
中学受験を考える際、ついて回るのがお金の問題です。
良い教育には相応の対価がともないます。
この現実を無視するわけにはいきませんね。
中学受験否定派の論旨
中学受験に否定的な方がいます。別にそのこと自体は問題ではありません。日本の公教育は、高校まではなかなか充実していると思うのです。
ただし、高等教育まで無償の国は、OECD加盟校の中では4割くらいあり、その他の国も充実した奨学金制度があるのが普通です。それにひきかえ、日本は高等教育に対する家計の自己負担率がOECD諸国の中では2番目の高水準というお寒い状況です。大学に対する支援の手薄さを考えると、日本は国民に大学までの教育を与えたくないのかと思ってしまいます。
大学についてはそんな状況ですから、せめて高校までは公教育でいってほしいと願うのは当然でしょう。
しかし、それはあくまでも個々の家庭状況や方針によって判断すべきであり、他人の方針を否定するのは間違っています。
「中学受験しても結局は〇〇大学なら、中受はコスパが悪すぎる」
「頭の良い子は公立からでも国立大学に進学できる」
「うちの子は公立中学⇒公立高校から〇〇大学に行けた」
こういった論調はよく目にしますね。
しかし、これを見るたびに、心のどこかがざわつくのは私だけではないと思います。
親も子供も、一つの道しか経験できないのですから、自分を基準に他者を批判することはできないはずですね。
必要な出費と無駄な出費
良い教育には相応の対価が伴うのは常識です。
しかし、それでも「本当に必要な出費」と、「無駄な出費」はあると思います。
順に考えてみます。
◆中学受験のための通塾費用
じつはこれは「無駄な出費」です。なぜなら、塾に行かずとも中学受験は可能だからです。
これについては本を書いていますので、興味のある方はぜひお読みください。
もし全受験生が塾に行かなくなると、私のような商売は消滅してしまうのですが、それでも選んでいただける高水準の教育サービスを提供することが大切だと思っています。
一度、塾に行かずに中学受験をすることを考え、そのうえで、必要なものだけを選んで外部委託する、そうした考え方が正解です。
そうしないと、心無い塾の中には、足元を見るようにして多額の講座をとらせるところがあるからです。
ある個別指導塾では、費用は公表していません。最初に面談を実施し、顧客の懐具合を探りながら費用を提示するそうです。恐ろしい話です。
ある集団指導塾では、学習相談を受けると、すぐに系列の個別指導塾の単科講座の取得を進めます。そうしたオプション講座の取得率が社員の給与の査定に用いられるのです。
これらは無駄な出費です。
本当に必要なサービスだけを見極めることが重要です。
中高の学費
これについては、考えるまでもありません。中学受験を選択した段階で、中高の学費の負担は決定します。これを「節約」したいという発想はないでしょう。
繰り返しになりますが、私は公教育を否定しているわけではありません。公立中学・都県立高校の教育も良いと思っています。
こうした議論の際には必ず持ち出されるPISAの結果にもそれは表れています。
数学的リテラシー:世界 5位(OECD加盟 37カ国中では 1位)
読解力:世界 3位(OECD加盟 37カ国中では 2位)
科学的リテラシー:世界 2位(OECD加盟 37カ国中では 1位)
PISAの測る「学力」については議論もありますが、まあ一つの目安として考えましょう。先進国の中でも最低水準の教育予算の中で、先生方の献身的な努力で支えているのですね。
その点、私立中高は、きちんと人件費をかけています。教育=人、こう考えると、良い教育というのは、優秀な先生を確保することとイコールですから。
ただし、気をつけねばならないのは、私立中高の中には、外部にアピールできることに予算をつぎ込む学校があるということです。
・光の降り注ぐカフェテリア
・ゆったりしたソファが配置されたライブラリー
・国際試合基準の体育館
・海外研修・修学旅行
・組み合わせ自在で素敵な制服
こうしたものは目を惹きますので、学校の魅力をアピールして志願者を増やすのに絶好のツールなのです。しかし、これは明らかに「無駄」な出費です。その分を先生の人件費に回したほうが、はるかに教育水準の向上に寄与しますので。
6年間通うことを考えれば、施設が充実していることは大切ですが、「過剰」な施設は不要です。その分のしわ寄せがどこに向かうのかまで考えるべきでしょう。
もしかしてこれは、私自身が中高時代、昭和初期に建造された古い校舎で学んだことからくる、ただの「やっかみ」なのかもしれません。本当に最近の学校はびっくりするくらい校舎が「きれい」ですから。
中高の塾代
これは断言します。「無駄」です。
公立中学なら、学校の授業中心に自宅学習に取り組めば、定期試験の点数は確保できますし、内申点もとれます。しかも、高校受験の教材や情報はいくらでも入手できるのです。わざわざ高校受験塾に行く必要はありません。
これについても、拙著をぜひお読みください。
またまた自分の仕事を否定するようですが、世の中には通う必要のない塾が多すぎるのです。
高校受験をしたのなら、進学した高校には一定水準の学力が担保された生徒しかいませんので、そうした生徒を対象とした授業は高水準であるはずです。
中高一貫校では、優秀な先生方が優秀な生徒に授業を実施しますので、本来は塾など不要なのです。
◆大学受験塾・予備校
これについても本来「無駄」と言いたいのですが、実はこれはある程度必要性があります。
例えば、最高難度ではない私大文系を目指すのなら、学校+家庭学習で十分対応可能です。しかし理系・医学部を目指したり、東大レベルを目指すとなると、勉強の質・量ももう少しあげていきたいですね。そのために塾・予備校を利用するのなら、これは必要な出費です。
◆教育コンサル
これは「無駄」です。
理由は簡単、まともな人がほとんど見当たらない世界だからです。
先日も、SNSをのぞいていて、あきれる書き込みがありました。
お子さん二人を最難関中学に進学させた母親が、「教育アドバイザーを始めようかな」と書き込んでいるのです。たった二人だけの経験で、いったい何をアドバイスするのでしょう。
しかし同様の商売をしている方はたくさんいますね。1時間2万円以上の費用をとって、カフェでアドバイスしてくれるような。
もちろん需要があるから成り立つのでしょうけれど、賢明なみなさんは冷静にならないといけません。
たとえば、弁護士への初回相談料は30分あたり5500円が相場だそうですね。高度なスキルを持つプロへの依頼料と考えるとだいぶ格安ですが、おそらくこれは、その後の依頼につなげるために格安となっているのでしょう。実際の業務を依頼すると、1時間で2万円~5万円くらいはかかると思います。
本当のプロのアドバイスにはそれだけの価値があるのです。
◆留学費用
これについては、家庭方針次第です。
高校生の留学でも、1年間行けば数百万は最低でも必要です。しかも日本の高校にも学費を支払う場合がほとんどです。まして欧米の大学に留学すると、1年で1千万円は覚悟しないとなりません。
これを「無駄」と考えるかどうかは人によりますね。
それでも手はあります。多くの大学が設けている「交換留学」制度を利用すればよいのです。これは、日本の大学に籍を置いたまま、日本の大学に通常の学費を支払えば、海外現地の学費が免除される、というものですね。生活費はかかるものの、かなり現実的な出費で抑えられるでしょう。教え子たちも、この制度を活用して欧米の有名大学に留学した子はたくさんいます。
◆海外研修費用
私立の多くは、修学旅行以外にも、海外研修制度を充実させています。
全員参加必修ならともかく、「希望者のみ」の場合が多いのです。これに参加するかどうか、迷いますね。
判断は簡単です。ただの海外旅行として考えるのなら有益で、無駄ではありません。そもそも海外旅行なんて、行きたいから行くだけであって、得かどうかは関係ありません。子どもたちだけで旅行させてくれる旅行だと考えればよいでしょう。親が平日に休みをとって家族旅行に行くのは難しいですから、子どもだけで行かせられる観光旅行はありがたいではないですか。
しかし、「勉強の一環」として考えるとかなり疑問符がつきます。
たとえば、とある高校の「ハワイ研修」のスケジュールを見てみましょう。
1日目:カメハメハ大王像やモアナルア・ガーデン(この木なんの木)を見学
2日目:クラス別観光またはダイヤモンドヘッドのハイキング。ポリネシア文化センターでの伝統文化体験学習。
3日目:ハワイ大学にて現地の学生と交流、キャンパスツアー
4日目:パールハーバー(真珠湾)訪問、ワイキキやアラモアナ周辺での買い物
5日目:帰国
これを「研修」と称するのはかなり無理がありますね。ただの観光旅行です。
普通に4泊6日の観光旅行スケジュールですね。かろうじて1日だけ、ハワイ大学にいきますが、将来ハワイ大学進学を考えているのならともかく、このためだけにわざわざハワイに行く必要があるでしょうか。
ハワイ大学図書館やカフェテリアは私もずいぶん利用させてもらいましたが、開放的で実に素敵なキャンパスです。また、ハワイ大学はかなりレベルの高い大学です。世界大学ランキングでは、北大・九大・神戸大・筑波大と同等です。海洋研究ではトップレベルですね。こうしたことを学びたくて目指すのならとても良い大学だと思います。日本人留学生も、ハワイ大学マノア校(いわゆる本校の位置づけ。ホノルル市内)に百数十名くらいはいます。ただし、あの環境ですから、私なら勉強に専念できる自信は無いですが。
私立中高のほとんどが、海外研修のプログラムを外部旅行代理店に丸投げしています。HISのような大手には「教育旅行セクション」があり、修学旅行や海外研修のプログラムを作ってくれるのです。
「アメリカの東海岸で、アカデミックな1週間の研修旅行をプランニングして」とリクエストすると、国連本部見学・ハーバード大学キャンパスツアー・現地大学生との交流・現地駐在日本企業の社員によるビジネス講座、こういったプログラムをすぐに組んでくれます。
学校が主催する、独自のプログラムでなければ、私には参加の意義は感じられません。

