
だいぶ以前、新人の社会の先生に相談されました。
「政治分野って、子どもたちに教えていいのですか?」
質問の意図は、日本や世界の政治について教えていると、どうしても「タブー領域」に入ってしまうのではないか、そういう意味でしょう。
また、保護者からも同様の相談を受けることもあります。
政治が大きく揺れ動いている昨今、子どもたちにはどこまで教えましょうか。
タブーなのか?
まず正面からこの問題について考えます。
政治について子どもたちに教えることは、タブーなのでしょうか?
もちろんそんなことはありません。
むしろ教えないことのほうが問題です。
子どもたちに必要なのは、「正しい知識」「正しい理解」です。そこから逃げてどうする!
ニュートラルに徹するべきか?
我々教師は、政治を扱う際には自身の政治信条は脇において、ニュートラルな立ち位置に徹します。
選挙や首相指名投票があれば、当然生徒達からは、「先生なら誰になってほしい?」と言う声があがりますが、もちろん答えることはありません。「それを決めるのは有権者だから」「それは議員が決めることだね」
それだけ言って、民主政治のルールについて解説をするだけです。
ただし、それだけでは無味無臭の料理のようですので、ほんのわずかだけ調味料を加えます。リベラルという名の調味料を。
私立中学校の社会科学校教科書の採択詳細を見ていると気づきます。
大半は、東京書籍や帝国書院といった、「無難」な教科書を採用していますが、いくつかの学校で「学び舎」の歴史教科書を採用しています。筑駒や麻布、灘といった学校です。この教科書は、「リベラル」な内容が持ち味です。私も買いましたが、教科書販売店で手にとったら編集姿勢が攻めていて面白そうだったので購入しただけです。見開きでテーマを解説するというスタイルが気に入りました。この教科書を採択した灘の校長に、こだわりの政治信条をお持ちの方々から猛烈な抗議があったことを知ったのはその後です。特段問題にするほどの内容ではないと思うのですが。そもそも文科省の検定をパスしたものですので。
ちなみに、そうした信条の方々が好む教科書もあります。「新しい歴史教科書をつくる会」というところが関わっていた教科書です。この会は、高市早苗氏、杉田水脈氏、赤尾由美氏等が理事・顧問になっていたといえば何となくわかりますね。今は「育鵬社」の教科書がその流れを汲んでます。これを採用している公立中学校は東京都には無いはずですが、私学ではたった2校だけあります。
中学校の社会科の先生方は、リベラルよりの方が多いことは明らかです。それなら、生徒への指導もそちらに寄せるのが正解です。そこで、ニュートラルな授業に、少しだけリベラルのスパイスを振りかけるようにしているのです。
もっとも、無理してスパイスを使わなくても、普通に憲法やフランス人権宣言などを説明していれば、それがすなわちリベラルよりの説明となりますね。人類の民主主義獲得の歴史そのものが、独裁や国家権力との戦いの歴史ですから。
もちろんこういった教えるときの姿勢は、教師個人の政治的信条とは無関係です。我々は、教えるべきことをきちんと理解させていくことだけが仕事ですので。
逃げない姿勢
子どもたちは知識も常識もまだまだ不足しています。彼らにとって「政治」「社会の動き」は謎だらけなのです。生徒に自由に質問させると、「なぜ北朝鮮は・・・」「なぜトランプは・・・」「なぜプーチンは・・・」「なぜイスラエルは・・・」といった質問がたくさん出るのです。今しばらくは、「高市新内閣」がらみの質問が続きそうですね。
それらから逃げるわけにはいきません。たとえばイスラエルについて質問されたなら、ユダヤ教徒のディアスポラから、世界各地でのユダヤ人差別の歴史、イスラエル建国までの歴史について語る必要があります。難しい問題ですが、そこから理解していかないと、現在パレスチナのガザ地区で何が起きているのかについて、理解することなどできないからです。
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