
この記事は、昨年書いた記事の続編になります。
昨年のこの記事では、首都圏模試の偏差値50くらいの学校を目指す場合の塾選びについて書きました。これだと、日能研・四谷大塚では40くらいに相当します。日能研・四谷大塚偏差値50ともなると、世間的には十分難関校だと思います。
すると、こうしたご相談を受けたのです。
「うちの子は、日能研の模試では偏差値40台だけれども、SAPIXに入るのはやめたほうがよいのでしょうか?」
たしかにSAPIXという塾、開成や桜蔭をはじめとした最難関校の合格実績では他塾を圧倒しています。こうした最難関校を目指すのなら、迷わずSAPIXで正解でしょう。
しかし、中堅校を目指す場合、SAPIXはやめたほうがよいのか、それとも?
上を目指すから成績が伸びる
これは事実です。
だいぶ以前ですが、こんなことがありました。
駒東を第一志望とする生徒が何人かいました。建前は駒東が第一志望ですが、本音は筑駒狙いです。ただ、筑駒の受験は怖い。ちょっとくらい成績優秀な程度では軒並み不合格となる学校です。そこで1日は駒東を受験し、2日に駒東の合格を確認してから、3日の筑駒にチャレンジする、そうした流れがあるのです。しかし、私の目から見て、駒東ではもったいない生徒もいました。十分開成合格に手が届くレベルの子だったのです。開成の合格発表は3日なので、開成ー筑駒の受験パターンには勇気が必要です。そこで「駒東志望」となっていたのでした。私の経験上、駒東―筑駒パターンの受験では、筑駒は受かりません。同じ学力の生徒であったとしても、筑駒受験前日の「駒東合格おめでとう」浮かれ気分がいけないのです。
そこに一人の生徒が入ってきました。関西から転居してきたその生徒は、もともと灘を目指していたのですね。ご存知かもしれませんが、関西における灘受験熱は想像を絶するものがあります。たくさんの選択肢がある首都圏とは状況が異なるのです。この生徒は、灘をあきらめるしかなかったのですが、その代わりに開成を目指しました。どうやら関西の塾の先生から、「東京で灘に匹敵する学校は開成しかない」と吹き込まれてきたようでした。学力も伴っていたこの生徒の登場により、生徒たちの空気は変わりました。それまで「駒東」と言っていた生徒達が、みな「開成」を第一志望としたのです。勉強姿勢も変わりましたね。
結果は、予想を超えました。駒東ですら危ないと心配していた生徒が開成に受かりましたし、筑駒はさすがに無理だと思っていた子まで届いたのですから驚きです。
手堅く実力相応の学校を目指す努力と、上を目指す努力では結果は大きく異なります。
おそらくSAPIXの合格実績はそうした環境が大きいのだと思います。
なぜ複数回入試を実施する学校が多いのか?
これも例をあげましょう。
駒東第一志望の生徒がいたのです。
1日 駒東
2日 栄光
3日 海城
4日 世田谷学園
こういう受験パターンとなりました。
偏差値的には、駒東・栄光・海城(2回)は同レベルです。本人の成績からも、かなり危険な受験パターンでしたね。こうした場合は、駒東・栄光・海城のどれかの受験を回避して、もう少し下げさせるのが定石です。たとえば駒東の代わりに海城(1回)、海城(2)のかわりに浅野、といったところでしょうか。しかし、本人の意志は固かったのです。なんとしても駒東に合格するために必死の努力を続けました。
これで合格できれば美談となったのですが、残念ながら入試はそんなに甘い世界ではありません。世田谷学園に進学することになりました。世田谷学園には、1日に受験して進学した生徒も大勢います。その生徒たちと、この子の学力差は明らかですが、同じ制服を着ることになったのです。
私がこの子にかけた言葉はこれだけです。
「世田谷学園で1番を目指せ」
これは並大抵のことではありません。私がこう言ったのは、大学入試でリベンジしろ、という意味ではありませんでした。駒東を目指した彼の努力を見ていましたので、今度は新たな目標を自分で設定して、それに向けて努力してほしいと思ったのです。
上を目指して継続する努力は大きな結果をもたらします。とても大切なことですね。
学校側もそれをわかっているのです。
だからこそ、複数回入試を実施することで、第一志望の受験生だけではなく、「もっと上の学校を目指していた」=「学力が高い」=「努力の価値を知っている」生徒を取りたいのだと思います。
SAPIX偏差値30以下の学校を目指す場合
SAPIXの偏差値で30以下の学校に、はたしてこの塾からどれくらい合格者がいるのか見て見ましょう。
足立学園 8名
郁文館 2名
聖学院 12名
京華 23名
日本工業大学駒場 10名
日大三中 3名
駒込中 16名
玉川学園 4名
多摩大聖ヶ丘 2名
多摩大目黒 26名
東海大高輪台 3名
藤嶺藤沢 5名
八雲学園 10名
横浜創英 11名
横浜富士見丘 1名
跡見学園 38名
十文字 13名
女子聖学院 3名
冨士見丘 9名
トキワ松学園 1名
和洋九段 6名
中村中 3名
日大豊山女子 3名
言っておきますが、これらの学校が「良くない」学校だという意味では全くありません。単純に偏差値表から拾い出しただけです。
この学校がSAPIXでは偏差値30以下なのか?
SAPIXでもこの学校の受験者がいるのか?
2つの驚きがありました。
開成に263名、桜蔭に180名、渋谷渋谷に233名、渋谷幕張に440名もの合格者を出す塾です。1月校とはいえ栄東には2572名!となっていました。卒業生数が6415名ですので驚異的です。それと比べると、これらの学校への合格者数は少ないですね。
教師は、指導する生徒によって経験値を蓄積します。そう考えると、これらの学校への指導ノウハウは不足していると思います。
これは、下のレベルの生徒の指導だから手を抜いているという意味では全くありません。これは教育現場を知らない者の邪推にすぎないですね。実際に生徒を指導している立場からすれば、生徒の偏差値が高いから熱心に教えるが、そうでない場合は・・・などということはあり得ないのです。今目の前にいる生徒の指導に力を尽くすが教師の本能ですから。
偏差値データや合格可能性の算出にはある程度の母集団の規模が必要です。もしSAPIXの指導が気に入っていたり、わかりやすく教えてもらっているという実感があるのなら、転塾の必要性はありません。ただし首都圏模試の受験はしておいたほうがよいでしょう。
もしこれから塾を探しているのなら、こうした学校群を志望する場合にはSAPIXを選択肢から外したほうが良いと思います。
もし、SAPIXの授業についていけずに成績が下降し続けているのなら転塾を視野にいれたほうがよさそうです。
どの塾にも合格実績に裏付けられた指導ノウハウが豊富な学校群があるので、塾選びもそこを基準にするのが正解です。
実はここにあげた学校の入試問題は難易度が高くありません。自宅学習でも十分対応が可能だと思います。
その方法論については、拙著をお読みください。
