
「うちの子は、やる気になればできる子なんです」
「まだ『やる気スイッチ』が入らなくて」
「どうすれば「やる気」になるでしょうか」
よく聞くご相談です。今回は子どもの「やる気」について考察します。
「やる気を簡単に引き出す魔法のスイッチ」はあるのか?
某塾のCMですっかり一般名詞化した「やる気スイッチ」ですが、本当にあるのでしょうか?
結論からいうと、私には見つけられませんでした。
SAPIXで35年、4桁の中学受験生を指導してきましたが、見つからなかったのです。
もちろん、ささやかな「やる気」を引き出すことはできます。
「赤嶺先生の授業はわかりやすくておもしろいって子どもが楽しみにしているのです」
「先生に教えてもらった年代暗記のやり方で夢中になって覚えています」
(いちおう実話です)
これくらいのささやかな魔法ならかけることはできます。
でも、みなさんが求めている「やる気」のスイッチはそんなものではないですよね。
スイッチを押しさえすれば、見違えるようになって、積極的かつ自発的に勉強に取り組むようになる。そうしたスイッチのことでしょう。
「やる気」とは?
大人で考えてみます。
「そろそろスタッドレスに交換しないといけない時期だけど、面倒だなあ。やる気がしないなあ。まだ大丈夫だよな」
長期天気予報をながめながら重い腰が上がらない。交換が必要なのはわかっていても、タイヤ交換って自分でやると面倒ですから。(これは私のケース)
「年内に大掃除したいけれど、嫌だなあ。やる気が出ないよ。ま、来週にやればいいか」こういって先延ばしにし続ける(これも私のケースです)。
どうやら、自分にとって面倒なこと、手間のかかる作業、やりたくない仕事、こうしたことを「やる気が起きない」ときに「やる気」という語句が使われます。
逆に「やる気がおきる」のはどういう状況でしょうか。
例えばDIYが好きで得意なら、「よし、こんな本棚を作ろう!」と、いそいそと材料を買いにいき、1日がかりで本棚を作る。別に本棚は既製品を買いにいってもいいはずなのに、作るのが好きで楽しいから進んで作業するのですね(これも私のケースです)。ここには「やる気」は不要です。自ら「やる気」を鼓舞する必要はないですから。
授業の予習や教材作成も私にとっては「やる気」は必要としません。気が付くと食事するのも忘れて夢中で取り組んでしまうからです。
どうやら、「やる気」というのは、やりたくない事をやらねばならない時に必要で、好きでやりたい事をやるときには不要な概念であるといえるでしょう。
さらに、この「やる気」には、乗り越えねばならないハードルの高さと、乗り越えねばならない事情の強さによって変化するという特性があります。
私の嫌いな山登りに例えると、そこそこの努力で登れる高さの山で、頂上からの絶景が約束されいているのなら「やる気」を出す気にもなりますが、4千メートル級の山岳にチャレンジする「やる気」は出ません。
中学生なら、来週の中間試験に向けて「この問題集をなんとか終わらせなくては」という「やる気」は出るでしょう。頑張ればクリアできる目標ですし、中間試験の高得点は内申に直結します。しかし、「今から半年でオランダ語をマスターしろ」と言われても、やる気は出ません。ハードルが高すぎるのと、やる意義がわからないからです。
(これも、最近オランダ語の学習を1週間で挫折した私の実例です。)
つまり「やる気」とは、到達可能な目標が見えていて、その目標をクリアすることで自分に大きな利益があると自覚するときに発揮されるものなのです。
小学生にとっての「やる気」
大人には信じられないでしょうけれど、小学生にとっては「中学受験」というのは遠い未来すぎて実感がわかぬものなのです。だからあんなに時間の使い方に「余裕」があるのですね。
教え子が言っていました。「6年生の1月になって、あ、自分は受験するんだ、って気がついた」
「気づくの遅すぎ!」思わず脱力しますね。でも、小学生ってそんなものです。
こう考えてくると、「数年後の中学受験合格を目指して、4科目の学習に自発的に取り組むようになる魔法のスイッチ」など存在しないことがわかります。
勉強への方法論
受験勉強をどうやらせるかについては、存在しない「やる気」などという幻想を捨てることが大事です。
そのうえで、私からは二つの方法論を提示します。
(1)小さな目標設定を繰り返す
子どもがちょっとの頑張りでクリアできそうな小さな目標を設定します。長くても1週間後の目標、できれば毎日の目標が望ましいですね。
目標設定は簡単なのですが、それをクリアしたときの「利益」を作るのが難しいのです。さすがに金品や食べ物で釣るわけにはいきませんから、「大げさにほめる」ことにしましょう。小学生にとってはこれくらいのささやかな目標と利益がちょうどよいのです。ちなみにSAPIXでは、「サピックスシール(通称サピシ)」というものを、毎回の授業で、小テストの点が高かった生徒に配ります。このシールが何十枚かたまると、豪華景品(ノートやペンなど)に交換できるというものです。まさに「子どもだまし」ですが、子どもは見事にだまされ、夢中になってサピシを欲しがります。
(2)強制する
やる気があろうとなかろうと、一定の時間一定の量の勉強をこなせばきちんと力はついていきます。そこで強制的に机に向かわせ勉強させるのです。
実は、塾の教室はそうした環境です。だから成果があがるのです。
「やる気が起きない」というのは子どもの逃げ口上にすぎませんので、そんなの無視して強制的に勉強させる。これも正しいやり方です。