
企業は、あの手この手で広告宣伝戦略を考えています。たった一言で企業理念を表したり、消費者に強い印象を与える場合もあります。
「〇〇〇〇〇、翼をさずける」
「吸引力の変わらない、ただひとつの掃除機」
「水と生きる」
「そうだ、京都、行こう」
「シカクいアタマをマルくする」
「お、値段以上」
こうして並べてみると、企業や商品が思わず頭に浮かびます。
そうした中に、「〇〇〇スイッチ」というものがあります。グループ企業の正式名も「〇〇〇スイッチホールディングス」です。
これも実にうまいブランド戦略ですね。
「うちの子もスイッチさえ入れば・・・」
「いつかきっとスイッチが入るはず」
「うちの子のスイッチはどこにあるのだろう?」
そうした、親のわが子にかける期待をくすぐる絶妙なワードです。
しかし、断言できますが、小学生にはそんな「魔法のスイッチ」はありません。
中学生と小学生の違い
実は、このワードを全面にだしている教育企業の受験における主戦場は、「高校入試」の個別指導塾です。
高校受験の世界と中学受験の世界はまったく違います。
最も大きな違いは、親の手を離れるかどうかです。さすがに中学生にもなると、毎日親がべったりと子供の勉強の進捗状況を管理して勉強を教えている家庭は無いでしょう。もしあったとしたらそれは相当問題です。
もちろん、「そろそろ塾に行ったら?」という声掛けくらいはするでしょうし、「こんな成績じゃ高校どこも受からないよ!」と叱責もするでしょう。塾選びもしてあげるかもしれません。親はスポンサーですから。しかし、中学生ともなると親の操り人形ではいられません。子供本人が納得の上で塾に通うのが普通です。
さらに、高校受験は「後が無い」崖っぷちの受験です。失敗すれば「中卒」になってしまいます。なんとしてでも高校に合格しなければならないことは、さすがに中学生もわかっています。もっとも最近盛況の通信制高校は、高校受験に失敗した生徒の受け皿として機能していることを考えると、そこまでせっぱつまった状況ではないのかもしれません。
高校受験の場合は、自らの意志で勉強をしないかぎり、成功は見込めません。これはスイッチを押されたから、ということではなく、ほぼ全員がいつか必ずそうなる「通過点」と考えるべきでしょう。「うちの子は中3の夏になったら、自分で勉強を始めるようになった」など当たり前の話です。それを「魔法のスイッチを押してもらったから」と思い込むのは自由です。
知人の高校受験専門の先生に聞いたり、あるいは高校受験塾の授業を拝見させてもらって気づいたことがあります。
中受とは別世界なのです。
いかに中学生に「楽しく」通ってもらうか、いかに勉強嫌いの中学生を「その気」にさせる授業をするか、そうした、勉強の本質部分以外のところに力を注いでいる、というのが私の印象でした。どうやら中学生たちは、授業がつまらなかったり、よくわからなかったりするとすぐに来なくなるのだそうです。
だから、「〇〇を歌で覚える」といったパフォーマンス系の授業が多いのです。私が拝見したそうした社会科の授業は(地方都市でしたが)、教師が嘘の知識を平気で教えていてびっくりしましたが、人気教師とのことでした。
また、地元密着型の塾では、学校の内申点を向上させることを謳っているところも多数あります。
SAPIX中学部のような難関校に特化した塾ではなく、全国のどの町にもあるような高校受験専門塾の話です。
(高校受験塾はそんなことない! という批判はご勘弁を。あくまでも私が見聞した狭い範囲のお話にすぎませんので)
一般的には、中3の夏、部活の最後の大会が終了してからが、本格的な高校受験勉強のスタートだそうです。もちろんその前にも、継続して学校の勉強をきちんとこなしていなければ、内申点が高くつきませんし、その場合は高受の土俵にすら上がることはできません。塾に行く・行かないは別として、日ごろから学校の勉強はまじめに取り組むのは前提です。そのうえで、「受験」を目指して本格始動するのが中3の夏から、というわけですね。
ただしこれは、開成・筑駒・慶応女子・都立日比谷といった最難関校を受験しない生徒の場合です。これらの最難関校を受験する生徒たちは、中学入学時点から全速力です。
翻って、中学受験の場合はどうでしょうか。
小3の夏、子供がこう言いだしました。
「お父さん、お母さん。僕は中学受験をして開成中学を目指したいんだ。だから、SAPIXの入塾試験を受けさせてほしい」
その後も、親が何も言わなくても一人で時間を決めて勉強に取り組んでいます。
「もうそろそろ寝なさい」
「うん、この1問があと少しで終わるから、その答え合わせが終わったら寝るよ」
受験についても、塾の先生と相談して自分で決めました。
「1月校は受験料がもったいないから受けないことにする。2月1日に開成、2日に聖光、3日は筑駒。もし開成も聖光も合格できなかったら4日に聖光をもう一度受けさせてほしい。お願いします」
そんな子はいません!
中学受験のスタート時点ではまだ小学生低学年です。自分の意志で中受を決め、塾に行く子は皆無です。
たまに、「うちの子は自分で中学受験をしたいと言い始めた」と言う方がいますが、それは、「親がそう仕向けた」か、あるいは上の兄弟がそうだったのでそれをなぞっているだけか、あるいは小5・6になってからの受験勉強スタートでも間に合うレベルの学校を目指すのか、そうしたことなのだと思います。
小学生は「やる気の有無」で勉強するわけではない
中学受験の勉強は過酷です。
乱暴を承知で言うと、高校受験レベル(科目によってはそれ以上)の入試問題を、わずか12歳の小学生が解かなくてはならないのです。しかも、小学校で学んでいることがほとんど役立ちません。厳密にいえば役立つことは役立つのですが、それだけでは全く足りないのです。まさか小学校の授業で、教育勅語と教育基本法の違いについて教えているとは思えませんし、世界の難民問題や、日本の受け入れ状況とその原因について考察しているとは思えません。江戸幕府がどうして250年以上にもわたって政権を維持できたのかについて、世界情勢との関係において考えさせる授業もしていないでしょう。
こうした高度な学習は、「はまれば」最高に面白いのですが、大半の小学生にとっては「つらくて」「難しくて」「はかどらない」、そして「成果があがらない」学習に思えるのです。
そんな小学生に対して、「やる気」が出るのを待つのは愚策です。
やる気があろうがなかろうが、学習習慣をつけて、やるべきことをやる、それが中学受験勉強の正しい姿です。