渋谷渋谷の問題は、長い文章ー物語文と説明文の2題構成でした。そのうち説明文にフォーカスします。
「インターセクショナリティという描像から社会をみる」ことによる効果のうち、筆者が最も価値を見出しているのはどのようなことですか。
この説明文に出てくる語句を並べてみます。
・人種的マイノリティ
・性自認
・シスジェンダー
・性的志向
・異性愛
・ヘテロセクシュアル
・マジョリティ
・ジェンダー
・セクシュアリティ
・ホワイトカラー
・ブルーカラー
・インターセクショナリティ
・ロールズ流の正義
・比較衡量
・アイデンティティーズ
・複合差別
・モチベーション
・民族的アイデンティティ
・モチーフ
・センス・オブ・ワンダー
・アップデート
この用語の理解がまず難しい。いちおう注釈がありますが、これだけです。
・マイノリティ・性自認・性的志向・マジョリティ・ホワイトカラー。・ブルーカラー・勾配・ロールズ・衡量・アイデンティティ・センス・オブ・ワンダー
足りないですね。「ロールズ流正義」についても、「ジョン・ロールズ。二十世紀の政治哲学者」とあるだけです。それだけでわかるかい!
せめて、「20世紀の政治哲学者ジョン・ロールズが主張した、全ての人の平等と自由を基本とする考え」くらいは欲しいですね。ロールズの大著「正義論」は、私は大昔に図書館で見かけて手にとったことがあるだけです。あの頃ですら読む気がわかなかった本、今さら読めません。そこでこちらをお勧めします。
これを1冊読んだくらいでロールズの思想を理解できるはずもないですが、せめてこれくらい読んでおくべきだと思うのです。
さすがに小学生向きではありません。せめて中学生で読んでほしいです。
さて、この文章は、ある程度予備知識があることを前提とした文章ですね。出題者としては、文章中から推測・理解しろ、ということなのでしょう。
さらにこの文章は理解しやすさを優先しているとは思えない表現が多用されてています。
「・・・という主張を含意しません」
「・・・特定の比較軸における劣位の極が論点化される以前には・・・」
「・・・属性単位の軸があり・・・」
「・・・一種の階級的な硬直性をもっており・・・」
「・・・社会的な力の勾配があります。」
「・・・特定の属性というものは軸の片方の極であって、その属性が力の勾配のどちら側であるのかは変わりうる・・・」
「・・・制度として営まれている国家単位および経済的に結びついたグローバル規模など、社会単位での力の勾配・・・・」
「ロールズ流の正義、公正さを考えるとき・・・」
「インターセクショナリティをふまえて、複数形で語られるべきアイデンティティーズの在り方・・・」
きりがないのでこれくらいで止めますが、文章全体がこんな調子です。英語の学術用語?をそのままカタカナ表記して濫用する専門家を私は信用しません。読者にわかりやすく語る努力を放棄しているからです。
・本人にとっての常識が世間の常識だと勘違いしている
・専門用語を駆使することで自らの権威を高めると勘違いしている
・読者にわかりやすく説明する必要がないと勘違いしている
・わかりやすく説明する文章力が不足している
さて、この文章は朱 喜哲(チュ ヒチョル )の「〈公正(フェアネス)〉を乗りこなす: 正義の反対は別の正義か 」からのものでした。朱 喜哲氏はプラグマティズム言語哲学の研究社です。「プラグマティズム言語哲学」については聞かないでください。私にもさっぱりです。
私は、「背伸びした」読書が好きです。大人になれば、嫌でも「わかりやすく読みやすい暇つぶし」読書ばかりになりますので、せめて中高生・大学生の頃は、簡単な理解を阻む難解な文章に挑むべきだと思うのです。
この文章も、高校生くらいが読むと学びに満ちていると思います。中で軽く触れられている「ロールズ流の正義」、ジョン・ボードリー・ロールズという偉大な政治哲学者の名前をここで知り、さらにロールズの著作にチャレンジしてみる、そういう読書は素敵です。どうしても理解できないところは、周囲の大人に聞きながら理解しようとする、そういう読書も重要です。私も高校生のころ、パスカルの「パンセ」を、3日で1ページくらいのペースでじっくり読んだことを思い出しました。
しかし、この著書はまったく小学生には向きません。文章の内容を理解するより前に、性自認や性的志向、ジェンダーについての基本的理解ができていないからです。
専門家の方の中には、難解な概念をわかりやすく言語化して伝える術に長けている方もいますが、この方はそうではないようですね。
いったい渋谷渋谷が何を意図してこの文章を採用したのかはわかりません。この問題を解くにあたっては、真の読解・理解は捨てて、とりあえず解答を導き出す、そうしたテクニックを駆使するだけです。
取り上げた問題についても、傍線部の後ろはこう続いているのです。
「そのひとつは・・・・」
「またそれと関連して、すぐに補足すべき点があります。・・・・」
「もうひとつ、きわめて重要なのは、・・・・」
筆者が自分で「きわめて重要」と言っていますので、ここに求める答のヒントが詰まっていることはすぐにわかりますね。