中学受験のプロ peterの日記

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2024 渋谷教育学園渋谷 帰国生入試 作文

今回は、2024渋谷渋谷の帰国生入試「日本語作文」の問題を検証します。

 

次のテーマで600字以上800字以内の作文を書きなさい。

「思わぬことで人に驚かれた、自分の言動」

※あなた自身の体験・エピソードを、具体的に書いてください。体験した場所については海外でも日本でもどちらでもよいですし、驚かれた相手(=「人」)についても、外国人でも日本人でも、どちらでも構いません。ただし、あなたが海外で生活したことがあるということを、なるべく生かして書いてください。

※その体験を通してあなたが気づいたことや考えたこと、体験前後のあなたの変化、などが伝わるように書いてください。

※題名は、本文の内容をふまえて、各自で自由につけてください。

 

 

渋谷渋谷によらず、帰国生入試の作文テーマとしては定番です。

ただし、「海外で体験したこと・印象に残っていること」を書かせるという、他校に多くみられる出題から、一ひねりしてあるところが「渋谷渋谷らしさ」です。

 

これについては、単純に次の2パターンしかありません。

 

A:日本人である自分が海外に行って、日本では当たり前だった言動を現地の人に驚かれた体験

B:海外生活が長かった自分が日本に帰ってきて、海外では当たり前だった言動を日本人に驚かれた体験

 

これは、どちらでもかまいません。書きやすいほうを書けばよいのです。

 

ただし、アドバイスをするとすれば、おそらくはBのパターンのほうが書きやすいと思います。

海外に数年間滞在していたとしましょう。移住した当初は、Aの体験はたくさんあったことと思います。しかし、現地で暮らしているうちに、すっかり現地に馴染んでしまい、Aの体験の記憶が薄れてしまうのです。

今久しぶりに、数年前(もしかして5年以上前?)の体験を思い出そうとしても、ほとんど記憶には残っていないと思います。

もちろん、それでもなお記憶に残っているような出来事、インパクトのあった出来事があれば、それについて書くのもよいでしょう。

 

そして何より大事なのが、「その体験を通してあなたが気づいたことや考えたこと、体験前後のあなたの変化」が伝わるように書くことです。そう指示されています。

 

どう考えても、この問題の意図は、「珍奇な異文化体験」を書かせることにはありません。その体験で何を考え、何が変わったのか、そこを書かせたいのです。

 

ちょっと例をあげて考えてみましょうか。

 

「アメリカから日本に戻ってきって、僕が驚いたことは、誰も『God bless you』と言わないことだった。アメリカでは、誰かがくしゃみをすると、その隣にいた人が必ず『God bless you』と言う。別に知り合いでもなんでもなくても、そう言うのが当たり前だった。だけど、日本ではくしゃみをしても誰もそう言わない。これは驚きだった。」

 

これは、実際に帰国生入試を受験した生徒が書いた作文です。(もちろん表現は変えてあります)

なかなかおもしろい着眼点ですね。私もアメリカをはじめとして随分海外には訪れましたが、あくまでも短期滞在者でしたので、ここには気づきませんでした。もちろん知識として、「アメリカではくしゃみをするとそう言われる」とは知っていましたが、実体験としては気づかなかったですね。

ただし、着眼点はよいとしても、この作文では点がもらえません。

「自分が驚いた」ことを書いているからです。

要求されているのは、

「思わぬことで人に驚かれた、自分の言動」

です。自分が驚いたことを書くのではなく、人に驚かれた自分の言動について書かねばなりません。

実は、こうした間違いがとても多いのです。書き始めると、設問の趣旨を忘れるのですね。だからこそ、生徒には「何を聞かれているのか、これについて何度も繰り返し確認しなさい!」と毎回指導しています。

それでは、この生徒の解答をこう変えたらどうでしょうか。

「アメリカから日本に戻ってきって、僕が驚かれたことは、電車の車内で隣の人がくしゃみをしたときに、『God bless you』と僕が声をかけたことだった。アメリカでは、誰かがくしゃみをすると、その隣にいた人が必ず『God bless you』と言う。別に知り合いでもなんでもなくても、そう言うのが当たり前だった。だけど、日本ではくしゃみをしても誰もそう言わない。だから、反射的に僕がそう言うと、変な目で見られてしまった。」

 

これで一応、設問には答えたように見えます。

でも、これでもまだ得点できません。

※その体験を通してあなたが気づいたことや考えたこと、体験前後のあなたの変化、などが伝わるように書いてください。

この指示に全く答えていないからです。

この体験から何を考えたのか、自分がどう変化したのか、そこを書かないとならないのです。

しかし、「God bless you」から考えるのは、小学生にはハードルが高すぎますね。

ご存知のように、この言葉は、「神の御恵みがありますように」という意味です。何でも、くしゃみをすると魂が身体から外へ飛び出してしまい、そこに邪悪なものが入り込むことを避けるためであったとか、ペスト(初期症状でくしゃみがでる)を恐れたからだとかそう言われています。まあたしかにくしゃみをするということは何らかの体調不良には違いませんので、大いに神の御加護が必要なところです。最近では花粉症のくしゃみがひどいですからね。

 

何でも縮めるのが好きな国民性のアメリカ人ですから、「bless you」とだけ使われることのほうが多いと思います。「God」という語句をみだりに使わない、という習慣もあるでしょう。

 

そもそもこの体験から自分がどう変化したのかについて、まさか「『God bless you』というと変に思われるから、言わないようになった」ではあまりにも幼稚です。

 

もし「「God bless you」」をテーマとするのなら、やはり語源に言及し、どうしてアメリカでは慣用表現に「GOD」が出てくるのか、日本とアメリカの宗教観の相違について書かなくてはなりません。

あるいはそこで、「Oh my god!」という表現をとりあげてもよいですね。

この言葉、「オーマイガッ」と、日本でも口にする生徒がいるのです。その都度私に説教されます。実はアメリカでも、知識階級は口にしません。ドラマや映画でよく耳にするのは、登場人物がそうではない(犯罪者など)からでしょう。

欧米人(の一部)が口にしない理由は、旧約聖書のモーセの十戒にある、「みだりに神の名を口にしてはならない」というのが根拠ですね。

また、「my god」に反発する人もいます。なんでしょうね、「俺の神をお前が独占するな」とでもいうところかな。

 

その代わりに何と言うのかアメリカ人の知人に聞いたところ、

「Oh my goodness!」
「 Oh my gosh!」

「 Oh my!」

「OMG」

を教えてもらいました。日本人の私としては、どうもピンときません。

なんとなくですが、例えば日本に来たアメリカ人が、「バチがあたりますね」「きっと前世でもお友達だったのです」などというと違和感を感じるように、日本人の私が使うのは不自然なように思います。しかし、驚いたときにとっさに出る表現を一つくらい身に着けておきたいですね。

そこで、「No way!」を使うことにしています。これはなかなか万能です。

 

いずれにしても、日米の宗教観の違いにまで触れながらきちんと書くのは、小学生にはまず無理でしょう。

せいぜい、「アメリカでは、見知らぬ者どうしでも気軽に声をかけあう習慣がある」と展開し、自分のシャイな性格を直す、といった方向性くらいしか書けないと思います。