態が無い生徒はカウントの対象としない。
・受講時間には、受験直前期における講習会や集中講義等の受講時間を含めることを妨げない。
・受験直前は受験日当日の前日にあたる。
・体験授業・体験講習・無料講習・自習・補習、他の事業主体に派遣した講師による授業・講習や、単に教室内にいただけの自習時間などは含まれない。
無料の体験授業や自習では駄目だとあります。これは当然ですね。
・対面授業への出席
・webオンライン授業
・映像の視聴
これらが「受講」となっています。対面授業への出席はわかりますが、映像の視聴だけでも「受講」時間にカウントされるのが驚きです。
さらに、広告表示についてはこう定められています。
・学習塾事業者は、合格実績の広告表示にあたり、表示する情報の範囲・従属性を明確にするため、合格実績が「事業主体の全部」「分教室の一部」「チェーンシステムにおける同盟塾全体または一部」「提携塾の全体または一部」のいずれかに該当するかを明示すること。
「同一の生徒がグループ内の複数の学習塾で上記のカウント要件を満たした場合、グループ全体での合格者数を表示する際に、これを重複してカウントすることはできない。
・合格実績異の広告表示にあたり、同一系列校の小学校受験・中学校受験・高校受験・大学受験の内訳を明示せずにその合計を表示することはできない。同一系列校といえども、「△△中学・高校〇〇名合格」など合計した表示することはできない。
最近の塾業界は合従連衡というか、買収・分社化がさかんです。そうしたグループ塾全体の実績を出す場合にはちゃんと表記しろ、ということなのですね。
さらに、『合格実績適合宣言 公益社団法人全国学習塾協会」というマークについては、塾が自分で「自己評価シート」に✔を入れて提出(宣言)することでマークの使用ができるそうです。
そうです、自己申告です。
てっきりこの協会が審査すると思っていたら、そういうことではないのです。
ということは、「悪い」塾はこういうことができるのですね。
「30時間の講座で計3000円の料金として、とにかく受講契約書にサインさせる。オンライン動画を30時間見てもらえば、実績にカウントできる。複数ブランドの実績数字を合算すれば目立つ数字が広告できる」
「11月~1月の3か月間だけ「受講」してもらえばいい。なに、1か月に1回1時間の特別講座に出席するだけでいいのだ。料金は、300円にしょう」
「9月・10月・11月の3回無料模試と格安講座をセットで実施しよう。これで基準は満たせる」
まさかこんな阿漕かつ姑息な発想をする塾は無いと思いたいですが、残念ながらこれに近いことをやっている塾はあります。
しかも、「適合宣言」マークは何の信憑性もありません。
性格の悪い私はどうしても「性悪説」に傾いた発想しかできないのです。
30年以上前には、入試合格発表直後に、たった一度の無料模試を受けた生徒に電話をかけ、合格実績へのカウントを依頼するのが社員の主要な仕事だったという塾もありました。広告への合格者氏名掲載が普通だった時代です。氏名掲載が無理なら、仮名やアルファベットでの掲載を依頼し、その程度によって社員には報奨金が支払われたのだとか。「何でA塾に行ったこともないうちの生徒の氏名がA塾の合格者一覧に載っているんだ!」と憤っている塾の先生の声も複数聞きました。
それに比べれば、このような「基準」でも無いよりもましなのかもしれません。
もちろん、この「協会」への加盟の有無が、信頼性と関係するということにもなりません。
合格者数と実績数の乖離
塾の出す合格実績を足すと、その学校の合格者数をはるかに超えてしまう。よくある話ですね。
例えば2025 筑駒中の数字を見てみましょう。
SAPIX 103
早稲田アカデミー 55
四谷大塚 28
エルカミノ 15
日能研 11
グノ――ブル 7
ジーニアス 7
希学園 6
浜学園 5
栄光ゼミ 5
啓明館 1
トーマス 1
臨海セミナー 1
ena 1
市進学院 1
他にも小さな塾から筑駒に合格した生徒もいるのでしょうけれど、追いきれませんので省略します。
ここに出した塾だけで246名の合格者数となっています。
筑駒が公表している数字は、120名の募集定員に対して131名の合格者を出したとあります。
さすが筑駒、10名程度の辞退者しかいないのですね。
ということは、塾の出す実績は、2倍近くの水増し合格実績となってしまいます。
個別指導塾は仕方がない。例えば日能研に通っていて、トーマスで週1回算数を習っていた生徒がカウントされるのはわかります。
しかし、集団指導塾はそうならないはずです。
この数字からわかることは以下の2点です。
◆複数の集団指導塾に所属する生徒がいる
◆他塾の合格実績を盗んだ塾がある
この2点は同じかもしれません。例えばサピックスの6年生の授業曜日は、火・木・土・日です。そこで月・水・金に「筑駒対策特訓講座」とでも銘打って講座を開けば、生徒を集められるでしょう。それで合格すれば、「うちの特訓講座のおかげで筑駒に合格できたのです」と堂々と主張できますから。
いったいどちらの手柄か、そんなのは区別できませんね。
ただし、「筑駒合格判定模試」といった模試を無料で実施し、成績優秀者にピンポイントで格安の講座を薦めるようなことをすれば、あきらかに「合格実績を盗む」目的だとみなせます。しかし、この両者の区別は難しいですね。
いったいどの塾が「正直に」数字をカウントしているのか、それとも他塾の実績を盗んでいるのか、それはわかりません。
業界の噂レベルなら「盗人塾」と「正直塾」は知っていますが、まさかここで具体名を出すわけにもいきませんので。
しかも「盗人塾」として知られる塾の先生に知り合いがいるのですが、「うちの授業を1回でも受ければうちの生徒です!」と真顔で言われました。
闇が深いですね。
合格実績を信頼できるかどうか、一応の判断の目安をあげておきましょう。
◆教室単位で合格者数を全て公開している
一つの教室の6年在籍者数はせいぜい100名程度でしょう。その中から、例えば筑駒を受験するのは2・3名です。自分の通っていた教室から筑駒の合格者がいたのかどうかなんて、生徒同士は良く知っているのです。
「あれ? 僕の教室からは筑駒を受験したのはA君とB君とC君の3名だけで、みな他の学校に進学したんだけど。それなのにどうして『筑駒2名合格!』と広告に書いてあるの?」
さすがにHPで全教室毎の合格実績を公表はしていないでしょうけれど、教室単位で広告ちらしが作られていたり、壁に掲示されている、あるいは問い合わせると教えてもらえる、そうした情報開示の姿勢は大切です。
◆グループの合算をしていない
これをやられると、合格者全体像がぼやけるのです。もちろん合算する塾はそれが狙いです。
特に最近の流行りは、塾内に特別ブランドを設けることですね。例えば「peter塾」という塾があり、幅広く教室展開をしていたとしましょう。そのブランドとは別に、「ELITEーpeter」という別ブランドを立ち上げます。そこにはpeter塾のえり抜きの教師を集結させた、トップ校を目指す教室だと喧伝するのです。もちろん実績は合算します。
◆特待生制度が無い
お金で優秀層を釣るような塾は信頼できますか?
◆6年生の「無料テスト」を実施していない
「無料テスト」はチョウチンアンコウの提灯と同じです。
◆HPでの合格実績の表示があっさりしている
派手だから信頼できない、淡泊だから信頼できる、というわけではありませんが、派手な厚化粧には理由があると思うのです。
こうした塾が必ず「信頼できる」とは限りませんが、一応の目安程度にはなると思います。
今書いていて思いましたが、これって、学校選びの基準とも重なりますね。
受験全般にわたる入門書を書いています。ぜひお読みください。
