前回の続きです。
新聞に折り込みで入っていた某塾のチラシを見ていての感想です。
※この塾を貶める意図も持ち上げる意図もありません。
喜びの声の掲載
そのチラシには10名以上の子どもたちの、氏名・合格校・進学校・顔写真・コメントが掲載されていました。
これは非常に危険なことです。
小学校の同級生やママ友たちにまで、合格校・進学校がわかってしまうからです。
もちろん別に恥ずべき情報という意味ではありません。
しかし、いったんこうして「広告」に出てしまうと、この個人情報は消せません。
合格直後は、親子とも浮かれています。冷静な判断ができなくなってしまうのでしょうか。
このタイミングで「チラシに載せていいですよね?」と言われて思わず承諾してしまうのだと思います。
邪推
広告に載ることがいかに危険なことなのか、ちょっとやってみましょう。
実際にチラシに掲載されていた子ではありませんが、ここで架空の受験生を1名想定してみます。A子さんとしておきます。
A子さんの進学校は女子学院、その他の合格校は栄東(東大特待)と桐蔭中等教育です。
サピックス偏差値では、これらの学校はこうなっています。
女子学院(61)・栄東東大特待(60)・桐蔭中等教育(40)
そして試験日はこうです。
1/11 桐蔭(帰国生入試)
1/12 栄東(東大特待)
2/1 女子学院
桐蔭(AM/PM)
2/2 PM 桐蔭
2/5 PM 桐蔭
どう考えても、桐蔭の受験は1日午後でしょうね。女子学院の合格発表が2日の13時ですから、女子学院が合格しているのにそのあとに2日の午後や5日の桐蔭を受験する理由は無いのです。
そうすると、A子さんの受験パターンはこうなります。
◆一般受験生パターン
1/12 栄東(東大特待)
2/1 女子学院
PM 桐蔭
実はもう一つの可能性があります。それは、A子さんが帰国生であった場合です。
◆帰国生パターン
1/11 桐蔭(帰国生入試)
1/12 栄東(東大特待)
2/1 女子学院
しかし、もしA子さんが帰国生なら、不自然な点が2つあります。
1つは、栄東が「お試し予行演習」だったとして、1月に桐蔭の帰国生入試を受けるのなら、それがすでにお試し予行演習の役割を果たすので、わざわざ栄東を受験する意味が無い点です。
もう1つは、桐蔭以外の帰国生入試を一つも合格していないという点です。
実は、帰国生入試は11月から1月にかけて多数実施されます。
帰国生たちは、これらの学校を「受けまくる」のが常なのです。だってせっかくのチャンス(特権?)ですから。これを逃すのはあまりにももったいないのです。
一部の帰国生入試を紹介します。
11/20 実践女子/芝国際
11/21 三田国際
11/22 大妻多摩/大妻中野/かえつ有明
11/23 大妻多摩/鎌倉女学院/サレジアン国際世田谷/ドルトン東京/広尾学園小石川/山脇学園
1/24 江戸川女子/サレジアン国際
11/30 三輪田/和洋九段
12/1 共立女子/田園調布学園/東京女学館/桐朋女子
12/2 玉川学園
12/3 青山横浜英和
12/7 頌栄女子/横浜雙葉
12/10 大妻 /都市大等々力
12/11 三田国際
12/14 カリタス/サレジアン国際世田谷/湘南白百合
12/15 サレジアン国際
12/16 芝国際/広尾小石川
12/17 実践女子/広尾小石川
12/19 跡見/広尾学園
12/20 大妻中野/聖心/広尾学園
12/23 神奈川大附属/品川女子/成蹊/山脇
1/5 桐光
1/8 白百合/中央大附属 /山脇
1/11 サレジアン国際世田谷/洗足学園
1/18 学習院女子
1/27 渋谷渋谷
どうでしょう。
例えば1月までに、広尾学園・三田国際・洗足等の合格を1つでも押さえておけば、どれだけ「平穏」な精神状態で女子学院の入試に臨むことができるでしょうか。
それが無いということは、A子さんは帰国生ではなかったという可能性が非常に高くなります。
(合格を伏せていた可能性は否定しませんが、それだと桐蔭帰国合格を掲載している理由がわからなくなりますので)
1日の女子学院は午後に面接があります。面接順はわかりません。
これが今年の面接進行表です。
どうやら480番まではどの番号がどのブロックになるのかはわからないですね。
ということは、どんなに早く出願しても、13:45終了の組になる可能性は排除できないのです。
面接進行予定表には、「10分くらい前後する」かもしれないとあります。
女子学院の受験番号発番はランダムです。学校がはっきりと「出願順・受験料払い込み順ではありません」と明言していますから。
これは女子学院の受験番号と合格者数をグラフにしたものです。
500番くらいまでは、有意差がみられません。
500番台後半からは、あきらかに「合格率」が下がっています。
ここからは、以下が推測されます。
◆500番前後で一度発番している
◆500番台後半からは、未受験者が多い
◆駆け込み出願者は合格率が低い
これもまた、面接進行表のデータを裏付けるものですね。
さて、13:50に女子学院の面接が終了したとしましょう。
そこから急いで半蔵門駅に向かったとして、駅までは急いでも6分かかります。しかも大勢の受験生が一斉に移動しますので、歩道も駅の階段もホームも混雑します。
駅の入口からホームに出るまでも数分かかります。
ついでに細かいことを言うと、女子学院最寄り階段はホーム一番後ろ(渋谷方面を前として)で、青葉台の階段もよりは前のほうになりますので、6両分くらいはホームを移動する必要があります。
半蔵門から田園都市線青葉台までは準急で42分、急行で39分です。
青葉台から桐蔭までは東急バスに乗りますが、平日はだいたい10分に1本です。
バスの所要時間は15分ですが、最後に落とし穴があります。
桐蔭の敷地は物凄く広大なのです。試験会場までたどり着くのに時間がかかります。
そして、桐蔭の午後入試の集合時刻は15:30です。
間に合うかどうか、まさにギリギリですね。
つまり、女子学院の試験後に、桐蔭の午後受験をするのは「かなりリスキー」なのです。
だからこそ、普通なら1日の午後入試に桐蔭を持ってきません。
・広尾学園
・広尾学園小石川
・山脇学園
・東京農大一
・神奈川大附属
・三田国際
・田園調布
・恵泉
・品川女子
・東京女学館
・都市大等々力
・芝国際
・普連土
1日午後の受験校はまだまだあります。
どこも桐蔭よりはるかに移動が楽な午後受験です。
また、無理やり1日の午後に頑張らなくても、2日の午前にも、豊島岡・渋谷渋谷・洗足・吉祥女子・明大明治・白百合・神奈川大附属等、魅力的な学校が多数あるのです。
それでもA子さんは1日午後に桐蔭を受験しました。
ここから考えられるのはこういうことになります。
◆A子さんは、2日の学校に不合格だった
女子学院に合格できるA子さんが不合格になる学校といえばこのあたりでしょうか
・渋谷幕張
・渋谷渋谷
・豊島岡
・慶應湘南藤沢
桐蔭にも進学予定の子が渋谷幕張に通うことは考えづらいので、渋谷渋谷か慶應湘南藤沢あたりに不合格だった可能性が高いと思います。
ただし、渋谷渋谷が本命で2日と5日の両日に受験する可能性はゼロではありませんが、その場合は1日も受験しないのが不自然ですし、渋谷からだと移動しての午後入試の学校がたくさんありますので、あえて1日午後の桐蔭を頑張る必要はありません。
おさえの桐蔭だって、女子学院合格レベルの子なら5日に受験しても余裕で合格するはずです。
それをしなかったとういうことは、
2/2 慶應湘南藤沢1次
2/3 慶應中等部 1次
2/4 慶應湘南藤沢2次
2/5 慶應中等部 2次
このように、2日から5日までが慶應の受験で埋め尽くされていたことが予想されます。
だからこそ、女子学院→桐蔭の高速移動を敢行する必要があったのでしょう。
◆A子さんは、桐蔭に近いところに住んでいる
もちろん桐蔭がとても好きで、何としても受験したかったという可能性までは否定しませんが、それより桐蔭に行きやすいところに住んでいたと考えるほうが自然です。
桐蔭へのバスは、田園都市線だとあざみ野・市が尾・青葉台から、小田急線だと柿生か新百合ヶ丘から出ています。
小田急線からも、一回乗り換えで女子学院に通えますが、それより田園都市線だと乗換無しですので、A子さんは青葉台あたりに住んでいる可能性が高いのではと思います。
女子学院から無理をして必死に桐蔭まで移動して午後受験をしたことから、かなり桐蔭に通学しやすいエリアに住んでいると思うからです。
◆A子さんの兄・姉が桐蔭中等教育に通っている
無理をしてまで桐蔭にこだわる理由としては、これも考えられますね。
◆A子さんは、女子学院は繰り上げ合格だった
実は女子学院はほとんど繰り上げ合格者を出しません。女子学院に合格していながら辞退してまで行く学校がほとんど無いからです。慶應中等部と慶應湘南藤沢くらいでしょうか。
可能性はかなり低いですが、A子さんは女子学院は繰り上げ合格だったのかもしれません。そうすると、桐蔭の受験は2日か5日の午後の可能性が出てきます。
慶應湘南藤沢からバスで湘南台駅まで15分、そこから青葉台駅まで40分、ロスタイムを考えても女子学院からの移動よりはましです。
なぜ栄東(東大選抜)を受けた?
栄東は東大宮駅が最寄りです。
例えば青葉台駅からだと1時間30分かかります。
徒歩や乗換ロスを考えると、通学時間は片道で2時間近くかかります。
通学は不可能です。
つまり、進学予定の全くない栄東をおそらくは「お試し受験」として受けたということなのでしょう。
以前ならこれくらいの「お試し受験」は珍しくなかったのですが、コロナ禍が全てを変えました。
コロナ・インフルなどの感染リスクをおしてまで、1月に遠隔地の受験をすることは「無謀」となったのです。
おそらくは進学の意志もなかったであろう学校を受験した理由はわかりません。
塾の実績稼ぎに駆り出された可能性もあると思います。
危険性
こうして、A子さんの不合格校まで推測、さらには住んでいるエリアまで推測可能なのです。
もちろん、私の推理は、まったくの的外れである可能性もありますが、案外真相に迫っているのではないかと思います。
つまり、気軽に広告掲載を許諾してしまうと、合格した学校を3つ出しただけなのに、これだけの「邪推」を呼び込むことになりかねないのです。
だからこそ、絶対に塾の広告に個人情報や合格校等をさらしてはいけないのです。