入試問題を調べていると、確実にある傾向があることに気づかされます。
「変則入試」が増えているのです。
今回はそうした話題になります。
※特定の学校を持ち上げる意図も貶す意図もありません。私の感想レベルの話に過ぎませんのでご容赦ください。
「変則入試」とは?
「変則入試」という呼び方は一般的ではありません。私が勝手に名付けました。
「変則」があるということは、「普通」もあります。
私が考える「普通」の入試とは、算数・国語・理科・社会の4科目で構成される入試のことです。もちろんそれぞれの科目の中で、学校は様々な工夫をこらしますので、「変則的」な出題も見られます。
今でも私が覚えているのは、武蔵中の社会科の問題です。もうあまりに古い出題すぎて、手元に資料も無く、調べることもできないのですが、たしかこんな出題でした。
「みなさんは千夜一夜物語(アラビアンナイト)を知っていますか? この物語には様々な職業や動物などが出てきます・・・・」といった前振りの文章があり、そして「ここに書かれていることと、あなたが読んだことのあるアラビアンナイトの話を踏まえて、当時のイスラム社会について説明しなさい」
こんな記述問題だったと記憶しています。
★こちらでも紹介しています。
当時の印象としては、「武蔵だから許される」「武蔵はそういう学校」という認識でした。
今考えても、ひどい問題ですね。
ただ、それでもまだ、「社会科」の枠組みの中にはかろうじて収まってはいます。
したがって、「普通」の入試に分類します。
◆小学生が、志望校のためにはらった努力値を測定する
◆中学生の学習内容への対応力を測定する
◆義務教育の要件を満たす
◆公平な判定がなされる
この4点をきちんと反映するのが、私の考える「普通入試」です。
別に私の考えというより、ごく「普通」のことですね。
ところで、「義務教育の要件を満たす」というのは、「社会の一員として持っているべき最低限の学び」といったほどの意味です。漢字も書けない、計算もできない、都道府県も知らない、そんな「社会人」はあり得ないですからね。
だから4科目入試が「普通入試」だと私は考えています。
つまり、ここで話題にしたい「変則入試」というのは、4教科の学びを無視した入試のことなのです。
変則入試の種類
(1)英語入試
英語も教科には違いありません。小学校でも学びます。しかし、中学入試における英語入試のレベルは、小学校レベルではもちろんありません。
これは算国理社の入試でも同様ですので、そこは問題とするにあたらないでしょう。
また、合格のためにはらった努力値を測定できますし、中学生になっての対応力も測れます。公平な判定も可能です。もちろん義務教育の範疇です。
でしたら何の問題もないといいたいところですが、1つだけ大きな問題があるのです。
帰国生に有利すぎる、そういう問題です。
例えば、豊島岡の「英語資格入試」は、英検等のスコアを提出することで「みなし得点」が与えられるというものです。英検3級だと50点、英検準1級だと100点が与えられるとあります。
入試において、最初から50点のハンデがあるということは、英検3級レベルの子は「合格できない」「合格させる気がない」とほぼイコールだと私は思います。
今年の入試結果を見てみましょう。
算数は200点満点、英語は100点満点です。
英検級によるみなし得点はこうなっています。
準1級以上 100点
2級 90点
準2級 70-80点
3級 50点
これを見ると、受験者は英検が準2級が平均レベルだったようですね。
しかし仮に英検級が準2級で70点の得点をそこで得たとすると、合格点の224点まではあと154点を算数で稼がなくてはなりません。しかし算数の平均点は114点ですから、そんなに簡単な問題ではなかったはずです。
ちなみに、同じ算数の問題の「一般入試」の得点は、受験者平均が60点、合格者平均が70点でした。英語資格入試の算数の200点は、100点満点のテストを2倍して算出します。
つまり、一般4科目入試の算数の合格者平均を上回らないと、英検準2級では合格できない、ということになるのです。
まして英検3級の受験生は、英語で50点しか獲得できませんので、合格点の224点までにはあと174点必要です。これは合格平均点をさらに17点(100点満点換算で)上回る必要があるということです。
逆に、英検準1級保持者だと、算数で124点あればよいので、100点満点換算だと62点でいいことになります。
少しでも英検をご存じの方なら、海外経験の無い小学生が、日本国内の学習だけで、英検準1級をとることがどれだけ困難なのかはわかると思います。
persecution enforce discomfort straightforward uphold reckon arrogant
alter definitely invariably eliminate particle significantly revenue leverage stray preclude blissfully hypocritical conspicuos seemingly ruthlessly
英検準1級レベルの単語となると、こんなものが頻出なのです。
私の教え子で最難関中高に進学した生徒たちも、だいたいが英検準1級にチャレンジするのは高1の後半でした。 難関校ほど、英語教育に特化した指導をしませんので、自力でチャレンジするのがこれくらいの時期になる、ということだと思います。
つまり、こうした英語資格入試や英語単科入試は、あきらかに英語圏からの「帰国生」を獲得することが目的と考えてよいでしょう。
親の都合でたまたま英語圏で生活していた、ただそれだけで「合格」できるような入試は、「公平な」入試ではありません。
(2)算数・国語単科入試
算数のみ、国語のみの単科入試もよく見かけますね。
とくに「午後入試」に多くみられます。
午後の限られた時間で実施するという物理的な問題、また午後入試の結果を当日発表するためには1科目しか実施できない、そうした事情はわかります。
しかし、「算数だけ」「国語だけ」の力をはかることで、本当に入試として成立するのかどうかは甚だ疑問です。
こうした単科入試を実施する学校は、別の日程では4科目入試も実施しています。つまり、その学校の単科入試のため、「算数だけ」「国語だけ」の学習をしているわけではありません。
結局のところ、その学校を志望する生徒は、4教科の学習をして入試に臨むことになります。それなら、たとえ問題数を減らしてでも4教科入試を実施すればいいのに、なぜそうしないのでしょうか?
答は明らかですね。
◆理科・社会の軽視
◆受験のハードルを下げる
この2点でしょう。
つまり前提として、「理科・社会の学習まで手が回らなかった生徒を集めたい」「理科・社会の学習は受験生の負担となっている」という考えがあるように思うのです。
(3)適性検査型入試
公立中高一貫校は、「公立」という縛りのために、普通の4科目入試が実施できません。そこで「適性検査」という名称の入試が実施されます。
「適性検査」は、国社、算理を融合したような形式が多いですね。理科の実験結果がまとめられているような資料を読んで、その場でグラフをつくったり計算したり。あるいはフィールドワークの報告書を見て記述したり。
PISA型の思考力入試ともいえますので、これはこれで悪くはありません。なかなか良い問題も多くみかけます
ただし、こうした適性検査も、4教科の土台がしっかりしていないと対応が難しいテストです。4科目の基礎力をしっかりと鍛えた上で、思考力や分析力、そして記述力を作っていくようなイメージでしょうか。
ところが、私立の一部の学校では、「適性検査型入試」というものを実施しているところがあるのですね。
適性検査のコンセプトに共感し、入試をそのスタイルに切り替えるというのならわかります。その学校を第一志望とする受験生たちは、「適性検査」の対策をすればよいことになりますので。
しかし、こうして「適性検査型」入試を導入する私立のほとんど(たぶん全て)は、普通の4科目入試も別途やっているのですね。
そうなると、これらの学校を志望する生徒は、「4科目普通入試」の対策と「適性検査型」入試の両方の対策をする必要が生じてしまいます。
ではなぜこのような「適性検査型入試」日程を設けるのでしょうか?
答は明らかですね。
第一志望として「公立中高一貫校」を受験した生徒を取り込む目的です。
最初からその私立中を第一志望としている生徒のほうを向いてはいない入試ということができるでしょう。
(4)自己PR型入試
企業の就職試験ならわかります。しかしわずか12歳の小学生に、いったいどのような「自己PR」能力があるというのでしょうか?
たとえば、こんな問題です。
◆「アップサイクルの企画書を作りプレゼンする」
動画を見たあと、アイデアを考え、グループワークを経た後、それをプレゼンする、そうした「試験」です。
◆「小学校で得意だったことをプレゼンテーションする」という学校もあります。
◆「ダンスパフォーマンス入試」
最初見たときは目を疑いました。ダンスと面接だけで合否が決まるそうです。
課題曲と自由曲の2曲を踊るとありました。
◆「自己プレゼンテーション入試」
作文とプレゼンで自分の「特技」をアピールする入試は、多くの学校で設定されています。
◆「フードデザイン入試」
家庭科の模擬授業を受けてから、レポートをまとめてプレゼンするという入試のようです。
4科目の学習はそんなに負担なのか?
以前は、2科目のみの入試を実施する学校がけっこうありました。そうした学校を志望する生徒は、理社は全く学習せず、算国だけを勉強したのです。
それに比べて4科目の学習は大変です。最初は4科目の勉強を始めても、途中で2科目に「逃げる」生徒というのもいたものです。
模試の点数を分析するとどうなっていたと思いますか?
算国2科目だけを学んでいた生徒のほうが、4科を学んでいる生徒よりも算国の点数が高い
当然こうした傾向がなければいけないはずですが、事実は逆でした。
驚くべきことに、算国のみ学んでいた生徒の算国の得点よりも、4科を学んでいた生徒の算国の点数のほうが高く出ていたのです。
学習の負担を軽減することが、必ずしも学力向上にはつながっていなかったのですね。
おそらく中学校もそうした状況を把握したのでしょう。
2科目のみを試験科目とする学校が、次々と4科目入試へと変わっていきました。
もしかして中学校内で理社の基礎学力の重要性が認識されたのかもしれません。
「どうして江戸時代にはフランス革命のような革命が起きなかったのか」を生徒と論じたいのに、「江戸幕府を開いたのは誰かな?」なんて授業はやりたくないですからね。
たしかに4科目の学習は大変です。時間もかかります。しかし、それは「必要な学び」です。
私は、志望校の入試問題のレベルに合わせた努力なら、そこまで「無理」で「大変」とは思いません。
全ての学校を調べたわけではありませんが、どうも「変則入試」を導入している学校の多くは以下に該当するような気がします。
◆低偏差値(塾算出の入試偏差値)
◆大学実績が低迷
◆生徒数減少・・・定員割れも
もちろん全ての学校ではありません。とくに英語入試については、慶應湘南藤沢や豊島岡のような学校もありますので。
でも、積極的に「変則入試」を導入している学校ほど、上記の3つのいずれかに該当する学校が多いような気がするのです。
しかし、こうして「基礎学力」をなおざりにした入試で「合格」して進学してきた生徒は、中高の高度な学習にどれだけついていけるのか甚だ疑問です。
ただし、こうした変則入試にも、受験生にとってのメリットはあります。
公立中学進学を回避したい、だが勉強してこなかった生徒の「セーフティネット」としての役割です。
私の知っている子にそうした子がいました。
とにかく勉強が嫌いで、塾に通わせてみても、全く自宅学習をせず、塾もさぼりがちだったため、途中で通塾はあきらめました。それでも、英会話教室だけは楽しく通っていたそうです。
そこで、面接と簡単な英語のテストだけで合格できる学校をなんとか探して、進学することができたのです。
同級生の大半が同様の生徒ですので、楽しい中高生活を送れたそうです。ただし大学受験は惨敗でした。希望する大学への進学はもちろん、「定員割れ」の大学ですら不合格となったのです。
小中高(そして大)時代は、「学生」です。「学ぶ」ことが前提の時期です。そこできちんとした学びを拒否することは将来に禍根を残します。
変則入試の前提として、4教科の学習が負担になる、とくに理科・社会の学習が負担になるという考えがあるということなのでしょう。
しかし、本当に「負担」なのでしょうか。
まず、小学校の教科書をきちんと学びましょう。書店に行くといくらでも売られている「教科書ドリル」「教科書準拠問題集」を買ってきて、毎日少しずつ解きましょう。
たったそれだけの学習で、合格できるような学校も実はたくさんあるのです。
あえて「変則入試」に目を奪われずとも、最低限の教科学習をすることで進学もできますし、中高の学びにもつながっていくと思います。