
歴史の学習が始まります。地理の不振を取り返す大チャンスです。この歴史の「正しい」学びかたについてアドバイスいたしましょう。
カリキュラム
多くの中学受験塾では、5年生の後半から歴史を学びはじめます。ちなみにSAPIXでは、5年生の9月から、歴史の学習がスタートします。そのまま5年生の1月まで、全19回で歴史の最後まで進むのです。もちろんこれだけの回数では不十分です。そこで6年生の2月から全10回にわたり、歴史をもう一度角度を変えて学びます。5年生の一周目は政治の流れを中心に、「歴史人物の紙芝居」を語るつもりで、そして6年生では政治史のおさらいの次に、外交史・産業史・文化史といったテーマ別に切り口を変えて授業を進めます。実は昔のSAPIXの歴史は、1周しかしなかったのです。そのかわり丁寧に細かい知識まで一度に扱いました。ただしこのやり方だと、定着ができないのですね。そこで、2周する今のカリキュラムに私が変更しました。これが功を奏したのは間違いありません。
塾によっては夏休みから歴史に入るところもありますが、受験回のスタンダードともいえる四谷大塚の予習シリーズでも9月から歴史が始まるようになっています。
歴史学習のアプローチ
歴史を学ぶ上で、必要な内容を整理します。
(1)年代を暗記する
中学受験に必要な歴史年代は、およそ100~150個程度です。これは丸暗記する必要があるのです。さすがに入試では「大政奉還は何年ですか?」といった低次元の問題は出されません。その代わり、「以下の中から、大正時代でないものを全て選びなさい」「次のA~Jの文章を、正しい順に並べ替えて答えなさい」といった、歴史年代の知識がしっかりしていれば瞬殺で解け、知識がないと時間がかかるうえに間違えるタイプの問題が良く出されるのです。
ただし、難関校を受験するのなら、「語呂合わせ」はお勧めできません。世の中には、「歌って覚える年代暗記」的な教材まであるようですが、くだらないですね。小学生の柔軟な頭脳なら、文字通りの「丸暗記」がいくらでもできるのです。
この年代暗記のやり方については、本を書いていますのでよろしかったら読んでみてください。
ただしこの本には、奇をてらった暗記術は紹介していません。全て私がSAPIXの生徒に実践して効果が上がった方法だけを紹介しています。
(2)人物を整理する
歴史は、いわば「人物ドラマ」です。NHKの大河ドラマを見ていると、そこに出てくる人物についtだけやたらに詳しくなりますよね。歴史をドラマとしてとらえるとおもしろくてたまりません。これもある意味正しいアプローチです。
ちなみに、私は大河ドラマは一切見ないことにしています。本当は見たいのです。社会科教師ですから、歴史は大好物です。しかし、こうしたドラマは、あくまでも「フィクション」です。本来の歴史事実を曲げていたり、「仮説」をとりあげたり、あるいは実在しない人物も登場します。これを見てしまうと、私のもっている「歴史観」にノイズが入ってしまうのです。つい授業で、間違った知識を披露する危険性があります。だから見ることができないのですね。教師を引退してから観ることを楽しみにしています。
閑話休題、歴史人物から入る学習も有効ですが、このやり方では、文化史や産業経済誌が抜け落ちるという問題があります。
(3)時代背景を理解する
例えば、「ペリーが日本に開国を迫った理由」について考えてみます。
一義的には、「捕鯨船の補給地」として日本の港を利用したかったことがあげられます。
当時鯨油は潤滑油・照明の燃料等で大量に必要であり、油をとる目的の捕鯨が盛んにおこなわれていました。ちなみに、太平洋の真ん中にあるハワイも、当時は捕鯨船の基地として栄えています。「白鯨」の著者、ハーマン・メルヴィルも立ち寄っていますね。ペリー以前のお話です。
次に、中国(清)との交易路の問題がありました。ヨーロッパ諸国が産業革命以降世界中に植民地を求めて進出する中、アメリカは出遅れています。最後に残った「植民地候補」として清にヨーロッパが注目しますが、もし太平洋を直行できれば、たちまちアメリカが植民地競争のトップに踊りでることができるのですね。その際の寄港地として日本の港を開かせることは重要でした。
通常はここまでの理解で十分ですが、まだ付け加えることはたくさんあります。
漂流民の保護も大切です。これは、遭難したアメリカの船員の保護を日本に求めたいということです。
さらに、ペリー来航の数年前にカリフォルニアで金が発見され、いわゆる「ゴールドラッシュ」が始まります。一気に西部まで開拓が進み、アメリカの目が太平洋に向けられていたのです。ちなみに日本の漂流民として有名な「ジョン万次郎」も、カリフォルニアの金採掘に加わり、日本に戻る資金を得たようですね。
このあたりが十分に理解できると、「なぜ江戸時代の日本は欧米の植民地化を免れたのか」という難しい問題にも対応できるようになってきます。
このように「時代背景の理解」から入る歴史学習はいわば理想的です。しかし現実的ではないのです。
上の説明ではさらりと流しましたが、そもそものきっかけはイギリスにおける産業革命です。これが世界の勢力地図を大きく塗り替えることになったのです。そしてなぜイギリスで産業革命が起きたのか、それも考察したい内容です。
つまり、理解にはキリがない、というかいくらでも深堀りができますし、掘れば掘るほど面白くなっていきます。
そうした授業も思う存分やってみたいのは山々なのですが、中学受験生にはできません。なぜなら、時間がいくらあっても足りなくなるからです。また、世界史や世界地理の知識も教える必要が出てきてしまい、これも中学受験の範囲を逸脱してしまいます。
(4)歴史資料を熟読する
お手元に中学受験用の「歴史資料集」があるかと思います。
ちなみにSAPIXでは、浜島書店の歴史資料集を使っています。

内容的にはよくできています。ただしこれは、一般書店販売はありません。中学校専用教材となっています。
そこで、現時点で入手が簡単なのはこちらになります。
地図帳で有名な帝国書院の資料集です。
こちらなら、一般書店でもアマゾンでも購入できますし、内容もなかなか見やすくまとまっていますのでお勧めです。
※歴史資料集についてはこの記事に詳しく書いています。
手元の歴史資料集を、それこそすり減るまで熟読してほしいのです。ただ単に写真資料問題に強くなるということだけではなく、無味乾燥になりがちな文字だけの歴史の学習を彩り豊かにしてくれるのです。
授業の隙間の時間に、歴史資料集を読みふけっている生徒をたまに見かけます。あるいは、授業では扱わないような細かい内容が気になって質問に来る生徒もいます。こうした生徒になってほしいのです。
暗記から逃げない
実は歴史学習には、ある誤解が広がっているのです。
「内容も理解していないのにただ丸暗記しても意味がない。まずは時代背景をきちんと理解することのほうが大切だ」
なぜか、父親がこう言うケースが多いような気がします。
これは間違っています。「理想」と「現実」を混同しているのです。
6年生になって最初の授業で、私はいつも歴史年代のテストをしていました。年代150個を書く、ただそれだけのテストです。すると、全く書けないのですね。一番優秀な生徒でも50個程度、大半の生徒は20個程度で固まっています。ひどい生徒になると数個しか答えられません。つまり、5年生から半年近く歴史を学んできているのに、まったく覚えていないのです。「暗記」することを軽視してきた子の末路といえるでしょう。
そこで、正しい暗記のやり方をレクチャーします。すると、1週間で満点の子が続出します。一度こうなると強いですね。
歴史の授業が始まった今だからこそ、暗記から逃げずにきちんと覚えていきましょう。知識を定着させていきましょう。

