私のところに、子どもの不登校についてのご相談が時折寄せられます。
私はこうした問題の専門家でもなんでもありません。中学受験に関してなら「プロ」を名乗れますが、不登校問題については素人以下です。
しかし、大勢の小中学生に接してきたことは確かですし、そうした経験をお話することならできます。
何の教訓もアドバイスも得られないかもしれませんが、いくつか書いてみることにします。
なぜか小学校に行けないA太の場合
A太は、一見普通の小学生です。多少落ち着きはないものの、それも小学生としては普通でしょう。厳しい教師なら、「俺の話をきちんと聞け!」と怒るかもしれませんが、まあこれくらいの子などいくらでもいる、そんな小学生でした。勉強については、可もなく不可もなくといったところでした。
A太には高校生と中学生の姉が二人います。姉は二人とも中学受験をして別々の中堅私立に進学しましたが、「不登校」になっています。高校生の姉は、さすがに学校に行かないと単位がもらえないので、ギリギリの登校日数ですが、妹はほとんど学校には行っていません。
そうした姉たちの様子を見ていたからか、A太もいつのまにか小学校にほとんど行かなくなりました。
上の子の受験と不登校問題に親がかかりっきりになっていたため、A太が放置されていたことも原因かもしれません。親が「小学校にきちんと行きましょう!」と声をかけたところで、「だってお姉ちゃんたちだって行かないじゃないか」という返答が返ってくると、それ以上親には子どもを学校に行かせる言葉がないのです。
私もA太に聞いてみたことがあるのです。
「どうして小学校に行かないんだ?」
「だってつまらないから」
たしかに小学校の勉強はつまらないのかもしれません。ただ、「つまらない」と馬鹿にするほどA太が優秀なわけでもないのです。もうすっかりA太にとって小学校は、行っても行かなくてもよい所になってしまったのですね。
行っても行かなくても良い所なら、行きませんよね、普通。
A太の母親は、A太を何か所もの病院に連れていき、原因を特定しようとしました。これも、本当に診断名がつくほどの症状というよりは、診断名がつくことで親が安心したいという意識が働いたのではないかと思います。
「わが子はさぼっているのではない、〇〇症だから仕方がないのだ」
そう思いたい親の気持ちもわかりますが、A太にとっては逆効果でした。小学校には気の向いたときだけしか行きませんし、給食だけ食べて帰ってくることもしばしばです。それでも親からは決して注意もされなければ怒られることもないのです。
落ちこぼれたB子の場合
B子は憧れの私立中学に進学しました。難関校であり、親も子も誇らしい気持ちで一杯です。
しかし、B子は学校をさぼるようになりました。
両親とも仕事を持っていて、とくに母親は海外出張もある激務をこなしています。中学生になったから一安心とばかりに、娘の様子を気にしなくなったのです。B子も、中学受験から解放されたことで、勉強からも解放されたと勘違いしてしまいました。12歳の子ですから、無理からぬところです。
それでも、学校が手取り足取り宿題や小テストの得点率などをコントロールする類の学校ならよかったのでしょうけれど、難関校になるとそうしたケアはありません。生徒が自分の行動を自分でコントロールすることが求められるからです。
A子には大学生になる兄がいます。兄はいわゆる「天才肌」で、中高生活をエンジョイしながら難関大学に進学しました。そうした兄がロールモデルになったこともA子の不幸だったのかもしれません。
起きたい時間に起き、気が向いたときだけ学校に行きます。学校の門の前まで行って引き返すこともありました。気分が乗らないと早退も普通です。当然成績も低迷し、赤点再試験の常連となっています。
高校生になったとき、クラス名簿からB子の名前はありませんでした。
さすがに高校には上げてもらえなかったのですね。
とりあえずアメリカに行かせて、9月から半年遅れでアメリカの高校に通うことになりました。
B子の場合は、進学する学校を間違えたとしか私には思えません。
難関校に進学すれば、自分からすすんでかなりの勉強をしなければならないことなど当たり前です。それができそうもないのであれば、もっと面倒見の良さを売りにしている学校を選ぶべきでした。大学の進学実績を出すのに躍起になっている私立には、生徒の勉強を細かくコントロールするところがいくらでもあるからです。偏差値や憧れだけで学校を選んではいけない場合があるということですね。
不登校だからといって勉強をしなくていいわけがない
単純なさぼりによる不登校は論外ですが、心身の不調等やむを得ない事情で学校に行けない場合もあると思います。
しかし私が不思議でならないのは、不登校の子が勉強をしていないことなのです。
「不登校だから勉強ができなくてもかまわない」のでしょうか?
私立中高ならいざしらず、小学校の学習内容であれば、学校に行かなくてもいくらでも自宅学習が可能です。
中学受験の勉強ですら、塾に行かなくても十分可能なのです。
高校受験の勉強程度なら、これも自学自習で何とでもなるレベルです。
むしろ、学校に行かないことでできる時間の余裕すら生まれると思います。学校生活には、勉強以外に費やされる時間もたくさんありますので。
学校に行けないのなら、せめて勉強だけは通学している子に負けないように、負かせるようにすればいいと思うのですが。
不登校の問題と、勉強については切り離して考えたほうがよいと思います。
諸般の事情で学校に行けないこともあるでしょう。しかし、勉強できない諸般の事情などあるのでしょうか?
もしそうだとすると、これは将来設計を考えなおす案件ですね。すべての子が高校・大学に進学しなければならないわけでもありません。早い段階から手に職を目指す道だってあるでしょう。ただし、それは「勉強しないですむ楽な道」ではないはずです。
本の紹介
最後に、不登校に関連した小説をいくつかご紹介します。
作者の相沢沙呼氏は、40代男性です。そうと聞くと驚くくらい、女子中学生の学校生活がリアルに描かれています。スクールカースト、いじめ、不登校、そうした問題がとりまく中学生活を描いた連作短編集です。正直いって、私には響きませんでした。読んでいても「感情移入」できないのです。しかしこの本を私に勧めてくれた生徒の母親は、「自分の中高生活を思い出して涙した」そうなので、子どもよりむしろ大人、それも母親向きなのかもしれません。
これはまぎれもなく「名作」です。梨木香歩氏の処女作だそうですね。この人の作品は、どれも安定してお薦めできます。
中学校に行けなくなった少女が、祖母の「魔女」の家で過ごす日々を坦々とつづっています。別に「魔法のファンタジー」ではありませんのでご安心ください。小中学生の女子にこそ読んでほしい小説です。もちろん大人も。
こちらは、心理学者の河合隼雄氏による、エッセイです。ただし専門家によるエッセイですので、そこにはたくさんのヒントが散りばめられています。しかもこの方は文章が達者で読みやすいのです。氏の作品は中学入試でも見かけますね。
全部で55章ですが、短くて読みやすいので、どこから開いても良いと思います。
目次の一部を紹介します。
◆人の心などわかるはずがない
◆ 100%正しい忠告はまず役に立たない
◆「理解ある親」をもつ子はたまらない
◆ 言いはじめたのなら話合いを続けよう
◆イライラは見とおしのなさを示す
◆ 説教の効果はその長さと反比例する
◆ 男女は協力し合えても理解し合うことは難しい
◆ 道草によってこそ「道」の味がわかる
こんなテーマについて、軽妙かつ含蓄のある文章がつづられています。
悩める保護者の皆さんこそぜひ読んでいただきたいと思います。
作者の中江有里氏は、俳優ですが、小説も書いているのですね。この本を読んでいただければわかりますが、「俳優の片手間」小説ではありません。様々なメディアに書評を書いている読書家でもあります。また、15歳で芸能界デビューし、定時制・単位制高校を卒業し、40歳で法政大学通信教育部文学部日本文学科を卒業されています。昨今不登校や低学力の生徒の受け皿として通信制の学校が増えましたが、そこで勉強し卒業するといのは大変な自制と努力を要するのです。その点この方は立派です。
本作は、中学で友人関係の悩みから不登校となり通信制高校に進学した少女と、そこで再会した本好きの少年の本をめぐる連作短編です。読書が物語全体の主軸となっていて、そこに紹介される本が良いのです。この本をきっかけに、他の本にも読書の幅を広げることができますね。
不登校については、こちらでも記事にしています。ぜひお読みください。
こちらの本は、塾に行かずに中学受験する方法について書きましたが、自宅での勉強のヒントになると思います。