中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

中学受験、する? しない? 迷ったときのチェックポイント5

中学受験をするのか、しないのか。

ここで迷う方も多いでしょう。私も相談をずいぶん受けてきました。

私は中学受験の世界の住人です。中学受験原理主義者といってもいい。しかしながら、私は中学受験のことを熟知しています。中学受験は、万人に向くとは言い難いことも理解しているのです。

今回は、中学受験をするのか、しないのか、その根本を決定するのに役立つアドバイスを、いくつかのチェック項目としてまとめてみました。

チェック1・・・地元の公立中学はどう?

A:荒れていてヤンキーも多い。絶対に通わせたくはない

B:ごく普通の中学。別に進学してもかまわない

 

まず最初のチェックポイントはこれです。地元の公立中学の様子はどうですか?

近所ですから、通りすがりに学校の様子を垣間見ることもあるでしょう。通学する生徒の様子を見ることも多いでしょう。ご近所のママ友情報もたくさんあるでしょう。運動会や文化祭等の公開行事に足を運ぶこともできるでしょう。まずは積極的に情報収集してください。

 

私の知人から直接聞いた話を紹介します。

 

知人がその街に越してきたのは、子どもが生まれる前でした。普通の住宅地であり、まずまず落ち着いたエリアだったそうです。古くからの住人もいれば、新しく建売やマンションなどに住むようになった住人も多い。人口構成のバランスもとれた暮らしやすい街でした。ごく普通の公立小学校にごく普通の公立中学校。もし子どもが出来たら、そのまま歩いて通える近所の公立中学校でいいよね。夫婦でそう話していたそうです。実は両親とも私立中高出身です。都心の学校まで1時間以上かけて6年間通学した記憶は、負の記憶として残っていました。学校自体は良い思い出なのですが、通学が大変すぎたのです。また、私立中高の常として、地縁というものはありません。地元の中学に進学することで得られる地域コミュニティというものにも憧れがありました。見かける公立中学校の生徒達も、垢ぬけてはいませんが、純朴そうで好感が持てたそうです。

その夫婦の意見が変わったのには、いくつかの理由がありました。

公立小学校の入学式で見かけた、TPOをわきまえない夫婦。TATOOの父親までいたそうです。授業参観では、まともに授業に参加することすらできない生徒がいます。こうした子たちが地元の中学校に上がってくるわけです。

どの中学校にも「不良」と呼ばれる生徒や、分数の計算もままならない生徒がいることは理解していましたが、実際に目にすると、わが子をそこに近づけたいとは思えませんでした。

見かける生徒の様子から最底辺高校だと思っていた近くの公立高校が、「うちの子の中学からあの高校に進学できれば、悪くはないんだよ」との子どもを通わせている人の声も聞いたのです。

「この中学校にわが子を通わせたくない」

これが知人夫婦の判断でした。

 

またこんな方もいました。

海外赴任が長く、帰国したタイミングでは、上の子は帰国生入試で人気の私立高校に進学させられたのですが、下の子は地元の公立中学しか選択肢が無かったのです。

母親も、またその両親も私立中高出身です。公立中学の状況が全くわからない不安のなか通わせたところ、子どもも親も中学校が気に入りました。「悪い」生徒はほとんどおらず、教育熱心な中学校だったそうです。昔から落ち着いた住宅地として知られているエリアでした。

 

公立中学校は、地元の小学生が「無試験・無条件」で入学します。様々な生徒がいることは事実です。都心の学校には、落ち着いた学習環境の中学校も多いのですが、もちろんこればかりは立地次第です。

公立中学進学が許容できるのか否か。

まずはここを確定しましょう。

 

チェック2・・・高校受験事情を理解している?

A:内申美人のわが子は何の問題もない

B:内申はとれそうもないから、私立高校一択

 

 公立中学校からの高校受験は、都立・県立高校が基本です。

高校から受け入れている私立中高一貫校はほとんど無いからです。

・開成高校

・慶應義塾高校

・早大学院

・早稲田実業

・筑駒

・筑附

・学芸大附属

男子難関校ではこれくらいでしょうか。早慶附属を除けば、最上位層は開成と筑駒を目指しますが、いかんせん募集定員が少ないのです。開成が100名、筑駒は40名です。

次のグループが目指すとするとこんな学校でしょうか。

・広尾学園・ICU・中大杉並・中央大・明大明治・青山学院・明大中野・巣鴨・明大八王子・桐朋・法政二・中大横浜・城北

 

女子はさらに選択肢が狭まります。

女子校は慶應女子とお茶大附、日本女子大附くらいしかありません。あとは共学の大学付属校ばかりですね。

 

必然的に、高校受験戦略は絞られます。

◆都県立高校を押さえとして、最難関私立高校を目指す

◆都県立高校を本命として、押さえとして私立高校を受験する

後者のほうが多数派です。

また、公立高校入試には、「内申」という曖昧な障壁があるのも問題です。中学入試のように、入学試験のテストだけで決まるクリアな制度ではありません。

 

さらに、地元の公立中学校からの生徒がどのあたりの高校に進学しているのかチェックした後は、そうした高校からの大学進学状況も合わせて確認する必要があります。

最近公立高校の復権が注目されていますが、それは「都立日比谷高校」や「神奈川県立横浜翠嵐高校」といったトップ校に限られるのです。現実には、各公立中学からは、日比谷高校や翠嵐高校に進学している人数はせいぜ1名程度です。

その中学からの進学先のマジョリティのチェックは必要です。

 

そうした事情を熟知しているかどうか、その上で子どもに高校受験をさせるのかどうか。

そうした判断をしましょう。

 

チェック3・・・私立中高への通学環境

A:通いやすい範囲に複数の通わせたい私立中高がある

B:通学に1時間以上かかりそうな学校しかない

 

実際に6年間毎日通うのはお子さんです。

先日も大雨災害で交通機関が乱れに乱れました。なんだか最近自然災害が増えているような気がしますね。もちろん大地震も想定しなくてはなりません。

地元の公立中学なら歩いて通えますので何の心配もいりませんが、私立中高に進学するということは、必然的に電車・バスによる通学を選ぶということなのです。

せめて乗換無しであったり、通勤ラッシュと逆方向であったり、あるいは30分程度であったり。そうしたエリアに通いたい学校がみつかるかどうかは大切です。

 歩いていけるところに目指す学校があるのは幸せですが、必ずしも進学できるとは限らないところが問題です。

 例えば、半蔵門に住んでいるのに、女子学院は不合格で洗足学園に進学する。広尾駅近くに住んでいるのに、麻布ではなくて海城中学に通う。西日暮里に住んでいるのに開成中学ではなくて城北中学に通う。そうした事態もありますので。池尻大橋に住んでいるのに駒場東邦ではなくて世田谷学園に進学するのなら、どちらも徒歩圏ですから問題ではないのですが。

 

チェック4・・・家庭環境とのマッチング

A:毎年家族旅行は海外だし、子どもを短期留学させるつもり

B:家のローンに追われ、教育費はかけられない

 

少し嫌な話をさせてください。

平等と思われる日本にも、確実に「格差」は存在します。教育格差や経済格差ですね。教育格差は本人の努力で乗り越えられますが、経済格差は親の問題です。その格差を背景とした漠然とした「クラス」のようなものがあるのは事実です。

私立中高に進学すると、そうした「クラス」の違いが意識されるでしょう。

・入学早々、子どもが吹奏楽部に入ったため50万円のホルンを買った

・同級生たちは、夏休みの家族旅行で毎年海外に行くのが普通

・夏休みの1か月短期留学で100万円かかった

・子どもの一人での外出でもタクシーが普通

・子供たち同士で年に何回もディズニーランドに行く

・同級生の家でお泊り会をしたら家がお屋敷だった

まあこれくらいは当たり前でしょう。子どもの進学を機に、千代田区番町/港区赤坂に家を買って引っ越した、そんな話も聞きます。

 

庶民の私としてはびっくりです。

 

もちろん派手にお金をかけている子ばかりのはずもありません。それでも、「お金に余裕があるけれど海外留学はさせない」のと、「海外に行かせたくてもお金がないから留学させられない」のは大違いです。「散らかっているから家に招けない」のと「狭すぎて家に招けない」のも違います。

このあたりの感覚は、私立といえども千差万別ですね。身の丈に合った学校選びという観点も大切だと思うのです。

(そもそも中学受験を考えている段階で、経済的な問題はクリアされているので問題はないのかもしれまんね)

 

また、経済的な問題以外にも、「格差」を感じることもあります。

あるお母様は、「伝統的なお嬢様学校」として知られる学校に娘を進学させたところ、最初の保護者会で周囲を見回した時に違和感しか感じなかったと言っていました。

「住む世界が違うようでした」と感想をもらしていましたね。

 

チェック5・・・小学校生活を犠牲にする覚悟があるのか?

A:受験勉強に追われる小学生は可哀そうだ

B:小学生が勉強をするのは当たり前

 

きれいごとは申しません。

中学受験するということは、多くの犠牲を伴うのです。

経済的な犠牲についてはここでは書きません。子どもの教育にかかる費用を「犠牲」とは思っていませんので

ここで犠牲になるのは時間です。それも本人と家族の時間です。

小学生だって勉強しなくてはなりません。別に中学受験をしなくても、勉強は必須です。ただ、受験という短期的な目標、しかもそうとうハードルの高い目標を目指した勉強は、ものすごい量と質を要求される勉強なのです。

当然遊び時間はなくなります。友達との交友関係も学校内に限られるでしょう。生活時間も犠牲になります。

それを支える周囲の大人たちも同様です。夏休みの家族旅行はあきらめてください。毎年の里帰りも省略しましょう。親の有給休暇だって、子どもの学習スケジュールに合わせて取るのです。休日だって丸一日子どもの勉強に付き合います。仕事から帰った夜の時間も、ビールを飲みながら寝転がってテレビというわけにはいかないでしょう。

子どものために親がこれを「犠牲」と思わないのかどうかも大切です。

 

「放っておいたって、中学生にもなれば自分で勉強するようになるよ」

そういう考え方もありますね。小学生時代に遊び惚けていたとしても、中学生になると勉強せざるを得ないですから。3年後には確実に高校入試がありますので。

学校の勉強をきちんとこなし、たまに塾に行く程度でも、真ん中レベルの公立高校には進学できるかもしれません。その高校から、大学進学だって可能でしょう。そういう進路も否定する気はありません。

中学受験をするということは、そうした「ぬるい」世界観とは一線を画す競争に飛び込むことを意味します。

そこまで犠牲を払う覚悟が親にあるのかどうかの判断が必要なのです。

 

子どもの学力も性格も関係ない

 

こうした「中学受験をするべきか否か」というアドバイスには、かならずこのことが書かれていますね。

「子どもの性格が中学受験に向くのか、学力適性が合うのかを最初に検討しましょう」

 

これは間違っています。

 

実は、私立中学のほうが公立よりはるかにバリエーションが豊富です。お子さんの性格や学力適性にマッチした学校がいくつも探せるのです。

むしろ、公立中学には向かない性格や学力適性の子のほうが多いはずです。

 

お子さんの性格や学力、あるいは将来の目標に合致した私立中学は必ずあります。丁寧に学校選びをしてほしいと思います。

 

こちらの記事にも詳しくかいています。

peter-lws.net

 

中学受験を決断した際、参考になる本を2冊かきました。ぜひお読みください。