
生徒たちに、二言目には「本を読め!、本を読め!」
「本を読まないとろくな大人にはなれないぞ!」
そう言い続けてきました。
しかし、ある生徒からこう指摘されたのです。
「本って高いから気軽に買えないんだよ」
確かに。
文庫本の価格
皆さんもそうだと思いますが、私の青春?は文庫本とともにありました。通学鞄には常に文庫本が2冊。途中で1冊読み終わってしまう非常事態に備えて予備の1冊も入れていたのです。完全に活字中毒ですね。
家の書棚にも、文庫本と新書本が並んでいました。時折それを並べ替えたりしながら、お気に入りの本を何度も読み返す。本好きなら皆知っている至福の時ですね。
単行本はほとんど書棚にありませんでした。理由は簡単です。高すぎて買えなかったからです。とくにお気に入りの作者の新刊など、手の出せぬ単行本を書店で恨めし気に見ながら、文庫化されるのをひたすら待ったものでした。
大した金額のお小遣いをもらっていなかったはずですが、それでも毎日の日課のように学校帰りに書店に立ち寄り、たまに文庫本を買うことができていたのですから、文庫本は私にも手の届く金額だったのでしょう。
神田の古書店街にもよく足を運びましたが、古書店にとっては文庫本など商売にもならぬ金額だったのでしょう、店先の木箱に適当に詰められている中から選ぶしかありませんでした。残念ながら、そうした古書店では読みたい文庫本はほとんど入手できなかった思い出があります。
大人になった今、文庫本なんて何冊でも「大人買い」できるはずですが、買えなくなりました。
高すぎるのです。
例えば、ガルシア・マルケスの「百年の孤独」
最初に読んだのは高校生くらいだったでしょうか。登場人物の名前があまりにも似通っていて、家系図を作って整理しながら読み進めたのを覚えています。久々に読み返したくなったのですが、新潮文庫で1375円。 私の金銭感覚だと、文庫本に1000円以上払うのにはちょっと勇気が入ります。なにせ庶民派(つまり貧乏性)なもので。
あるいは、話題になっていた劉 慈欣「三体」。 設定やあらすじなどが好きにはなれそうもなかったので手にとらなかったのですが、手元に読むものがちょうどなかったときに書店に立ち寄ってしまったので、思わず1595円で買いました。中国SF最高峰だそうで、続編も書かれていますが、内容も設定も目新しさはなく、後悔しました。それにしても1500円越え!
文庫本の平均価格は、この20年で25%上昇し、今は平均800円超えだそうですね。
しかし、残念ながらこの30年間、日本の平均所得は横ばいです。
ちなみに、この30年間でアメリカの所得水準は3倍となっています。
30年前を基準にすると、今やアメリカ人は日本人の3倍金持ち? あるいは日本人が3分の1レベルの貧乏になった?
これでは文庫本が高く感じる道理です。
文庫本価格高騰には理由があります。
◆本が売れない
出版点数が少ないため割高となるということですね。薄利多売ができなくなっているのです。
◆書き下ろしの増加
従来のビジネスモデルが通用しなくなりました。単行本で利益を確定してからの文庫本化の流れが薄れ、文庫本で書きおろしが増えます。当然廉価にはできなくなりました。
◆コスト上昇
紙の価格、輸送費・人件費の上昇が原因です。これは仕方がないでしょう。
◆電子書籍の台頭
私も愛用しています。何といっても持ち歩きが便利ですから。重い荷物が大嫌いな私としては、たとえ文庫本といえども持ち歩きたくなくなりました。また、電子書籍は文字サイズが自在なのも嬉しいですね。ただし、どうしても納得いかないのがその価格です。文庫本(というより書籍全般)の価格を押し上げるコスト要因が、電子書籍にはありません。それなのに、文庫本と同等かそれより少しだけ安い程度の価格って、どうなんだろう? 私には「暴利」にしか見えないのです。
また、kindleで購入した書籍の所有権が実は購入者には無いことはご存知でしょうか。
書籍の所有権はAmazonにあり、購入者は本を購入したのではなく、kindleで読む権利のライセンスを購入しただけなのです。したがってAmazonのアカウントを削除すれば、本のライセンスも消滅します。
購入の仕方を工夫
高くなったからといって読まないわけにはいきません。
本好きの卒業生にリサーチすると、こうしているそうですう。
◆BOOK OFFに行く
まあ、妥当な作戦ですね。
自宅近くにあるBOOKOFFに、「買う気」で行くのだそうです。
買い物かごを持ち、文庫本、しかも「格安コーナー」の棚を、「あ行」から順にみていくのだとか。
それで、気になった本をかたっぱしからかごに入れるのだそうです。
「少しでも気になった本は迷わずかごに入れる」のがコツなのだとか。
生徒曰く、ブックオフでの出会いは「一期一会」、迷ったら二度と出会えなくなることもあるから、とにかくかごにIN!
なかなかの太っ腹な大人買いですね。いくらブックオフといえども、それなりにお金はかかりそうですが、「スタバ行くくらいなら、そのお金で5冊は買える」と豪語していました。こんな子がいるのなら、日本の未来は明るい?
また、本の購入については親が無条件でお金を出してくれるのだそうです。
よい親御さんです。
ただし、気を付けなくてはならないのは、同じ本を買ってしまうことなのだとか。
あ、これわかります。
私の書棚にも、なぜか川端康成の「掌の小説」が3冊あります。
◆青空文庫を活用
これも王道ですね。
古典的名著を読むには最適です。この生徒は、青空文庫で読む本も、リアル本として購入することもよくあるのだそうです。やっぱり手元に置いておきたいのですね。
現在は、太宰治の全作品読破にチャレンジ中だそうで、80%まで制覇したと謎の自慢をされました。
素晴らしい!
ただ、太宰治漬けで思春期の心の成長に悪影響がなければいいのですが。
「だいじょうぶ。ときどきモーパッサンとかで中和しているから」と言われました。
なんでも、この「太宰治全集」は、kindle版で200円だったそうです。私もさっそくこの生徒の真似をして、「夏目漱石全集」と「芥川竜之介全集」も合わせて購入しました。これでいつでもスマホで読めますね。