元SAPIX 中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

頭の良い子とは?

はじめにお断りしておきますが、私は脳科学の専門家でもなければ児童心理学の知識もありません。ただ、中学受験の世界で、いわゆる「頭が良い」子を大勢指導してきた経験があるだけです。

その経験から、「やっぱりこういう子たちはここが違うな」と感じることがたくさんありました。今日はそうした話題です。

過去に出会った頭が良い子たち

今でも記憶に残る「頭が良い子」がいます。

 

A君は、麻布中学を志望していました。同じ教室には、麻布を志望する生徒が集まっていました。

麻布中の社会科入試問題は思考力・記述力系の問題で全国で最も難しく、最も良質な問題です。この学校はそうした記述問題を出し続けている唯一無二の学校です。そこで授業では、客観問題は扱わず、難易度が高い記述テーマの指導をしていました。

「原発は日本に必要か? メリットとデメリットを考えて君の意見を書きなさい」

「産業の空洞化が日本にもたらす影響を説明しなさい」

「ワークシェアリングの目的と影響について説明しなさい」

「選択的夫婦別姓について、その内容と影響について考えなさい」

例えばこのようなテーマについて、討論しながら記述していく、そうした授業です。とくに麻布の社会科の特徴としては、多角的な視野、社会問題に関する思考、そうしたところまで踏み込んで出題されますので、麻布対策の授業では、他の学校を受ける生徒相手ではやらないような、「半歩踏み込んだ」テーマを討論課題とすることが多いのです。

指導スタイルは、生徒の書いた答案をその場で読み上げながら添削指導するスタイルです。そのやり方が最も効果があがります。自分の答案だけでなく、他人の答案が添削される様子も大きな学びにつながるからです。

とはいっても、正直なところ、生徒たちの答案は控えめに言っても「酷い」ものばかりです。まず読める文字が書けない。さらに漢字が使えない。句読点もまともに打てない。段落構成もおかしい。そもそも論理的に書くことができない。

毎年春から受験学年の指導を始めると、暗い気持ちになったものです。これを1年間で合格レベルまでもっていかなくてはならないのか。溜息も出ます。

しかし、そんな中にも「光る」答案があるのです。内容や表現が稚拙でも、着眼点にみるべきものがあるのですね。それを大げさにほめそやしながら、授業に組み込んで展開していくのが、こうした麻布志望者の授業の醍醐味です。

いつも10点満点で採点します。私の中では、普通の答案は5点と考えます。可もなく不可もなく、そうした答案です。そこから、用語の誤り、文法のミス、誤字脱字、そうした表現技法を減点していきます。また、着眼点や発想力等については加点していきます。最初のうちは、1点から3点レベルの答案ばかりです。これが受験間際に8点レベルに到達すれば、合格が見えてくるのです。

しかし、A君の答案は違いました。春の段階から、何度も高得点を取るのです。

私の指導スタイルとしては、生徒を甘やかしません。麻布を目指すのですから、普通の受験生レベルの記述力では仕方がないのです。しかし、ある日、ついにA君は10点をとりました。どこからどう見ても、減点の要素が一つもない、加点要素がたくさんある、そうした見事な答案をA君は書きあげました。

後にも先にも、これだけ見事なパーフェクト記述を見たことはありません。

大人並みの思考力を持つ生徒でした。

 

少年野球チームに所属していたB君がいました。試合・練習で忙しく、泥だらけのユニフォームで教室に来ることもしばしばでした。母親に聞くと、家では全く勉強しなかったそうです。その時間の余裕もなかったのですね。

しかしB君は、塾で行う毎回の小テストで、ついに1年間100点を取り続けました。文字通りのパーフェクトです。B君は、塾の授業中にすべてをマスターする、そこに全集中力を注いでいたのです。

 

C子さんの母親は熱心な方でした。頻繁に私に電話してきて、学習相談をするのです。しかもそれが1時間に及ぶことはざらでした。受話器を取ると、電話の向こうで大音量のオペラが流れています。それが聞こえた瞬間、名前を聞く前から「あ、C子さんの母親だな」とわかります。あとは長時間を覚悟するのみです。

そうして2時間近くに及ぶ電話相談を受けたあくる日、授業にやってきたC子さんがこう言いました。

「先生、いつもごめんね。母が迷惑かけて」

この言葉が自然に出るC子さんは大人でした。

 

「頭が良い子」の特徴

大勢の「頭の良い子」を見てきて、その共通した特徴がいくつかわかってきました。

3つあげてみます。

(1)自分を飾らない

まず第一の特徴の「自分を飾らない」について説明します。

これは、「見栄を張らない」「自分をごまかさない」ということなのです。

例えばテストを返却したとき、ほとんどの子が、自分の点数を他には知られなくないので、すぐにカバンにしまいます。しかし何人かの生徒たちは、大っぴらに成績の話を友達としているのです。ことさら自分を良く見せようとする必要がないからなのですね。しかも点数が悪いときでもその態度は変わりません。失敗をそのまま受け入れることができているのです。

こうした生徒たちは、わからないことがあれば、すぐに教師に質問します。「こんなことも知らないのは恥ずかしい」という概念がそもそも無いのです。わからなければ質問するのにためらいがありません。

(2)大人である

第二の「大人である」は、周囲の状況を察する能力を意味します。自分の置かれた状況を客観的に判断できる力を持っているのです。

だから、生徒どうしの悪ふざけには加わりません。どこか超然とした雰囲気を持っていることもあります。授業が終わったときの退出が早いのも特徴です。周囲の子たちのだらだらとした状況には加わらず、風のように帰っていきます。

また、忘れ物が無いのも特徴です。

 

(3)話題が豊富

第三の「話題が豊富」というのは、知識欲が強く、あらゆることを貪欲に吸収してきたことを意味しています。

「先生、どうして江戸時代の日本ではフランス革命のような革命が起きなかったのですか?」

こんな質問を普通にしてくるのです。

ちなみにフランス革命は中学受験には出ないので一切扱っていません。

「トランプの相互関税って、結局アメリカは得をしないと思うんだけど、どうしてトランプはそんなことやったのかな?」

ニュースをよく知っていますね。おそらく新聞を読んでいるのでしょう。

 

例外もいるけれど

もちろん例外はあります。

 

D君は、テストの点は抜群に良かったのです。しかし、とにかく幼かった。

例えば授業中にシャープペンシルを分解して、もとに戻らないとしくしく泣いてしまい、もうその日は授業にならないのです。

授業中に何度もトイレに行くのですが、実は廊下でママに電話しています。ママの声を聴かないと不安になるのですね。

ここまで精神年齢が幼いと、さすがに勉強もできないはずなのですが、なぜかD君は優秀でした。ただし、客観問題には強いのですが、思考力系の問題は苦手だったのは当然というべきでしょう。

 

E君は、落ち着きのない子でした。とにかく授業に集中できず、座っていてもいつも体が揺れています。「ほら、体を動かさない!」と声をかけるとピタリと動きが止まります。しかし数分もすると、そわそわしだし、きょろきょろし始める生徒です。

ただし、他の生徒が誰も答えられないような質問をしても、E君だけは手を上げました。的外れな場合が多いのですが、たまにクリーンヒットするのです。頭脳の発達がちぐはぐでバランスが取れていない印象でした。しかし時折見せる優秀さの片りんは、今後に十分に期待させるものでした。

 

勘違いに注意

 小学校低学年なんて、まだまだ勉強の意味もやり方もよくわからないものです。それが普通です。でもたまに、大人顔負けの受け答えをする子もいるのです。

よく言えば「大人びた」、悪くいえば「なまいき」な子どもです。

こうした子の特徴としては、周囲の状況に頓着せずに、本人が「大人に受ける」と思い込んだ発言を頻繁にするところにあります。

おそらく、幼少期より、周囲から「こんなことがすぐに言えるなんて、なんて賢いのだろう」と言われ続けてきたのでしょう。

しかし、経験上、こうした子たちは次第に成績が低下していきます。アウトプットに夢中になる子は、インプットが疎かになるからです。

 

「うちの子は頭が良い」と思う前に、どのような点が優れているのか、正確に把握することが大切ですね。

 

コツコツ型の強さ

いわゆる「頭が良い」タイプではないですが、たまにコツコツとした努力を地道に続けられる生徒もいます。ウサギとカメでいえば、カメタイプですね。周囲からは「頭が良い」とは見られないタイプですが、実は小学生でこうした努力が継続できるのは、相当すごいことだと思います。もしかして中学受験には間に合わないかもしれません。中学受験というものは、小学生には無理難題としか思えぬような勉強量を要求しますので、難関校合格のためには瞬発力とか処理スピードも必要だからです。しかし、こうしたタイプの子は、そのまま中学・高校でも努力を重ねて、最終的には相当な高みに到達することは間違いありません。

努力が継続できる、これもまた一つの才能です。