もし全ての小中学生を本を読んでくれたなら。
年間100冊以上読んでくれたなら。
私の仕事は必要なくなるでしょう。
しかし、残念なことに、私が指導してきた生徒たちのほとんどは本を読みません。
それで「国語力」「論理記述力」「教養」を高めようとは、実に虫のよい話です。
今回は、具体的な本の選び方について書いてみることにしましょう。
読書量の目安
「公益社団法人 全国学校図書館協会」の調査によると、2023年の5月1か月間の平均読書冊数の推移はこのようになっています。
小学生は、4~6年生です。
順調に増えていますね。
2023年5月1か月間の平均読書冊数は、小学生は12.6冊、中学生は5.5冊、高校生は1.9冊となりました。
1か月に12.6冊なら、そのペースで1年間読むと、151.2冊ということになります。
年間100冊を目標としていた私の基準からいえば凄い結果です。
2.4日に1冊のペースです。
しかし、その割には、小学生の国語力がUPしたなどという話は聞いたことがありません。私の実感としても、この30年で読書量が増えた印象もないのです。
これはどういうことでしょうか?
◆どんな本でも1冊とカウントした
◆軽い本(ライトノベル・web小説等)が増えている
◆朝読書等の効果
◆「学校」での調査なので、ある種のバイアスが働いた
このあたりが要因のような気がします。
バイアスというのは、子どもが正直に申告せず「盛って」解答している可能性です。
何でも読まないより読んだほうがマシだ、という意見もあるでしょうが、私はそうは思いません。子どもの頭脳に負荷がかかるレベルの読書でなければ、何の意味もないと思っています。
「どうでもいい本」を何冊読もうと、時間の浪費にしかならないと思います。漫画を読むのと同じです。
例えば、「赤毛のアン」は何ページあるかご存じですか? 完訳版の文庫でおよそ600ページです。
ところが、小学生低学年用にリライトされたものは、150ページほどなのです。しかも文字サイズは相当大きくなっています。
こんな「あらすじ」本を1冊とカウントしないと、月に12.6冊も読むことは不可能です。
中高生の平均冊数が少ないのは当然です。
1冊読了するのに時間がかかる本を読んでいるからです。
多分(願わくば)。
小学生が読んではいけない本についてはこの記事をぜひ。
もう一つ、同じ調査では、こんな恐ろしいデータもありました。
不読者(5月1か月間に読んだ本が0冊の児童生徒)の割合は、小学生は7.0%、中学生は13.1%、高校生は43.5%となっています。
減少しているのは学校・図書室の努力の賜物でしょう。
何でも欧米を持ち上げる風潮は嫌いなのですが、アメリカの大学生は読書量が多いと言われていますね。
大学の4年間で、400冊~1000冊を読むとか。
おそらくほとんどは講義関連の課題本でしょう。
気軽に読める小説ではないと思います。
これはつらい。
平均家庭(図書館も)学習時間は1日7時間を超えるそうですね。日本の大学生は2時間未満だそうです。
高校までは日本のほうが勉強させる(成績もよい)が、大学入学後はアメリカのほうが勉強している、そうしないと卒業できない、こうした教育制度の違いです。
しかし、本当に高校生段階では日本のほうが上なのでしょうか?
読書量を見ていると、とてもそうは思えないのです。
本の選び方
本なんて、書店で、手にとって気に入った本を買えばいい。
その通りなのですが、小中学生に読ませたい本を選ぶ場合、そうもいかないのです。
◆書店が減った
みなさんの住む町には、書店はありますか?
書店数は、10年で2/3に減少したそうですね。
大型書店といえば、ショッピングセンターのキーテナントだったのですが、それも様変わりしました。
紀伊国屋書店の新宿南店(タカシマヤタイムズスクエア南館)といえば1階から6階までを占める大型書店だったのですが、気が付けば6階の洋書売り場のみを残して後はニトリになってしまいました。
大型書店ですらそうですので、街の本屋など風前の灯状態です。
買う本が決まっていれば、アマゾンで買えばいいのですが、それでは直接手にとって選ぶことができません。
何となく表紙とタイトルが気になって手に取った見知らぬ作家の本が「当たり」だと嬉しいですよね。
ふと手に取った本を開いて冒頭の1ページを読み、買って帰る。そんなこともあります。
書店の減少は、そうした本との出会いを奪っていることは間違いありません。
◆書店で売っていない
経営が厳しい書店業界ですので、並べる本は「売れ筋」の本に限られます。
古典的名著など、売れそうもありませんからね。本当に少なくなりました。
試しに、そうですね、ヘルマンヘッセの「車輪の下」を、近所の書店で探してみてください。新潮文庫と岩波文庫で出ているはずです。
ヘッセといえば、「少年の日の思い出」が中学校教科書に載っていますので、そこで知った生徒も多いでしょう。
どうでしょうか、見つかりましたか?
私の家の近くの書店3店にはなく、BOOK-OFFで見つかりました。
最初から買うタイトルが決まっていれば、探すよりAmazonに注文しますよね。
そうです、だから書店から姿を消したのです。
探しても無い⇒Amazonに注文⇒書店で売れない⇒書店に置かれなくなる⇒探しても無い
この負のループです。
人に聞く
これが本の探し方の王道です。
おすすめ本を聞く相手は、個人とは限りません。
学校の先生が配布した「夏休みにおすすめの本」リストでもいいですし、「読書感想文課題図書」でもいいでしょう。ネットにも同様の情報が溢れていますね。
入試問題の作家の本
中学受験生にお勧めの方法です。
入試問題に扱われている作家の本を読んでみるのです。
なかなか良い本にたくさん出合えると思います。
国語便覧に載っている作家
「古典的名著」を探すのに役立ちます。
基礎教養として読まねばならない本が網羅されています。
中学生におすすめの探し方です。
※ネット情報に注意
本の情報をさがすときに、たとえば「小学生 本 おすすめ」などと検索すると、良い本の紹介に混ざって、「本嫌いが夢中になる本30選」「中学生に人気の本ベスト10」といったものがヒットします。
のぞいてみると、だいたいが「幼稚」すぎたり「くだらな」すぎて、とても読ませたい本ではありません。
実は図書館は勧めたくない
図書館・学校図書室は本好きの味方です。
一般書店では見かけない本もそろっています。
小中学生に読ませたい本を、司書さんが選んでくれています。
お金をかけずに読書体験が積めます。
私も小~大の学生時代には図書館に入り浸っていたものです。
しかし、「読書」という観点からいうと、図書館は実はあまりお薦めしたくないのです。
理由は4つあります。
◆蔵書の喜びが得られない
本好きな方なら共感してくださると思います。
自分の書棚に本が並んでいることの喜びを。
ジャンル別に並べたり、大きさ順に並べ替えたり。
そうしながら、「今度はこの作家のこの本を読んでみよう」などと、あとがきの著書一覧など眺めながら考える。
楽しいひと時ですね。
また、何年もたってから、ふと手にとって読み返してみるのも楽しいものです。
図書館で借りると、この醍醐味が味わえません。
私は、何度か転居した際に、蔵書の大部分を処分するという暴挙に出たことがあります。
スペースの問題です。
深く後悔しています。昔所有していた本を、今でも探すことがあります。もう書店でもAmazonでも入手できない本がたくさんあるのです。
◆本が売れなくなる
本が売れなくなりました。
売れるのは、いわゆる「売れ筋」のベストセラー本ばかりだとか。
文化の衰退です。
図書館で本を借りてしまえば、それに加担することになってしまいます。
図書館で出会った本を、書店で買う。
本来はそれが正しいのでしょう。
お金がかかるのでなかなか大変ですが。
◆持ち歩きしづらい
図書館には、文庫本や新書本はあまり置かれていません(学校図書館は別)。
ほとんどが単行本です。
気軽に持ち歩きにくい重量・サイズです。
しかも、中高生の鞄は非常に重いのです。
学校で必要なノート・教科書・問題集に加え、iPad、キーボードまで入っています。
さらに塾の教材まで。もちろんお弁当と水筒も。
そこに単行本を入れる余裕はありません。
そうすると、読む場所は、図書館内となるか、あるいは借り出して自宅ということになります。
中高一貫校生にとって主要な読書タイムである電車移動中の読書ができません。
◆最後まで読了できない
「借りた本」と「買った本」では、どちらにより強い思い入れがあるかは言うまでもありません。買った本なら、多少つらくても何とか最期まで読み通そうとする意志が働きますが、どうも借りた本にはそれが乏しいのです。
しかも借り出したとすると、返却期限があります。
結局最後まで読了しないまま返却に至る。
よくある話です。
どんな本でも最後まで読み通すことを信条とする私にも、過去2冊だけ途中で放り出した本があります。
メルヴィルの「白鯨」と、プルーストの「失われた時を求めて」です。
どちらも中高生の頃に手を出しました。
しかしどちらも最初の部分で脱落しています。白鯨にいたっては未だに港から出航すらできていません。
思い返すと、どちらも図書館で借り出した本でした。
途中で返却期限が来て返してはまた借り出して挫折し、それを数回繰り返しています。
今思うと、最初から買えば良かったのです。そうすれば時間はかかったとしても最後まで読み通すことができたはずですから。