
最初にお断りしておきますが、私は中学受験の世界で35年以上生徒を指導してきました。私の仕事では、「生徒を一人も地元の公立中学に進学させない」ことを目標としてきたのです。したがって、どうしても公立中学進学という道には辛口にならざるを得ません。しかし、それではあまりにも狭量すぎます。今回は、なるべくニュートラルな立場で公立中学からの進路について考えてみたいと思います。
私立高校への道
教え子にももちろんいます。中学受験に失敗し、高校受験でリベンジを果たす生徒です。
今でも記憶に残る生徒がいます。6年生から私の教室に通うようになった彼は物凄く優秀でした。それまでは自宅近所の塾に通っていたのですが、あまりにも優秀すぎて、その塾では教えてもらえなかったそうです。塾には行っても、自学自習をし、そして私の教室に通うようになりました。「教えてもらえるのがうれしい」そう言って目を輝かせていました。
彼は、「開成」しか眼中にありません。そこで、開成1校だけを受験したのです。普通なら無謀すぎるパターンですが、彼の強い意志を家族も尊重し、またそれに応えるだけの実力も備わっていました。これで合格すれば美談だったのですが、結果は不合格。いったいなぜ落ちたのか、いまだに腑に落ちない生徒の一人です。
彼はそのままSAPIX中学部(高校受験セクション)に通い、高校受験で開成にリベンジ合格を果たしました。
公立中学には、そうした「リベンジ組」が必ずいます。学習習慣も基礎学力も備えた彼らが、公立中学の学力トップ層を形成することは想像に難くありません。
ここで、都内の私立高校の募集定員と偏差値をグラフ化してみましょう。

ここで偏差値データとして、ネットの推定値を採用しました。
そのデータでは、開成:77、慶應義塾女子:76、早稲田実業:75、早大学院:75などとなっています。
実は、高校入試では、中学受験のようなわかりやすい偏差値データが存在しないのです。
中学受験の世界では、4種類の偏差値データがありますね。
SAPIX版、四谷大塚版、日能研版、首都圏模試版の4種類です。
成績上位層はSAPIX版を、下位層は首都圏模試版を、そしてそれ以外は四谷大塚か日能研の偏差値表を参考にするのが定番です。各塾とテスト会社は、それぞれ大規模な模試を実施してデータを集めています。 そしてその模試受験者の実際の合否データと照合して偏差値表を作っているのですね。
高校受験でも同様のデータを探したのですが、見当たりませんでした。
いちおう調べてみた範囲ではこのようなものがありました。
◆V模擬・・・株式会社進学研究会
この模試の規模が最も大きいですね。運営会社はテスト専業企業です。東京以外に千葉県入試に対応しています。
◆W模擬・・・株式会社創育
次に規模が大きいと思われるのがこの模試です。運営している会社は出版系テスト運営企業です。こちらは、東京以外に神奈川県入試に対応しています。
◆北辰テスト・・・北辰図書株式会社
こちらは埼玉の出版系企業の運営です。といってもこのテストと過去問販売が主力です。埼玉県の入試に対応しています。
◆中学ハイレベルテスト・・・教育開発出版株式会社
ここは、いわゆる塾向け教材の大手です。自前でテキストを作成できない中小塾の多くが、こうした出版社の教材を自前の教材のように装って使っています。一般書店では販売されていません。このテストはどうやら早稲田アカデミーが使っているようですね。
◆駿台模試・・・駿台
大学受験では知名度の高い駿台が実施していますが、正直言って高校受験のノウハウはどこまであるのか疑問です。
話をグラフに戻します。
グラフからは、偏差値が低い学校の募集が多いという現実がうかがえます。
都立高校へ進学できない生徒の受け皿としての私立高校や、定員割れしている中高一貫校の高校募集の枠が多いのです。
もっとも、同じ分析を中学受験で行えば同じグラフになるのでは。そう考えて作ってみました。
偏差値データは、標準的なところで日能研の偏差値を使っています。

ああ、だいぶ違いますね。
これは、偏差値が低い生徒は公立中学に進学するという現実を示しているようにも見えますが、正規分布としてはこちらが普通です。むしろ高校受験のグラフのほうが異常とみなせます。
「この学校以下なら公立中学へ」という層が存在する中学受験と、「中卒はまずい!」という高校受験の差と考えられるでしょう。
都立高校への道
公立中学卒業生のおよそ半数が都立高校へ進学します。
そこで都立高校についても同様のグラフを作ってみます。

なるほど。これも正規分布となっています。
このグラフとさきほどの私立高校のグラフを合わせて考えると、こうした現実が見えてきます。
〇都立高校へ進学できない層の受け皿としての私立高校の存在
〇通信制高校への流れ
実は、通信制高校への進学者は年々増加しており、昨年は7.12%でした。
都内の公立中学の学年人数の平均は128人です。そのうちおよそ9人が通信制に進学ということになります。
ただし、私は通信制高校を否定しません。様々な事情で全日制高校への進学を断念せざるを得ない生徒の受け皿として機能しているからです。
私の指導した生徒にもいました。礼儀正しく、大人ともきちんと話ができる、いわゆるとても「良い子」だったのですが、勉強は得意ではありませんでした。中学受験は失敗し公立中学に進学して、そこで「いじめ」にあったのです。同級生からは「変な子」とみなされてしまったようですね。学校には行けなくなり、自動的に内申点も壊滅的となり、高校進学の道は閉ざされてしまったのです。その後は通信制高校に進学し、そこでは「活き活き」と勉強し、無事に大学生となりました。
選択肢の狭さ
私立高校の募集定員が減少しているのは前回の記事でも書きました。
SAPIX小学部(中学受験)と中学部(高校受験)の偏差値表に載っている学校を、重複もすべて数えてみました。

あくまでもSAPIXの偏差値表に載っている学校(=SAPIXの生徒が受験する学校)のみの数値ですので、何の客観性もありません。
とはいえ、あまりの差に驚きます。
私立高校の募集定員の推移を見てみます。

わかりやすく減っています。
ブラックボックス
高校受験の場合は、中学受験のような試験の点数一発勝負の明快さはありません。
「内申点」というブラックボックスがあるのです。
定期試験で高得点でも高評価とは限らない、この内申点はやっかいです。もちろん本当に優秀な子は高評価となるのはわからります。日比谷高校受験の最低条件は「内申点all5」などと言われていますが、それは例外的な生徒です。内申は、美術や音楽といった副教科も重視されます。
さらに、受験制度も複雑です。自己PRや面接、「推薦入試(単願・専願)」や「併願優遇制度(公立が第一志望のすべり止め)」があるのです。
さらに信じられないのが「事前相談確約」制度です。
これは、12月頃に、中学校の先生と私立高校の入試担当者の間で行われる「相談」です。この「事前相談」で内諾を得ていれば、当日の筆記試験や面接は形式的なものとなり、よほどのことがない限り不合格にはなりません。
まるで「談合!」と思ってしまうのは、私が中学受験の世界の住人だからですね。
こうしてみてみると、高校受験は大変です。
中学受験生達には、受験できる環境を作ってくれた両親に感謝するよう指導しましょう。