
今回は、2026開成中の社会科入試問題を見ながら、中学入試問題の質について考えてみます。
※開成の問題の質が低いとか高いとかいう意味ではありません。素材として取り上げただけです。
社会入試問題の軸
社会科にかぎりませんが、入試問題にはいくつかの軸を考える必要があります。
前提:その学校に入学させたい生徒をふるい分けるフィルターの役割
まずこれが大前提ですね。入試問題の存在目的そのものです。
受験生全員が満点をとるor0点となる そういう問題では目的を果たせません。適度に得点が散らばって、正規分布となる問題がよいのです。そのうえで、「こういう問題が解ける生徒に入ってほしい」という中学校の思いをこめて作ります。
社会科入試問題にはこういう軸があるのです。
(1)知識量と質
知識の量・質については、およそ3段階と考えます。
◆基礎レベル・・・都道府県の位置、主な工業都市、主要な農産物の産地、簡単な歴史、公民の基本。
こうした基礎レベルの知識は、どの学校でも出題されます。これによって、その生徒がどのような小学校=受験生生活を送ってきたのか、そして中学校の学習についてこられるレベルなのかどうかの最低ラインを確認するのです。
例えば、地理でいえば、やませ、太平洋ベルト。公民なら、憲法の三大原則。歴史人物でいえば、織田信長・豊臣秀吉・徳川家康レベルですね。さすがにこれも知らない生徒は中学校は受け入れたくないのです。
◆標準レベル・・・中学生(公立)の知識レベル
これが中学入試の標準知識レベルです。公立中学校用の学校教科書レベルです。公立に進学した中学生が3年間で学ぶ内容ですね。
たとえば、地理なら、産業の空洞化・円高・円安・貿易摩擦、公民なら、衆議院の優越や三権分立、歴史人物でいえば、徳川秀忠・家光・綱吉・家斉・慶喜レベルです。樺太千島交換条約、シャクシャインの戦いもこのレベルです。
大半の受験生は、このレベルまでの知識を取得します。
◆発展レベル・・・高校生が学ぶ知識レベルのうち基本的なもの
たとえば、歴史人物でいえば、藤原清衡・基衡・秀衡・泰衡、アテルイ、喜多川歌麿、小林多喜二、孫文、蒋介石、袁世凱、柳宗悦、といったあたりでしょうか。コシャマインの戦い、クナシリ・メナシの戦い、萩の乱、そういったレベルです。
この発展レベルの知識は、出題には注意が必要です。あくまでも12歳の小学生が知っている知識から出題すべきなのですから。したがって、インフレーションは出題してもよいのですが、スタグフレーションはNGです。孫文を聞くのはOKですが、三民主義の内容(民族主義、民権主義、民生主義)を答えさせるのはNGです。張作霖や河本大作を出してはならないのです。
しかし、問題の差別化をはかろうとすると、この発展レベルの知識を問うのが最もイージーなため、「心無い」社会科の先生が陥りがちな傾向でもあります。
(2)思考力・記述力
あくまでも小学生の学習はインプット主体ですので、過度に思考力・記述力を追い求めると、問題が小学生に解けないレベルになったり、解ける必要のない問題になるから要注意です。
「あなたが読んだアラビアンナイトの話を思い出して、当時のイスラム社会について書きなさい」
これは、ずいぶん昔の武蔵中の出題です。
いったい受験生の何を測ろうとした出題なのか意味不明です。
朝鮮との関係史
大問1は、日本と朝鮮の関係について書かれた文章からの出題です。基本的な知識を問う問題でした。
ただ、いくつか気になる問題もあります。
◆竹崎季長
元寇の様子を描いた「蒙古襲来絵詞」を書かせた肥後の国の御家人ですね。
開成の受験生なら、名前は知っています。ただ、この人物が歴史上どれだけ重要かといえば疑問符がつきます。歴史上の意味といえば、この絵巻物を描かせただけですので。たしかに国宝にもなる貴重な資料ですが、ここは「蒙古襲来絵詞」を答えさせるか、あるいは絵を資料として出して、その絵から読み取れること(弓矢の違い・集団戦法・てつはう等)を答えさせるほうが良問です。
◆寛永寺(上野)
1868年の上野戦争で、彰義隊が立て籠もった寺の名前を答えさせる問題がありました。
これもちょっと細かいなあ。この戦争は、寺の名前が重要なのではないと思います。「江戸城無血開城」が念頭にあると、ついつい戦闘もなく江戸が薩長(新政府)の手に渡ったかのように思われがちですが、実は戦闘があったこと、わずか半日で終わった過酷な殲滅戦であったこと、上野が焼け野原になり、寛永寺の支配地が1/10に削られたこと、このあたりがポイントだと思うのです。それをネタとした記述問題など実におもしろいのですが、さすがに中学入試のレベルを超えてしまいます。「将軍家の菩提寺があり、彰義隊が立て籠もって戦った場所は?」で上野を答えさせるくらいがせいぜいでしょうか。
◆光復節
さすがに「光復節」を答えさせる問題ではありません。「第二次世界大戦が終結して朝鮮半島は日本の支配から独立した」ことを記念して韓国・北朝鮮の両国で国民の祝日となっている日を答える問題です。簡単な問題ですが、少しだけ角度を変えた出題です。ただしこれも、「8/15が韓国で光復節という祝日となっている理由」を答えさせる問題のほうが私好みですが。
陰影起伏図
大問2は、陰影起伏図を使った歴史の問題です。
陰影起伏図というのは、国土地理院によると、
北西の方向から地表面に向かって光を当て、凹凸のある地表面の北西側が白く、南東側が黒くなるよう作成した図です。尾根線、谷線の判別や断層の判読などにご活用いただけます。
となっています。まあ立体的に見える地図と思ってください。
それを参考にして、広島城の位置を書かせる問題が出ていました。解答用紙に大きく「築城以前の地形図」が書かれているので、いったいどんな問題なんだ! と驚きますが、実に簡単な問題です。
また、大阪城・江戸城・名古屋城、それぞれの陰影起伏図を選ばせたあと、三つの城が築かれた場所の、地形の面での共通点を答える問題がありました。これは少しだけ面白いですね。
それをうけて、江戸城・大阪城・名古屋城に共通する防御上の利点と、広島城の防御上の利点の違いを答える問題も出ています。
城は戦いの道具ですから、そこを忘れていなければ簡単です。
◆ノーベル平和賞を受賞した「日本原水爆被害者団体協議会」の名称に「水爆」が入っている理由の記述。
さすがに受験生は「第五福竜丸事件」はよく知っていますので、問題はありません。
たまたま目にした記事で、「この時期に非核三原則や第五福竜丸事件について問うのはさすが開成だ!」というものがありましたが、中学入試をよく知らない方なのでしょうね。受験生の基礎知識ですから。
◆国宝5城
「天守が戦争などによって失われ、明治以降に再建された城を、全て選びなさい」
会津若松城・犬山城・熊本城・彦根城・姫路城・松本城
これは細かい!
(姫路城、彦根城、犬山城、松本城、松江城)の5つが国宝となっていることなど小学生は知りません。知る必要もありません。
姫路城はさすがに頻出ですが、他の城はよく知らないのが普通です。
天下の開成中がこういう問題を出すと、すぐに受験参考書に「国宝5城を覚えよう」となるので止めてほしいのです。
トランプ関税・貿易
大問3は、日米の貿易と関税に関する問題です。なかなかタイムリーですね。
記号選択なので、難易度は高くはありません。
問2は、日本からアメリカに自動車を輸出する場合、関税は誰がどこに納めるのかを選ぶ問題でした。関税の意味を知っていれば簡単ですね。そもそも関税は、「自国の産業を保護する目的で輸入品にかける」税ですから、アメリカが日本の自動車に関税をかければ、支払うのはアメリカの輸入企業で、もちろんアメリカ政府に納めます。これを間違える生徒はいないでしょう。
開成中は、学校の入試難易度が最高レベルなのに、社会科入試問題のレベルは最高ではないというところに特徴があります。
開成を本気で受験する生徒にとっては差がつきにくい問題だと思います。
もっと思考力系の記述に振ってくれないと、高得点のせめぎ合い=ミスが命取りとなるので、受験生泣かせなのです。
まあミスが命取りになるといえば、筑駒はもっとその傾向が強いですからね。
これも学校が生徒に求める資質なのでしょう。