
今回のロジカルライティングのテーマは「世界に広がる米文化」です。
生徒役は、いつものように麻布志望の三人組、タロウ・ゲンタ・ワタルです。
問題提起
私:みんなはお米は好きかな?
ゲンタ:何? いきなり
ワタル:好きにきまってるじゃない
タロウ:日本人だもん
私:そうか。それじゃあ今日の朝食は何食べた?
ゲンタ:パン
ワタル:スパゲティ
タロウ:うどん
私:ご飯じゃなかったんだね。
ゲンタ:だって、朝はお母さん忙しいんだもの。朝ご飯作ってる時間無いんだって。
ワタル:そうだよ。僕は昨日夕飯にお母さんがナポリタン作りすぎちゃったから、余ったやつを朝チンして食べたんだ。
タロウ:お母さんが、「うどんでいいでしょ」って言うからさ。逆らえるわけないじゃん。
私:そうだな。お母さんに従うのが正しい。
タロウ:でも、やっぱり1日一回はご飯食べたいかな。
ゲンタ:パンだとお腹すぐすいちゃうからね。
ワタル:そうそう。ぼくは白いご飯にふりかけかけて食べたいな。
タロウ:あれ? 僕気が付いちゃった。「ご飯」っていえば、白いお米のご飯のことだろ? でも、晩ご飯とか朝ご飯とかいうときは、別にお米のご飯じゃないときもあるよね。
ワタル:確かに。今日の朝ごはんはトーストよ、とかね。
タロウ:てことはさ、もう日本人には食事=お米、って体に染みこんでるんだね。だからどんな食事でも「ご飯」って呼ぶんだ。
ゲンタ:ほんとだ。やっぱりご飯といえばお米だよね!
私:みんながご飯好きなのはわかったよ。それじゃあ外国に旅行したらどうする?
ゲンタ:それなんだよな。実は来年の春休みに、家族でハワイに旅行するかもしれないんだけど。
タロウ:え~! いいなあ!
ゲンタ:受験がうまくいったらご褒美旅行なんだって。だから絶対合格しないと。でも、今から食事が心配で。
ワタル:何で?
ゲンタ:だって、ハワイってアメリカじゃないか。朝くらいはパンでもいいけど、昼も夜もそれだといやだなって。
タロウ:確かにそれは困るね。そういえば、お父さんがこの前出張でイギリス行ってたけど、帰ってから「やっぱり日本のご飯は美味い!」っていいながら3杯もお替わりしてたよ。
ワタル:先生、日本以外でお米って、どれくらい食べられてるんですか?
ゲンタ:ハワイで日本のご飯食べられる?
私:よし。それじゃあまずはこの写真を見てもらおうか。
海外のお米事情

タロウ:コシヒカリだね。
ゲンタ:うちもコシヒカリ食べてるよ。美味しいよね。
ワタル:コシヒカリがどうかしたの?
私:よくラベルを見てごらん。
ワタル:あっ! 米国産って書いてある!
ゲンタ:ほんとだ!
タロウ:アメリカでもお米作ってるの?
私:そうだな。2021年のデータで比べると、アメリカ全体で870万トンだ。ちなみに同じ年の日本では756万トンとなっている。
タロウ:うえ、アメリカのほうがたくさんお米つくってるんだ!
私:カリフォルニア米は有名だね。およそ20%がカリフォルニアで生産されている。あとは中南部の、ミズーリ州、テキサス州、アーカンソー州、ルイジアナ州、ミシシッピ州が米の産地だね。
ゲンタ:へえ。そんなにあちこちで作ってるんだ。それで、コシヒカリばんばん作ってるっていうかんじ?
私:いや、生産されているお米の75%が長粒米だね。インディカ米とよばれている。
ワタル:知ってるよ。長細くてパラパラのやつでしょ。本格カレーで出てくるやつ。
私:あとは、24%が中粒米。ジャバニカ種ともいう。カルローズなんていうブランドが有名だね。そして残り1%が、コシヒカリなんかの短粒米、ジャポニカ米とよばれるお米だ。
タロウ:へえ。それじゃあコシヒカリはそんなにたくさんは作ってないんだ。
私:実はこれはシンガポールのスーパーマーケットで撮った写真だ。他に気づくことはないかな?
タロウ:この20.00って値段だよね。ドル?
私:シンガポールドルという通貨だ。だいたい1シンガポールドルが112円くらいだね。
ゲンタ:ということは、袋には2.5キログラムって書いてあるから、112円×20で、2240円だね。
私:君たちの家ではお米はどんな袋で買ってるかな?
ワタル:うちは、たぶん5キログラムだと思う。
タロウ:うちは10キロだよ。だって、僕持ち上げられなかったから。そうか、10キロだと8960円、つまり約9000円ってことになるんだね。
私:お米の値段は知ってるかな?
皆:知らない。
私:ちょっとPCで調べてごらん。
ゲンタ:10㎏で7500円だって。
ワタル:こっちは14000円だよ。
ワタル:5000円っていうの見つけたよ。
ゲンタ:なんでこんなに価格が違うのかな?
私:なんでだと思う?
ワタル:やっぱり産地かな。14000円のには、魚沼産って書いてある。ここ美味しい名産地なんだよね。
私:正解その1。実は先生にはそんな微妙な味の違いはわからないが、こだわる人にとっては、美味しい産地のものが人気だからね。他にはないかな?
ゲンタ:先生、ヒント!
私:ヒントは、今は10月だ。
ワタル:俺わかっちゃった。ほら、こっちの安いのには令和5年産って書いてあって、こっちの高いのには令和6年産って書いてある。今ちょうど新米の時期だからね。だから新米のほうが高いんでしょ?
私:正解その2だ!
ワタル:そう考えると、シンガポールのコシヒカリが10㎏で9000円ってことは、まあ普通ってかんじ?
タロウ:僕、アメリカのお米ってもっと安いんだと思ってたよ。アメリカからシンガポールに輸送してこの価格ってことは、たとえば日本でアメリカのコシヒカリを売ろうとすると、日本のコシヒカリと同じか、少し高い価格になるってことだよね。
私:シンガポールはお米の輸入に関税をかけていないから、関税がかかる日本とは事情は異なるけれどね。
ワタル:日本のお米の関税ってどれくらい?
私:1キロあたり341円だ。
ワタル:ということは、10キロのお米を輸入すると3410円ってこと?
ゲンタ:それじゃあ、シンガポールで売っているアメリカ産のコシヒカリが、9000円+3410円で、12410円だ!
タロウ:魚沼産コシヒカリと同じだね! ちょっとカリフォルニアのコシヒカリも食べてみたかったけど、それじゃあ買わないなあ。
私:それが狙いだからね。
ワタル:でも、別に関税が無くても9000円もするなら、わざわざアメリカ産コシヒカリを買う人はいないと思うんだ。だって、探せばもっと安い日本産コシヒカリがあるんだからさ。
タロウ:僕、アメリカのお米って、もっと安いんだと思ってたよ。
私:もちろん安い。だが日本人が好むようなお米は安くはない。
アメリカで売られているお米
私:それじゃあ、次はこの写真を見てごらん。

タロウ:先生、この右下のラベル、「NON GMO Project VERIFIED」って何?
私:ああこれはね。GMOは「遺伝子組み換え作物」って意味なんだ。VERIFIEDは「確認済」。だから、「NON GMO Project VERIFIED」というのは、「遺伝子組み換え作物ではないことを確認済」という表示になる。
タロウ:へえ。アメリカはやっぱり遺伝子組み換え作物って多いの?
私:トウモロコシ・大豆・ワタの栽培の9割以上が遺伝子組み換え作物だそうだ。
タロウ:すげえ!
ゲンタ:日本は?
私:日本では、安全性が確認されたトウモロコシや大豆の輸入は認められているが、栽培は認められていない。
ワタル:良かった。
私:どうして良かったって思うのかな?
ワタル:だって、何か嫌じゃん。
ゲンタ:そうだよ。
遺伝子組み換え作物
私:何か嫌っていうのもずいぶん曖昧だな。どうしてそう思うのかな?
ワタル:う~ん。あの、作物って僕たちが食べるわけだよね。そこに、安全かどうかわからない技術を使った作物があるってことが嫌なんだ。
ゲンタ:そうそう。遺伝子組み換え作物って、安全かどうかなんてわからないじゃないか。
私:今のところは安全じゃないというデータは無いようだ。
ゲンタ:それでも、人間のやることだから、絶対なんてことはないからさ。だったら、なるべく避けたいって思うよね。
私:タロウ、さっきから静かだな。
タロウ:僕は、別に構わないと思うんだ。
ワタル:何で?
タロウ:だって、すでにアメリカでは、たとえばトウモロコシの9割は遺伝子組み換え作物なんだよね。それだけ普及したってことは、何か合理的な理由があるからじゃないかな。それで、アメリカ人が化け物に変身したなんてニュースも聞かないし。それに、僕、遺伝子組み換え作物について詳しくはないからさ。よく知らないものを、自分が知らないだけで恐れるっていうのも、なんだかなあ、ってかんじ。
私:実は、遺伝子組み換え作物は農薬を減らす効果があったというデータもある。
タロウ:なんで?
私:農業にとって一番の敵は何だかわかるかな?
ゲンタ:異常気象
ワタル:虫と病気
タロウ:雑草
私:全部正解だ。それで雑草対策にはどうしたらいい?
ゲンタ:抜く?
ワタル:それ大変すぎるだろ。今は農薬使うんだよ。除草剤っていうんだ。
私:その通り。除草剤の開発によって、農家の労働時間はかなり減少できた。でも、除草剤には困った問題もあるんだ。雑草だけじゃなく、作物も枯れてしまうっていうね。
ゲンタ:あっ、除草剤だもんね。それじゃあ、作物は平気で雑草だけ枯らす除草剤があればいいじゃないか。
私:その通り。ただし、逆の発想で、特定の除草剤に強い性質を作物に持たせることを考えた。それが遺伝子組み換え作物だ。これを栽培して、特定の除草剤を使えば、効率よく雑草を枯らすことができる、つまり全体として除草剤の使用を減らせたってわけだね。
タロウ:ほら、合理的じゃないか。
私:ただ、他の心配もある。この遺伝子組み換え作物が、もし畑の外に広がっていったらどうだろう。
ワタル:あ、他の植物と交配するかもしれないんだね。
私:そうやって、自然界には存在しない遺伝子が広がっていく可能性がある。これを心配している研究者もいるんだね。
お米の価格
ワタル:先生、ところでこの「望」ってお米、おいしいの?
私:残念ながら私は食べたことはないが、食べた知人に聞くと、まずまずの味だと言っていた。
ゲンタ:それで値段は?
私:15ポンドで25ドルくらいだね。
ゲンタ:ということは、10キロで37ドルだね。1ドル144円として、5300円くらいか。まあ、普通の値段だね。
ワタル:なんだ、アメリカのスーパーで売られているお米って、日本と値段あんまり変わらないんだね。
私:それじゃあ、この写真を見てみよう。

タロウ:へえ、「HINODE」。あっ、カルローズライスって書いてある。
ゲンタ:さっき出てきた中粒米だね。
ワタル:値段は9キロで12ドル。ということは10キロだと13ドルちょっとか。
タロウ:1900円くらいだね。安い!
ワタル:ねえ、これ美味しいの?
私:先生はけっこう好きだけどね。カレーやピラフを作るとき、インディカ米は食べ慣れていないからちょっと抵抗があるけど、カルローズなら日本のお米のようにモチモチしてないかわりに、インディカ米ほどパラパラではなくて、ちょうど使いやすいんだよ。とくにリゾットにすると、よくスープを吸って美味しいぞ。ジャポニカ米と比較するのは可哀そうだが、意外といける、というのが正直な感想だ。日本食に合わせることも何とかできるかな。
ワタル:へえ。それじゃあ日本でも売ればいいのに。
私:売られていることは売られているんだが、関税がね。
ワタル:あっ!
私:もっと安いのも見つけたぞ。

ワタル:あっ、二袋で5ドルだって。じゃあ9キロで10ドルだから、10キロで11ドル、さっきのHINODEより2ドル安いよ。
タロウ:「shirakiku」だってさ。日本っぽい名前がやっぱりうけるんだね。
私:アメリカには、安いものから高いものまで、いろいろなお米が普通にスーパーに売られているんだね。
タロウ:高いのってどれ?
私:これかな。

ワタル:カリフォルニア産コシヒカリ、限定契約農家直送だって。
私:田牧一郎さんという福島県出身の農家の人がアメリカに移住して開発したお米だ。アメリカ在住の日本人に評判のお米だな。たぶんこれが一番おいしくて一番高い。
ワタル:いくら?
私:最近は15ポンドで50ドルくらいするらしい。
ワタル:えっと、10キロで71ドルだから、1万円くらい? 高!
私:美味しいものは高い。当然のことだな。
ヨーロッパのお米
私:さて、次はこの写真だ。

タロウ:ゆめにしき? あっ、欧州産こしひかりって書いてある。
ゲンタ:ほんとだ! ってことは、ヨーロッパ産?
私:これはアムステルダムのスーパーで売っていた。10キロで35ユーロくらいだったかな。
ワタル:ということは5600円。意外と普通の価格だね。
私:他にもこんなものもあった。

タロウ:寿司好適品種米だってさ。おいしいの?
私:ゆめにしきより少し安いが、ゆめにしきの方が美味しいという噂だ。
タロウ:値段と味は比例するっていうやつだね。ところでどこで作ってるの?
私:この二つはイタリア産だと思う。他にもスペイン産も見かけるな。
ワタル:お米食べてるのって、日本人と、あとは中国・韓国くらいかと思ってたけど、そうでもないんだね。
タロウ:やっぱり寿司の影響力かな。
ゲンタ:これならハワイ旅行でも何とかなりそうだよ、先生。
私:そうだ、ハワイでこんなお店を見かけたぞ。

タロウ:「INARI SUSHI」って、おいなりさん?
ワタル:先生、前から疑問だったんだけど、どうしていなり寿司って、「おいなりさん」なんて、尊敬語で呼ぶの?
私:ああ。稲荷神の使いのきつねが油揚げが好物だったからといわれているね。お手軽な食事として江戸時代に流行ったんだ。まあ当時のファストフードだね。
ワタル:へえ。ファストフードの代表のハンバーガーの本場のアメリカに、日本のいなり寿司が勝負しに行ったのかな。
タロウ:みた? ガーリックシュリンプとかビーフとか書いてあるぞ!
ゲンタ:先生、こういうのじゃないんだよ、僕が食べたいのは!
私:ごめんごめん、じゃあこっちは?

ゲンタ:そうそう、これこれ。とんかつ定食まであるんだね。
ワタル:値段見た? ロースかつ定食が45ドルって書いてあるよ。
ゲンタ:6500円! 無理だあ! とんかつ定食あきらめるよ。
私:安心しろ。ハワイは日本食文化が完全に浸透しているからな。もっと安いお弁当もたくさん見つかるぞ。
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