
前回の記事では、志望校選びに失敗した家庭を紹介しましたので、今回はうまくいったケースをいくつかご紹介します。
※個人情報保護の観点から、当事者が読んでも自分のこととはわからぬレベルまで変えていますが、全て実話です。
偏差値にこだわらなかったC子さんの場合
C子さんはまじめな生徒でした。こつこつと努力ができる生徒です。
経験上、こうした生徒は強いのです。
C子さんの母親は、自らが中学受験経験者でした。その経験から、志望校についてはこうした考えを持っていたのです。
〇6年間の学習環境・・・まじめな子が多い学校
〇女子校・・・自分も良い思いをしたから。ただし母校にはこだわらない
〇伝統校・・・長年にわたって実践してきた教育理念があるから
〇進学校・・・大学まで今決めたくはない
大学進学実績や、偏差値についての優先度は高くはありませんでした。高偏差値の学校ほどまじめな生徒が多いから娘には過ごしやすいと思うが、自分の娘ならどんな環境でも努力できるはず、と信頼していたのです。
志望校はこうなりました。
1月校・・・受験しない
2/1・・・女子御三家と呼ばれる学校の中に志望校があります
2/2・・・AM:洗足学園 PM:香蘭
2/3・・・鴎友学園
2/4・・・普連土学園
2/5・・・洗足学園
それぞれの志望校には理由がありました。
まず、1月校の受験に関しては、塾からも「必ず受けるように」と指導されましたが受けませんでした。「行くつもりもない学校を受験するのは、その学校を本気で志望している他の受験生に失礼だから」という理由です。
1日校については、正直微妙なラインなのはわかっていました。しかし、チャレンジしないで受けないのはもったいないと子供と話し合いました。ただし最後の模試で可能性が低かった場合には、鴎友学園に切り替えることもやぶさかではありません。
2日については、洗足学園の音楽教育が気に入りました。その当時は、今ほどは「大学実績」を前面に出してはいなかったのです。午後は、距離的に香蘭を選びます。立教大学への推薦はあまり考えていませんでしたが、環境と先生方、そして生徒の様子が気に入りました。
鴎友学園については、何度か足を運んで、「うちの娘にはちょうど良い」と考えました。
普連土学園については、偏差値的には物足りないのですが、こじんまりとして面倒見のよさそうなところを評価します。
模試の結果は相変わらず1日の志望校については微妙でしたが、押さえられそうな学校の受験まで考えていたので、頑張ってチャレンジすることにしたのです。
結果として、1日に受験した学校の合格が2日の午前中に判明したため、2校だけの受験で終了しました。
おそらくは最も幸せな(親にとっても本人にとっても)受験でした。
最近は、午後受験、一月校も含めて多数の試験を受けるのが普通になっていますが、本来はある程度試験を絞ったほうがよいのです。そもそも体力が削がれます。また、後半になるにつれて心身ともにきつくなりますので、早い段階での合格というのも考えたほうがよいのです。
C子さんの場合は、1日校はもちろんのこと、鴎友・洗足・香蘭・普連土、全ての学校を気に入っていたのが大きかったと思います。「普連土に進学したとしても満足だ」という心の余裕が、1日の合格を呼び込んだのだと思います。
開成にこだわったD太君の場合
これを「成功」例に入れていいのかどうかは迷います。
D太君は、6年生になってから私の教室に通うようになった生徒でした。
家のまわりには中学受験塾が無く、それまでは仕方なく地元のいわゆる「町塾」に通っていたのです。そこは「補習塾」レベルでしたので、優秀なD太君には役不足でした。6年生になったのを期に、電車にのって一人で通塾できるようになったのです。
寡黙な子でしたが、たしかに優秀な生徒でした。
4科目の教師の一致した意見としては、「開成は固いだろう」というものでした。
そもそもD太君が中学受験をしようと思ったのは、「開成に入るため」だったのです。
最近は珍しいケースですが、昔はそうした生徒もいました。開成に入るために中学受験をする。もし入れないのなら高校から開成をめざす。
したがって、他の学校を受験するつもりはまったくありません。
彼の実力なら、筑駒という選択肢もあったのですが、興味を示しませんでした。
親としては、もともと中学受験にそこまでのこだわりはなく、子供の意志に引きずられる形での受験だったのです。
しかし、残念なことに、合格発表の掲示板にD太君の番号はありませんでした。
受験には、ときおりこうした「なんで合格できなかったんだろう」と我々でも思う事態があります。
D太君は、そのまま地元の公立中学に進学し、高校受験で開成にリベンジ合格を果たしました。
経験上、4年生から、あるいは5年生から指導してきた生徒は、「足腰の強い得点力」を身に着け、予想以上の結果を出すことがあるのです。逆に6年生から指導する生徒は、模試のデータでは合格するはずの学校に受からないことがままある気がします。
原因はわかりませんが、私は「余白」の力だと思っています。
授業では、テキストに書かれてあること、解かせた問題の解説だけをするのではありません。なんとなく「つい話をした」ことが、入試に出ることはあるのです。
ある時、開成コースの1月の授業で、ふと山の手と下町について語ったことがあります。何かの拍子に、思いつきで話題を広げたのです。
すると、その年の開成の入試問題にその知識が出ました。私の授業を受けた生徒たちはきっと「この前赤嶺先生が言ってた!」となったことでしょう。
偏差値にこだわらぬ学校選びをしたE介君の場合
E介君の母親は、大学の先生でした。
しかし、最初の面談でこう言われたのです。
「私は大学生の指導のプロですが、中学受験に関しては素人です。そこはプロである先生方にお任せします」
これはプレッシャーでしたね。任されることは嬉しいのですが、責任重大です。
E介君は、まずまず順調に学力を伸ばし、第一志望校として駒東の名があがりました。
しかし、第二志望として母親があげたのは、駒東よりも25以上も偏差値が低い学校でした。
「あの学校はいい! 学校に話を伺って決めました!」
正直言って驚きましたが、母親の話を聞いて私も納得しました。
この母親は、偏差値にはこだわらず、自分の目を信じて学校を選んでいたのです。
結果は、駒東に進学となりました。これは、安全な押さえの学校の存在が、本番の緊張をほぐして実力がきちんと出たことが勝因だったのだと思います。