中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

【中学受験】塾が宣伝している「合格実績」ってどこまで信用できるの?

実は今回の記事については、書こうか書くまいか、ずいぶん迷ったのです。

しかし、塾を探すときに、塾の合格実績を見て選ぶ方が多いと思います。

そこで、僭越ながら業界の闇についてお話することにしました。

そんなに大層な話ではありませんが。

※特定の塾を持ち上げるつもりも貶める意図もありません。長年この世界にいる私が聞いた噂話レベルの内容であることはお断りしておきます。

みなさんが考える塾の合格実績と実際の数え方のギャップ

 

おそらくは、みなさんが考える塾の合格実績というのは、

「1年以上、週3日以上は通っている生徒で、他の塾を掛け持ちもしていなければ個別指導も併用していない生徒が実際に合格した学校の人数」

だと思われていると思います。

しかし、残念ながらそうではないのです。

 

まず、2つの塾を掛け持ちしていた場合。おそらくどちらの塾も、「うちの指導の成果だ!」とばかりに合格実績にカウントすることでしょう。

例えば低学年のときからA塾だけに通っていたが、6年生の夏以降、週1日だけB塾の特訓講座を受講した。

そんな生徒の実績については、あきらかにA塾の手柄だと思うのですが、「最後の追い込みをうちで鍛えたから合格できたのだ!」と主張するB塾の言い分も否定しづらいですね。

 

いちおう、塾業界の団体として、公益社団法人 全国学習塾協会」というものがあり、そこでは合格実績について基準を設けています。

長いのですが、一部引用します。

受験直前の6か月間のいずれかに①「在籍」があり、かつ②同期間に受講契約に基づく30時間以上の「受講」の実態がある生徒、あるいは継続して3か月以上の「受講」の実態がある生徒を、合格実績をカウントする対象の生徒とする。

・「在籍」とは、入塾申込書等の契約書面の取り交わしがあり、有料の講座への料金の納入が証明できることを指す。体験授業や模試受験のみ等の生徒はカウントの対象としない。
・「受講」とは、対面授業への出席やwebを介してのオンライン受講、映像の視聴等を指す。在籍のみで受講実態が無い生徒はカウントの対象としない。
・受講時間には、受験直前期における講習会や集中講義等の受講時間を含めることを妨げない。受講直前は受験日当日の前日にあたる。
・体験授業・体験講習・無料講習・自習・補習、他の授業主体に派遣した講師による授業・講習や、単に教室内にいただけの自習時間などは含まれない。
・学習塾事業者は、合格実績の広告表示にあたり、表示する情報の範囲・従属性を明確にするため、合格実績が「事業主体の全部」「分教室の一部」「チェーンシステムにおける同盟塾全体または一部」「提携塾の全体または一部」のいずれかに該当するかを明示すること。

 

 

実にわかりづらい。

正直、私にもよくわかりません。

要するに、受験直前の半年以内に30時間以上「受講」しているか、あるいは3か月以上継続して「受講」しているか、そのどちらかの生徒なら合格実績にカウントできる、ということなのでしょうか?

さらに「受講」には、オンライン受講や映像視聴でもよい、とそういうことなのだと私は理解しました。

 

例えば、9月以降に、3時間の映像授業を10回視聴すれば、もうその生徒の合格実績はカウントできる、とそういうことになるのかな?

それとも、とりあえず9月以降在籍させて、3か月間毎週1回オンライン指導でもすればよいのかな?

 

どこまでがセーフでどこからがアウトなのか、これだけでははっきりしませんが、みなさんはどう思われますか?

 

さらに、「合格実績に関する自己評価シート」なるものがあって、自分でチェックマークを11か所つけると、「合格実績自己適合マーク」を広告に表示できるそうです。

三者機関がチェックするのではありません。塾による自己評価です。

 

この団体に加盟している塾が、この基準を本当に守っているのかどうかまでは私は知りません。大したハードルではないので守っていると思いたいですが、確かめるすべがありませんので。

 

この団体には、中小塾から大手塾まで加盟していますが、四谷大塚日能研サピックスも名前が見当たりません。つまり業界全体を網羅した団体ではないのです。

 

合格実績の5つのパターン

 

合格実績のカウントについては、塾によってさまざまなやり方があります。

 

(1)自分の塾に在籍し、少なくとも半年以上は週3日以上は指導していた生徒の合格実績をきちんと集計して公表している

 

一番信頼できる塾ですね。半年以上と書きましたが、受験学年の6年生の夏から転塾する生徒はほとんどいません。転塾するとしても、せめて6年生になるときからでしょう。実際には、5年生以前から通っている生徒がほとんどです。

拘束日数は塾にもよりますが、6年生であれば、最低でも週3日は指導しているはずです。その塾の授業が無い曜日に、他の塾にも通っているかどうか、そこまではコントロールできませんが、少数派と考えられます。

 

個人情報保護にナーバスではなかった時代、塾はチラシ等の広告で合格者氏名を公表しているところが多くみられました。

◆きちんと氏名を公表できている塾

◆一部の生徒がイニシャルや伏字になっていた塾

あきらかに後者の塾は、他塾に在籍している生徒の実績を盗んでいる塾とみなせますね。もちろん、御家庭から氏名公表がNGとなったケースもあるでしょうけれど。

私の聞いた話では、ある塾は、氏名公表を拒否された生徒については、合格者数からも削っていたそうです。なかなか徹底した方針の塾です。

 

(2)グループ会社の実績を全て足して公表している

こうした塾も多いですね。いや、ほとんどの塾がこうかもしれません。

そのグループに関しても、2つのブランドを足している程度ならかわいいものなのですが、提携塾ネットワークを全て合算したり、個別指導塾も足されてしまうと、もはや合格実績の実態がまるでつかめなくなってしまいます。

 

(3)その他多数合格と表示している

合格実績として、目立つ学校だけを宣伝している塾も多くみられます。

私の大嫌いなスタイルです。

「その他」扱いされた中学校に進学した生徒の気持ちを踏みにじっていると思うからです。

また、「御三家〇〇名」「慶應3校〇〇名」といった表示も実にわかりにくいですね。

 

(4)実績稼ぎのためだけに受験させる

とくに首都圏ー関西の受験で見られます。

関西の中学受験は、1月の第二or第三土曜が「統一入試日」となっていて、そこが解禁日です。

東京・神奈川が2/1を解禁日としているのと同様ですね。

2025は、1/18が統一入試日です。

 

コロナ以前、入試日当日朝の塾教師による激励が風物詩だった頃の話です。

開成や麻布の校門前に立っていると、異様な集団がやってくるのを見かけるのです。

教師に引率された数十名の生徒の集団です。みな手には同じ弁当の袋を下げています。

関西の塾による、「開成(麻布)受験ツアー」の一行です。

これは、灘合格者への「ご褒美ツアー」とも言われています。塾が費用を負担して、受験させているのです。

もちろん中には、開成や麻布に合格したら進学する予定の生徒もいるでしょう。

しかし大半は、「トロフィー受験」です。関西・東京のトップ校の合格実績を集めるのですね。もちろん生徒に罪はありません。塾の実績稼ぎに利用されているだけです。

 

当然逆のケースもあります。

首都圏最難関校を目指している生徒が、関西の灘も受験するというケースです。

塾によっては、交通費・宿泊代も負担して受験生を引率するといいます。

合格実績稼ぎが目的です。

 

ただし、試験日を考えると、いくら塾に費用負担してもらったとしても、おいそれと参加しないでしょう。開成試験日の10日前に、わざわざ関西まで受験しにいくのは、時間ももったいないですし、コロナやインフルエンザ等の感染リスクも高まります。

「灘に合格できたら、そちらに進学してもよい」と考えている層しか受験しないと思います。

 

首都圏ー関西の受験だけではありません。

例えば、神奈川の生徒に渋谷幕張を受験させたりするケースがあります。

たとえ合格しても、片道2時間かかるような場合、通学はできません。

「1月に予行演習で受けましょう!」などと生徒を煽るのですね。

本当に必要な予行演習ならともかく、塾の実績稼ぎのためだけかもしれません。

 

(5)在籍していない生徒もカウント

とある塾の先生から直接聞きました。

「一回でもうちの授業を受けたのなら、もううちの生徒です」

あまりに確信ありげに言われたので、思わず説得されそうになりました。そういう方針の塾なのですね。そして教師もそこに疑問を持っていないのです。

こんなことがまかり通るなら、他塾の実績を盗み放題です。

天塩にかけて育てた生徒の実績を盗まれる塾にしてみればたまったものではありません。

とにかく「無料テスト」で釣り、生徒の氏名や連絡先・志望校を入手し、優秀な成績だった生徒のところに「営業」をかけまくるのです。

それも、きちんと半年以上にわたって指導するのならまだしも、とにかく「受講」実態さえできればそれでよい、とばかりに「直前の格安個別指導」等を提案してくるそうです。そうした提案を受けた生徒の親から直接うかがいました。

また、さらにひどいところになると、合格発表直後に電話がかかってくるそうです。合格校などを聞き出しながら、合格実績に入れる許可を交渉するのです。そんなものYESというわけないだろうと思うのですが、合格発表直後の浮かれ気分でもあり、また在籍していた塾への義理もさほど感じていない場合はけっこう「釣れる」のだとか。

ここまでくると、グレーどころか真っ黒な話ですね。

 

(6)数字を操作する?

 さすがにここまでは、と思いたいですね。

ある塾の先生から聞きました。仮にA塾とします。

とある学校の合格実績を競っているライバル塾、B塾があったそうです。

学校によっては、五月雨式に繰り上げ合格を出す学校があります。

そうすると、塾としても、その都度合格実績を公表し直すわけです。

B塾は、合格者数の公表タイミングが、必ずA塾の直後だそうです。決して先には発表しません。

A塾が「〇〇中10名」と発表すると、その直後にB塾は「〇〇中11名」といったように、1・2名上回る実績を公表するのだそうです。

最終的には、A塾の結果を少しだけ上回る実績をB塾はあげるのでした。

「絶対に怪しい!」

とその先生は憤っていましたが、もちろん証拠があるわけでもなく、たまたまの偶然が重なっているだけなのでしょう。

 

ここまで非道なことをやると、それを手伝わされた社員が辞めますし、そこから噂がすぐに拡散しますので。

 

 

結論

 

塾の合格実績は信頼できません。

 

残念ながらこれが結論です。

 

中には公明正大な公表をしている真面目な塾もいくつもあります。上述した(1)の塾ですね。しかし、(2)~(5)の塾もあるのです。

私も業界の噂として、大手塾ならどこがどれに相当するのかは知っていますが、確認することは不可能ですので、口外するわけにはまいりません。

 

塾の合格実績は参考程度ととらえるのが賢明な判断というべきでしょう。

 

一応の目安としては、

 

◆合格者数が1名の学校まで公表している

◆受験者数を一桁の単位まで公表している

◆グループ塾の実績を合算していない

◆教室単位の実績を公表している

 

このあたりに注目するとよいでしょう。