
8月8日に出した課題について考えます。
例によって登場人物は麻布志望の3人組、タロウ・ワタル・ゲンタ(仮名)です。実際の生徒・授業ではなく、過去の授業を再構成したものです。
課題提出
タロウ:先生、聞いてよ! ゲンタってひどいんだよ!
私:どうした?
タロウ:先週貸した漫画を今日返してくれる約束だったのに、持ってこなかったんだ。
ゲンタ:だって、忘れちゃったんだよ。来週でいいよね?
タロウ:ダメだよ! 明日友達に貸してあげる約束だったんだから。
ゲンタ:タロウだって、僕に新しい消しゴムくれるっていう約束破ってるじゃないか。
タロウ:そんな約束したっけ?
ゲンタ:ひどい!いつも消しゴム忘れて僕のを借りてるよね。そしたら、いつも借りてばかりで悪いから、今度新しい消しゴムくれるって約束してくれた。
タロウ:覚えてないなあ!
ゲンタ:先生から怒ってよ!
タロウ:先生から怒って!
私:どっちも悪い! 謝りなさい!
ゲンタ:タロウ、ごめん。漫画、あとで家からとってくるから。
タロウ:ゲンタ。ごめん。来週消しゴムきっと持ってくるから。
ワタル:先生。生徒が約束破ったら先生が怒るよね。大人が約束やぶったら裁判になったり、警察に逮捕されたりするよね。でも、国同士は約束破りたい放題だってこの前の授業で習ったよ。
私:破りたい放題ということはないのだが。そうだ、みんな課題は書いてきたのか?
タロウ:課題って?
私:これからの国際社会はどうあるべきか、国同士の約束はどう守らせるべきか、だ!
タロウ:うそうそ、ちゃんと書いてきたよ。
ワタル:そのやりとり、必要?
タロウ:「もし警察や裁判所がなければ、人だって約束を破るのが当たり前になるし、正直者が損をする社会となってしまう。同じように、国を罰する組織がなければ、条約を誰も守らなくなるし、軍事力がある国がやりたい放題となるような世界になってしまう。したがって、国連の組織を強化し、軍隊と警察と裁判所を充実すべきだと思う」
ワタル:あ、僕の答とそっくりだ!
タロウ:ワタルはどう書いてきたの?
ワタル:「国はお互いを尊重し約束を守るなんていうのは机上の空論に過ぎない。現実には経済力や軍事力がある国が自分の主張を強引に押し通したり、他国の評判など気にしない国ばかりだ。強力な国連軍をつくることでしか、国に約束を守らせることはできないのだ」
タロウ:ほんとだ。似てるね。ね、先生、僕たちの答どうかな?
私:予想通りだな。きっとそういう答を書いてくると思ってた。
ワタル:それじゃあ満点?
私:まず、文章はだいぶ上達してきたな。漢字も間違えてないし、文法も大丈夫だ。書き方の流れもこれでいいだろう。
タロウ:それじゃあ満点?
私:一つの意見としては評価できる。結局のところ、ルールを守ろうとしない国は、軍隊や警察で強引に抑え込む必要があるという考えだね。
ワタル:タロウ、ついに俺たち満点みたいだよ。
タロウ:ふふ。
私:だが、私はこの答を認めたくない。
ワタル:なんで?
私:力には力を持って対応するというう考えは、戦争に向かう思想だからだ。
タロウ:だって仕方がないじゃないか。
私:例えば、アメリカがルールを破ったらどうするんだ?
ワタル:その場合は、アメリカよりもっと強力な国連軍がアメリカに乗り込んでいくんだよ。
私:アメリカが抵抗したら?
ワタル:それは・・・。戦争になるね。
私:そもそも、アメリカ軍を上回る軍事力って可能なのか?
タロウ:それは・・・。そうだ、核兵器は?
私:アメリカ全土に水爆でも落とすのか?
タロウ:・・・・・・。
私:国力の弱い国だったら軍事力で抑え込めるかもしれない。それでも相手が本気で抵抗したり、核兵器を持っていたりしたら、どうなるかはわからないよな。
ワタル:あ。ロシアだって、ウクライナなんか一瞬で占領できるって思ってたんだよね。
タロウ:そういえば、アメリカ軍だってベトナム戦争に負けたよな。
私:人類は、2度の大戦で、国同士の戦争が悲劇しかもたらさないことを身に染みて学んだ。だから、何とか平和を保つバランスを成り立たせるように頑張っているんだ。
ゲンタ:先生、僕の答も見てくれる?「国どうしが争ったり条約を守らなかったりするのは、各国が自国の利益だけを考えているからだ。国の利益とは国民の利益ということになる。他国の国民はどうでもよいと考える国民の存在が、国同士の対立を生み出していると思う。もし各国の国民が、自分たちの利益と同様に、相手国の国民の利益も守ろうとするようになれば、国の対立は生まれないはずだ。そのためには、国境を越えた国民の交流が大切だと思う」
私:素晴らしい!
タロウ:たしかに凄いね。俺、思いつかなかったよ。
ワタル:うん。もっともすぎて、何も言えない。さっきの僕の答、なかったことにして。
ゲンタ:きっと時間は物凄くかかると思うんだ。でもさ、それしかないと思うんだよ。例えばさ、僕は昔、韓国が嫌いだったんだ?
タロウ:なんで? 僕好きだけどな。キムチとかビビンバとか。あと焼肉もいいよね!
ワタル:ゲンタ、無視して続けて。
ゲンタ:竹島をめぐる問題も習ったし、あと、戦争中の日本軍のしたことを、いつまででも引っ張って謝罪を求めるところとか。
ワタル:それは何となくわからなくはないけど。
ゲンタ:でもね。考えが変わったんだ。韓国からやってきたアユンって子が去年から同じクラスにいるんだけど、その子とすごく仲良くなってね。
タロウ:女の子?
ゲンタ:うん。
タロウ:かわいい?
ワタル:ゲンタ、無視して続けて。
ゲンタ:アユンから韓国の話をいっぱい聞いたら、なんだか僕も行ってみたくなったんだ。アユンはあと2年くらいで韓国に帰るらしいんだけど、そうしたら僕も訪ねていこうかなって。
タロウ:愛だね、愛。
ワタル:無視して続けて。
ゲンタ:それでこう考えたんだ。もし将来日本と韓国が対立することがあって、それで条約を破ったり経済制裁を加えたり、戦争になったり。そんなことがあったら、アユンが可哀そうだってきっと思うよ。アユンだって、日本が大好きになったって言ってくれてたから、悲しむと思うんだ。だから、大勢のアユンがいて、そしてアユンと仲が良い子が日本に大勢いたら、日本と韓国が争うことなんかなくなるんじゃないかって。
タロウ:大勢のアユン! 可愛い子が大勢いるなんて素敵だ!
ワタル:タロウのことは無視しよう。あれ、先生どうしたの?
私:いやあ、あまりにゲンタが立派なこというもんだから、つい泣けてきてしまってね。ゲンタ、何て立派な子になったんだ。先生は嬉しいよ。世界中の人たちがゲンタになってくれれば、戦争なんて起きなくなるよな。
タロウ:ゲンタが大勢! それは嫌だ!
ワタル:それには賛成。
戦争は人の心の中で生れるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない。
言わずとしれたユネスコ憲章です。
アメリカはユネスコから離脱しました。ゲンタの理想の世界はまだまだ遠い未来です。