
前回、カンニングについての記事を書きながら、さまざまな事例を思い出してしまいました。決して心地よい思い出ではないのですが、いくつか紹介します。
「うちの子を嵌めるのか!」
A太君は、テストの点数が思わしくありませんでした。しかしテスト返却後、A太君は「こことあそこが採点間違っています。僕の点数は本当はもっと上です」と塾の採点ミスを指摘にやってきました。当時は手作業の採点だったので、採点ミスも無いわけではなかったのです。そして採点ミスだとすると、A太君はクラスが落ちずに済むのでした。
しかしA太君が指摘した「採点ミス」箇所は、明らかに書き直してありました。自分の誤答を消して、正解に書き換えてもってきたのです。
実に稚拙な行為ですが、時々そうした子はいます。そうした際は、子どもと1対1で話し合うのです。
「A太君。この答案、君が返却後に書き直したのじゃないかな?」
「違います」
「あきらかに消して書き直した跡があるね。鉛筆の太さも濃さもまるで違うじゃないか」
「・・・・」
「赤ペンの×の上から鉛筆で書いてあるね」
「・・・・」
「君は勉強熱心だからね。きっと返却後にすぐに間違い直しをきちんとやったんだね」
「・・・・」
「その時、つい正しい答に書き直して、それで勘違いしたのじゃないかな?」
「・・・・。そうかもしれません」
「次回から間違い直しをするときには、間違えた答を消さないようにしなさい。この答案は持って帰りなさい。他の間違い直しもきちんとやるんだよ」
「・・・はい」
子どもを追い詰めても益はありません。逃げ道を用意してあげることも大切なのです。我々の仕事は、子どもの不正を摘発することではなく、学力を向上させることにありますので。
普通ならここで話は終わるのですが、この時はそうはいきませんでした。
翌日、A太君の母親がやってきたのです。
「塾の採点ミスをA太のせいにして、間違いを認めようとはしないのですね!」
かなりの権幕で怒られました。
どうやらA太君は、「クラス落ち」を母親から責め立てられ、それで答案を改竄して持ってきたのでした。母親は息子を信じていますので、当然悪いのは塾であると思い込んでいます。
らちが明かないので、A太君の採点前の答案のコピーを母親に見せました。
電子採点システムを採用する以前には手作業の採点でしたが、それでも全生徒の答案のコピーを取っていたのです。
母親が持参した採点済答案と、採点前答案のコピー。A太君が答案を改竄した動かぬ証拠です。
母親は引き下がりました。
本当は、コピーを見せるつもりはなかったのです。それでは子どもを追い詰めるだけですので。しかしこの場合は仕方がありませんでした。後味の悪い思いで幕引きとなるはずだったのですが、翌日、今度は父親がやってきたのです。
「お前らは、うちのA太を嵌めようとしているのか!」
意味不明の追及なのですが、話をうかがうと、採点前答案のコピーそのものが、塾がA太君を嵌める目的で改竄したものである、とそういう主張でした。
そんなことがあり得ぬことを理を尽くして説明しても、聞く耳は持ちません。
最後には、「筆跡鑑定で白黒つけるから、待っていろ!」という内容を、もっと激しい口調で言って帰りました。
おそらくは、もう引っ込みがつかなくなってしまったのでしょう。
答案改竄の証拠が目の前にある。それを認めれば、子の非を認めることになる。それなら・・・。という思考です。
親が子を信じるのは当たり前です。
しかし、それは子どもの言い分を全て信じるという意味ではありません。
子どもはまだまだ心が弱いのです。
そうした弱い心の働きも含めて全てを受け入れることが大事だと思います。
そこまで親に追い詰められてしまったA太君が可哀そうな事例でした。