前回、親が勉強を教えてもよいと書きました。
するとさっそく質問されたのです。
「算数は〇〇算で教えなくてはだめですか? 方程式を立ててはだめですか?」
今回はその問題について考えてみましょう。
和差算
まずは、簡単な問題、「和差算」について考えてみます。
「兄は弟よりも300円多く持っています。兄と弟の持っているお金の合計は1200円です。それぞれいくらずつ持っていますか?」
簡単ですね。暗算レベルです。
いちおう丁寧に線分図を描くとこうなります。
あとは、全体の金額から兄と弟の差額の300円を引いてあげればいい。それを2で割れば弟の金額が、300円を足せば兄の金額が出ます。
1200-300=900
900÷2=450・・・弟
450+300=750・・・兄
もちろん、全体の金額に300円を足してから2で割ってもいいですね。
1200+300=1500
1500÷2=750・・・兄
今回は兄と弟の両方の金額を聞かれていますので、どちらでもかまいません。もし兄だけ、あるいは弟だけ聞かれている場合には、計算式が1つ減らせるほうで解けばよいでしょう。
この解き方の良いところは、視覚的にもイメージしやすく、感覚的にも理解しやすいところです。
「兄のほうが弟より300円多いんだな。それじゃあ兄から300円取り上げたら、二人の所持金はどうなる?」
「同じになる!」
「そうだな。二人の所持金が同じだということは、一人がいくら持っているかすぐわかるよね」
こんな調子です。あるいはこうなります。
「兄のほうが弟より300円多いんだな。弟が可哀そうじゃないか。そこで、弟に300円あげたらどうなる?」
「二人のお金が同じになる!」
経験上、弟に300円あげるより、兄から取り上げたほうがわかりやすいようです。まあどちらでも大差ありません。
さて、この問題を方程式で解くとこうなりますね。
兄の所持金をx、弟の所持金をyとおく。
x+y=1200・・・①
x-y=300・・・②
①+②
2x=1500
→x=750
ここから先は略しますが、これも超簡単な方程式です。いちおう「2元連立1次方程式」ということになります。
それでは、この問題ならどうでしょうか。
「兄は弟の2倍のお金を持っている。二人の所持金合計は1200円。兄と弟の所持金をそれぞれ答えなさい」
これも暗算レベルですが、線分図を描けばより完璧です。
1200÷3=400・・・弟
400×2=800・・・兄
さて、これも方程式を立ててみます。
これは弟の所持金をxとおきます。
x+2x=1200
x=400・・・弟
2x=800・・・兄
丁寧に書くとこうですね。
まさか、ここで兄=x、弟=yとおいて、
x=2y・・・①
x+y=1200・・・②
①を②に代入
2y+y=1200
→3y=1200
→y=400・・・弟
x=2y=800・・・兄
なんて解き方はしないですよね。これは愚かすぎます。
実は、方程式の欠点はここにあるのです。
とにかく未知数を記号で置いて、あとは式変形で解く。
それしか頭にないと、上記のように、無駄な記号を置いてしまいがちです。
それではこの問題ならどうでしょうか。
「二人の所持金の合計は1580円です。兄があと60円もらい、弟が40円使うと、兄の所持金は弟の所持金の3倍になります。二人の所持金はそれぞれいくらですか?」
線分図を丁寧に書いただけで答えは出たも同然ですね。
1580+60-40=1600
1600÷4=400
400+40=440・・・弟
400×3-60=1140・・・兄
(兄については、1580-440=1140 としてもよいですね)
さて、方程式を立てるとどうなるでしょう。
兄の所持金をx、弟の所持金をyとおきます。
x+y=1580・・・①
(y-40)×3=(x+60)・・・②
→3yー120=x+60
→3y-180=x・・・②’
②’を①に代入
3y-180+y=1580
→4y=1760
→y=440・・・弟
①に代入・整理して
x+440=1580
→x=1140・・・兄
式変形のやり方はいろいろありますが、計算の手間は同じようなものになります。
ところで、たまたま顔を出した、大学生になった教え子にこの問題の線分図を描かせてみました。
「線分図? 線分図って何だっけ?」
とぶつぶつ言いながら書いたのがこれです。
間違ってはいません。間違ってはいませんが・・・。
線分図の、「ぱっと見ただけでわかりやすい。自分が今何を計算しているのかが常に把握できる」というメリットがだいぶ薄まっています。
この程度の問題なら、線分図を描くまでもなく、「全体の所持金に兄がもらった60円を足し、弟が使った40円を引くと、弟の所持金の3倍が兄の所持金になるのだから、それを4で割って・・・・」と暗算で解けるでしょう。
しかし、一旦線分図3を描くことで、間違う可能性が格段に減ります。それが線分図を描く意味だと思います。
方程式は、一旦記号で置いた瞬間から、抽象的な数式の変形に取り組むことになります。
どちらが優れているとか劣っているとかいうことではありません。
しかし、小学生にとってどちらが理解しやすいかは明らかです。
具体的な目に見える量としての数字を扱うほうが小学生にとっては理解しやすいのですね。
つまり、算数に方程式を持ち込むこむことは禁止ではないが、意味がない、そういうことになるのです。
しかし、これは一番簡単な特殊算である「和差算」のお話でした。
他の特殊算ではどうでしょうか?
また検討することにしましょう。