中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

【中学受験】塾の洗脳マジックにご用心!

少々刺激的なタイトルをつけてしまいました。

塾も商売ですから、あの手この手で生徒を獲得しお金を稼ごうとします。

それが「正しい」指導であるのなら何も問題はありません。「授業料に見合った」指導ならよいのです。

しかし残念ながら、そうとはいえない塾も多いのがこの業界です。

今回は、そうした風潮に「警鐘」を鳴らす、とまではいいませんが、こうしたことを言われたら気をつけたほうがよいですよ! といったアドバイスをいくつか書いてみます。

◆「私の指導はちょっと特殊ですから」

 個別指導や家庭教師の先生がよく使うワードです。

「私の指導は特殊です」

「特別な指導法を実践します」

「他とは違うやり方ですから」

 

受験指導のような、目に見えないサービスは、他と差別化するのが難しいのですね。とくに大手集団指導塾は、予算をかけて教材やカリキュラム・テスト体系を作ってきていますので、個人の力でそこに対抗して生徒を獲得するのは困難です。

そこで、「私の指導は、他所では得られない特別なものなのですよ!」と強調することで生徒を集めようとします。

その指導法が、宣伝文句通りなら問題はないのですが、必ずしもそうとは言えないから困りものです。

そもそも教育に、そんなに「他と違った」「スペシャル」なやり方などないのです。

 

だいぶ以前になりますが、教えていた生徒の母親が、そうした個別指導の先生にすっかり心酔してしまったのです。せっかく長く通って順調に成果をあげていた集団指導塾を辞めて、個別指導1本に絞りました。たまに私のところに記述指導を受けに来る以外には、ほぼ毎日個別指導に通います。もちろんこれは「毎日来させてください」と指示が出ているからです。模試の結果を拝見すると、右肩下がりです。いったい何を個別指導されているのか尋ねたのですが、「先生独自のプリント」を解かされているのだとか。過去問演習についても、一切解説はありません。その代わり同じ学校の同じ問題を、何回も解かされるのです。そうやって解答の精度を上げていく「特殊な」指導法だそうです。見るに見かねていくつかアドバイスを試みたのですが、母親は聴く耳を持ちませんでした。入試結果については、可哀そうなことになってしまいました。現在は、妹が同じ先生の指導を受けているそうです。私はこの個別指導の教師を知りませんが、太い金づる扱いされていることくらいは想像がつきますね。

心酔信頼は別物です。

 

もう一つ例をあげましょう。

アメリカの一部のボーディングスクールで行われている授業スタイルに、「ハークネスメソッド」というものがあります。

アメリカの、しかもボーディングスクールといえば、ハーバード等名門大学に卒業生を送りだす全寮制の学校ですね。このメソッドにも期待が高まります。

さて、この「ハークネスメソッド」というのは、「ハークネステーブル」を使った指導法です。

ハークネステーブル?

これは名門ボーディングスクールの一つ、Phillips Exeter Academyにおいて、100年近く前にEdward Harkness氏が考案したものだそうです。

このテーブル、言ってしまえばただの円型の大型テーブルです。

そのテーブルに教師と生徒が10名程度座って、皆で討論します。

それだけ?

期待値が高かった分、拍子抜けしましたね。ただの討論式授業です。

江戸時代にすでに松下村塾で吉田松陰も実践していたスタイルです。

それをいうなら、紀元前4世紀にソクラテスだって実践していました。

教師を交えて生徒達が車座になって議論することなんて、古今東西、珍しくもなんともありません。

これは、「〇〇メソッド」と名前をつけた者勝ちですね。しかも、「あのアメリカの名門ボーデングスクールで実践!」と聞くと、簡単に信者が集まりそうです。

※私はこのボーディングスクールの実際の授業を体験していませんので、その是非を論じているのではありません。ただ、「〇〇メソッド」と名付けられたからといって、そこに魔法は無いということを指摘したいだけです。自分で十分な予習ができるレベルの優秀な生徒たちが集まることで、能動的な学びが行われるこのスタイルが、素晴らしい成果をあげることは想像がつきます。しかし、学力が低い生徒を持ち上げることはできないでしょうし、この人数の授業を実践するためには大勢の教師が、それも優秀な教師を集めなければ不可能であることも想像がつきます。年間1500万円の費用を負担できる経済力も必要ですね。

 

 

◆私は開成中や桜蔭中に大勢合格させてます!

これも、家庭教師や個別指導の先生がよく口にします。

実績を喧伝するということで、それ自体は問題無さそうなのですが。

知人で某大手塾の採用担当をしている人がいます。

その人が、中途採用で応募してきた先生で、真っ先に落とすのが、自分の指導実績をアピールする教師だそうです。

集団指導塾で1科目を担当しているだけなら、生徒の合格の手柄はその教師一人の者ではありません。第一に生徒本人、そして支える両親。塾は4科目担当教師や受付スタッフ全員の協力体制で、合格に導くのです。そんな当たり前のこともわからずに「自分の手柄」自慢をするような教師は信用できない、そういうことなのだそうです。また、4科目を全て教えて合格させた家庭教師なら自慢してもよいのかというと、それも違うのです。なぜなら、指導経験人数が少な過ぎるからだそうです。

これには深く同意しますね。謙虚さを忘れた人間は教師に不適格ですから。

おっと、耳に痛い話でした。

 

◆お子さんのために特別な指導をしましょう

 本当に特別な指導が必要な場合ならよいのです。しかし、必ずしもそれが必要でもないのに、「特別な指導」というワードが出てきたら要注意です。「特別な指導」には「特別な見返り」が求められますので。

通常、それはお金ですね。気が付いたら、通常の月謝の倍以上課金させられた、などと言う話も良く聞きます。

また、こうしたケースもあるのです。

成績優秀だった子が、他塾の「無料」模試を受けたのですね。もちろんトップレベルの成績でした。

すると、その直後から、その塾から強引な勧誘が始まったのです。

「優秀なお子さんの合格を確実にしましょう!」

「お子さんのために、うちの塾のトップ教師による個別指導をしてあげます」

「お子さんの家の近くの教室に、4科目のベテラン教師を集めたタスクフォースを作って指導にあたります」

もう至れり尽くせりの特別待遇の提案です。しかも「奨学金」という名目で、タダ同然の授業料を提案されました。

これだけ「特別感」を演出されれば、思わず心が動きますよね。

もちろんこれは、「合格実績」稼ぎだけが目的です。指導名目など何でもよいのです。とにかく「会員」にさえしてしまえば、堂々と「当塾に入室手続きをして継続して指導した生徒のみの実績です」と謳って実績にカウントできますので。

それでもまだ、その指導が本当に役に立つ「特別」なものであるのならましですが、往々にしてそうではないのです。姑息な手段で実績を稼ごうとする塾にまともな指導は期待できませんので。そもそも力を入れる方向が間違っています。

 

◆〇〇塾だけでは筑駒には受からないですよ

これは最低ですね。

自分の塾の価値を高めるのならまだしも、他塾を下げることで生徒を集めようとするのですから。

もし、他塾を下げるトークを聞いたら、その瞬間に退出することを強くお勧めします。所詮サービス業とはいえ、教育の仮面をかぶっている以上、最低限の矜持は持っていてほしいものです。

 

◆みんなこの講座をとっています

これも多いですね。

「みんながとっているのなら」「自分もとらないと出遅れてしまう」そう思わせるのが目的です。そもそも「みんな」の根拠とは?

「S塾の開成志望者のうちの83%がうちの塾の特訓講座を受講しました。受講しなかった生徒の開成合格率は28%でしたが、うちの特訓講座を受講した受験生の開成合格率は72%に達しました」

これくらいの数字の根拠はあげてほしいですね。それでも、本当にその塾の特訓講座の手柄だったのか、それともS塾の手柄なのかまでは不明です。さらに、兼塾する余裕のある優秀な生徒だけを集めた可能性もあるのです。

 

◆あと〇〇名しか枠が残っていません

これも定石です。消費者を焦らせる作戦です。スーパーのタイムセールや、テレビ通販の「今なら半額!」と同じです。

焦らせることで、冷静な判断力を奪おうという姑息な作戦です。

「今なら入室金免除!」というのも同じ作戦ですね。

そういえば、東大実績で有名な鉄緑会は、中高一貫校に合格した生徒に向けて、「合格おめでとう、次は東大!」というちらしを配っていました。

この塾は、開成・桜蔭を初めとした難関私立中高15校を「指定校」として、中1最初の入室試験だけ免除して受け入れます。

これは上手い作戦ですね。

難関校に合格した生徒の自尊心をくすぐりますし、「今入らなくては!」という焦りも誘います。もっともこの塾は実績も出ているので問題はないでしょうけれど。

 

 

 

◆全てお任せください

本当に全てお任せできるのならよいのですが、必ずしもそうではないのが問題です。

ある中小規模塾(校舎数が5校程度展開)では、外部模試を受験させずに進路指導をしています。塾内のテスト結果と、過去問演習の結果だけを見て、あとはベテラン教師が経験に基づき合否判断をして進路指導をするそうです。

凄いですね。私なら怖くてできません。すくなくとも四谷大塚か日能研の模試くらいは受けさせるでしょう。

この塾に限らず、「全て私どもにお任せください」という塾は多いですね。私はこれを「お任せ系塾」と名付けました。受験にまつわるあらゆることをアウトソーシングしたいという需要に応えているのでしょう。

しかし、こうした「お任せ系塾」に任せることはリスクを伴います。本当に信頼できる「お任せ系塾」との出会いは僥倖だからです。

大半が、生徒を囲いこむことで収益を狙っているだけに過ぎないと思います。

 

◆今年の〇〇中の難易度は上がった

毎年3月くらいになると、各塾が入試分析を公表しますね。HPであったり、分析会を開催したり。

こうした分析を聞いていると、塾の教師はみな口をそろえてこう言います。

「今年は算数が難化した」

「〇〇中の国語は難しかった」

なぜか、「簡単だった」「基本問題ばかりだった」「ますます易化している」とは言わないのです。

理由はわかりますね。

もし入試が「基本問題ばかり」で「簡単」なものだったら、塾に行かせるる必要がなくなるからです。

塾としては、自らの存在意義を掛けて、「難しくなった」「特別な対策が必要」と言い続けるしかないのです。

 

◆お子さんの算数力なら〇〇中は楽勝ですから

「お子さんの算数の力なら、△△中は受かりません。それより〇〇中なら楽勝で受かりますよ」

これを聞いてどう思われますか?

「この先生はうちの子の学力をよく把握してくれている」

「入試問題の分析力がすごい」

「合否を断定できるなんてベテラン」

そう思いますか? もちろんそれが狙いの発言だからです。

 

この仕事を長年続けていると、断定的な物言いができなくなってくるものです。受験指導というのは、不確実な世界の中で、ひたすら確率を上げていく仕事だからです。平均偏差値が65の生徒が30の学校を受験すれば、さすがに合格すると思いますが、それでも「絶対」とは思いません。万が一ということはいくらでもあります。まして、生徒の学力相当の偏差値帯の学校の受験に関しては、本当にわからないのです。まさかの不合格などたくさん目にしてきました。もちろん奇跡の合格も少しだけ。

 

しかし、よくいるのですね。断定的な発言を好む教師が。

「ああ、A太ねえ。あいつは〇〇中は無理でしょ! 受かるはずがないよ!」

「B子は、〇〇中は確実でしょ。算数は抜群だから」

なぜか算数教師に多いような気がしますね。

そして、こうした発言を好むのは、指導歴5年程度の教師が多いような気がします。

ビギナー教師にはこうした発言はできません。ベテラン教師はこんなことを言いません。「ベテランぶりたい」教師に限って、偉そうに断定したがるのだと思います。

 

あまりに曖昧過ぎるのも困りますが、断定されるよりはまだしも罪が浅いと思います。