
今回は、あるアニメについて紹介したいと思います。
普段はアニメを全く見ないのですが、これは面白かったのです。
- 『チ。 ―地球の運動について―』
- ◆なぜ地動説に思い至るのが困難だったのか
- ◆なぜ教会は天動説に固執したのか
- ◆生徒にコペルニクス的転回を促すために
- 生徒は、自分の力で地動説を証明できるか?
- 単純さの中にこそ真理はある
- 子どもには見せない
『チ。 ―地球の運動について―』
数年前に書かれた漫画が、去年にNHKのEテレでアニメとして放送されていたようですね。
私は現在進行形のアニメや漫画にうといので、この「チ。」も、最近生徒に教えてもらいました。
「先生、とにかく面白いんだ。先生なら絶対はまるから!」
日ごろから、「テレビアニメを見る時間があるくらいなら歴史年代の一つも覚えなさい!」と生徒たちに言ってはばからない私に、あえてアニメを薦めてくるとは勇気ある生徒です。異端審問をも恐れぬ邪教の者か? とまあ彼の勇気に免じて、試しに1話見てみたのです。Amazonプライムにあったので。
で、はまりました。
まだ数話見ただけですが、実に面白いのです。
しかも、啓蒙的です。
内容は、15世紀ヨーロッパの架空の国を舞台とし、地動説を信じて研究を続ける者たちが、天動説を固持する教会に迫害されながらも信念を追求する、といった物語です。
興味を持たれた方のために、公式HPのリンクを貼っておきます。
◆なぜ地動説に思い至るのが困難だったのか
私が興味を持ったのは、まずこの点でした。
もちろん知識としては、コペルニクスもガリレオもジョルダーノ・ブルーノもヨハネス・ケプラーも知っています。
私たちは地動説が常識の世界に住んでいますので、「天動説」が、昔の知識が乏しかった時代の誤った概念であることを知っています。
しかし、このアニメは、そんな常識に一石を投じてくれたのです。
何の知識もなく、ただ地表から夜空を眺めていただけなら、はたして「地動説」なんて思いついただろうか?
無理でしょうね。
だって空が動いていますので。
その中でも、惑星とよばれる星々の動きは奇妙です。それでも観測することで、何らかの法則性を見出し、それで満足するだけでしょう。
私はふと思ったのは、生徒たちのことでした。
天体の運行について教えているときの生徒たちのことを思い浮かべたのです。
太陽・地球・月、それぞれを俯瞰する立場からの図を描き、天体の運行について教えます。それに対応する恒星の位置についても教えるのです。
しかし、いくらそれを教えても教えても、彼らは本当に理解できないようなのですね。
地球から見た視点の問題などが出れば、たちまち誤答を連発するのです。ひどいときには、夏至と冬至のときの、地表から見た太陽の動きですら間違えるほどですから。
結局のところ、神の視点から太陽系の動きをいくら教えたところで、それを地表からの視点に転換できないのだなあ。これが私の率直な感想でした。
さらに不幸なことに、子どもたちは、星の動きをのんびり見た経験が皆無なのです。夜空を見上げても、火星や金星すらすぐにはわからないでしょう。そもそも都会の空ではろくに星など見えませんから。
このアニメに出てくるような地動説支持者たちよりも、今の子どもたちのほうがはるかに豊富な知識に恵まれているにもかかわらず、天動説にこだわる人々と同じレベルなのではないのだろうか。そう思ってしまったのです。
本当なら、夜空を見上げて、惑星の不規則な動きや月の満ち欠け、さらに太陽高度の変化などを観測し、天動説から地動説へ、彼ら自身が納得しながら移行すべきなのでしょうね。そうすれば、天体の運行問題などで困ることはないでしょう。
◆なぜ教会は天動説に固執したのか
このアニメに出てくるカトリック教会は相当頑固です。見ているとカトリックが嫌いになること請け合いです。まあフィクションですから。
それにしても、なぜカトリック教会が地動説を毛嫌いしたのか。そこも考えさせられましたね。
人間中心のキリスト教的世界観や神の権威への挑戦とみなされたのですね。
このあたりも、宗教的に緩やかな、日本人の一般的な価値観からは理解しづらいところです。日ごろ私たちは、宗教や神について考えることもなく暮らしています(もちろんそうでない人もいます)。そんなのんびりした私たちからすると、たかだか地動説という学説を唱えただけで火刑に処されるというのは驚きです。
もちろんフィクションのアニメですから誇張されてはいますが、実際にジョルダーノ・ブルーノは火刑にされていますね。
◆生徒にコペルニクス的転回を促すために
まず、地球儀を1つご用意ください。
この地球儀は、もちろん社会科の学習にも役立つのですが、ここでは部屋の中に太陽系を作るために利用します。
もしまだ持っていなければ、ぜひご購入ください。
私が買ったのは、「レイメイ藤井」のものです。

大きさ比較のために、横に国語辞典を置いてみました。
ところで、この国語辞典、中学生用のものですが、小学生にこそお勧めです。私が持っているこれは、第9版「シロクマ版」です。単に表紙が可愛いので買いました。
今は第11版が最新で、この版からオールカラーとなってとても見やすくなったのです。この辞典は、中学校教科書に準拠しているのが特徴で、ちょっとした百科事典的な役割も果たします。小学生用の辞典は使い物にならない(収録語数が少なすぎる)ので、ぜひこれを手元に一冊置くことをお勧めします。
さて、話を地球儀に戻します。
私が購入したのはこれでした。今Amazonで見たら、4791円(2025.09.26現在)です。私が買った数年前より安くなっていますね。
私がこれをお勧めする理由は、シンプルで無駄がないから、これにつきます。いろいろな機能は不要です。大きさもこれくらいが手頃です。
また、表面が紙ではないところも良いのです。この表面に、地表に見立てた紙のコースターを両面テープで貼って、実際の太陽の見え方等を考えるのに使いますので。

こんな風に、紙のコースターの真ん中に人間にみたてた何かを貼っておきます。そして、それを地球の表面の日本のあるあたりに貼るのです。コースターには東西南北の記号も入れておきましょう。
これを、太陽に見立てた照明器具の周りを公転させたり、また自転させたりして、太陽系の動きを完全に理解できるまで何度も使います。

さらに、テニスボールを1個用意して、半球面を黒く塗りつぶしましょう。
これが月です。
地球から見た月の満ち欠けを、これで体感するのです。
塾でも小学校でも、理科の先生はみな半分黒く塗ったボールを持っているはずです(たぶん)。
生徒は、自分の力で地動説を証明できるか?
これには興味があります。
現代科学を知っている生徒達に、はたして自力で地動説を証明することができるでしょうか?
実際に証明しろとまではいいません。証明が難しいからこそ先人の苦労の歴史があるのですから。
ガリレオによる金星の満ち欠けの観測や、ベッセルによる年周視差の観測、そしてフーコーの振り子、こうした証拠の積み上げが必要だったのです。
でも、思考実験で構わないので、何か思いつけないかな?
生徒達には、フーコーの振り子くらい思いついて(思い出して)ほしいところです。
ところでフーコーの振り子は、日本の各地に設置されています。弘前大学にあるものが45mで日本最大だそうですが、遠いですね。上野の国立科学博物館に、日本で最初に公開設置された19.5mのものがあります。
都立日比谷高校や武蔵中高、渋谷渋谷、慶應高校、日大一中、法政中高、横浜市立南中等にも設置されていると聞きました。おそらく地球の自転を身近に証明できる唯一の手段だと思います。こんなものが動いている学校、いいですね。
単純さの中にこそ真理はある
このアニメのもう一つのテーマ(と私が勝手に解釈した)は、単純さの中にこそ真理がある、ということだと思います。
天動説を前提として星々の動きを記述しようとすると、実に複雑なことになるのです。惑星の動きなど奇妙奇天烈ですので。本来、神が作りたもうたこの世界はもっとシンプルに美しいもののはずなのですが、天動説を支持する考えと矛盾していますね。アニメの中で、信心深い一人の男が、火星の動きを観測して、その美しい円に神の完璧さを見る場面がありました。しかし残念なことに、円弧は閉じることがなく、火星は「逆行」をはじめます。それを知って彼は絶望するのです。
それに引き換え、地動説の理論は実にシンプルです。もしかして過去の天文学者たちは、神の御業を理解したくて研究したのかもしれませんね。このあたりは日ごろ神仏に無縁の生活を送る私には本質的に理解し難いところです。
現実には、科学の発達は単純さを追い求める段階をはるかに超えて、ひたすら複雑さを増しています。そういえば、かのアインシュタインが、量子論の不完全性や偶然性に拒絶反応を示し、「神はサイコロを振らない」という言葉を残しています。
幸いなことに、生徒たちがぶつかる学習は、単純さの中に正解がある世界です。たとえば数学や算数の問題を解くとき、力業でごりごりと解きすすめることで答がでる問題でも、何かを工夫すれば、もっとシンプルに解答できるのではないか、そう考えることはとても大切だと思うのです。算数で駆使する面積図や線分図についても、少し工夫するだけで各段に解きやすくなることはありますよね。
例えば「流水算」を解くときには、上り・下り・静水、それぞれの船の速さを3本の線分図に描くことが基本です。しかし、ある塾では、これに「船の速さ」の線をもう1本書かせて教えていました。また、「流水算は線分図と面積図で解く」と謳っている塾の解説をよく見ると、線分図の下に面積図が描かれていますが、それは「速さ×時間=進んだ距離」を示しているだけでした。
この算数の先生方は、「オッカムの剃刀」をご存じないのでしょう。
例として、2025青山学院中等部の算数の問題を紹介します。
A地点とB地点を結ぶ一本道を自転車で往復します。太郎君はA地点から,花子さんはB地点から同時に出発しました。最初に 2 人がすれ違ってから 35 分後に,A地点から 1400 m 離れた所で再びすれ違いました。太郎君が進む速さが時速 18 km のとき,花子さんが進む速さは時速 〇〇km です。
さて、単純な旅人算です。
さっそくいつものように、ダイヤグラムを描いてみましょう。

はて? ここで詰まりましたね。太郎(青線)の速さはわかっているのですが、この図からは、これ以上すすめません。
ダイヤグラムは、旅人算の解法の「宝剣」の切れ味があるのですが、どうもうまくいかないときもあるようです。
そこで、シンプルに線分図を描いてみましょう。

Aから太郎が、Bから花子が向かい合わせに歩いてきて出会います。この1回目に出会った地点を基準として、それぞれが折り返して2回目に出会います。1回目から2回目までに35分かかりました。
図を見ればもうわかりましたね。
1回目の地点から2回目の地点まで、二人の歩いた距離を合わせると、AーB間の距離の2倍になっています。ということは、点線部分、つまり二人が向かい合わせに歩き出して1回目に出会うまでは35/2=17.5分かかったことになるのです。
あとは太郎の時速がわかっていますので、太郎がAを出発してから折り返して2回目地点まで進んだ距離は、
(17.5+35)×太郎の分速(300m)=15750m
とわかり、これに1400mを足すと、A-B間の2倍の距離が出ます。
あとは省略しますが、簡単に解けました。
ダイヤグラムよりシンプルな線分図のほうが役立ったという例でした。
子どもには見せない
残念ながらこのお勧めアニメ、子どもには見せる必要はありません。
その時間など無いでしょうから。
また、少々残酷なシーン(拷問)も出てきます。
このアニメを見たからといって、子どもの勉強になる、そういった類のものではないのです。むしろ大人である我々がいろいろ考えさせられるアニメです。
テレビアニメについては、子どもに見せたい・見せてもよいと思うものが本当に少ないですね。
私は、暴力シーンばかりのアニメは嫌いです。大人である我々ならともかく、子どもに見せて良いとはとても思えないからです。
しかし残念なことに、昨今流行りのアニメは戦闘シーンばかりです。アンパンマンですら、必ず最後は「アンパンチ」で悪者をぶっ飛ばして終わりです。したがって私は嫌いです。
もう見せられるのはドラえもんとジブリアニメくらいしかないですね。そういえば、「もののけ姫」には、ハンセン病患者が出てくる場面があります。その地の支配者が、彼らを人間として扱っている場面です。こういうのはいいですね。
先日、こんな本を書きました。
私立中学に入学前後にぜひ読んでほしい情報がつまっています。


