私の講座には、海外からリモートで参加している生徒もいます。
保護者からの相談も多く受けるのですが、やはり皆さん悩みが多いのです。
「現地にまともな塾が無い」
「現地校の課題が多くて勉強時間がとれない」
「英語で手一杯で他教科ができない」
「教材が手に入らない」
「学校説明会に行けない」
今回はこうした問題点をざっくりと整理して、海外からの中学受験必勝法についてシンプルにまとめてみます。
海外と国内の違い
まずは、海外ならではの「中学受験」に際しての問題点について、国内と比較して整理します。
(1)情報が少ない
ここでいう「情報」は2つです。
中学校に関する情報と受験勉強に関する情報ですね。
学校に関する情報は、直接足を運ぶことで得られます。それが不可能なのです。
また、受験勉強に関する情報とは、子どもの成績データであったり、日々の学習のアドバイスであったり、あるいは塾についての情報であったり、国内にいれば、クチコミのような形で「あの塾は〇〇だから」といったものも得られますし、学習で躓けば、塾の先生に相談することも簡単ですね。
実は、「情報が少ない」環境は、「デマが広がりやすい」環境でもあります。国内では誰も信じないような「眉唾」ものの情報が流れやすい素地があることも要注意です。
(2)指導者が少ない
日本の塾が展開している海外都市は多くありません。国内なら、同じ駅前に、有名塾が軒を連ねているのが普通ですが、海外ではそもそも選択肢が無いか、あっても少ないのです。指導者の質などといった贅沢を言ってはいられない状況です。
(3)教材が少ない
書店で参考書を手に取って選ぶような贅沢はできません。
(4)ライバルがいない
生徒同士が切磋琢磨して受験を目指す環境がありません。
現地校に通っていれば、クラスメイトのほぼ全ては日本の中学受験とは無縁です。そんな中で、一人受験勉強をするのは孤独な戦いです。
(5)時間が足りない
学校の勉強とは別個に受験勉強をしなくてはなりませんが、その時間が足りないのです。ただし、これは日本国内の小学生と状況は同じです。小学校の学習内容は中学受験には役立ちませんので。
もっとも、少なくとも「日本語環境」であることは国内のメリットです。
(6)帰国時期が不明
こればかりは何ともなりません。個人でコントロールできる問題でもありません。したがって、今回はこの問題については検討しないことにします。
対応策
それでは、順に対応策について考えてみましょう。
(1)情報が少ない
◆学校情報について
幸いにして、コロナ禍が状況を大きく変えました。
今や多くの学校で、ネットを使った「オンライン学校説明会」を実施しています。
まずは徹底的にそれを利用しましょう。
その上で、一時帰国した際に、精力的に学校を訪問してください。
多くの学校では、正規の学校説明会の時期以外でも、相談に応じてくれるものです。
また、帰国生入試を実施している学校の多くは、「帰国生入試担当」の先生がいらっしゃいますので、まずは連絡をとってみます。
最初から門前払いの学校は少ないと思います。
もちろん、「誠意をもってお願い」することが前提です。
帰国生だから、といった特別な配慮を最初から期待すべきではありません。学校側にとって負担となることを理解しましょう。
※アドバイス
国内受験生の場合、志望校選びを目的とした学校訪問の時期は、小4~5年生の時期となります。早い学校では4月くらいから受験生保護者対象の説明会がスタートします。だいたい11月くらいまで続きます。はじめての中学受験の場合には、とにかく情報がありませんので、10校や20校くらいの説明会に行かれる方も普通です。そうして学校を直接見て、先生方のお話をうかがい、生徒たちの様子を観察するうちに、学校に対する「選択眼」のようなものが出てくるのですね。
しかし、海外にいる場合には参加が不可能です。限られた一時帰国のタイミングを活用しても、そんなに多くの学校を訪問することは困難です。とくに夏休みに入ってしまうと、先生方も時間をとりづらくなりますので。
だからこそ、学校訪問スタートを前倒しにして、早い段階から積極的に動く必要があるのです。
◆受験関連の情報について
子どもの成績データについては、海外でも受験可能なテストがいくつもありますので、それを利用すれば済む話です。
日々の学習の躓きや相談については、もうこれは「親」が頑張るしかありません。
信頼できる先生と「リモート」で繋がることができれば幸運ですが。
(2)指導者が少ない
これはあきらめましょう。
海外の塾の先生は、「それなり」の先生しかいないと腹をくくるべきです。
「親」が頑張るしかありません。
ただし、単なる授業なら「オンライン授業」を利用するのは良い作戦です。
いくつかの塾で配信していますが、ベテラン教師の無駄のない講義を自宅で受講できるのですから。
※海外塾の講師事情についてはこちらに詳しく書いています。
(3)教材が少ない
これはむしろ利点です。
受験に必要な教材など、実はそう多くはありません。
◆日々の学習のペースメーカーとなるような教材
◆参考書
◆問題集・ドリル等
◆入試問題集
どれも海外でも入手が簡単です。
例えば、四谷大塚の予習シリーズを買えばよいのです。
週ごとにカリキュラムが細かく定められていますので、それに従って自学自習が可能です。
(4)ライバルがいない
これは不要です。
確かに日本の塾で同じ学校を受験する仲間たちと切磋琢磨することで高い水準まで登ることは可能です。しかし、そうした環境が得られる塾は国内でもほとんどありません。
これは「無い物ねだり」だと思ってください。
中学受験は、自分との戦いですので。
(5)時間が足りない
厳しい言い方をしましょう。
これは「甘え」です。
国内の受験生も海外受験生も持ち時間は同じです。
具体的なアドバイス例
通信講座を活用するのは良い作戦です。
そもそも塾の役割としては、以下のようなものがあげられます。
(1)カリキュラム・教材・テスト
(2)授業
(3)情報提供・アドバイス
通信講座は、このうちの(1)と(2)が提供されています。
授業に関しては、双方向の授業を売り物にしていたり、丁寧な個別指導を目玉にしている塾も多数ありますが、ほとんどの場合、教師がそうした授業を実施できる水準にありません。それならば、コンパクトにまとまった映像配信授業を何度も視聴するほうがはるかに時間の節約になると思います。
◆四谷大塚「進学くらぶ」
今のところ、私がお勧めできる通信講座はここだけです。
〇映像配信授業
〇教材:予習シリーズ
〇テスト
この3種類が高水準でリンクしているからです。
もともとこの塾は「テスト会」が母体です。
日曜日にテストを受けるだけの塾でした。生徒達は、家で「予習シリーズ」を使って自学自習して、テストにのぞむ、というスタイルの塾だったのです。
したがってもともと「授業」はありませんでした。
今はもちろん授業中心となりましたが、教材とテストの体系の完成度は相変わらず高い塾ですね。
映像配信のほうは、東進ハイスクールという「映像系予備校」を運営する「ナガゼ」の子会社となってからはじめました。
ただし、このスタイルの学習では、「生徒の疑問を解決する」過程が抜け落ちます。
そこで、これに「親塾」をプラスすることで完結できるのです。
◆Z会
こちらも、「通信添削講座」の老舗です。
したがって、海外における「通信講座」としては選択肢になるのですが。
高校受験・大学受験としては良いと思います。
中高一貫校生の学習にも有効です。
ただし、残念ながらここには中学受験のノウハウはありません。
低学年のうちの基礎的な学習としては有効かもしれません。
★NHK for School
私が全力でお勧めしたいのがこれです。
Webで配信されています。
もともとは小中学校で授業の一環として生徒に視聴させることを前提として作られたコンテンツだと思います。
しかし、その内容は多種多様で実に面白いのです。
理科・社会についての知識のネタの宝庫です。
「昔話法廷」シリーズなど、大人が見ても面白いので、一度ごらんになってください。
このコンテンツを数本見せて、関連知識を整理したり討論するような授業を実践する塾なんて、やってみたいですね。商業利用になるので不可ですが。
ただし、このコンテンツを海外で見られるのかどうかは不明です。
日本のサーバー経由で日本国内のあらゆるテレビ番組やネット情報にアクセスできる「裏技」があるのだと海外駐在の方にうかがったことはあるのですが、合法なのかどうかは知りません。
あきらめないで
30年ほど前に教えていたある生徒のことを思い出しました。
国内最難関校を目指して頑張っていた生徒です。しかも成績も順調で、このまま行けば十分期待できる生徒でした。しかし、小学5年生になるタイミングで、親の赴任に帯同してアイルランドに行くことになってしまったのです。
お母様から相談されました。
家族全員で行く予定なのだが、子どもが絶対日本に残って〇〇中学を受験するんだ!と言うことをきかない、そういうご相談だったのです。
選択肢1:父親だけ単身赴任・・・家庭の事情により、これは不可能。
選択肢2:中学受験はあきらめさせる
選択肢3:中学受験をすることを前提に家族でアイルランドに行く。2年後なら受験可能。
親の希望は選択肢2でした。せっかくの機会ですので、日本の受験という狭い枠組みにとらわれない教育を与えたいという希望だったのです。
本人と腹を割って話をしました。その結果、選択肢3をとることになったのです。
その真意は、「2年間もアイルランドにいれば、本人の価値観も変わってくれるだろう」というものだったのです。
その上で、必要な参考書・問題集類と、学習の注意点などをアドバイスしました。
孤独な戦いです。
現地には、日本の受験塾は無いのはもちろんのこと、日本人コミュニティですら無いも同然です。なにせ人数が少ないのです。
今と違って、ネットを活用した通信講座はありませんでした。
動画通信ツールのSkypeの登場は2005年です。
Gmailの登場は2004年です。
パソコン通信(死語です!)のNIFTY-Serveのサービス開始が1987年です。
30年前には、画像どころか音声のチャットツールすらなかったのですね。
この子はあきらめませんでした。
2年間、自分ひとりの孤独な戦いを続け、ついに初志貫徹、志望校の受験を果たしたのです。
その結果ですが。
これで合格したなら「美談」となるところだったのですが、受験はそう甘いものではありません。
残念な結果に終わりました。
しかし、その後会った子どもの表情のすがすがしかったこと。
受験とそれに立ち向かった経験が、この子を大きく成長させたのですね。
海外からのご相談を受けるたびに、この生徒のことを思い出してしまいます。
ICTの急速な進化により、今や世界どこにいても国内と同じ学習環境が整えられるようになっているのです。
あきらめる理由などありません。