中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

都立高校社会科入試問題についての所感

気まぐれに、2025年の都立高校入試社会科問題を見てみます。分析というより、所感・雑感レベルです。

大問1 地理・歴史・公民融合問題

 融合というほど大げさなものではありません。まず、問1では、逗子の略地図、さらに写真をみて、2万5千分の1地形図を一つ選ぶ問題でした。写真には右手に海に突き出した半島のような地形が写っています。そうした半島が見られる地形図は1つだけです。瞬殺ですね。また略地図には大きく蛇行する川が描かれていますが、そうした川がある地形図も1つしかありません。

問2は、「・・・御家人を味方につけ幕府を倒した後、天皇を中心とした政治を行った」人物を選びます。選択肢は、後白河天皇・聖武天皇・桓武天皇・後醍醐天皇です。これも選択肢にするレベルではないですね。

問3は、地方公共団体の歳入のうち、説明から国庫支出金を選ぶ問題です。国庫支出金と地方交付税交付金の違いは、小学生でも必須項目ですね。

 

大問1の正答率は66.4%です。

 

大問2 世界地理

問1は、説明に適した都市を地図から選び、雨温図を選ぶ問題です。「雨期」と書いてあるので、雨温図は間違えるはずがありません。さらに「ジュート栽培」とありますね。インドとバングラディシュで9割の生産を占めることはさすがに知っているでしょう。

問2では、地図中の四か国=ブラジル・アメリカ・インドネシア・モロッコに記号があります。それに合った説明文を選ぶ問題です。説明文を読まなくても、千人当たりの自動車保有台数だけ見ても答えられたと思います。860.4台、214.5台、112.3台、77.7台、これを見れば、順に、アメリカ・ブラジル・モロッコ・インドネシアですね。説明文を見ても、「国内で産出される鉄鉱石・・・」はブラジルですし、「歴史的につながりの深いヨーロッパへ輸出」はモロッコ、「関税が撤廃されているアジア諸国に輸出」だったらインドネシアです。

問3は少しだけ工夫が見られます。ヨーロッパの地図に、日系現地法人数、日本への輸出額によって塗分けがされています。そして説明文を見て国を選ぶのです。

「429社の日系法人が進出」とあるので、地図の塗分けから、フランス・ドイツ・イギリス・オランダが選べます。「輸出額4763億円」とあるので、ドイツが消えました。「北東部で産出された鉄鉱石」から、オランダが消えます。「北部にある首都」からイギリスが消え、フランスとわかります。

実はこんなに丁寧に解かなくても、「現在では航空機産業においてヨーロッパの中心となっている」の一文から一発でフランスとわかる問題でした。フランスのトゥールーズにはエアバスの本社もありますね。

 

大問2の正答率は51.5%です。

 

大問3 日本地理

問1は、自然環境と国立公園についての説明から都道府県を地図中から選ぶ問題です。「世界最大のカルデラ」「ため池」など、ヒントというより思い切り答が書いてある問題でした。

問2は、まず説明文を読んでから都道府県を地図から選びます。「さくらんぼ一位」とあるので、さすがに間違えません。表からは、「観光農園売り上げが5億円以上」とあるので、選択肢は2つにしぼられ、もう一つの表から、みかんが無いものを選ぶことで正解となります。

問3で、やっと記述がありました。

ひたちなか市の略地図があります。地図には二つの観光地AとBが書かれていますが、現在は鉄道でつながっていません。

鉄道の延伸と新駅建設予定について書かれています。そこで問題はこうです。

「二つの観光地に間に鉄道が延伸された場合に、交通の利便性がどう変化するのか」を書く問題でした。「移動手段に着目して」とあります。

あれ? まさかとは思いますが。

「鉄道が延伸され新駅が建設されることで、鉄道移動が便利になる」で正解ですか?

模範解答をチェックすると、その通りでした。

これを記述問題にした意図が不明です。たんに日本語が書けるかどうかのチェック?

 

大問3の正答率は55.1%です。

 

大問4 歴史

記号選択問題については省略します。あまりにも簡単なので。

記述問題はこうでした。

「伝統的な美術は,海外から高く評価されるとともに,欧米の表現技法が取り入れられた。とあるが,次のⅠの略年表は,江戸時代末期から明治時代にかけての美術に関する主な出来事をまとめたものである。Ⅱの表は,1867年と1900年に開催された万国博覧会において,日本から出品された絵画の出品数を示したものである。日本から出品された絵画の出品数の変化について,ⅠとⅡの資料を活用し,政府が設置した学校に着目して,簡単に述べよ。」

資料1には、

1867 パリ万博開催

1889 政府が設置した東京美術学校が開校し、日本画の指導が行われた

1896 東京美術学校に西洋画科が設置

1900 パリ万博

 

資料2には、1867年と1900年の万博における出品数が表になっています。

浮世絵/日本画/西洋画の出品数はこうなっています。

1867年・・100/0/0

1900年・・0/92/37

 

ええと。これもまさかと思いますが、

・政府が設置した美術学校で日本画と西洋画が指導された

・浮世絵の出品から、日本画・西洋画が出品されるようになった

これを書くのかな? いくらなんでも簡単すぎるのでは?

模範解答はこうなっていました。

政府が設置した学校において日本画や西洋画の指導が行われる中で,1867年の万国博覧会では全て浮世絵だった日本からの絵画の出品が,1900年は全て日本画と西洋画になった。 

う~む。この問題を記述問題にする意図がやっぱりわかりません。

日本語が書けるかどうかのチェックなのか?

 

大問4の正答率は48.8%です。

 

大問5 公民

気を取り直して、大問5の記述を見て見ましょう。

労働分野においても,情報通信技術(ICT)の活用が一層進むことが予想されてい
る。とあるが,次のⅠの文章は,令和 6 年版情報通信白書の一部を分かりやすくまとめたものである。Ⅱのグラフは,1990年から2040年までの我が国の人口の推移を示したものである。ⅠとⅡの資料を活用し,今後の我が国の労働力の変化と,その変化の中で情報通信技術(ICT)に期待されることについて,我が国の人口の推移と,労働分野における情報通信技術(ICT)の利点に着目して,簡単に述べよ。

これは良さそうですね。今時の社会情勢も反映している問題です。ただ、ちょっと古いですね。10年位前に、中受では良く出されたタイプの話題です。今はICTよりもAIのほうがトピックな話題ですから。

 

もし今ICTについて出題するなら、一時期もてはやされたリモートワークが、なぜ廃れつつあるのか、それについて考察させるくらいの工夫がなければ入試問題にならないですね。

◆コミュニケーション不足
 ・気軽に部下が上司や同僚に質問や相談がしにくくなる

 ・テキストでのやり取りでニュアンスが伝わりにくい

 ・情報共有が遅れる

 ・チームの一体感が希薄になる

 ・社員が孤独感を感じる

◆評価の不公平感
 ・成果が見えにくい

 ・仕事のプロセスが評価されない

 ・短期間の成果しか評価されない

 ・長期的なスキル向上が評価されない

◆労働時間の管理の難しさ
 ・労働時間が長くなる

 ・勤怠管理が難しい

 ・業務量の偏りが生じる

◆仕事とプライベートの境界の曖昧化
 ・仕事と家庭生活のオン・オフの切り替えが難しい

 ・自宅での作業に集中できない

 ・家族がいて仕事が進まない

◆セキュリティリスク
 ・情報漏洩のリスクが高まる

 ・自宅ネットワークのセキュリティ対策が必要となる

◆自宅環境の整備
 ・仕事用の環境整備のコストを社員が負担

 ・ネット環境が不安定の場合がある

◆人材育成・チームワークが困難

 ・新人教育やスキルアップの機会が減少

 ・長期的な人材育成が難しい

 ・チームでの協働や意思疎通が困難

 

ざっと考えただけでもこんなにあります。

これ、今度の中学受験用の授業のネタに採用しましょう。

 

さて、高校入試問題の資料1はこれです。

○人工知能(AI)やロボットなどの活用により,業務の効率化を図り労働資源を効率的に配分することが期待されている。
○テレワークやサテライトオフィスなどの活用により,場所の制約を受けずに就業する選択肢を広げることが期待されている。

資料2は、労働力人口が減少しているグラフでした。

 

これって、資料1に答がそのまま書いてありませんか?

まさか要約問題?

 

模範解答はこうです。

 

人口減少に伴う労働力の減少が予想される中で,情報通信技術(ICT)の活用により,労働資源を効率的に配分することや,場所の制約を受けずに就業する選択肢を広げることが期待されている。 

 

ああ、やっぱり要約問題でした。

 

大問5の正答率は55.5%です。

 

大問6 世界地理

 

すべて記号です。

 

世界略地図から、説明文に合った国を選ぶ問題は、説明文がわかりやすいので間違えようがありません。

経済成長率推移のグラフをヒントとして説明文に適合した国を地図から選びます。グラフはヒントというより答になっています。

もう一問、グラフからアフリカを選ぶ問題がありました。これも日本の貿易相手国についての常識があれば大丈夫でしょう。

 

大問6の正答率は45.0%です。

 

まとめ

さて、ざっと都立高校社会科入試問題を見てきましたが、どうですか?

 

いったいこの問題でどれくらい得点できればよいのでしょう?

さすがに中3の受験生なら百点が基準でしょうか?

 

いろいろ調べてみると、難関高校は90点/100点はとるようにとありました。これはわかります。でも、平均点は59.9点なのです。

 

 

私がふだん指導している中学受験生でも、9割くらいは取れる生徒が何人もいると思います。世界地理は知識がありませんが、かなりヒントが散りばめられているので、何とかなりそうです。そこを2問落としたとしても90点台。日本地理と歴史・公民は間違えてはいけない問題ばかりです。中学受験生なら最低でも全部で7割はとれないとさすがにまずいレベルだと思います。

 

別に高校受験を馬鹿にするつもりはないのですが、予想以上というか、相変わらずの問題レベルです。小学生でも7割以上はとれる問題を中3が解くのですから。

 

それでも資料読み取りによる記述らしき問題が増えているのはそれなりに工夫されているということなのでしょう。記号選択問題でも、グラフを読み取らせようという意図が見えています。

 

易しい理由

 

いったいなぜ都立高校の社会科入試問題がこんなことになってしまっているのか?

 

理由はたった1つですね。

都立高校の入試問題は、東京都教育委員会謹製の共通問題だからです。

 

例外としては、「進学指導重点校」に指定されている日比谷、国立、西、戸山、青山、立川、八王子東の7校と、「進学重視型単位制高校」の新宿、国分寺、墨田川、そして国際(英語だけ)の計11校が「自校作成」問題を出題しますが、それも英数国3科目だけです。

 

偏差値表の一番下から一番上の学校まで同じ問題を出題する。

中学受験の世界の住人からすれば、Unbelievable! というより、No way! ですね。

 

ただし、平均点が59.9点というのは、「適正な問題」であったことを示しています。

問題なのは、この入試問題のほうではなく、受験生側にあることは明らかです。

 

得点分布を見てみると、この問題で、半分もとれない生徒どころか、2割・3割しかとれなかった生徒がたくさんいるのです。

 

公立中学校の先生方の苦労がしのばれます。

 

 

詳細はこちらをごらんください。

www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp