今回は「雑談」です。
以前から「キラキラネーム」の話題は時折見かけますね。一般には、極端な「キラキラネーム」を子どもにつける親は、教育水準や所得水準が低いのではないかとは言われてきました。何となくそんな気はするものの、確認のしようもないことですね。そもそも「キラキラネーム」の定義も曖昧です。
たまたま書棚の奥で昔読んだ本を見つけたので、今回はそのことを話題にしたいと思います。
アメリカのデータで、所得水準と名前の関係を調べたものがあるのですね。
以下、「Freakonomics: A rogue Economist Explores the Hidden Side of Evertying」(邦題:ヤバい経済学)からの引用となります。
20年ほど前にアメリカで出版されてベストセラーとなりました。著者のスティーヴン・デヴィッド・レヴィットはシカゴ大学経済学部教授です。
それにしても、このタイトル、何とかならないでしょうかね。
もともと一般受けを狙った著書なので仕方がないといえば仕方がないのですが。
しかも、内容は面白いのに、無理に口調を「ワル」風に作っているので、かえって読みづらいのが残念です。たぶん翻訳の問題なのでしょうけれど。
むしろ原著で読んだほうがいいかもしれません。
◆中所得の白人家庭に多い女の子の名前トップ20
1.サラ Sarah
2.エミリー Emily
3.ジェシカ Jessica
4.ローレン Lauren
5.アシュリー Ashley
6.アマンダ Amanda
7.ミーガン Megan
8.サマンサ Samantha
9.ハナ Hannah
10.レイチェル Rachel
11.ニコル Nicole
12.テイラー Taylor
13.エリザベス Elizabeth
14.キャサリン Katherine
15.マディスン Madison
16.ジェニファー Jennifer
17.アレクサンドラ Alexandra
18.ブリタニー Brittany
19.ダニエル Danielle
20.レベッカ Rebecca
◆低所得の白人家庭に多い字女の子の名前トップ20
1.アシュリー Ashley
2.ジェシカ Jessica
3.アマンダ Amanda
4.サマンサ Samantha
5.ブリタニー Brittany
6.サラ Sarah
7.ケイラ Kayla
8.アンバー Amber
9.ミーガン Megan
10.テイラー Taylor
11.エミリー Emily
12.ニコル Nicloe
13.エリザベス Elizabeth
14.ヘザー Heather
15.アリッサ Alyssa
16.ステファニー Atephanie
17.ジェニファー Jennifer
18.ハナ Hannah
19.コートニー Courtney
20.レベッカ Rebecca
カリフォルニア州の大規模なデータベースで調べたそうです。
氏名だけでなく、生年月日や教育水準、所得水準も調べられるのだとか。
ちなみに1990年代のデータです。
著者によると、重なる名前は多いけれど、元データがとても大きいので、順位が1つ違うだけで数千人の違いになるそうです。例えばブリタニーは低所得者のリストでは5番目だけれど、中所得者のリストでは18番目だから、圧倒的に「安物の名前」と思っていいとありました。
幸い私の知り合いに「ブリタニー」はいませんが、もしブリタニーが読んだら激怒しそうな内容ですね。
片一方のリストにしかない名前を5つずつ抽出するとこうなるそうです。
◆白人の女の子に多い高級な名前トップ5
アレクサンドラ・ローレン・キャサリン・マディスン・レイチェル
◆白人の女の子に多い安物の名前トップ5
アンバー・ヘザー・ケイラ・ステファニー・アリッサ
◆白人の男の子に多い高級な名前トップ5
ベンジャミン・サミュエル・ジョナサン・アレクサンダー・アンドリュー
◆白人の男の子に多い安物の名前トップ5
コディ・ブランドン・アンソニー・ジャスティン・ロバート
アメリカ人の命名事情に詳しくはない私には、両者の違いが今ひとつよくわかりませんが、大胆なリストを作ったものだとは思います。
さらに、こんなデータもありました。
◆親の教育水準が低い白人の女の子の名前トップ20
1 Anjel
2 Heaven
3 Misty
4 Destiny
5 Brenda
6 Tabatha
7 Bobbie
8 Brandy
9 Destinee
10 Cindy
11 Jazmine
12 Shyanne
13 Britany
14 Mercedes
15 Tiffanie
16 Ashly
17 Tonya
18 Crystal
19 Brandie
20 Brandi
これを見ると、なんとなくわかる気もします。過去に読んだ小説や映画の登場人物とリンクするからです。
さらに面白いことも紹介されていました。
ジャスミンという名前の綴りが多数あるのだそうです。
Jazmine/Jazmyne/Jazamin/Jasmyne/Jasmina/Jazmyn/Jasmine/Jasmin/Jasmyn
これは母親の教育水準の低さ順だとか。
このあたりは日本における「当て字」と似た匂いを感じますね。
「そんな読み方ないよね!」とツッコミたくなるような名前をつける日本人と同じ感覚なのでしょうか。それとも単なるスペルミス?
たまたま読んだことのあるアメリカの小説の登場人物に、若い頃から犯罪に手を染めるようになるジャスミンという女性がいました。彼女の愛称は「ジャズ」でした。なるほど、当て字だったのですね。
実は、ここでは紹介しませんでしたが、黒人の名前と白人の名前の比較も書かれていました。いわゆる「黒人っぽい」名前、「白人っぽい名前」の違いも考察されています。
アメリカのこの種の調査には必ずつきまとう話題ですね。
著者によると、「上流階級」の付ける名前の流行が、次第に所得水準・教育水準の梯子を降りる傾向にあるそうです。
このあたりは日本とは違いますね。
日本では、どちらかというと古典的な名前とキラキラネームは交わらない気がします。むしろ、キラキラネームとはでは言わないものの「今風」の名前が、徐々に一般化する傾向があると思います。
だいぶ以前の話で恐縮です。
私の知人に、自分の教えている生徒達の成績と名前の関係を調べた人がいたのです。
生徒の名前を、オーソドックスな名前と、新奇(珍奇)な名前に分け、それぞれの成績分布をグラフ化したのですね。それを見せていただくと、あきらかに分布が違うのです。オーソドックスな名前のグループは、成績が真ん中あたりに集まる傾向があるのに対し、もう一つのグループは見事に上から下まで成績がばらけていたのです。
「結局平均してしまえば有意差はなかったね」というのが知人の結論でした。
ただし、名前の分類はあくまでもその知人の主観でしたので、これをもって何等かの結論が出る話ではないのですが。
また、これもだいぶ以前のことなのですが、卒業生が学校の生徒リストを持って顔をだしたことがありました。ちょうど学校で年度初めのクラス替えがあって、その足で立ち寄ったのです。そのリストを眺めながら、クラスメイトや担任の先生の話などを楽しく語ってくれました。こうして生の学校の様子を知るのも楽しいものです。教え子の充実した学校生活が見えるのも嬉しいですし、個性的な学校の先生の話題も面白いですね。
そうして雑談をしているうちに、その子が「先生、この子の名前読める?」とクイズを出してきました。自慢ではないですが、私は職業柄生徒の名前のバリエーションには詳しいほうです。そこで彼の挑戦を受けてたったのですが、読めない名前がいくつもあるのですね。
「この子の名前は〇〇だね」
「違うよ。△△だよ」
「この漢字のどこにその音があるんだ!」
「だって、普通にそう読めるよ」
そうした会話が交わされました。
そうとうな難関校でしたので、私の仮説としては、「さすがにこの学校に進学するレベルの生徒の親だから、子どもにもきちんとした名前を付けるに違いない」というものだったのですが、例外はあるのです。
結果としては、1クラスに1~2名ずつくらいは、読めない名前の子が存在しました。
これはあくまでも「私には読めなかった」というだけにすぎません。
どうやら私には読めなくても、生徒同士では普通に読める、そうした名前も多いようでした。
「どうしてそんな読み方わかるんだ?」
「だってアニメの登場人物に同じ読み方の名前が出てきたから」
なるほど。どうやら時代とともに、「読めない」名前も変化するということなのでしょう。
よく考えてみれば、昔にも「読めない(読みづらい)」名前は存在しました。
歴史人物にもいろいろいましたね。
王仁・橘逸勢・比企能員・藤原惺窩・川路聖謨・荷田春満
どれも、歴史人物として知っているから読めるものの、クラスメイトにいたら降参です。
私見ですが、明治期くらいまでは教養=漢文の素養でしたから、貴族や武士たちは、不必要に凝った名前をつけたのではないかな?
ところで、よく知られたことですが、森鴎外の子どもたちの名前はこうでした。
於菟・茉莉・杏奴・不律・類
読むことは読めますが、そうとう個性的です。ちなみに、おと・まり・あんぬ・ふりつ・るい と読みます。
おわかりですね。オットー・マリー・アンヌ・フリッツ・ルイ からきています。
鴎外=林太郎が海外で呼びづらいことからこう名付けたそうですね。これは少しわかります。私の名前も欧米人にはまず発音してもらえません。
そして於菟もまた自分の子どもたちに、真章・富・礼於・樊須と名付けました。
わかりますか? マックス・トム・レオ・ハンス です。
そもそも日本語の歴史が、「当て字」文化ですから。万葉仮名なんてすごいですよね。
そう考えると、「キラキラネーム」も日本の伝統に沿っているといえるかもしれません。
もっとも、伝統だとしても、私個人としては、キラキラネームは嫌いです。そんな名前を子どもにつける親の気がしれません。しかし、そうした個人の思いは脇に置いておくとしても、最低限「普通の人たちに読める名前」であることは守られねばならないと思っています。誰もが読むことができなければ、名前としての役割を果たせないからです。
これは教師全員の願いだと思います。
名前に関する話題には発展性はありません。
すでに確定してしまっている「過去」ですので、「だからどうした?」というだけの話にしかならないからです。