中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

【Q&A】中学受験VS高校受験

私は、今まで多くの保護者の相談を受けてきました。

それに対するアドバイスを整理してご紹介していきたいと思います。

Q:高校受験ではダメなのですか?

相談にいらした方の状況はこのようなものでした。

・母親は中学受験経験者

・父親は地方公立高校から大学進学

・父親の海外赴任のため、長男5年生、長女2年生で帰国

・子どもは、海外では現地校(英語圏)+日本語の補習程度

 

母親は、中学受験を都内で経験しています。通っていた塾は、小さな地元塾で、進学したのは中堅校でした。塾には楽しかった思い出がたくさんあるそうで、その頃の塾友とは今でも仲が良かったそうです。

母親が中学受験をした当時には、すでに中学受験を取り巻く状況は厳しく、競争も激しかったはずですが、どうやらそんなに必死に頑張らないで行けるところに進学した、「ゆる受験」をしたようですね。

そうした価値観も「アリ」だと思います。誰もが過酷な中学受験競争を勝ち抜かなければならないはずもありません。とくに女子の場合は、偏差値よりも「校風」「伝統」「情操教育」「環境」といったものを重視する家庭も多いのです。

 

「海外に住んでいた頃は、楽しく現地校に通っていて、日本語は補習校に行っていました。だから、中学受験の勉強はもちろんのこと、日本の小学校の勉強もやっていません。そんな長男が、これから無理して中学受験をする必要ってあるのでしょうか?」

 

これがご相談の趣旨でした。帰国して住むようになった日本のエリアは、昔からの落ち着いた住宅地であり、小学校も中学校もレベルは高いそうです。いわゆる「ヤンキー」はいないとのことでした。

ただ、「レベルの高い公立小学校」というのが曲者で、中学受験率が非常に高いのですね。帰国前までは、「うちの子はどうせ中学受験なんて無理だから、地元の公立中学校で十分。中学生になってから、高校受験を頑張らせればよい」と夫婦で話し合っていたのです。

しかし、帰国して小学校に通い始めると、まわりの子たちが皆中学受験塾に通っている。そこで私に相談に来た、という経緯です。

 

「今は都立高校も相当レベルがあがっている。日比谷高校は東大ランキングの上位にいるようになった。それなら、帰国生入試をやっているようなよく知らない私立中学に行かせるよりも、高校受験で日比谷を目指したほうが良いのではないだろうか」

 

父親はこう考えており、母親もそれには賛同するものの、周囲から聞こえてくる情報との間で混乱してしまったようですね。

 

2.日比谷高校の狭き門

 

高校受験を考える方が必ずといって口にするのが、「最近の都立高校はレベルが高い」です。たしかに、2025年の東大ランキングでは、日比谷高校は81名(現役65名)と、麻布と肩を並べる実績でした。全盛期(1960年代)の東大193名には及ばないものの、学校群制度のために1名まで落ち込んだ日々を思うと、確かに日比谷高校は復活したと言われるのはわかります。

 

ただ、こうした「目立つ」数字だけに目を奪われると本質を見失います。

都立高校の2番手とされる「西高校」は、東大19名(現役10名)であり、豊島岡女子学園の19名(現役16名)と同じくらいでした。

 

つまり、「日比谷高校をみれば、公立高校の復権が明らかである。無理して中学受験をするより、高校受験で日比谷に行ったほうがよい」

という意見は、「開成の実績を見れば私立中高のほうが東大実績が高いのは明らかである。高校受験するより、中学受験で開成に行ったほうがよい」というのと同じように、意味がないのです。

 

もし、公立高校から、東大を始めとする最難関国立大学を目指すことを考えるのなら、地元の公立中学から、どのような高校に進学しているのか、そしてその公立高校からはどのあたりの大学にどれくらい合格しているのか、ここまで丁寧に見ていかなければなりません。

 

例として、杉並区のとある公立中学校のHPで公表されている、「3年分進学実績」を見てみましょう。

【都立高校】

芦花高校 練馬高校 杉並総合高校 駒場高校 豊多摩高校
杉並高校 松原高校 西高校 千歳丘高校 中野工科高校
大島海洋高校 東久留米総合高校 両国高校 八王子桑志高校 
農芸高校 深沢高校 世田谷総合高校 雪谷高校 園芸高校
鷺宮高校 神代高校 大泉桜高校 新宿高校 豊島高校
青山高校 王子総合高校 目黒高校 文教高校
中野特別支援学校 永福学園高校 

 

このようになっていました。どうやら、過去3年、日比谷高校への進学者は一人もいないようですね。

日比谷高校に進学していないということは、もしかして日比谷高校を蹴って開成高校や筑駒高校に進学した生徒がいるのかもしれません。そこで、私立高校の結果をみると、こうでした。

【私立高校】

文化学園大学杉並高校 科学技術学園高校 東京立正高校 麹町女子高校
岩倉高校 実践学園高校 宝仙高校
品川翔英高校 国学院久我山高校 帝京長岡高校 関東国際高校
駒場学園高校 日本大学鶴ケ丘高校 杉並学院高校 青陵高校 
佼成学園女子高校 下北沢成徳高校 国学院高校 専修大学付属高校 
東京電機大学高校 中央大学杉並高校 目黒学院高校 新渡戸文化高校
日本大学桜丘高校 日本工業大学駒場高校 第一学院高校
佼成学園高校 晃陽学園高校 東亜学園高校 修徳高校 中央高等学院
明聖高校 武蔵野大学千代田高校 東洋高校 聖徳学園高校 
東海大学付属高輪台高校 日本大学第二高校 藤村女子高校
巣鴨高校 女子美術大学付属高校 東洋大学京北高校 堀越高校
国際基督教大学高校 自由ヶ丘学園高校 S高校 N高校 飛鳥未来きぼう高校
 Will学園 未来高校 矢板中央高校 NHK学園

 

早慶附属の高校進学者が一人もいませんね。GMARCH附属では、かろうじて中央大杉並があります。あと人気校ではICUへの進学者がいるのですね。

 

実は、都内の公立中学はおよそ600校ほどとなっています。日比谷高校の募集定員が250名程度(2025は253名)ですので、単純に考えて、公立中学校1校あたりの日比谷高校進学者は0.42名となります。

もちろん、都内全域から受験するはずもありませんが、0名~5名、多くの中学では1名~2名程度というのが実情となっています。

 

例にあげた杉並区の公立中学では、0名が続いているようですね。

 

たしかに日比谷高校は凄い高校で、私も生まれ変わったら通ってみたい高校の一つですが、そこへの道はあまりにも狭いことは考えておかなくてはなりません。

 

3.高受と中受の違い

(1)大人と子供

 中学受験は、小学生、つまりまだまだ幼い子どもの受験です。したがって、本人が自主的に頑張って受験するのではなく、親が子どもをどうコントロールするのかが重要になってきます。

ところが、高校受験は本人の受験です。親の出る幕はありません。

子どもが自分で頑張り、自分で受験するのです。

 

(2)学校の役割

 中学受験における小学校の役割はほぼゼロです。これは小学校の意味が無いといっているのではありません。中学受験に必要な学力を身に着けるのには、小学校の学習内容では全く足りないことを言っているのです。

それに引き換え、高校受験のにおける中学校の役割は大きいものがあります。高校受験は、中学生の学習内容がベースとなっており、学校で過ごす時間をどれだけ有意義なものにできるのかがとても大きな意味を持つのです。

 

(3)学校の評価

 公立高校受験には、中学校の内申が多きな比重を占めます。これは中学受験には全くない部分です。

 したがって、「内申点がとれるかどうか」という観点から、高受と中受を考える必要もあるのです。

 

(4)セーフティネットの有無

 高受で失敗すると、行く学校がなくなります。例としてあげた中学の進学先を見ると、あきらかに「セーフティネット」として選んだと思われる私立高校の名前がありますね。

 

4.大学受験と高校受験を分離する

 大学付属校以外の高校を考える際には、その高校からの大学進学実績を考えますよね。しかし、中高一貫校の大学進学実績と、高校からの学校の大学進学実績は少々意味合いが異なるのです。

中高一貫校の場合は、6年間の時間を活かし、高2までに必要なカリキュラムを消化し、高3では大学受験準備に時間を集中させる学校がほとんどです。大学進学実績は、そうした学校の体制の結果であるともいえるのです。

しかし、高校だけの場合はそうもいきません。例えば私立中高一貫校では、中2までで中学生の数学は終了し、中3では数1に取り組むのが普通です。学校によっては、さらに早い速度でカリキュラムが進みます。しかし高校受験では中学生範囲しか出題されません(基本的には)ので、高1からやっと数1に入ります。そこから加速しても、なかなか中高一貫校のペースに追いつけないのです。

そうすると、学校の勉強以外に自分で何らかの対策を立てる必要がでてきます。

つまり、高校受験生の大学受験は、学校の手柄というよりは、生徒一人ひとりの手柄である側面が強いのですね。

 

例として、開成高校をとりあげます。

この学校は高1から、学内テストの順位を学校内発表します。「百傑」というそうです。開成は中学から300名、そして高校受験で100名入学します。

もし中学から入ってきた生徒と高校から入ってきた生徒の学力が同じなら、百傑の割合は、中受組:高受組=3:1となるはずですが、実際には高1では1:1となるそうです。これは、高校受験組の学力が高いことを意味しています。

しかしこれが高3になると、3:1になるのだというのです。

この理由として2つ考えられますね。

◆中受組が奮起して巻き返した

◆高受組が伸びなやんだ

おそらくは両方なのでしょう。

意地の悪い私はこう考えてしまいます。

せっかく高校受験で開成に入学した子たちは、中受組をも上回る高い学力を持っていたのに、それをさらに伸ばすことができずに中受組に抜かれてしまう生徒が多かったのではないかと。

そこには、学校の授業で伸びていくというより、個人の努力で戦っているような気がするのです。

 

公立高校の大学実績については、入学時の生徒の学力が大きいように思います。あとは本人の頑張りと、もしかして塾・予備校の手柄もあるでしょう。

 

A:高受では、本人の自己研鑽が全て

 冒頭の相談に対する返答はこうなります。

中受なら、6年間という長いスパンで学校に育ててもらう側面が強いのですが、高受ではそうはいきません。まず高校入試突破のためには、学校の勉強を基本として、さらに自分で高校受験のための準備を頑張らないとなりません。そうしないと、日比谷高校はもちろんのこと、西高校にも新宿高校にも、早慶附属にも全く手が届かなくなってしまうのです。

さらに、高校進学後も相当頑張らないと、大学入試で苦戦します。

小5からの中学受験準備、たしかに時間が足りません。しかし、それで中受をあきらめるような「ぬるい」考えでは、高校受験ではもっと苦戦しますし、大学受験はさらに大変です。

海外にいて遅れた分を考えると、高校受験のためには、中学受験生以上の努力が今から必要になるのです。

 

 

※私立中学に入学する生徒のために書いたこの本、一度お読みいただければ、どれくらいの勉強量が必要なのかがわかるかと思います。

 

※こちらで、日比谷高校と翠嵐高校を目指す困難について書きました。

※こちらは、中学受験の目線から高校受験を語っています。

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