
少子化が加速しています。
1973年のピーク(第二次ベビーブーム)には209万人出生していたのに、2025年には70.5万人ですから、間違いなく少子化です。
母数が減少すれば競争は緩和されるのが道理です。
それなら、中学受験も易化したのでしょうか?
小学生人数推移
こちらのグラフをご覧ください。
東京都の公立小学校卒業生数と、都内の私立および都外の中学に進学した生徒の推移です。東京都の長期統計では、公立中高一貫校に進学した生徒数の推移が見つからなかったので省いています。もっとも設立されたのは2005年以降ですし、募集定員は1500名~1600名程度に固定されていますので、それを足して考えてください。また、転居による都外進学者は無視しました。さらに、私立小学校の卒業生がおよそ4300名程度いますが、こちらも考慮していません。
いろいろ不備のあるグラフですが、全体の中学受験傾向を知ることはできると思います。

卒業生数が1950年代に激しく上下しているのは、第一次ベビーブームの影響です。1980年代の緩やかな山は第二次ベビーブーマーたちですね。
2000年代に入ると、卒業生数はほぼ横ばいで推移しています。日本全体の少子化と、東京都の状況は分けて考えなくてはならないことがわかると思います。
つまり、東京都に限っていえば、少子化していないのです。
さらに、注目いただきたいのはピンクの折れ線です。緩やかに増加しているように見えますね。
国立・私立進学者数推移
そこで拡大してみます。

こちらは増加傾向がうかがえます。
分母の人数が変わらず、分子、つまり公立中学校以外への進学者数が増加しているのですから、受験率は上がりますね。

1980年代以降、中学受験が一般化していく傾向がうかがえると思います。
もちろんこれは島嶼部まで含めた東京都全体の数字です。しかも、受験はしたものの不合格になった人数や、合格しても進学しなかった人数は反映していません。
受験率が高い文京区・千代田区・港区では単純計算で42%から49%ですが、実際には5割を超える受験率とみてよいでしょう。
私の知人の小学校の先生曰く、「2月1日に学校に行くと、教室はがらんとしていた」そうです。
受験率上昇の意味
これは単純に考えて、「従来は中学受験しなかった層の参戦」を意味しています。
(1)公立中高一貫校の登場
20年前に都立白鴎を皮切りにして、次々に開校しました。
桜修館 白鴎 小石川 両国 富士 大泉 立川国際 南多摩 武蔵 三鷹 区立九段の11校になったのです。
公立中高一貫校については詳しい記事を書いていますのでごらんください。
さて、これらの学校の登場により、従来中学受験をしなかった層が受験を考えるようになりました。
公立なのに中高一貫校は魅力です。今までは、国立の筑駒・筑付しかなかったのですから。
しかし、公立中高一貫校を目指して塾に通いはじめると、塾からは当然のように私立の受験も勧められます。また一部の私立中は、こうした層をとりこむために「適性検査型入試」を始めたのです。
このようにして、公立中高一貫校の志望をきっかけとして中学受験をする生徒が増加しました。
(2)SNSの普及
SNSの代名詞的なサービス、Twitter(現X)の日本語版開始は2008年です。その後2011年の東日本大震災で「リアルタイムのインフラ」として評価され急速に普及しました。同時期にFacebookも普及しています。また、LINEの開始は2011年で一気に普及したのはご存じのとおりです。
それまでは、中学受験に関する情報の入手手段は、ママ友の口コミをメインに、あとは受験産業の発信する情報くらいしかありませんでした。
しかし、2003年にブログが爆発的に普及し始めると、個人による情報発信が増加します。
こうして、SNS・ブログによって中学受験情報がたやすく入手できる環境になりました。
ネット系の情報の特徴として、関心があるとAIが判断した情報が優先的に流れてくるのはご存じの通りです。
つまり、実情以上に中学受験が過熱しているように感じられるのです。
(3)新興校の登場
多いのは、生徒募集に苦戦していた女子校が共学化して人気を集めるパターンですね。順心女子からリニューアルした広尾学園が典型的な成功例です。
渋谷渋谷の登場(30年前)以前は、共学校といえば大学付属ばかりで、進学校は皆無でした。筑波大付属や神奈川の桐蔭くらいでしたね。そうなると、進学校を志望して中学受験することは、男子校・女子校を志望することを意味していたのです。
それらの多くは伝統校です。
そうした教育環境を好まないご家庭にとっては、中学受験が選択肢になりません。
公立中学校から都立高校を目指すことになるのです。
しかし、続々と共学進学校が登場することによって事情が変わりました。
(4)大学実績
数字が明確に物語っています。中高一貫教育はあきらかに大学合格に有利なのです。
もちろん日比谷高校は別格です。しかし、あまりにも狭き門すぎますね。
(5)大学入試制度の変容
変容とおだやかに書きましたが、混迷といったほうがよさそうです。おそらくこの記事を読まれている保護者の方は、大学入試でAO入試が普及したころに大学を受験したかと思います。また、1979年には共通一次試験が始まり、1990年にはセンター入試、2021年には共通テストへと展開しました。
今や一般入試以外の推薦型・統合選抜型で大学に進学する生徒が過半数となっています。また、文科省の指導もあり、定員も厳格化しています。
このように大学入試が複雑化すると、「早くから〇〇大学への進学を確保」できる付属校が人気を集めます。また、大学側も青田買いの思惑から、積極的に私立中高と連携をし、付属校が増加しました。
これからの展望
今後の中学入試は、3つの流れに分化していくでしょうね。
(1)伝統難関校は変化しない
例えば開成、麻布、桜蔭、女子学院、雙葉といった学校は変化しないでしょう。変化する必要が無いからです。入試傾向も入試制度も継続すると思われます。英語入試を導入するかどうかは読めませんが、6年間自分の学校で英語を鍛えてきちんと伸ばしてきた実績がある以上、英語入試で「すでに英語力が高い」生徒を選抜するような品の無いことは当分してこないと思われます。
(2)共学進学校は増加する
存続が危ぶまれる学校はまだまだたくさんあります。そうした学校(おもに女子校)は、今後も共学化することで生き残りを図ろうとするでしょう。創立理念を捨ててまで変化することには賛成できかねますが、学校だって必死ですから仕方がありません。
ただし今後は、そうした新興共学進学校同士の競争が激化すると思います。
真新しい校舎、素敵な制服、おしゃれなカフェテリア、充実した設備、海外修学旅行、ネイティブ英語教員、帰国生受け入れ、そうしたことではもはや差別化できなくなってきます。
「医進コース」「東大選抜」などと銘打っても、実際に進学実績が出なければ受験生にそっぽを向かれます。「グローバルな人材育成」をうたったところで、海外大学に進学者が出なければ看板倒れに終わります。
今後は、本質的な教育内容を問われる時代になるでしょう。
(3)高校募集の強化
学校はなかなかつぶれません。学年生徒数が十数名!などと言う学校が何年も生き残っています。しかし、さすがにこれではまずいですね。そこで繰り出すのが「高校募集の増員」です。高校入試では、都県立高校の進学に失敗する子が少なからずいるのです。こうした子たちの受け皿としての私立高校は一定の需要があるのです。
(4)大学付属の増加
生徒募集に苦戦する学校の特徴として、入試制度をいじり倒すことがあげられます。
ダンスパフォーマンス入試というのもありました。ダンスを披露するだけで合格します。
レゴブロック入試というのもありました。お題にしたがってレゴブロックで何かつくるのです。
フードデザイン入試というのもありました。家庭科の授業を受けてレポートを書くのです。
もうこれは話題作りだけを狙ったとしか思えません。
受験生の学力や、積み重ねてきた学習習慣などが全く反映しないからです。
こうした変則入試に手を出す学校の未来は明るくない、というのが私の意見です。
ダンスパフォーマンス入試を行っていた学校はなくなります。来年から「吉祥寺湧水中学校・高等学校」と優美な名前に変えて共学化しました。
フードデザイン入試を行っていた学校も長らく定員割れで苦しんでいましたが、「奥の手」で蘇りました。新たに「法政大学千代田三番町中学校・高等学校」になったのです。学校のネーミングセンスについては置いておくとして、法政大学の系列化により一気に人気を集めました。
おそらく、GMARCHの付属校ばかりか、それ以外の私立大学の付属・系列校は今後も増えてくると思われます。日大の付属中が人気なのは、「6年後に確実に日大に行ける」からですね。同様に「6年後に〇〇大学に行ける」のは大きな魅力です。
大学も生き残りに必死ということなのです。
ただし、確実にそうした大学生の学力は低下するでしょう。
話題になったように、大学で分数の通分や四則演算(足し算、引き算、掛け算、割り算)割合、パーセンテージなどを教えている時代になりました。