中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

【中学受験】塾の思惑に踊らされないために、塾のチラシを深読みする

家の新聞に某塾のチラシが入っていました。

珍しいですね。最近は若い世代で新聞をとる家庭がめっきり減りました。そのため、かつては塾の主要な宣伝ツールだった折込チラシは、もはや絶滅危惧種です。

今回はこのチラシを深読み・裏読みしながら、塾の宣伝に乗せられない姿勢について考えます。

※特定の塾を持ち上げるつもりも貶めるつもりもありません。あくまでも題材として取り上げるだけです。

合格実績の見せ方

 

このチラシでは、このようになっていました。

御三家・最難関中 〇〇名

早慶・GMARCH中 〇〇名

難関進学・附属中 〇〇名

上位進学・附属中 〇〇名

 

このように、複数の学校をまとめて合算した数字を出すのは、一つ一つの学校の合格者数が少ないことをごまかすことが目的です。

もっとも、全合格者数はHPで公開していて、チラシの隅にはHPに誘導するQRコードが載せられていました。もしかすると、「実際の合格者はどうなっているのだろう?」と好奇心に駆られた人をHPに誘導する目的で合算しているのかもしれません。

 

まず、「御三家・最難関中」のくくりとなっている学校名をチェックします。

開成・麻布・武蔵・桜蔭・女子学院・雙葉・筑駒・筑附・渋谷渋谷・渋谷幕張・駒場東邦・豊島岡・聖光・栄光・灘

 

たしかに最難関中学です。

しかし、大きなカラクリがここに潜んでいることにお気づきでしょうか?

1/18・19 

1/22 渋谷幕張

2/1 開成・麻布・武蔵・桜蔭・女子学院・雙葉・駒場東邦・渋谷渋谷

2/2 聖光・栄光・渋谷幕張渋谷渋谷豊島岡

2/3 筑駒・筑附・豊島岡

2/4 聖光豊島岡

2/5 渋谷渋谷

 

渋谷幕張・渋谷渋谷・聖光・豊島岡は複数回入試を行っているのです。しかも、渋谷渋谷と豊島岡は3回も!

 

これらの学校は、どの塾でも合格者数が多くなるのですね。

また、渋谷幕張は1月に入試が行われるので、開成や桜蔭・麻布といった学校を受験する生徒がこぞって受験し合格実績をたたき出します。

塾実績比較2025

サピックス・日能研・四谷大塚のHPから、これらの学校の合格者数をまとめてみました。

四谷大塚については、HPにこうあります。

「合格者数は、四谷大塚ネットワーク(四谷大塚・四谷大塚YTnet・四谷大塚NET)に継続的に在籍し、四谷大塚が開発した教材および教育サービスで学習した教育差0ビスで学習した生徒を対象としております。」

ちなみに、四谷大塚ネットワーク加盟塾としては、

・早稲田アカデミー・臨海セミナー・城北スクール

といった大手塾に加え、全国の中小塾が無数に加盟しています。これら全ての塾の実績を合算したのがこの数字です。

したがって、四谷大塚の合格実績は、いわゆる「塾の合格実績」とは別物としてとらえる必要があります。

 

つまり、このチラシの塾は、渋谷幕張や豊島岡などの大きな数字が出やすい学校を、開成や桜蔭といった学校とひとまとめにして合算することで、全体の数字を大きく見せている可能性があるのです。

 

そもそも「御三家」といういいかたは、いつ頃誰が言い始めたのかは謎ですが(一説によれば日能研だといいますが真偽不明)、その意図としては、「誰もが憧れる最難関伝統校」という意味と、「すべて2月1日に1回だけ入試を行っている学校」という意味があります。

とくに塾産業にとっては後者の定義が重要です。これらの学校は受験日が重なるため、一人の生徒の複数合格があり得ないのですね。(除くサンデーショック)

だから、塾同士が互いの実績を競い合う指標になったのです。

そのため、この「御三家」に2日校の栄光や聖光、複数回入試の豊島岡や渋谷渋谷、まして渋谷幕張を合算することは無意味です。

 

もっとも今はサピックスの一人勝ちなので相互比較は意味を失いましたが。

 

次のブロックの「早慶・GMARCH中」も見てみましょう。

早稲田 58

早大学院 58

早実 59

慶應普通部 58

慶應湘南藤沢 59

青山学院 51

青山学院横浜英和 45

青山学院浦和ルーテル 44

学習院 47

学習院女子 51

中大附属 48

中大横浜 50

法政大学 47

法政第二 48

明大明治 56

明大中野 48

明大八王子 41

立教池袋 47

立教新座 53

立教女学院 48

 

これらの学校がこのブロックではまとめられていました。

横に書いた数字は、サピックスの偏差値です。

 

普通は、早慶とGMARCHは区別します。偏差値帯が明らかに異なるからです。

偏差値が41の明大八王子と、59の慶應湘南藤沢をひとくくりにするのは乱暴すぎます。

 

もしこの塾の早慶の合格者数が「誇れる」ものであるなら、このようなひとくくりにするはずもありません。したがって、これらの学校をひとまとめにして合算した数字を出している目的もまた明らかです。

 

HPで個別の数字をチェックしてみると、早慶6校の合格者数は、このチラシの合算の数字のおよそ1/10でした。

 

難関進学・附属中

このくくりに入っている学校は以下のとおりです。

浅野・市川・浦和明の星・鷗友・大妻・大宮開成・海城・開智・開智日本橋・吉祥女子・暁星・恵泉・攻玉社・香蘭・栄東・サレジオ・芝・芝浦工大柏・芝浦工大附属・淑徳与野・頌栄女子・城北・昭和秀英・白百合学園・巣鴨・逗子開成・世田谷学園・専大松戸・洗足・高輪・学芸大瀬多賀谷・学芸大竹早・都市大等々力・都市大附属・農大第一・桐朋・東邦大東邦・東洋英和・広尾学園・広尾小石川・本郷・三田国際・ラサール・都立立川国際・都立白鴎・都立三鷹・都立南多摩・都立武蔵・都立両国・県立千葉・県立土浦第一・県立並木・県立水戸第一・川口市立附属

 

ここにも、上述した二つの問題があります。

まず、偏差値の幅が広すぎます。

東大に45名合格(2024)だった浅野や31名の市川と、東大にはこの5年間で合計2名だった恵泉、過去4年間で1名だった淑徳与野を同列にまとめるのはさすがに無謀です。

また、このリストには栄東が入っています。

11785名が受験し、6631名の合格者を出すというとてつもない大規模入試です。

各塾の合格者数をみても、サピックス:2572名、日能研:1024名、四谷大塚:1587名と、桁が一つ異なる合格実績となっています。

このチラシの塾がいったい各中学にどれくらいの合格者がいるのかはこのチラシからはわかりませんが、これらの学校を合算した意図は明白です。

 

上位進学・附属中

このくくりに入る学校は以下の通りです。

茨城大教育学部附属・江戸川取手・大妻中野・お茶附・開智所沢・海陽中等教育・かえつ有明・神奈川大附・鎌倉学園・鎌倉女学院・共立女子・晃華学園・国府台女子・国学院久我山・佐久長聖・品川女子学院・芝国際・湘南白百合・成蹊・成城・成城学園・青陵・帝京大・田園調布学園・桐蔭・学芸大小金井・女学館・桐光・東洋大京北・独協・ドルトン・日本学園・日本女子大附属・日大・日大第二・日大豊山・函館ラサール・不二聖心・富士見・普連土・三輪田・明治学院・森村・山手学院・山脇・横浜共立・横浜雙葉・麗澤

 

これも実に乱暴なくくりです。

そもそも偏差値帯に20以上の開きがある学校をまとめています。

また、佐久長聖や函館ラサールのように、首都圏受験生が「お試し受験」として大量に受験するものの、実際に進学する生徒が極めて少ない学校まで混ぜています。

佐久長聖・・・サピックス995名、日能研386名、四谷大塚??(HPに出ていない)

函館ラサール・・・サピックス63名、日能研41名、四谷大塚??(HPに出ていない)

 

さて、実はチラシには記載が無いのですが、公式HPには学校ごとの人数が出ていました。

全部見るのは大変なので、「御三家・最難関中」のくくりとなっている学校だけを検証します。

実際の数字は出さずに、だいたいの数を示します。(HPには数字がきちんと出ていましたが、塾名を伏せたいので)

 

1~3名 4名~6名 7名~10名 の3つに分けてみましょう。

 

開成 1~3名

麻布 1~3名

武蔵 4名~6名

桜蔭 1~3名

女子学院 1~3名

雙葉 1~3名

筑駒 1~3名

筑附 4名~6名

渋谷渋谷 4名~6名

渋谷幕張 7名~10名

駒場東邦 1~3名

豊島岡 7名~10名

聖光 1~3名

栄光 1~3名

灘 1~3名

 

思ったほどは、豊島も渋幕も多くはありませんでした。

別に恥ずべき実績ではないのですから、堂々と出せばいいのに、と思います。

その数字も、生徒たちがその塾で頑張って勝ち取った「栄誉ある成果」なのですから。

 

※この塾は、HPでは全て(おそらく)の合格校を、1名合格の学校まできちんと掲示しています。ここをごまかす塾も多いので、その意味では正直に思えます。

私がこの記事で書いているのは、あくまでも1枚のチラシから得られる情報についてです。

 

合格実績の無意味さ

 

チラシには、数名の合格者の合格の声が氏名・顔写真・合格校とともに載せられていました。

最近はあまり見なくなりましたね。もちろん個人情報保護の観点からです。

この「合格者の声」を載せた目的は2つでしょう。

・生徒の喜びの声を載せることで塾の宣伝になるという目的

・合格実績の公明正大さをアピールする目的

 

しかし、ここに掲載されている子たちが、本当のこの塾のみで頑張った子なのか、他塾をメインでこの塾を少し利用した子なのかは不明です。

なぜなら、この塾は「個別指導塾」だからです。

複数の塾を掛け持ちする子は必ずいます。

集団指導塾を2つ通う子もいますし、集団指導に個別指導を組み合わせる子も多くいます。

その生徒の合格実績が、はたしてどの塾の手柄なのかなどわからないのです。

「うちの塾に小1から通い、小6の時には週5日みっちりと指導したから、どう考えてもうちの手柄だ」

「6年生最後の3か月だけ、週1回2時間個別で指導した。その指導があったからこその合格なのだから、当然うちの塾の手柄だ」

この議論は不毛です。

 

この個別指導塾は、集団指導塾の系列塾です。

そしてチラシにはこうありました。

「〇〇集団指導塾の志望校別対策コース・△△個別指導塾の塾生の中から、保護者様のご承諾をいただいた方のみ掲載しています。」

つまり、ここに出ている「喜びの声」は、このチラシの△△個別指導塾には通ったことのない生徒が載せられている可能性があるということなのですね。

 

少子化の中、塾も生徒募集に必死です。

 

 

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peter-lws.net