中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

【高校受験】公立中学進学、その後は?

小学生の子を持つ知人から相談されました。

最初から中学受験をさせるつもりはなく、地元の公立中学に行かせるつもりで、塾にも通っていませんでした。しかし、最近、子どもの仲の良い友達数名が、みな中学受験塾に通い始めたのだそうです。それを聞いて、「はたして公立中学進学から高校受験は間違った選択肢なのか?」と不安になってきたのだそうです。

今回は、そうした疑問について考えてみましょう。

公立中学校の進学先 都立高校

 ここで、例として世田谷区にある公立中学校をとりあげてみます。15年ほど前から積極的に学校改革に取り組んで話題となった学校です。この学校を取り上げた理由はたった一つ、生徒の進学先の詳細を公表しているからです。

ただしデータは4年前のものとなります。

まずは、都立高校の進学実績を見てみましょう。こちらのリストにある都立高校は、この公立中学校からの進学者一覧です。1名以上の進学者がいる学校が羅列されていました。

都立高校のレベル感を見るため、いくつかの塾が出している合格偏差値を目安として横に並べてみました。

※新宿山吹高校は、通信制のため偏差値はありません。世田谷泉高校は、「チャレンジスクール」です。聞きなれない名称ですね。東京都教育委員会によればこうなっています。

「主に小・中学校での不登校の経験や高校での中途退学の経験により、これまで能力や適性を十分に生かしきれなかった生徒が、自分の目標を見つけ、それに向かってチャレンジする高校です。」

要するに、不登校の子の受け皿の学校ということのようですね。また六本木高校は単位制高校です。単位制高校とは、文科省によるとこうなっています。

単位制高等学校は、学年による教育課程の区分を設けず、決められた単位を修得すれば卒業が認められる高等学校です。

 昭和63年度から定時制・通信制課程において導入され、平成5年度からは全日制課程においても設置が可能となっています。

  単位制高校の特色としては、

・    自分の学習計画に基づいて、自分の興味、関心等に応じた科目を選択し学習できること。
・    学年の区分がなく、自分のペースで学習に取り組むことができること。
などが挙げられます。

なるほど。昔は定時制・通信制のみだったやり方を全日制にも拡大した、ということなのですね。

さて、都立高校の偏差値ですが、実は信頼できそうなものがありませんでした。理由としては、都立高校受験生がみな共通して受験するような大手塾の模試がないからです。さらに、内申の比重が高いため、中学受験のような合格偏差値が正確には算出できないということもあげられます。そうはいっても何か目安のようなものが無いとわかりづらいので、なんとか探して、駿台・家庭教師のトライ・SAPIX中学部、そして「みんなの高校」というサイトであげられていたものを参考として載せました。「みんなの高校」サイトが何を根拠とした偏差値なのかは不明ですが、学校を網羅していたのでありがたく参照させていただきました。また、トライの偏差値根拠も不明です。駿台とSAPIXは上位校しか載せられていませんでした。

あまりに偏差値に開きがありすぎて、何を基準にすればよいのかがわかりませんね。どの都立高校に出願すべきなのかは、中学校の先生がきちんと指導してくださるのでしょう、たぶん。しかし、日比谷・西レベルになると、各公立中学校からの進学者数が少なすぎて、学校の先生にはデータも経験も蓄積出来ていないと思います。

 

都立高校の大学実績

 

ここで、進学先にあげられていた都立高校のうち、偏差値50となっていた都立田無高校の大学実績を調べてみました。こちらは、「進学実績」ではなく「合格実績」です。一人の優秀な生徒が複数大学の合格を稼ぎますので、その分を割り引いて見なくてはなりません。ちなみに「田無高校」は、旧田無市、現西東京市の高校です。

1名の合格者まで見ていると細かすぎますので、3名以上の合格者がいる大学をまとめました。横の数字は合格人数です。

正直なところ、ここまで大学実績が低迷しているとは思っていませんでした。まがりなりにも高校入試という関門を通過してきた生徒たちですから、優秀な生徒もそれなりにいると思っていたのです。

念のためもう1校、同じレベルと思われる都立杉並総合高校の大学実績もみてみます。

こちらも、う~む、ですね。

実はこれには理由があります。

都立高校には偏差値表が無いといいましたが、私立以上に成績による輪切りが顕著なのです。私立は、偏差値を超えた魅力のある学校も多いですし、必ずしも偏差値輪切りで進学校は決まりません。それに対し、都立高校は、独自色の強い教育が実践できないことに加え、先生の移動も定期的にあります。そのため、偏差値的な学校の序列化が進み、成績順に進学が決まっていくことになるのです。

ここに挙げた高校は、これくらいの大学に進学するレベルの生徒達が集まっている高校になっているということになるのです。

中受で進学する中高一貫校と比較することはできませんが、日能研・四谷大塚偏差値で30台前半の学校でも、もう少し良い実績が出ていると思います。

すいません、今確認してみたら、日能研・四谷大塚の偏差値表には一番下でも30台後半の学校までしか載っていませんでした。念のためにそうした学校の大学実績をいくつか調べてみると、もう少しどころか一段上の実績でした。早慶上理GAMARCHへの合格者もちゃんと(多いとは言えませんが)出ていました。

 

この中学校からの進学先であがっていた「都立広尾高校」くらいになると、やっと早慶の合格者が4名(重複含む)出ています。

 

私立高校への進学者

さて、この公立中学から、私立高校への進学者一覧を見てみましょう。

これは「進学者」ですので、一人の生徒は1校しかかせぎません。学校のリアルが見やすいですね。

都立高校同様、偏差値も参考にのせました。V模擬というのは千葉方面で主力の模試なんだそうです。

寡聞にして私の知らない高校がたくさん出ています。勉強不足ですね。

今確認したら、星槎学園も通信制でした。

「バンタン高等部」というのも知らなかったのですが、こちらは学校法人ではなく、株式会社です。通信制高校と提携していて高卒資格も取ることが可能だとありました。将来の職業に直結したことを学べるそうで、調理系や美容系・アーティスト等に加え、プロスケーター・ユーチューバー・プロゲーマー・謎解きクリエイター・インフルエンサー等を目指すコースがあるそうです。ただ漠然と高校に通うより、たとえ中卒になっても、早くから自分のやりたい道に進むということなのでしょうか?「インフルエンサー」が勉強?して目指す職業だとは初めて知りました。また、謎解きクリエイターという職業があることも知りませんでしたが、もしかしてテレビのクイズ番組に出ていた東大生たちのことでしょうか。そうだとしたら、東大のクイズ研究会が王道だと思うのですが。

驚いたのが、この中学から通信制高校に、10名以上進学しているところです。最近通信制高校が増えてきていて人気だとは聞いていますが、本当なのですね。通信制を選ぶ生徒というのは、以下のケースでしょう。

 

・不登校等により、全日制普通高校への進学が困難だった

・他にやりたいことを優先したかった

・学力不足で行ける高校がなかった

もしかして、これらに加えてこうしたケースもあるのかもしれません。

・全日制普通高校に進学できたのに、あえて通信制のほうを選んだ

 

この生徒達がどのケースなのかはわかりません。私の知人の子も、最近通信制高校に進学しました。愛嬌のある良い子だったのですが、とにかく勉強が嫌いだったそうです。たしかにどこにも合格できなかったのは事実ですが、結果としては楽しく通っている(通学前提の通信制?)そうなので、本人にとっては良かったようです。ただし、3年で卒業できるのか、そしてその後の大学進学がどうなるのかはまだわかりません。

 

まとめ

 

私の住んでいる世界は、「学力至上主義」の世界です。学力は、子どもたちの努力を反映します。つまり「努力至上主義」と置き換えてもよいでしょう。

勉強は人生にとって決して無駄にはなりません。小・中・高(人によっては大学)の時期こそ、人生で勉強だけに向き合える唯一の時期でもあります。したがって、この時期にきちんと勉強することは、とても大切なことだと思うのです。

またこの時期の「学び」は、将来の仕事には全く役立たない(かもしれない)、一見無駄なことをたくさん勉強する「学び」です。いわば教養ですね。しかし、こうした「無駄に思える勉強」が、人間の幅を広げると思うのです。古今東西、「文化」「文明」はそうやって形作られてきました。

だから、この時期に勉強をしっかりやらずに、「楽な高校受験」に逃げたり、あるいはそもそも高校受験そのものから逃げるということに私は賛成できません。

高校卒業の道を捨てて将棋に集中した藤井聡太は例外中の例外です。

 

公立中学に進学する道を選ぶ場合、その後の勉強に本気で取り組まないといけません。もしかしてそれは、中学受験勉強よりもはるかに過酷かもしれないのです。なぜなら、周囲には、真面目に勉強していない生徒が少なからずいますので。

今回の公立中学からの高校進学実績を見ていてその思いを強くしました。

 

こちらの記事も参考にどうぞ。

peter-lws.net

 

※冒頭に紹介した知人への私のアドバイスはこうでした。

「公立中学進学でも何の問題もない。ただし、それは勉強をしなくてよいことを意味しない。小学生の今のうちから、せめて英語と国語だけは力をいれないといけない。できれば理科と社会も」