今回は、2025年の入試問題から私が気になった問題を1問だけピックアップしてみたいと思います。
2025年 女子学院中 国語からです。
「わたくしとは何者か」
「桜の木が見守るキャフェ」(標野凪)からの出題でした。
標野凪は、いわゆる「中学入試頻出作家」ではないと思います。
「終電前のちょいごはん 薬院文月のみかづきレシピ」
「今宵も喫茶ドードーのキッチンで。」
「いつだって喫茶ドードーでひとやすみ。」
「こんな日は喫茶ドードーで雨宿り。」
「伝言猫がカフェにいます」
「ネコシェフと海辺のお店」
作品タイトルを見ただけでも、「ふわっと」したかんじですね。ドラマティックな展開が無さすぎて、入試問題には使いづらいのだと思います。去年の三鷹中等教育学校で「今宵も喫茶ドードーのキッチンで。」からの出題があったくらいしか私も知りません。
さて女子学院、ふだんは説明文とエッセイばかり出題する学校なのですが、今回は物語文を使ってきました。
よく入試問題分析で、「〇〇中は説明文しか出さない!」といったことをおっしゃる塾・先生がいますが、危険です。別に中学校は何を出してもかまわないのです。国語に限った話ではないですが、特定の学校の入試傾向にフォーカスしすぎた対策は避けたほうがいいですね。総合力を高めることが最も大切です。
この小説は、祖母の代から続く古い洋館でキャフェを営む女性「緋桜」が主人公です。それを、庭にあるヤマザクラの古木からの視点で描かれています。
冒頭にこの文章があります。
「・・・この時期、まるで動きが見えないように見える他の植物も、次の季節のための準備をしている。もちろん葉を落としたわたくしも同じだ。」
「わたくし」って誰だろう?
続く文章はこうです。
「・・・・薦めると、加奈は一口齧り・・・」
なるほど。加奈以外の誰かだな。
「・・・今朝、自分で買いにいってきたのだと伝えると・・・」
ここで、「わたくし」=「加奈以外の誰か」=「和菓子を買ってきた自分」とつながるので、「冒頭のわたくしは緋桜のことか」と結論づけますね、普通は。
主人公の名前が緋桜ですから、「ああ、緋桜という女性についての隠喩なのかな。葉を落としたというのは、虚飾を捨てた、あるいは心をリセットした、そんな意味?」と考えるでしょう。
その後「わたくし」は登場しないので、気にせず物語を読みましょう。
緋桜は、季節の和菓子とお茶を提供しています。そこを訪れた加奈は、手作りのバッグを販売しています。緋桜はそのバッグを、都子という人からプレゼントされました。都子が緋桜のことを思ってバッグを選ぶことと、緋桜の客を考えたおもてなしが同じだという会話がなされています。
そして最後に
「・・・緋桜は不安そうだけれど、大丈夫、ちゃんとできていますよ。わたくしは見ていますから。」
となっていて、おそらく受験生は?となったはず。
あれ? この「わたくしって誰?」
ここには、加奈と緋桜しか出てきていなかったはず。都子と言う人物が話題になっただけ。
しかもこれだけのヒントから、「わたくし」とは何者か説明させる出題がありました。
庭にヤマザクラの古木が生えていることなど、この文章のどこにも触れられていません。たった一つ、「桜の木が見守るキャフェ」というタイトルだけがヒントなのです。
これはかなり乱暴な出題だと思います。正答率が知りたいところですね。もっとも女子学院を受験するレベルの子たちなら、難なく見抜くのかもしれませんね。
問題に使われている文章だけから推理する。
これが入試読解の鉄則ですが、そこに「本のタイトルも重要なヒントとなる」と付け加えておきましょう。
※中学入試の入門書を書きました。
タイトル通り、「今さら人にはきけない」基本的な内容を網羅しています。