元SAPIX 中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

【中学受験】塾教師から見た、志望校選びが適切な家庭

志望校の選び方は、ご家庭の方針次第です。

したがって、選び方に「適切」「不適切」は本来存在しないのです。

とはいえ、多くのご家庭を見ていると、「これは上手な志望校選びだなあ」「これはちょっと」と感じることはあります。今回はそうした過去の実例をご紹介します。

※個人情報保護の観点から、当事者が読んでも自分とわからぬレベルまで設定を変えていますが、実話です。

医学部進学を(父親が)強く望んだA子さんの場合

ご両親とも医療関係者ではありませんが、娘には医学部への進学を強く望んでいました。中高もその観点から選びます。

候補に挙がったのは以下の学校でした。

・豊島岡

・桜蔭

・白百合

・渋幕

・広尾学園

・雙葉

最終的には、こうなります。

1月・・・渋谷幕張

2/1・・・AM:桜蔭 PM:広尾学園

2/2・・・AM:豊島岡① PM:広尾学園

2/3・・・豊島岡②

2/4・・・豊島岡③

2/5・・・広尾学園

第一志望は豊島岡でした。医学部への合格実績が高いことが理由です。第二志望が桜蔭です。「別に東大を狙っているわけではないから」第二志望なのだそうです。広尾学園は、「医進サイエンス」というコース名に惹かれました。医学部に直結したカリキュラムだと感じたそうです。

もし偏差値(SAPIX)が60以上あるのなら、悪い作戦ではありません。桜蔭は届くかどうかはわかりませんが、豊島岡は実力適正校です。

ただし問題だったのは、偏差値が遠く及ばなかったことなのです。豊島岡はおろか、広尾学園も難しい位置にいました。

せめて1日を下げて合格をとりにいくか、あるいは豊島岡の受験回数を減らしていかないと最悪の事態になってしまいます。

しかし、私のアドバイスは全く父親の耳には届きませんでした。

合格可能な中堅校で丁寧に指導されれば、医学部進学も見えてくる、そもそも6年後に本人の志望がどう変化するかはわからない、そうお話したのですが。

実は、豊島岡にこだわりすぎる受験は危険なのです、2月2・3・4日という貴重な日程をすべて豊島岡に奪われますから。もちろん成績が届いていない生徒が何度受験しようと「ワンチャン」は訪れません。

どうしても豊島岡にこだわるのなら、1日を下げるというのが定石なのですが。

「中途半端な私立に行くくらいなら、高校から日比谷を目指す」という父親の方針を貫くことになりました。

 

子供の希望を全て聞いたB男君の場合

とにかく母親が息子に甘かったのです。

志望校についても、「僕、ここ受ける」を全て反映させました。

一見、子供の意志を尊重してあげているように聞こえますが、そうではありません。「子供の言う通りにしてあげないと、あとで何を言われるかわからないから」というのが母親の説明でした。どうやら幼少期から、自分の要求が通らないとすぐに癇癪を起す子供だったようです。

そして、B男本人にも、将来どういった進路に進みたいとか、あの学校で頑張りたい、といった強い気持ちがあるのではなく、また自分の成績を棚にあげて上ばかり見過ぎる傾向があったのです。

1月・・・渋谷幕張(理由:おしゃれだから)

2/1・・・麻布(かっこいいから)

2/2・・・聖光学院(最近開成より人気だから)

2/3・・・筑駒(日本一の学校だから)

2/4・・・聖光学院

2/5・・・受けない(気に入った学校がないから)

B男君の成績では、全滅必至です。

なんとか母親を説得して、こうした2段構えの作戦を立てました。

渋幕〇→麻布・聖光・筑駒、好きに受けてよい

渋幕×→麻布を芝に変更、筑駒を浅野に変更

麻布×→4日を世田谷学園に変更、5日に都市大付属を受験

 

本人の実力適正校は、おそらく芝か都市大付属です。

しかし本人の希望を真向から否定するのも難しい。そこで、「ここが不合格だったら次の受験校は下げる」という作戦にしたのです。願書の準備はダブルとなりもったいないですが、こればかりは仕方がありません。

ただ、私の誤算は、B男君が思ったよりも楽天的で、母親が思ったよりも意思が弱いことでした。

3日の筑駒の試験会場で早朝激励をしていると(コロナ前の時代です)、B男母子が現れたのです。

「あれ、どうしてここに?」

予想通り、渋幕は不合格でした。その場合は芝中を受験するはずでしたが、本人の強い希望で麻布を受験しています。そして2日は聖光を。

「すいません、来ちゃいました!」

母親は照れ臭そうにそう言いました。なんでも本人が、「麻布は受かったと思う。聖光も手ごたえがあったから絶対大丈夫」と言い張ったので、筑駒を受験しに来たのだとか。

結局、私が考えた作戦など全く無視されてしまったわけですね。

試験を受けた本人の「受かったと思う」「全部解けた!」ほどあてにならないものはありません。だからこそ、本人の感触を絶対に信用してはいけないのが鉄則なのです。

最終的には、本人が見に行ったこともない学校を駆け込み出願することになりました。

 

A子さんのように、親が子供の意志を無視して受験校にこだわるのも問題ですが、B男君のように、親が子供の言いなりであるのも問題です。

 

 

志望校選びが適切な家庭を紹介するつもりが、不適切な家庭ばかりを紹介してしまいました。

次回の記事では、うまくいったケースを紹介します。