今回のご相談は、小学校の出席日数が中学受験の合否にどこまで影響するのか、というものでした。
Q:小学校の欠席が多いと入試には不利でしょうか?
ご相談にいらした母親の話をまとめるとこういうことでした。
・5年生男子
・朝起きるのが苦手
・小学校には遅刻して行くことがほとんど
・そのまま休むことも多い
・朝から学校にきちんと登校できたのが1/3程度。1/3は遅刻し、1/3は休んだ。
最近、私の生徒たちでも、小学校にきちんと通っていない子が増えているような気がします。別に統計をとったわけではないですが、何となくそんな気がするのです。さすがにそれでは曖昧すぎるので、文部科学省の統計をグラフ化してみました。
青い棒グラフが不登校人数、そして赤い折れ線グラフが1000人あたりの人数です。
この10年で小学生の人数は17%減少していますので、それを上回る勢いで不登校児童が増えているということなのでしょう。
こんなに増えているとは思いませんでした。
これについての文部科学省の見解は以下のようなものでした。
◆ 「病気」により30日以上登校しなかった児童生徒数は、小学校57,905人(前年度31,955人)と大きく増加した。この一因として、小・中学校においては、微熱や咳などの症状が出た際、大事をとって欠席する児童生徒が増える傾向にあることなどが考えられる。
◆ 小・中学校における不登校児童生徒数は346,482人(前年度299,048人)であり、前年度から47,434人(15.9%)増加した。11年連続増加し、過去最多となったものの、増加率は前年度と比較して若干低くなった(R422.1% → R5 15.9%)。在籍児童生徒に占める不登校児童生徒の割合は3.7%(前年度3.2 %) 。なお、出席日数が0日の者は3.1%(前年度3.2%)、出席日数が1~10 日の者は7.4%(前年度7.5%)だった。また、欠席日数が30~49日の者は22.3%、欠席日数50~89日の者は22.7%、90日以上欠席している者は55.0%(前年度55.4%)だった。
◆ 増加の背景として、児童生徒の休養の必要性を明示した「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」の趣旨の浸透等による保護者の学校に対する意識の変化、コロナ禍の影響による登校意欲の低下、特別な配慮を必要とする児童生徒に対する早期からの適切な指導や必要な支援に課題があったこ
となどが考えられる。
◆不登校児童生徒について把握した事実としては、 小・中学校においては、「学校生活に対してやる気が出ない等の相談があった。」(32.2%)が最も多く、続いて「不安・抑うつの相談があった。」(23.1%)、 「生活リズムの不調に関する相談があった。」(23.0%)、「学業の不振や頻繁な宿題の未提出が見られた。」(15.2%)、「いじめ被害を除く友人関係をめぐる問題の情報や相談があった。」(13.3%)の順で多かった。
細かい数字ばかりでわかりづらいのですが、不登校児童が増えていることは確かです。そしてその背景としては、親が子どもに無理をさせなくなったこと、コロナ以降、親子で登校意慾が低下したことがあげられるのですね。コロナの流行は2019年からでした。たしかに、学校に行くことが感染リスクであるという、まさに異常事態が行動様式を変えたのでしょう。
ところで、「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」って何だ? 文科省の報告書では、「・・・法律の趣旨の浸透によって保護者の学校に対する意識が変化した」とありますが、浸透しているのか?
この法律は、通称「教育機会確保法」といい、2017年に施行されました。不登校を「問題行動」とみなさずに支援することを理念としています。つまり、無理に登校させることを目指すのではなく、フリースクールやオンライン、あるいは学校に別室を用意し、「温かい雰囲気で迎え入れられるよう配慮」するのだそうです。
価値観の変化
「小学生は何があっても小学校には必ず行かねばならない」という昭和の価値観が変化してきた、ということなのだと思います。
そういえば、昔は「皆勤賞」なんてものがありましたね。それを目標に頑張る子もいました。調べてみると、コロナの影響で2023年に無くなったそうです。それまで続いていたほうが驚きです。
小学校が、必ず行かねばならぬ所から、行きたくなければ行かなくてもよい所へと変化しつつあるのでしょう。
「お母さん。何となくお腹が痛いような気がする。今日は学校休んでもいいでしょ?」
「何を馬鹿なこと言ってるの! とっとと支度して行きなさい!」
こんな家庭はシーラカンスなのかもしれません。
私も昭和の価値観を引きずる人間ですので、小学校を自由に休む(さぼる?)昨今の風潮には言いたいこともあります。しかし、現状の小学校の学習内容を見ると、「何が何でも行け!」とは言いにくいことも確かです。本当に「行けない」場合と、「さぼる」「さぼらせる」場合の区別は難しいでしょうし、そうなると「行けない」ことを前提にせざるをえないのでしょう。
中学校の見解
これについては、過去何度も中学校の先生に尋ねてみたことがあるのですが、御想像のとおり、返答は曖昧なものでした。それはそうですね。もし、「欠席日数は合否に関係します!」などと言おうものなら、忌引きや転居や持病や障害者はどうするのか、という問題で炎上します。しかし、「欠席日数は不問です!」と言えば、それならどうして調査書や通知表コピーを提出させるのか、という問題が持ち上がります。さらに、「成績さえ良ければ小学校生活は軽視するのか!」という批判まで浴びそうです。
受験生の親が直接学校に問い合わせても無駄でしょう。「欠席日数が多い場合はその理由と、改善に向けての努力、さらに中学生になってからどうやって通学をしていくのかについて面談でおうかがいします(一筆書いていただきます)」といった返答くらいしか得られないのです。
ここはシンプルにこう考えましょう。
◆欠席日数を気にしない学校は、調査書・通知表コピー等を求めない
◆調査書・通知表コピー等を求める学校は、欠席日数を気にする
実際には、調査書を求める学校は少数派です。通知表コピーを要求する学校も減ってきています。また、そうしたデータを提出させる学校を受験した過去の生徒たちも、多少の欠席(年間10日程度)なら問題なく合格していきました。しかし、そうした「正式書類」を求める以上、その内容はチェックする目的だと判断するしかないのです。それが「無難な」考え方です。
中学校としても、せっかく「入学許可」を出した生徒が、その後不登校となってしまうことは嬉しくないことは容易に想像がつきますね。それくらいなら、元気よく通ってくれるはずの他の生徒を合格させたいというのは自然な気持ちです。通ってくれなければ、中学校が実践している「教育」を与えることができないのです。また、教師の時間というリソースは限られています。一人の生徒に特別な配慮をすることは現実的に難しいのです。このあたりは、「全ての生徒を受け入れる」公立中学と、「限られた(選ばれた)生徒だけを受け入れる」私学の相違だとお考えください。しかも私学は、多数の学校の中から受験生が「選んで」受験・進学するのですから、不登校を気にしない種類の学校を選べばよい、ということなのです。
最初から、通うことが困難であることが予測される生徒は合格させたくない、そう考えるに違いないと「大げさに悪い方に」考えておくくらいで良いのだと思います。
もちろん、多少の病気や家庭の事情で欠席する分には全く問題がありません。年間30日を超えるような欠席が問題視される「かもしれない」と考えましょう。
自己申告の場合
鴎友学園の例をあげましょう。
こちらの学校は、願書とは別個に「自己申告書」を提出させます。
◆志望理由・・・志願者本人が記入
◆出欠の状況・・・欠席日数と理由
◆健康・運動制限などの特記事項
◆校内・校外の活動
◆趣味・特技・資格など
こういったものを記入して提出しなくてはなりません。
もちろん、自己申告だからといって虚偽申告は絶対にいけません。
調査書も通知表コピーも不要の学校
安心してください。こうした学校は、欠席日数を気にしてなどいません。もしどうしても欠席日数の多さが気になるのなら、こうした学校だけを受験するのが正しい作戦だと思います。
ところで、合格・入学手続き後に、小学校から中学校に1つの書類が送られます。
「指導要録」です。これについては、文科省がこのように定めています。
○在学する児童生徒の学習の記録として作成するもの。
○「学籍に関する記録」と「指導に関する記録」からなる。
○「指導に関する記録」としては、
・行動の記録(小中のみ)
・教科・科目の学習の記録
→観点別評価(小中のみ)、取得単位数(高校のみ)、評定(小3以上及び中高)
・総合的な学習の時間、特別活動の記録
・総合所見及び指導上参考となる諸事項 などを記載。
○進学の際には、写しを進学先に送付する。
○指導要録の保存年限は、指導に関する事項は5年。学籍に関する事項は20年。
もう進学後ですから、この内容が問題となることは普通あり得ません。虚偽申告や二重在籍者のチェックくらいでしょうね。
国立・公立中高一貫校は要注意
公立という学校の性質上、調査書を重視します。成績を得点化して合否に使うくらいですから。これらの学校を受験する場合には、欠席日数が多いことは大問題と考えてください。
結論
すでに欠席した日数は仕方がありません。今さら変えられませんので。ほぼ学校に通学できていないといった場合なら、日数の確認を求めない学校だけを受けるようにしましょう。
ありきたりですが、これが結論です。
欠席日数を気にして、体調が悪いのを無理して通学することは本末転倒だと思います。
もちろん、だからといって休みたい放題に小学校を好きにさぼることは言語道断です。それは正しい家庭教育ではないですね。
もしどうしても行きたい学校が「調査書・通知表コピー」を求める学校だったら。
その場合は、「改善している」ことの証拠を作る必要があります。
例えば、5年生まではほとんど通えなかったが、6年生になってから少しずつ通学できるようになり、6年生の2学期は毎日通うようになった、そういう「改善」です。それをどこまで中学校が考慮してくれるかは不明ですが、少なくともそれくらいの努力は必要でしょう。
冒頭のご相談については、「調査書・通知表」不要の学校だけの受験をアドバイスしました。受験の合否については、得点や判断基準は開示されません。不合格になったとして、その理由はわからないのです。だからこそ、無用なリスクは回避すべきだと思います。