中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

【中学受験】2026攻玉社ー社会の問題に見る、「受け狙い」の愚

中学入試問題を見ていると、「受け狙い」としか思えない問題を見かけることがあります。

今回はそうした問題について書くことにします。

※例としてとりあげた学校を批判するつもりは毛頭ありません。学校の先生方が深いお考えの元に作られた問題ですので、私ごときにはそのお考えが理解できなかった、ただそれだけなのです。

 

受け狙い?

「受け狙い」と嫌味な表現をしましたが、ここでは、「中学入試に無関係なメディアにもとりあげられる」くらいの意味とご理解ください。

こうしたタイプの出題も、大きく分けると3種類あると思います。

(1)きちんとした意図のもとに出した問題

(2)受験生を和ませようと思ったor 出題者が面白いと思った

(3)話題になることを狙った

 

(1)のケースというのは、別に受けを狙ったわけでもなんでもなく、しっかりとした出題意図のもとに出した問題が、たまたま話題になった、そういうタイプの問題です。

 

例としては、2013年に麻布中学が理科で出題した、通称「ドラえもん問題」がわかりやすいですね。

99年後に誕生する予定のネコ型ロボット「ドラえもん」。
この「ドラえもん」が優れた技術で作られていても、生物として認められることはありません。それはなぜですか。理由を答えなさい。

かなり話題となりましたので、ご存知の方も多いと思います。

この問題に対しては、様々な「的外れ」の批判がありました。

その批判の内容は・・・まあご想像の通りです。

 

しかし、この設問の前に、文章中にしっかりとこのことが書かれていたのです。

◆地球上の「生物」に共通する特徴
1.自分と外界とを区別する境目をもつ
2.自身が成長したり、子をつくったりする
3.エネルギーをたくわえたり、使ったりするしくみをもっている

 

つまり、ドラえもんがいくら生物のようにふるまっていても、2の条件を満たしていないので、「生物」とは認められないのですね。

 

一見奇をてらった問題に見えますが、「生物」とは何かについて考察させる意図の出題であり、文章中でヒントを与えて考えさせる問題ですので、難易度は高くはないですし、いかにも麻布らしい思考力系の良問でした。

 

今なら、生成AIの進化に関連して、「生成AIはいくら豊富な知識に基づいて的確な答を導けるとはいえ、人間の知性と同等とはみなされないのはなぜか」といった問題に展開できそうです。

これ、面白いので今度のロジカルライティングのネタにしようかな。

 

(2)のパターンは良くないですね。出題者の「おもしろい」は受験生の「おもしろい」とはイコールではありません。また、受験生は入試問題に「なごみ」は求めていません。

 

(3)のケースは最悪です。そんな学校は無いと思いたいのですが。

 

そういえば、ずいぶん昔の早稲田実業の問題で、ミュージシャンの小室哲哉氏の曲の歌詞を素材とした出題がありました。小室哲哉氏は早稲田実業の卒業生です。「小室哲哉記念ホール」という400名以上収容の立派なホールも校内にあります。しかし、この問題を出題後、詐欺事件で逮捕・有罪となったのは大きなニュースとなりました。

受けを狙った(たぶん)出題が、黒歴史となってしまいました。

 

攻玉社 社会(1回)

大問1の文章からして、異色です。

「2007年、クリプトン・フューチャー・メディアが発売したバーチャルシンガーソフトウェア及びそのキャラクターの初音ミクは、・・・「ボカロ文化」という新たな創作の世界を広げた・・・」

 

のっけから「初音ミク」です。文章にはさらに、「冬木小袖」「鏡音リン」「鏡音レン」といった名前が登場します。誰だ、それ?

どうやら出題者は、ボカロ文化が浮世絵文化の継承者であるといいたいようなのですが・・・。

・・・このように、歴史や他者から学び自らも創作に関わる姿勢は、政治や教育などにも活かされる視座となるだろう。攻玉社は160年以上の歴史と継承された伝統がある。「他山の石以て玉を攻むべし」を由来とする校名の体現は、初音ミク現象の視点からアップデートすることができるだろう。攻玉社の「未来(ミライ)」の在り方が試される。

 初音ミクは同じ時代・地域・世代・分野・次元の人だけでなく、異なる時代・地域・世代・分野・次元の人を結ぶ手本となる。我々は排外主義や全体主義が流行した社会の顛末を歴史から学んでいる。「彼女」の在り方から学ぶことはとても多い。・・・

私は「初音ミク」がそんな凄い存在だとは知りませんでした。「手本」で「彼女の在り方から学ぶことはとても多い」とは。

そもそも私はこうした「ボカロ」曲が大嫌いなのです。あれは「音楽」ではないというのが私の見解です。

 

それにしても、どうした、攻玉社。このネタで大問を作る勇気には感心しますが。

また、未来にわざわざ(ミライ)と書き添える意図も不明ですね。まさか細田守監督のアニメ「未来のミライ」を意識した?

 

この文章からの出題は、まず空欄埋めでした。

・ジャポニズム

・埴輪

・浮世絵

・蔦屋 重三郎

これらを、しかもジャポニズム以外は漢字指定です。

まず「ジャポニズム」は難しいですね。大人にとっての常識ワードですが、小学生は知ってたかな?

さらに、埴輪はよいとしても、「屋重三郎」、書けますか? これはもちろんNHK大河ドラマからの出題です。

そういえば、攻玉社といえば、かつて、「南無阿弥陀仏」を漢字指定で答えさせた学校です。「念仏を答えろ」だったかな? また、「親鸞の思想を漢字4文字で」という出題で、「悪人正機」を答えさせたのもこの学校だったと思います。

 

その蔦屋重三郎が交流した作者として間違っているものを選ぶ問題もありました。

・山東京伝

・大田南畝

・恋川春町

・東洲斎写楽

・曲亭馬琴

・狩野永徳

・十返舎一九

・喜多川歌麿

まあ、狩野永徳が安土桃山時代であることは知っているはずですので、答は出ます。

しかし、この選択肢はどうなんだろう。

曲亭馬琴が滝沢馬琴であることはわかるとしても、山東京伝・大田南畝は知らないだろうなあ。まして恋川春町なんて絶対に知りません。黄表紙を確立した人物ですが、そもそも黄表紙も小学生の知識ではありません。

このダミーの選択肢のチョイスにも、作問者のセンスが現れるのです。

 

そして、注目の問がこれです。

 

人類が増えすぎた人口を宇宙に移民させるようになって半世紀が過ぎた宇宙世紀0079年、地球に最も遠い宇宙都市が、地球連邦政府に対して独立戦争を挑む作品(1979年テレビ放映)を次の中から1つ選びなさい。

ア「銀河鉄道999」

イ「銀河英雄伝説」

ウ「機動戦士ガンダム」

エ「宇宙戦艦ヤマト」

オ「超時空要塞マクロス」

カ「新世紀エヴァンゲリオン」

みなさんは、すぐに答がわかりましたか?

申し訳ないですが、私には全くわかりませんでした。

そもそも、これらの作品を視聴したことがないのです。

それでも普通に生活していても、何となく情報が入ってくることはあります。例えば、「銀河鉄道999」が、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」をモチーフにしていて、宇宙を鉄道が走っているっぽいとか。ただ私は宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」が好きではないので、それ以上の情報は持ち合わせていません。

「機動戦士ガンダム」は、昔家庭教師をしていた高校生が、プラモデル作りに夢中だったことを思い出します。巨大ロボットに乗り込んで戦う戦闘ものだったと思います。

「宇宙戦艦ヤマト」は、戦艦大和風の宇宙船が活躍するものでしょう、きっと。

あとは知りません。

あ、Evangelistといえば、ITの最新情報を啓蒙する人のことですね。語源がキリスト教の「伝道者」であることは知っています。ということは、「エヴァンゲリオン」もそうした意味? 気になって今調べたら、ギリシア語(のラテン語表記)で「福音」のことでした。きっと神が出てくるアニメなのでしょう。

 

この問題を解けない私は、教師失格なのでしょうか。

そもそも今の小学生にとっては常識なのかな?

 

今年見た入試問題の中では、今のところワースト1です。渋谷渋谷の有機化学の出題がワースト1だったのですが、逆転しました。

 

1点の重み

 

1点が大事だ! 

教師は生徒に常にそう言い続けます。そしてそれは真実です。

今でも記憶に残るエピソードを紹介します。

 

M中学を目指す生徒が二人いたのです。A君とB君です。A君はまじめで控え目なタイプ、B君は陽気なキャラの子でした。M中学は、学究肌のA君にも合いますし、B君のような子も輝ける学校でした。

入試結果は二人とも補欠だったのです。A君の補欠番号は8番、B君の番号は12番でした。この学校の例年の補欠繰り上げ状況を考えると、二人とも繰り上がっても、あるいは二人とも繰り上がらなくてもおかしくはなかったのです。

結果は、8番のA君は繰り上がり合格したのですが、B君はダメでした。

「うちの子は電話機の前でずっと待っているのです」

そうB君の母親から聞いたときは、私も思わず泣きそうになりました。

補欠番号の8番と12番。その間にいったい何点の得点差があったのでしょうか。おそらく1点か2点程度だったと思うのです。

それで運命が変わります。

受験とはそういう世界です。

 

攻玉社の入試でも、この問題が出来なくて落ちた生徒が必ずいます。

出題した先生は、それについてどうお考えなのでしょうか。