今回は、筑波大附属駒場中・高等学校(以下筑駒)について見てみましょう。
偏差値レベル
SAPIX 71 (開成:68)
日能研 72 (開成:72)
四谷大塚 74 (開成:72)
首都圏模試 78 (開成:78)
三大塾および首都圏模試を加えた合格偏差値=80%偏差値を並べてみました。開成の偏差値も並べています。
さすがのSAPIXといえども、偏差値70以上となっているのは筑駒だけです。
これを見ていて、中学受験状況に詳しい方なら「?」となったと思います。首都圏模試は例外として、三大塾の算出した偏差値にさほど大きな開きがないのです。
参考までに、他の学校を見て見ます。
早稲田実業
SAPIX 57
四谷大塚 64
日能研 64
首都圏模試 74
駒場東邦
SAPIX 59
四谷大塚 66
日能研 65
首都圏模試 74
一般的な傾向として、SAPIXの偏差値プラス6~7が日能研と四谷大塚の偏差値、四谷大塚と日能研は同等、そしてそれにさらにプラス10が首都圏模試 となっています。
これは模試を受けている(その塾に通っている)生徒のレベルを反映しています。
やはりSAPIXの模試を受けているのは受験生の上位層、そして日能研と四谷大塚の受験生のレベルは同等、首都圏模試は下位層が受けている、ということですね。
首都圏模試では、おそらく筑駒の合格偏差値はまともに算出できていないはずです。
その模試の受験生がどれくらい実際に筑駒を受験して、そして合格(不合格)となったか、この情報が無ければ合格偏差値は算出できません。
筑駒は、2025の受験者数は532名受験して131名の合格者となりました。
おもな塾の筑駒合格実績を並べてみます。
SAPIX 103名
日能研 11名
四谷大塚 28名
早稲田アカデミー 55名
グノーブル 7名
エルカミノ 15名
ジーニアス 7名
希学園 6名
浜学園 5名
栄光ゼミナール 5名
ああ、これは酷いですね。
ここに並べた塾だけでも、筑駒が公表している合格者数131名をはるかに上回る242名となっています。これでは筑駒合格者のほぼ全員が複数の塾に在籍していたことになってしまいます。
私は、業界内の常識として、どの塾が正しく合格者数を公表し、どの塾が「盛って」いるのかを知っていますが、ここでは言うわけにはまいりません。他塾の「実績」を掠め取ることに長けている塾もあるということでしょう。
もっとも、受験生の立場からすればどうでもよいことです。自分が受かりさえすればよいのですから。
ところで、四谷大塚は「四谷大塚ネットワーク」加盟塾の数字を全て足しています。このネットワークには、全国の中小塾が多く加盟していますが、実は早稲田アカデミーも加盟塾です。それにしては四谷大塚の数字が早稲田アカデミーの数字を下回っているのが謎です。
いずれにしても、合格偏差値を算出するためには、最低でも3桁の合格者がいないと難しいと思います。そうすると、筑駒に関しては、SAPIXの数値のみが信頼性が高いとみなせます。
大学実績
筑駒ですから、東大の実績をグラフにしました。比較のために、開成・麻布・武蔵・駒東、そして桜蔭を並べています。
渋幕・栄光・聖光を入れなかったのは、地域的な問題です。
ここでは、現役・既卒生を区別せず、その年の合格者だけを見ています。浪人したとたんにその学校の卒業生でなくなるわけではありませんので。また、難関校ほど、浪人してでも難関大学を目指す風潮がありますので、現役合格者数だけを見ることにはあまり意味がないと思うのです。
非常に見づらいので、5年移動平均でグラフ化しました。
だいぶ見やすくなりました。
どの学校も1970年代に急伸しているのは、悪名高い都立の学校群制度(通称日比谷潰し)が1967~1981年に行われていたためです。進学したい学校を選べずに適当に割り振られるのですから、それは優秀層が都立を敬遠したわけです。また、2000年頃から横ばい傾向にあるのは、学校の選択肢が増えたからですね。日比谷や西高も復活してきましたし、公立中高一貫校も登場し、渋幕や渋々もできました。
でも、これだけでは、まだまだ筑駒の凄さがわかりません。
そこで、卒業生数を勘案して、全ての学校の分母を100で揃えてみました。
もう、さすがとしかいいようのない実績です。
ところで、東大を目指す塾といえば「鉄緑会」がありますね。
鉄緑会のHPによると、筑駒生で鉄緑会に在籍しているのは598名だそうです。
全校生徒数は、定員でいえば、中学が1学年120名、高校が160名として、840名となります。実際には850名前後になります。いずれにしてもこの数字で計算すると、鉄緑会通塾率は7割を越えます。
実際に教え子に聞いてみても、「みんな行っている」という返答でした。もちろん正確なところはわかりません。鉄緑会の公表在籍数にしても、カウント方法は不明ですから。
これをもってして「筑駒の実績は学校の手柄ではなく塾の手柄」と揶揄する向きもありますが、それは違います。塾の力など実はたいしたことはないというのは、業界に身を置く者としてはよくわかっていますので。
ところで、ひとつ気になるデータもありました。医学部を除く進学者数のデータです。
早慶への進学者数が、現役で10名(慶医を除く)、既卒生で10名となっています。その他の私立大学への進学者は、上智2名(既卒)、中央1名(既卒)、理科大1名(既卒)、とこんな具合です。
一般に、難関校の生徒たちは、東大・国立大医学部・私大医学部、こうした学校に進学する生徒が最上位層を形成し、次に早慶のグループができます。あとはGMARCHに散らばり、さらにそれ以外の大学といったふうに分布するものです。しかし筑駒については、見事にGMARCH層がいないのですね。早慶ですらわずか20名です。
さすがの結果と言う他ないのですが、「早慶レベルは成績下位者」「それ以下なんて問題外」といった雰囲気が無いと良いのですが。
環境
ここは文教地区ですね。多くの学校が集まっています。
・東京大学駒場キャンパス
・駒場東邦中高
・都立駒場高校
・日本工業大学駒場中高
・駒場学園高校
・都立国際高校
とくに駒東とは校地が接しています。
池尻大橋駅から行くと、駒東の前を通って筑駒に、駒場東大前駅を使うと、筑駒の前を通って駒東に行く、そんな位置関係です。
井の頭線の駒場東大前駅と、田園都市線の池尻大橋駅のちょうど中間です。二路線使えるというのは大きいと思います。また、実は渋谷駅までも2㎞くらいしか離れていません。元気な中高生なら十分歩ける距離です。
校地面積も広いですね。
開成:2.5万㎢、駒東・麻布:2.0万㎢、そして筑駒は3.4万㎢以上となっています。
さすが国立、うらやましい広さです。
さらに、名物?の水田実習用の「ケルネル田んぼ」といううのが、すぐ近くの目黒区立駒場野公園内にあります。区立公園内の水田を、なぜ筑駒が独占使用できるのかというと、もともと筑駒は農学校が母体だったためですね。
1947年 東京農業教育専門学校附属中学校として開校
この田んぼの管理も、開校当時からの伝統です。
生徒数を考えると、かなり広々している学校ですね。6年間過ごすことを考えると、こうした環境も重要だというのが私の意見です。
入試問題と報告書
筑駒の入試問題は、もちろん易しくはありませんが、最高難度というわけでもありません。筑駒を受験する生徒のレベルを考えると、標準レベル(筑駒受験生基準)?と考えてよいと思います。
今年の入試結果は、報告書100点分を含む500点満点で、最高 421点、最低 326点 となっています。4科目40分100点満点の均等配点です。
65.2%の得点がボーダーでした。
ちなみに、駒東の合格者最低点は65.5%でしたし、世田谷学園は55%前後でした。
問題数は多くはないのですが、時間が40分ですから、情報処理スピードは必要な学校です。私の個人的な感触でも、突出してできる教科がある生徒よりも、満遍なくできる生徒のほうが有利でした。
また、思考力・記述力で鋭い閃きを見せる生徒よりも、ミスなく得点をできる生徒のほうが筑駒には合格していましたね。
また、同じレベルの学力だとしても、開成―筑駒と受験して両方合格できる生徒よりも、麻布ー筑駒と受験する生徒のほうが合格者は少ないのです。おそらく、問題傾向が、麻布志向の生徒に不向きだからでしょう。
筑駒の合格者の傾向として、偏差値が高くなっても合格可能性が増えない、ということがあげられます。これは当日の1問のミスが命取りになることが原因だと思われます。
本当なら、もっと思考力・記述力系の問題を増やし、優秀な生徒でも得点差が開くような出題にしてくれるとありがたいのですが。
さて、筑駒の受験で気になるのが「報告書」の存在です。
100点満点に換算されるのです。
報告書をどのように評価して得点化しているのかは不明です。
〇副教科も重視
〇小学校の出席状況・学級活動・クラブ活動・その他の活動
こうしたことくらいしか予測できません。
筑駒受験生なら、さすがに主要教科は問題ないでしょうから、差がつくとすれば、学級活動やその他の活動の部分かと思われます。
おそらくは、報告書の得点は平均点が高目でそんなに差がつかないとは思うのですが、それでもプラス評価になることは何でも書いていただけるようにするべきですね。
それではどのような「その他の活動」が評価されるのか。
正直なところ、全くわかりません。
しかし、学校のHPを見ていると、「生徒の活躍」の紹介に多くのページが費やされていることに気づかされます。もともと情報量の少ないHPですので、この「生徒の活躍」を学校が重視していると考えられます。
頭脳系だけに絞っても、こんなものが紹介されていました。
第2回 日本天文学オリンピック
第5回 アジア太平洋言語学オリンピック
第17回 アジア太平洋情報オリンピック
第23回 アジア物理オリンピック
文部科学大臣杯第19回 小・中学校将棋団体戦東京都予選
東京都中学校囲碁大会
第64回 国際数学オリンピック
第53回 国際物理オリンピック
第20回 国際言語学オリンピック(ILO2023)
第34回 川口市青少年ピアノコンクール
日本生物学オリンピック 2023
第19回 全国物理コンテスト物理チャレンジ 2023 全国大会
第29回 スーパーコンピューティングコンテスト SuperCon2023 本選
T-STEAM:Pro2023 FLY HIGH! ~羽ばたく生き物を模倣せよ~ 豊島岡女子学園主催
化学グランプリ 2023
第35回 国際情報オリンピック
令和5年度「明るい選挙啓発ポスターコンクール」(世田谷区選挙管理委員会)
日本植物学会第87回 大会高校生研究ポスター発表
化学グランプリ 2023 日本化学会関東支部表彰
The 26th Tokyo Senior high school English Debate Contest
第26回 数理科学コンクール
日本パズル選手権 2023
第46回 東京都高等学校文化祭演劇部門 中央大会 / 第77回 東京都高等学校演劇コンクール 中央発表会
パソコン甲子園 2023
世田谷区令和5年度「明るい選挙啓発ポスターコンクール」
税に関する高校生の作文
東京都中学校囲碁大会
中学生科学コンテスト
科学の甲子園東京都大会
第11回 科学の甲子園ジュニア全国大会
JSEC2023(第21回 高校生・高専生科学技術チャレンジ)
第19回 U-18 将棋スタジアム
第7回 中高交渉コンペティション
塩野直道記念第11回 「算数・数学の自由研究」作品コンクール
第18回 筑波大学朝永振一郎記念「科学の芽」賞
第9回 PDA 高校生即興型英語ディベート全国大会
AtCoder Junior League 2023
ファーストロジック杯第38回 全国オール学生将棋選手権戦
第9回 PDA 高校生パーラメンタリーディベート世界交流大会
第59回 関東高等学校演劇研究大会
第23回 日本情報オリンピック
第27回 東京都中学校冬季囲碁大会
第34回 日本数学オリンピック(JMO)
第22回 日本ジュニア数学オリンピック(JJMO)
日本言語学オリンピック(JOL)
第18回 科学地理オリンピック日本選手権
第29回 全国高等学校デザイン選手権大会
第35回 子ども将棋大会(池之上青少年館協議会・池之上青少年交流センター)
第16回 日本地学オリンピック
第24回 日経 STOCK リーグ
第13回 科学の甲子園全国大会
第3回 日本天文学オリンピック
それぞれ、優勝であったり金メダルであったりと、錚々たる結果です。
しかも、たった1年間の成果です。
さすが天才集団! と思いますが、そもそも他の学校のHPでは、こんなに生徒の活躍を紹介していないのが普通なのです。
もちろん筑駒だからこそこうした結果が並べられる(だけの実績をあげている)ということには違いないのですが、私はここに一つの傾向を感じてしまいます。
「この学校はタイトル好きなのではないか」という傾向です。
有名なものも無名な物も、これだけの賞をとってくるというのは、生徒が自主的にいろんな大会に出ていたから、というだけではないと思うのです。
私が思うに、学校が積極的にこうした賞レースへの参加を促しているのではないでしょうか。
(これは憶測にすぎず、確証はありません。今度元教え子が顔を出したら聞いてみましょう)
そう考えてみると、小学校の報告書にも「傾向と対策」があるのかもしれません。
駒東と筑駒
この2校は近所、というより隣接しています。
2月3日に筑駒を受験する生徒が1日にどの学校を受験するのか、そこを考えてみます。
おそらく、開成ー筑駒という生徒と、駒東ー筑駒と言う生徒が多そうです。もちろん麻布―筑駒、武蔵ー筑駒、あるいは渋谷渋谷ー筑駒、と言う生徒もいるでしょう。
しかし、最上位レベルの受験生としては、開成ー筑駒、という受験生が最も多いはずです。
ところが、開成―筑駒で受験を考えていた生徒の中から、直前になって開成→駒東へと受験校を変更する生徒が毎年いるのです。
理由は簡単です。
開成の受験が怖くなるからです。しかも、最近は2日の聖光がレベルがだいぶ高くなってしまいました。ますます開成ー聖光ー筑駒、というラインナップの受験は「全滅」の2文字がちらついて逡巡してしまうことになるのでしょう。
2月3日の筑駒受験の前に、2日に合格発表がある駒東の結果を見てから、安心して筑駒を受けに行きたい。気持ちはわかります。しかし、前日に駒東の結果を見て「浮かれて」しまった精神状態では、おそらく筑駒合格の必須条件である、「緻密な集中力」が維持出来ないと思います。
せっかく開成ー筑駒の両方の合格が見込めそうな学力の生徒が、駒東に「逃げて」しまったために、筑駒が不合格になる、そうした実例がいくつもあるのです。
筑駒を受験するというのは、ある意味「覚悟」が必要なのだと思います。
もっとも、駒東もとても良い学校であることは間違いありません。最初から駒東が志望校である場合は問題はないのです。