
中学入試の算数・国語・理科・社会について、いったいどこまで勉強すべきなのか考えてみましょう。
入学試験の目的
言うまでもなく、受験生を選別するのが試験の目的です。
定員割れをしている学校を除き、数倍の応募者の中から、選ばなくてはなりません。
どんな生徒を合格させたいかは、学校によってわかれます。入試には、その学校の考えが反映されます。なかには首をかしげたくなる入試もありますね。
学科試験なし!
あなたの情熱と個性をダンスで表現していただく選抜方法です。学科試験はなく、ダンスパフォーマンスと面接のみで合否を判定します。
本校に「ダンス科」などのコース分けはなく、入学後は他の選抜方式で入学した生徒と一緒に学んでいただきます。(ダンス部に所属しなければならない、といった制約もございません)
とある女子校のHPから引用しました。最初にこれを見たときには目を疑いました。ダンスで合格?
この学校には申し訳ないですが、迷走し過ぎです。そのせいかどうか知りませんが、この女子校は2027年に共学化します。
この他にも、自己PRやプレゼンだけで合否を決める学校はけっこうあります。その大半が、生徒募集に苦戦している学校です。
私が指摘するまでもなく、普通の4科目入試では生徒が集まらなくなっているのでしょう。そこで、なりふり構わず生徒集めに走った、そういうことなのだと思います。
さて、こうした変則入試は脇に置いておいて、本題に戻ります。
中学入試は、多くの受験生の中から、「この生徒を欲しい」と学校が考える生徒を選抜するために実施します。
・小学生時代にきちんとした学習習慣が身についている
・算国理社の基礎学力がある
まずこの2つが大前提でしょう。これは学校によらず共通していると思います。
その学校の授業についてこられるレベルでないと困りますから。
もちろん、算数単科入試や英語入試のように、「算数さえできれば合格!」「英語さえできればOK!」という学校もありますが、これも変則入試ですのでここではとりあげません。
さて、4科目をきちんと学んだ生徒が欲しいのは前提として、学校によってそこにプラスαが求められていると思います。
・高度な思考力
・記述力
・知識量
・一般常識
こうしたものを求めて、入試問題は作られていくのです。
算数
算数については、「数学を出題できない」という縛りがありますので、「算数」のジャンルを煮詰めていったような問題をよく見かけますね。
まず、一般に「特殊算」といわれるような問題、鶴亀算・方陣算・和差算・旅人算・時計算・ニュートン算等といった問題は、方程式を使えば簡単に解けるものばかりです。それを未知数を記号でおかずに、線分図・天秤図・面積図等を駆使して素早く解いていくのです。
そう聞くと、「それなら方程式を教えたほうが手っ取り早い?」と短絡しがちですが、そうではありません。おそらく中3と小6に同じ問題を解かせると、小学生のほうが圧勝すると思います。方程式を組み立てて式変形をするより、はるかに速く解けるのです。また、一旦未知数を記号にして、式変形で解くやり方にも問題があります。記号の置き方によっては、異常に複雑な方程式を解くはめになることもありますし、何より方程式を解くという抽象的な思考法に小学生の頭脳では適応が難しいのです。
図形分野については、中学生の図形分野と重なります。また、場合の数についても同様です。
算数特有の問題としては、パズル問題があげられます。とくに決まった解き方があるのではなく、その場で考えて解いていく問題です。
しかし数学分野に踏み込まない以上、出題範囲は限られます。新規で目新しい問題はほとんどなくなったのです。過去にどこかで出題された問題のバリエーションで構成されていると考えてよいでしょう。
したがって、算数の出題範囲というのは、過去に様々な学校で出題された算数の範囲」と考えると良いと思います。
算数の中学入試用の参考書・問題集のほとんどが、過去の入試問題をそのまま練習問題としてとりあげているのはそれが理由です。
国語
国語については試験範囲はありません。唯一、漢字のみが、「1026字」から出題されます。1026字というのは、文科省が定めた、小学生が学ぶべき漢字の総数です。
また、古文・漢文は出題されません。それ以外については、中学生の国語と大差ないと考えてもよいでしょう。
理科
理科は簡単です。中学生の学習内容が中受の試験範囲です。
もちろんそんなルールは存在しませんが、「小学校の内容では試験にならないからなあ。中学生の範囲でも、これくらいは出題してもOKじゃない?」と考えて出題されているうちに、「あの学校でも出されたのだから、うちもこれくらいの問題は出してもいいよね」とばかりに、気が付いたら中学生の理科全般が中受の試験範囲となっていまいました。きっとそう言うことなのだと思います。考えてみればひどい話なのですが、そうなってしまったのだから仕方がありません。
中には、今年の渋谷渋谷のように、有機化学、それも栄養有機化学を出題した学校もありました。有機化学は理系を志望する高校生が2年か3年で学びます。栄養有機については、大学1年で学ぶ内容です。ひどすぎる話ですね。さすがにこれはフライングし過ぎなので、追随する学校は出ないはずですが。
中学校の理科の学習内容は、「科学入門」といった位置づけです。高校生になってから物理・化学・生物・地学と細かく分かれる前の段階として、科学分野を網羅的に学びます。また、実験や観察記録にもとづく考察を重視するのも特徴です。最近の中学入試問題でも、そうした実験や観察記録の資料に基づいて考察させる出題が増えているのはそれが理由です。
社会
社会も理科同様、中学生の学習内容が中受の試験範囲となっています。ただし、世界史と世界地理については、ほとんど出題されません。ほとんどと言ったのは、たまに出るからです。さすがに世界史をがっつりと出題した学校はまだありませんが、中学生の教科書レベルなら出る可能性はありますね。世界地理についても、説明文から国名を答えさせるレベルの問題ならよく見かけます。
逆に、小学校の社会科でたっぷりと2年間もかけて学ぶ、「地域の暮らし」「地域の歴史」については出ません。せいぜい、浄水場やごみ処理場のようすが簡単に出る程度です。それはそうですね、広い地域の小学生が集まって行われる入試ですから。
さらに、日本の伝統文化や生活に関する出題もたまに見かけます。
例えば、和食の皿の配置を選ばせる問題とか、お節料理の由来を答える問題とか、年中行事に関する問題がそうですね。これらは、小学校でも中学校でも学びません。いわば常識の範疇の問題ですが、今時の子どもたちにもっとも欠けている分野でもあります。ためしに、お子さんに和食の器を正しく並べさせてみてください。ご飯・汁物・主菜・副菜・副副菜、そして箸の向き。実際に中受で出題されました。(2016慶應中等部)
そういえば、お節料理については意外に子どもたちは知っているのです。たぶん、最近はお節料理を家庭では作らずに、お重を買ってくるから食べる機会=家族で話す機会もあるのだと思います。それなのに、お雑煮については食べたことのない子がいるのには驚かされます。地域によるお雑煮の違い、出題されたことがありますよ。
ところで、高校入試問題と中学入試問題の社会科を比べると、明らかに中受のほうが難しいのです。もちろん相当簡単な問題を出題する中学校もたくさんありますが、少なくとも難関校とよばれる学校の入試問題と、都立高校の共通問題を比べると、かなりの差があることは事実です。
これが、中高一貫校の強みの一つだと思います。
高校入試で要求されるレベルで足踏みをしなくてすむからです。
中学生レベルを超えた社会科の知識を身に着けた生徒が集まっているからこそ、「幕末の日本が欧米に植民地化される可能性はどれくらいあったと考えられるか、理由とともに述べよ」といった課題が出せるのです。ちなみにこれは実際に中高一貫校の授業で出された課題です。
算数のみの単科入試や算国だけ、あるいは英語単科入試で生徒を集めている学校では、このあたりはどうしているのでしょうね。私が聞き及んでいるかぎり、4科入試で入学した生徒を基準とした授業を行っているようですが。
総括してしまえば、中学受験で要求されるレベルと範囲は、おおむね中学生が学ぶ範囲と重なると思って結構です。英語だけは無いといいいたいのですが、すでに英語入試は多くの学校で始まっています。今のところは、英数国、あるいは英語単科の入試の学校が多いですが、これも気が付けば五科目入試になっていたとしても私は驚きません。
高校入試レベル、あるいはそれ以上のレベルが要求されるからこそ、中学受験は大変なのですね。