
前回の記事で、中学受験の社会科に必要な語彙数は3000くらいと書きました。
ただし、その知識は、頻出のものから稀出のものまであると。
今回は、そうした「頻度順」にマスターする王道を紹介します。
「でる順」は役立つか?
頻度順に知識をマスターしようとすると、すぐに思い当たるのは、旺文社の「でる順」シリーズです。書店の参考書コーナー積まれていますので、見かけた方も多いでしょう。累計で150万部という、売れ行き絶好調の参考書です。
さらにコンパクトにまとめた持ち歩きに便利なこんなものもあります。
「でる順過去問」のほうがメインです。
地理・歴史・公民、それぞれの頻出分野ごとにまとめられた入試問題集と考えればよいでしょう。問題の前に、ごく簡単な解説と、ごく簡単な用語チェックがあります。
私はこの本を、「企画勝利」と思っています。
さすが大手出版社、消費者のニーズをよくとらえています。
実は、中学受験参考書というのは、市場規模が大きくないのです。首都圏で52000人程度です。関西圏は17800人だそうですが、灘、洛南、東大寺、甲陽、星光、西大和、洛星などの主要難関校が、社会科を抜いた「算国理3科目入試」となっているので、今回の話題からは除外します。個人的には、中学入試の社会科は「社会教養基礎」と思っていますので、その基礎教養を必要としない関西圏の受験スタイルには違和感しか感じません。
ところで高校受験する人数は100万人を超えています。
つまり、参考書・問題集を作る出版社としては、5万人の市場を相手にするのか、100万人の市場を相手にするのか、そうした判断となるのです。
そして、中受向け、高受向け、それぞれの参考書の作成コストは変わりません。
そう考えると、中受向けの参考書・問題集の企画は、よほど工夫しないと「赤字」の恐怖が待っています。一般には、初版5000部が採算ラインといわれているようですね。
そしてこうした参考書は、一度出版して「定番化」すれば、何年も利益を生んでくれるという利点もあります。
ただし、「社会科」の宿命として、古い問題・情報は困りますので、他教科に比べて改訂頻度が多いという問題もあります。
いずれにしても、この「でる順」シリーズは、効率よく社会科の知識を整理したい、そうした幅広いニーズに応えたものなのです。
こうして、わずか5万人程度の市場規模で勝負するためには、二つの方向性しかありません。
1)多くの受験生を対象とする
2)自分の塾の生徒に販売する
2)については、日能研やSAPIXなどが出版しているものが相当します。塾生を対象として販売しますので、確実な部数の売り上げが見込めるとともに、広告宣伝も最小限で済むという利点があるのです。
1)については、こうした参考書がターゲットとする生徒像を考えてみればわかります。
・社会科が苦手
・暗記ができていない
・残り時間がない
・最難関校は目指していない
そもそも、こうした本に手を伸ばすということは、社会科の知識が無い・定着していないことを意味します。順調に学習を積み上げてきた生徒には不要な教材だからです。さらに、難関校を目指すような一部の受験生を対象とするのではなく、もっと幅広い受験生を対象とする本でなければ赤字となってしまいます。
つまり、この「でる順」シリーズは、易しすぎるのです。
また、「系統だてた」構成でないため、初習者には向きません。
この本が向くのは、以下の生徒です。
・6年生にもなるのに、社会科の知識が不足している
・社会科の偏差値が、SAPIXで50未満、日能研・四谷大塚では55未満
・受験直前のお守り替わりを必要としている
王道は入試問題を解くこと
私は職業柄、毎年多くの入試問題を解きます。だいたい200校分くらいになりますでしょうか。毎年200校と聞くと、多いようにも思えますが、実はそんなに時間はかからないのです。これだけの入試問題を30年以上にわたって解き続けていると、もはや解く必要がなくなるからです。問題を見た瞬間に答がわかります。正確には、答がわかることがわかるのです。
例えば、算数の四則混合計算問題が10題並んでいたとしましょう。大人であるみなさんなら、どんなに複雑な計算式であったとしても、問題を見た瞬間に「あ、この問題は自分には解ける」ということがわかりますね。ただの四則計算ですから。つまり解かなくてもよい状態です。解く前から「答がわかることがわかる」のです。
せいぜい、「計算を工夫すれば簡単にできるかな?」と考える程度です。これも実際に手を動かさなくても、「あ、これはこう工夫すれば簡単に答が出るぞ」ということがすぐに見抜けます。
つまり、実際に手を動かして計算する前に、すでに答が出る状態になっています。これはもう解く必要はないでしょう。
私が社会科の入試問題を見るときというのがこうした状態です。標準的な問題なら、瞬時に答が出ますし、答がすぐに出ることがわかるのです。
ただし、一部の難関校はさすがにこうはいきませんし、骨のある記述問題にぶつかるとワクワクして答を考えますので、多少の時間は必要ですが。
さて私がこうした域?に到達したのには単純な理由があります。ただ入試問題をたくさん解いただけです。社会科の入試問題といえども、無限のバリエーションはありません。定番のひっかけ問題もあれば、どの学校でも出題されるような「ど」定番の知識も多いのです。
多くの入試問題を解けば解くほど、重要な知識ほど「嫌になる」ほど見かけますので、否が応でも頭に定着します。
逆に、めったに出ない知識や、何年も前に一度出たことがあるだけの知識は、記憶の倉庫の奥になんとなく残るだけとなるでしょう。
これが、「頻度順に知識を定着させる」ことになるのです。
つまり、入試問題を多くとくこと、これだけで、頭の中に知識が「重要度順」に定着していくのです。
私が見たところ、多くの塾では(SAPIXですら)入試問題の演習量が足りません。
これには理由があります。
1)消費者が望まない
問題演習系の授業は、生徒や保護者が考える「授業」には見えないようなのですね。私が入試問題の解説授業をするときは、15分程度で解かせた問題の解説に60分は費やします。そうして60分間の「熱い」授業を終えたときに生徒に言われことがあるのです。「先生、今日は授業はやらなかったね」
どうやら生徒の認識では、授業というものは、「黒板にたくさん知識を教師が整理して書き、それをノートに写して、その解説を聞く」というもののようでした。
「教えてもらった」実感が生徒になければ保護者も不安ですね。
2)教師に力量が必要
教える立場からすると、新しい知識を講義形式で教える授業と、問題演習系の授業では、前者の方が「簡単」なのです。もちろんその知識を彩り豊かに展開するのは技量が必要ですが、定められた台本を読み上げるスタイルなら、不慣れな教師にも何とかなります。一方的に知識を伝達する「講義」形式の授業ですね。実につまらなそうな授業ですが、多くの塾はこのスタイルです。私が見学した中高一貫校の授業でも、そうした「講義」スタイルの授業は多くみかけました。
しかし、問題演習系の授業ではそうはいきません。生徒に問題を解かせて、教師が模範解答を読み上げる「答え合わせ」系の授業をするのなら別ですが。実は多くの塾の「問題演習」の授業はそうしたスタイルです。これはもはや、「つまらない」を通り越して詐欺ですね。しかし、少しでも「まともな」問題演習系の授業をするためには、その問題に対する生徒の出来具合を瞬時に把握する能力が必要です。また、生徒がどういった間違いをしがちなのか、経験則も大事です。そのうえで最近の入試傾向を考えながら、アドリブで知識の幅を広げたり、生徒を楽しませたりする解説もしなくてはなりません。
ここまでできる力量の教師をそろえるのはなかなか大変です。
多くの塾が、とくに社会科において「講義形式」の授業スタイルを優先するのにはこうした理由があるのです。
知識の羅列型整理の限界
「でる順」シリーズ以外にも、社会科の知識を「一問一答」形式で整理する教材はたくさんあります。
・「コアプラス」(SAPIX)
・「メモリーチェック」(日能研)
・「四科のまとめ」(四谷大塚)
・「中学入試 一問一答 完全版」(学研)
他にもたくさんありそうですね。
これらの知識網羅スタイルの教材は、初期段階の知識の暗記用としては有用ですが、6年生の後半にもなれば役立ちません。知識レベルが簡単すぎるからです。
その時間があれば、一問でも多くの入試問題を実際に解いてみることをお勧めします。
最後に拙著を紹介します。
これは、「社会科の暗記のコツをマスターする」本です。
今後の暗記人生において役立つ1冊だと自負しています。


