元SAPIX 中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

記述力は教養力

前回の記事で、記述力は推理力だといいました。

出題者の考えている模範解答を推理するゲームのようなものだと。

ただ、それだけではないのです。

そもそもなぜ記述させる?

 

入試問題の目的を考えれば、「いかに優秀な生徒を選ぶか」ということになります。そしてこの場合の「優秀」の定義に、「わが校にふさわしい」が付け加わるのです。

つまり、「わが校にふさわしい優秀な生徒を選ぶ」のが入試問題の目的です。

 

そう考えると、記述問題の役割は以下の3点に集約されます。

(1)得点の差別化

 入試問題が「選別フィルター」である以上、全員が満点や0点では役割を果たしません。適度に得点が散らばる「正規分布」になることが理想です。

 そこで、易しい問題から難しい問題までを合わせて出題することで、得点がばらつき、平均点が50点~60点くらいになるように調整するのです。

しかし、これがなかなか難しい。入試問題を作るのは中高の先生方ですが、彼らは小学生の知的レベルをよく知りません。そこで、日ごろ教えている中学生のレベルから推察して、「まあ小学生ならこれくらいかな?」と推測して出題するのです。

また、彼らは小学生の学習分野もよく知りません。もちろん小学校の教科書や学習指導要領を読めば、小学生が習うべき内容も簡単にわかるのですが、それではあまりにも「簡単すぎる」問題しか作れないのです。

そこで、「フライング」を始めます。本来なら中学生にならなければ学ばない範囲なのに、「まあ、これくらいは常識だから出題してもOKでしょう」とばかりに、入試問題に出題するようになりました。

今でも覚えているのですが、日本史の史料として「傘連判状」というものがあります。江戸時代の農民一揆の際に、農民たちが書いた血判状です。これがまるで寄せ書きのように丸く書かれているところに特徴があります。これは、一揆における当事者に上下関係が無いことを示すためとも、一揆の首謀者をわからなくするためとも言われています。

この史料は、大学入試では常識でしたが、高校入試でもあまり見かけたことはありませんでした。まして、中学入試では過去に一度も出題されたことがなかったのです。あるとき、この史料が入試に使われてしまいました。

入試直後に入試問題を入手した私は青ざめましたね。なぜなら、生徒たちには教えていなかったからです。

「どうしてこのような形で書かれたのか、理由を説明せよ」

幸い教えていた生徒たちは無事に合格しましたので、合格後に顔を出した生徒たちに、どんな答を書いたのか気いてみたのです。

一人の生徒はこう答えました。

「全くわからなかったのだけれど、史料をよく見ると、真ん中にドーナツ状の丸い空白があることに気づいたんだ。だから僕は、そのスペースに、一揆の成功を祈って仏様の絵を描いたって答えたよ」

全く違います。でも、こういう答、好きですね。江戸時代の人々は信心深く、何かにつけて神仏に祈る、そうした知識があったのです。

一人の生徒はこう答えました。

「一揆っていうのは、見つかったらまずいんだよね。だから、相談は夜中にやるんだ。誰かの家に集まって、ろうそくの明かりの中で額を寄せ集めてひそひそ小声で相談するんだ。その状態でサインしたからこんな形になったって書いたよ」

これも全く違います。でも、いい答えです。夜中に一揆の相談をしている農民たちの姿が目に浮かぶようではないですか。

さて、この問題が出題されて以降、この史料は中学入試でも定番となりました。おそらくは中高の先生方が、「あっ、傘連判状って出題してもいいんだ。だったらうちも・・・」となったのでしょう。

さてこの状況がどう展開するかわかりますよね。

そうです。出題される知識の量や細かさに歯止めがなくなるのです。

しかし、そこに塾の存在があります。

入試に出る知識は必ず教えます。学校がどんなに細かい知識を出そうとも、それに対応して生徒に教えるのです。

いわゆる「イタチごっこ」というやつです。

これはマスコミの恰好のネタになりますね。

「小学生にこんな難しい知識を要求するなんて」といった具合に。

 

さて、そうすると、知識を細かくすることにもおのずから限界というものが生まれます。

今では、だいたい中学校の学習範囲までは出題してもOKといった暗黙の了解があるようです。もちろんこれは「暗黙の了解」ですから、ルール化されているわけでもなんでもなく、なんとなくそれくらいは出している、といったレベルです。

そうすると、やはり差別化が難しくなってくるのです。

 

(2)思考力のある生徒を選ぶ

優秀な生徒=論理的な思考ができる生徒、こう言っても間違いではないでしょう。

そういう思考力のある生徒を選ぶためには、入試問題も思考力問題を出すしかありません。

これは、記号選択でも可能です。

日本の経済が絶好調だったころ、ある女子校でこんな問題が出されたことがあります。

問:円高と、海外に比べた日本の物価高がこのまま推移すると、日本の貿易はどのように変化するか、次から選びなさい。

この問題、居合わせた教師たちに聞いてみたところ、ことごとく間違えました。

それにしても、時代は変わりました。今ならさしづめこんな問題になるでしょうか。

問:円安と、海外に比べた日本の物価安がこのまま推移すると、日本の貿易はどのように変化するか、次から選びなさい。

暗い未来しか思いつきません。

 

記号選択よりも、もっと確実に思考力を測る出題スタイルがあるのです。

それが記述問題です。

 

(3)教養のある生徒を選ぶ

 学校で教えることには限りがあります。大人になるのに必要なすべての教養を網羅することなどできないのです。

教養を身に着けるのは、家庭の役割です。読書と家庭教育によって培われる教養をきちんと身に着けている生徒、これを学校は求めます。

「次の図の中から、日本食の配膳として正しいものを選べ」こんな問題が出題されるのはそれが理由です。

しかし、教養を測るのにもっと適した出題形式があるのです。

それが記述問題です。

 

教養の重要性

 こうして、記述問題によって、思考力と教養が測れることがわかりました。

そして大切なのは「教養」なのです。

世の中に見られる「記述力向上の方法論」では、文章を組み立てる方法論ばかりがクローズアップされていますが、それだけではないのです。

教養に裏打ちされていない、形式だけふまえた記述は空疎です。得点につながるはずもありません。

むしろ、深い教養を感じさせる記述のほうが、多少文章構造に難があったとしても、加点が多くみこめます。

 

教養を深めていくことこそが最重要だと思います。

 

4月1日から、指導体制を一新します。

教養を高める記述力講座を充実させる予定です。

詳細はHPで4月1日に公開しますので、ぜひごらんください。

 

また、ロジカルライティングについての本を書いています。

サブタイトルに「麻布受験生のための」とありますが、麻布以外を受験する生徒も、何なら中学生にも役立つ内容となっていますのでぜひお読みください。