中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

【中学受験】ほんとうに算数さえできれば合格できるのか?

先日、とある記事を見ていたら、中学受験の専門家の方がこんなことを言ってるのを見かけました。

「中学入試は算数で差がつく!!」

ああ、まだこんなことを言っている「専門家」がいるのですね。

今回はこの話題です。

算数で差がつく状況とは?

 

「算数で差がつく」とはいったいどういうことを言っているのでしょうか?

◆他教科に比べて、算数は得点がばらつく

◆他の教科は高得点をとりにくいが、算数は高得点がとれる

おそらくはこういうことをいっているのでしょう。

 

しかし、残念ながら、中学入試の受験生の得点分布は公開されていませんので、検証のしようもありません。

 

ここで、標準偏差まで公開してくれている稀な学校である鷗友学園の2025の入試結果を見てみましょう。

鴎友 入試結果

これを見ると、合格平均点と受験平均点は算数が一番乖離していて、標準偏差も大きいことから、算数の得点のばらつきが大きいことがわかります。

つまり、この学校のこの年度のこの日の試験では、算数で差がつきやすい、そういうことになります。

ただし、鷗友は理科・社会にその他の女子高には見られない大きな特徴があります。

オールカラーで出題されるというところも目を惹きますが、ポイントはその内容にあるのです。

基本的な知識問題も出題されていますが、思い切り思考力・記述力に振った問題が3割~4割を占めているのです。

社会科の入試問題では、思考力・記述力を問う出題をする学校は、麻布・武蔵・海城の3校にすぎません。栄光も記述問題ではりますが、思考力問題ではありません。鷗友は女子校唯一といっていいほどの思考力問題を出題し続けている学校なのです。「算数で差がつく」ことはその通りですが、この理科・社会の思考力・記述力問題の対策をきちんとしておかないと、合格は見込めません。

 

開成

開成

2025年の開成中の入試結果です。

これ以降、異なる配点の学校を比較するために、100点満点換算した数字を併記します。表中の緑色の部分をごらんください。

 

もちろん標準偏差は公表されていません。

受験者平均点と合格者平均点の差をみることで、得点のばらつきをうかがってみましょう。正確なものではありませんが、他にデータがないのでしかたがありません。

これをみると、算数よりも国語で差がついたようですね。

 

駒東

駒東

駒東については、国語よりも算数で差がついたといえそうです。

実は、開成・桜蔭のように、青天井に優秀な生徒が受験する学校ほど、合格者平均点が高めになる傾向があります。マラソンでいえば、国内予選を勝ち進んだ選手が先頭集団をつくっているのに、外国からの招待選手たちが、とんでもないタイムで前方を独走しているようなイメージでしょうか。

その点駒東は、外国からの招待選手はいないと思われます。

 

武蔵

武蔵

 武蔵もまたコアなファンが多い学校です。

あきらかに算数で差が開いていますね。残り3教科はだんご状態です。

以前より、武蔵は算数が勝負どころといわれてはいたので、これはうなずけるデータです。

 

世田谷学園

世田谷学園

この学校も、国語ではあまり差がつかず、算数で差が開いたようです。それにしても、そんなに難しい算数ではなかったと思うのですが、受験生全体の得点力が低すぎます。

 

豊島岡

豊島岡

豊島岡は、4科目でどの科目が有利・不利というほどの差が開いていないようですね。

誤差の範囲でしょう。

 

渋谷幕張

渋谷幕張

算数で差が開いたようですね。ただし、算数の平均点が受験平均点も合格平均点も、すこし低めなのが気になります。

 

巣鴨

巣鴨

巣鴨中といえば、昔は「算数さえできれば受かる」「算数以外は採点していない」とまでいわれていた学校です。さすがにそれは言い過ぎですが、算数が得意な子が多く合格していた印象はたしかにありました。

しかし今回データを見ると、意外、と言っては失礼ですが、4科目に有意差が見られないですね。 昔からの「思い込み」が危険な好例です。

 

本当に算数で差がつくのか?

 

実は、もう一つ考えなくてはならないことがあります。

他教科に比べて、算数は「目立つ」教科だということです。

 

算数は「解ける」「解けない」がはっきりしている教科です。

しかも、多くの保護者にとって、子どもに「教えづらい」教科の筆頭でしょう。

もちろん大人であれば、中学入試の算数の問題など解くことはさほど困難ではありません。しかし、その解き方が、「正しい解き方」であることに確信が持てないのですね。

そこで、「塾屋」の出番です。

国語あるいは理科・社会の単科塾や指導教室が少ないのに比べて、「〇〇算数教室」のいかに多いことか。

それだけ需要があるということなのです。

「塾に行かせたおかげで算数が解けるようになり合格できた」というストーリーが最も作りやすいのが算数という教科なのです。

 

しかし、残念ながら、算数だけ突出して出来る生徒が受験でうまくいく時代はとうに終わっています。

4教科が万遍無くできる生徒がもっとも合格に近いのです。

 

個人的な印象にすぎませんが、算数が突出してできる生徒ほど、他の3教科に致命的な穴だらけで入試で苦戦したような気がします。 それよりも、国語が優秀な生徒のほうが、他の3教科に良い影響を与えて、合格していったと思うのです。

 

「算数で差がつく学校も多いが、そうともいえない学校もある」

「年度・試験回によって状況は異なる」

 

調べてわかったことはこの程度でした。

 

結局のところ、「算数で差がつく」という言説は、間違ってはいませんが、それだけではない、というのが結論ですね。