
前回に続き、SAPIXの親からの相談を紹介します。
※個人情報保護の観点から、ご本人が読んでも自分のこととわからぬレベルまで設定を変えていますが、事実に基づきます。
授業中の得点でクラスを下げられた
前回の記事で、毎月のテストでクラスの昇降が行われていると書きました。そして、それを気にしすぎることはよくないとも書きました。テストの目的は、自分の立ち位置の確認はもちろんありますが、それ以上に、自分の弱点を浮き彫りにしてそれをどう解消するのかが大切なのです。
毎月1回のクラス(SAPIXではコースと称する)昇降は、あくまでも子供の奮起を促す目的なのです。
しかし、ご相談の内容はこれとは異なります。
算国理社、どの科目でも、毎回の授業の冒頭にちょっとした小テストを実施します。5分~10分程度で終わる小テストです。
国語は漢字ですね。これに熟語も混ざります。
算数は計算問題と一行問題程度です。また、前回のテキスト内容のテストもあります。
理科・社会は、前回のテキスト内容に基づく簡単な一問一答のテストです。
こうしたテストの得点を記入するための「得点記入票」という紙が用意されています。
私は、室長をしていた当時、この「得点記入票」を自分の校舎では使いませんでした。メリットよりもデメリットのほうが大きいと判断していたからです。
(1)交換採点の問題
こうした小テストは、隣同士の生徒が交換して採点します。まず、これが嫌でしたね。生徒にはきちんと採点できない子がとても多いのです。また、判読不能な文字を書く子も多い。さらに、合っているのか合っていないのか判断しづらい解答も続出します。すると、次々と生徒が質問するのです。
「先生、これで合ってる?」
見ると、オイルショックを答える問題で、「石油ショック」「石油危機」「オイル危機」「石油きき」「せきゆショック」などあらゆる組み合わせの解答が登場しています。
「石油危機かオイルショックのどちらかじゃないとダメだって〇〇先生が言ってた」
「でも石油ショックって学校の先生が言ってた」
「先生、この危機の漢字、これで合ってる?」
もう喧しいことこの上ない。さらに、採点ミスをする子も多いのです。
「先生、僕の答で合ってたのに×にされた!」
なかには、隣の子の答案をわざと厳しくつける子もいるのですね。漢字の止めハネ払いまで荒さがしをするのです。
たかが5分の小テストなのに、この対応でさら10分近く時間を削られます。
そもそも小テストの目的は、自分の弱点を生徒本人に気づかせることにあるのに、他人の弱点の荒探しをさせることに何の意味もありません。
(2)得点集計の問題
その日の授業の最後に得点を集計させて得点記入票を回収します。この計算ができないのです。6年生の平日の授業は午後9時終了です。だいぶ遅い時間ですね。1分でも早く生徒を家に帰してあげたいのです。
ところが、この「集計作業」が難航する。5分はかかりますね。この5分、必要だとは思えません。かといって、授業時間中に集計させるのも無駄です。
まあ言ってしまえば、この程度の足し算、暗算で間違えるほうが問題です。多少は計算トレーニングになるのかも。
(3)授業点という問題
教師によっては、授業中の問題の出来具合や生徒の反応等によって「授業点」という点を記入させています。これは主観なので、意味がありません。もちろん、生徒が授業に集中するというメリットもあるかもしれません。
(4)クラス昇降の問題
せっかく毎月のテストでクラスを昇降しているのです。そこに、客観性を欠く毎回の「授業の得点」でクラスを昇降することは、混乱をもたらします。出席簿に名前がある生徒が教室にいない、出席簿に名前のない生徒が教室にいる、という混乱です。出席簿に手書きで名前を加えたり、座席表を作成して対応しているのですが、よくエラーをおこしていますね。
受験は厳しい競争の世界です。たった1点で合否が分かれる、そういう世界です。それを自覚させるために、得点にこだわらせる、それも必要です。
しかし、これにもデメリットがあるのです。毎回のクラス昇降にだけ異常に拘る生徒を育ててしまいます。
そして、そこから「不正」の気持ちが芽生える子も出てきてしまうのです。
・交換採点後にこっそりと得点を書き直す
・小テスト中にカンニングをする
子どもはまだまだ未熟な存在です。自らを厳しく律することはできないのです。
こんなケースもあります。授業中の出来具合や毎月のテストではさほど優秀ではないのに、小テストだけはいつも満点の子がいます。それは本来喜ばしいことなのですが、その割には成績が伸びない。実は、そうした子には上の兄弟がいることが多いのです。上の子が通っていたときのテストの答を覚えてくるのですね。何の意味ありません。
テストで一番大切なのは、公平性にあります。クラス昇降も同じです。落とされた生徒が納得いく理由、つまり公平性が担保されなければなりません。
これは、高校入試とくらべた中学入試の特質でもありますね。内申点という曖昧な要素がなく、入試本番の得点だけで合否が決まる。
その意味では、毎回の小テストにも意味はあるのですが、要はやり方次第ということでしょう。
こうしたことは、なにもSAPIXに限った話ではありませんね。サピックス以上に、生徒を競わせることに注力している塾はたくさんあります。廊下に生徒の成績を貼り出している塾や成績別に座席を決めている塾(これはSAPIXでも同様です)も多いと思います。なかには、優秀者だけを集めた校舎を設けている塾もあるようです。
必要以上の競争は弊害を生みます。
あくまでも目標は、中学入試の合格と、その後の成長にあるのです。
家庭としては、子供の毎回の小テストの得点にこだわるのではなく、「どういうところをどのように間違えたのか」だけを気にしてください。そしてそれを復習に生かしてほしいと思います。