元SAPIX 中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

中学受験から撤退するタイミングの見極め方

今回は、いつもと逆の方向性の記事となります。

私は、中学受験肯定派です。

しかし、どうしても中学受験から撤退する決断を下さねばならない場合があることも理解しています。

しかし、そのタイミングがつかめずに、ずるずると時を重ねてしまう場合が多いのです。

撤退を考えるとき

(1)子供が勉強を嫌がる

ほとんどの方は、これが理由となって、中学受験からの撤退を考え始めると思います。

四六時中、子供に「勉強しなさい!」を言い続けなくてはならないのです。

とにかく勉強が嫌いで、隙さえあれば勉強から逃げようとします。

塾をさぼる子もいます。塾に行ったふりをして親をごまかそうとする子もいます。

 

過去にこんな生徒がいたことを覚えています。

「あれ、A太君は今日は休みか」

「先生、A太なら、さっき塾の近くのコンビニで雑誌を立ち読みしていたよ」

さては、また、さぼりか。

家を出て電車に乗り、塾の近くまでは来たのですが、そこで教室に来るのが嫌になったのでしょう。

さぼり癖のあるそんな子は放っておけば良いとも思いますが、そうもいきません。そこで、手の空いているスタッフを動員して、駅近くのコンビニや本屋、公園など、子供が立ち寄りそうな所を探しましたが、見つかりませんでした。親に連絡もつきません。

結局A太君は、夜遅くになってから、家からも塾からも遠く離れた駅のホームで、駅員に保護されました。

親に叱責されたA太君は、こう親に言い訳をしたのです。

「塾の近くで、知らない人の車に乗せられて、遠くまで連れていかれた」

つまり、誘拐された、と言い張ったのです。

もう少しましな嘘をつけばよさそうなものですが、まあ子供ですから。親に叱られるのがそんなに嫌だったのでしょうか。

しかし、A太の両親は、息子の言い分を100%信じたのです。

翌日早朝から、塾の近くの路上、「誘拐された」現場検証に多くの警官が駆り出されていました。人通りも多い、昼間に子供が誘拐されるような通りではありません。

A太君の虚言のせいで、親も心配し、警察も無駄に駆り出され、塾の教師たちも夜中まで帰れずに待機させられたのです。

そうやって多くの人を振り回してでも勉強したくないA太君は、すぐに中学受験から撤退すべきでした。

 

(2)親が疲れた

勉強を嫌がる子供とのバトルの日々に、親がほとほと疲れ果ててしまったのです。夫婦関係も悪化します。互いに責任のなすりつけ合いになってしまった話も何度も聞きました。

「もう限界です」

そう言って相談に来る方もいます。

しかし、これはどうなんでしょうか。

親が子供のために頑張るのなど当たり前のことです。それを、「疲れたから」という理由で中学受験から撤退するというのは、子供の未来よりも自分の疲労のほうが優先された、ということなのでしょうか。

おそらくは、子供の適性や能力が見えていないのだと思います。

すべての子が、勉強すれば開成や桜蔭に合格できるわけではありません。すべての子が、日曜日に14時間勉強できるわけではありません。

子供一人一人に合ったペースというものがあり、こなせる勉強の量も質も異なるのです。

しかし、集団指導塾は、そうした各自の事情に斟酌できません。個別指導塾ならよいのですが、そこまでの力量のある教師も多くはないでしょう。

まずは、子供の現状と能力を見極めるところから始めるべきなのです。

 

(3)教育虐待だと言われた

これだけ中学受験が一般化した今でも、「中学受験は子供の心の成長に悪影響を及ぼす」という、いかにももっともらしく聞こえる意見を振りかざす人がいます。しかも、心の専門家と称する人にも多いのが厄介ですね。

子供の将来を本気で考え、子供に向き合うことができるのは親だけです。やるべき勉強をやらせるのは「虐待」ではありません。むしろ、この時期にきちんと勉強させないほうが「教育(しない)虐待」だと思います。

しかし、周囲から見て異常に思えるほど、受験にのめりこんでしまう親がいることも事実です。

どこからが「教育虐待」と呼べるのかの線引きは専門家におまかせするとして、私はこの4点が大切だと思っています。

 

◆暴力をふるったり暴言を吐かない

さすがに子供に手をあげる親はいないと思いますが、怒鳴る親はいるかもしれません。大人が本気で怒鳴ると、子供にとっては殴られたのと同等のショックなのです。これは確実に「虐待」の領域です。

ただし、「子供をいっさい叱らない」のも問題です。本気で子供と向き合い叱ることができるのも親だけなのですから。

怒る・叱る・注意する

この3つをしっかりと使い分けましょう。

 

◆睡眠時間は確保している

小学生の理想的な睡眠時間は、9~12時間だそうです。個人差はありますので、「絶対何時間」とはいえませんが、小6でも、最低でも9時間は確保しないとならないという専門家の声を見かけます。

夜9時睡眠、朝6時起床

これで9時間の睡眠となります。

そもそも塾が9時・10時まで授業しているのだから非現実的だと思われるかもしれませんが、それは塾のほうが間違っているのです。

だから私は、中学受験のための塾通いには諸手を挙げて賛成できないのですが。

 

さて、きちんと毎日9時間の睡眠時間を確保してあって、そのうえで起きている時間帯に勉強をさせているのなら、これは「教育虐待」にはならないと思います。

 

◆他人との競争を煽らない

他の子や兄弟と比べることが、虐待へ進む第一歩なのだと思います。

受験の世界は、点数・偏差値で「自分の立ち位置」を常に確認し続ける世界です。すなわち他人と比べて自分のほうが順位が上、下、そういう感覚になる世界です。

しかし、これは、「過去の自分」との比較のためであると考えてほしいのです。

親が他人との比較をせず、競争を煽らないことはとても大切だと思うのです。

 

◆一緒に食事をする

親子の会話は大切です。もちろん勉強以外の会話です。

しかし、実際には中学受験勉強をしていると、そうした親子のコミュニケーションをとる時間が無いのも事実です。

せめて、一緒に食事をする時間を大切にしましょう。

食事をしながらの会話は、当たり障りのない、どうでもいいような内容になりますね。それがいいのです。

そうやって親子でくだらない話ができているのなら、教育虐待にはならない気がします。

 

睡眠時間と食事時間に悪影響があるのが塾の最大の弊害です。

塾をどう利用するかについては、ここはじっくりと考えるべきだと思います。

 

中学受験をしない=勉強しなくていい ではない

中学受験からの撤退を決断する前に、ここだけは勘違いしてほしくないのです。

 

中受をしないからといって、勉強しなくていい理由にはなりません。

やるべき勉強の内容が変わるだけなのです。

 

小学生・中学生・高校生・大学生(&社会人)、どの段階でも、その時にやるべき勉強があります。

とくに小中学生のとき、つまり「義務教育」期間にやる勉強は、大人になるための「最低限」の基礎教養を学ぶ勉強です。

しかし、それだけでは不十分なのは、高校への進学率が99%程度である現状が証明しています。

 

勉強が嫌だからという理由で中学受験から撤退しても、国語・理科・社会の3科目はやる必要がありますし、さらに英語の勉強もやらなくてはなりません。

決して「楽に」なるのではないのですね。

 

ただし、切迫した「競争」からは解放されます。

 

以前に同様の記事を書いています。

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