中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

【入試問題研究】2026 麻布中 社会

毎年この時期の私の楽しみといえば、各中学校の入試問題を解くことです。

各中学が工夫をこらした出題、今年はどんな問題が出たのかな?

もちろん、入試問題の中には、がっかりさせられる問題もあります。

・易し過ぎる問題

・何の工夫もない問題

・出題ミス(解答ミス)

この3パターンです。

受験生を馬鹿にしているとしか思えない簡単な問題や何の工夫もなく安直に作られた問題。その中学校に憧れて頑張ってきた努力を否定するようで嫌なのです。もちろん出題ミスは論外です。

 

そんな多くの入試問題の中で、とくに楽しみにしているのが麻布中の社会科の問題です。

この学校の社会科の入試問題は、全国の全ての中学校の入試問題の中で最高峰といえる問題です。テーマも単純ではありませんし、解答するのにも、多面的な視野が求められます。何より高度な思考力と記述力が求められる問題なのです。

 

テーマ:森林

 今年のテーマは「森林」でした。4ページもの長文を読みながら、各種問いに答えるといういつもの形式です。

 「森林」といえば、20年以上前にも出されましたね。あの時の問題は、植林事業についてでした。

「下流の町の住人が上流で植林事業を行う理由」についての記述問題でしたが、大半の塾が出した模範解答がことごとく外していたことでも記憶に残っています。

「上流に植林することで水害を防ぐ」といった解答になりがちですが、そのことはすでに文章中に触れられています。「文中に述べられていること以外に・・・」という指定でしたので、これでは「不正解」になるのです。

実はこの問題は、川が私たちの生活を支えてきたという視点を持つことが重要でした。四大文明の昔から、川は私たちを支えてきました。日本でも、木曽三川の水害にあれだけ苦しめられながらも、川の近くに住み続けたのには理由があったのです。

しかし、現代の私たちは、そうした川の恩恵をすっかり忘れ、「川によって生かされている」という感覚が消えてしまいました。

この植林授業を通じて、私たちが川によって生かされている、川の上流と下流の生活がつながっている、そうした感覚を取り戻そうとしたのです。

さすが麻布!と言いたくなる出題でしたね。

 

さて、今回の「森林」はどうでしょうか?

 

文章は、古代から現代までの森林の伐採と利用についてまとめられています。さほど目新しい内容ではありませんが、受験生はここまで細かい知識は持っていません。多くの学校の問題文章が、「別に文章を読まなくても解答できる」のに対し、麻布の問題は、文章をしっかり読解することが必要です。

文章中には、

「・・・沼津にある愛鷹山は、江戸時代には地域の人々が共同で利用していましたが、明治時代に国有化され、それまでのようには使えなくなってしまいました。これに対して地元の議員だった江原素六らが中心となって政府に働きかけ、地域住民が元通りに使えるようにさせました。」

とさりげなく書かれています。江原素六の名を見てピンとこなければ麻布受験生失格ですね。学校のHPの「沿革」を引用します。

創立者 江原素六
麻布学園の創立者江原素六は、1842(天保13)年貧しい幕臣の子として江戸、角筈に生まれた。幕末の動乱にさいしては、幕府軍の若き指揮官として、鳥羽伏見戦、両総戦などを戦った。1868(明治元)年徳川氏の駿河移封にともない沼津の地に移住した。同年、当時近代教育機関として最高の水準にあった沼津兵学校の設立に加わり、その経営・管理にあたった。

創立者からしてすでに、森林の保護・利用についての理念を持っていたということなのです。

 

長い文章の最後のほうに、こういう部分があります。

・・・東京の再開発でも、街路樹や公園といった都市の「森林」の伐採が問題となることがあります・・・

ここを読んで、神宮外苑の再開発にともなう伐採問題をすぐ想起しなくてはなりません。オリンピック開催のための国立競技場建設からはじまった大規模再開発のために、1000本以上もの貴重な大木が伐採(600本以上)&移植(200本くらい)されてしまいました。

社会科教師なら、こうした事象に怒りを覚えても、賛同される方はいないはずです。

おそらくは、この再開発問題から、この出題全体を考えたのでは、と思います。

あいかわらず麻布のリベラルは筋金入りです。

 

最後の大物記述を紹介します。

「・・・森林は土地所有者や林業従事者だけに関わるのではなく、多くの人びとにとって今なお大切な役割を果たしています。森林とどう向き合うかは、私たちにとって避けては通れない課題なのです。」

 

問13 下線部について、私たちは、本文でふれられていること以外にもさまざまな森林の問題に直面しています。そこには利用と保護のバランスをめぐるさまざまな対立gああります。このような対立の具体例をあげ、土地を利用したい人が求めるものと、森林を保護したい人が心配していることの両方がわかるように120字以内で説明しなさい。

 

単純に、「自然を守ろう!」「森林を守ろう!」というスタンスだけではないのが、この学校らしいところです。

本文中にも、森林の利用の歴史についても多く書かれていました。

解答には2つの方向性があります。

(1)一般的な例をあげる

・神宮外苑の伐採と開発問題

・メガソーラー建設と森林伐採

・マングローブの開発と生物種の減少

・焼き畑による森林減少

・里山減少と生物多様性

まあこれくらいはすぐに思いつくでしょう。

焼き畑やマングローブについては、悪くはないのですが、そこが求められている解答ではない気がします。「対立の具体例」が求められていますので、具体性に乏しいと思うのです。

また、神宮外苑の伐採と再開発問題については、あきらかに文章で示唆されていますので、よほど具体的に書かないと高得点はもらえないかもしれません。例えば、伐採された本数であるとか、あるいは新国立競技場が、隈研吾氏による木を売りにしたデザインであるが、実は木材はただの飾りであり、その建設のために大量の樹木が伐採された矛盾を論じるとか、それくらい書ければ高得点になります。

また、最近ニュースになっている「町に出てきた熊」について、里山の減少と関連づけてもよいでしょう。

ただし、この里山問題は、実は書きづらいのです。

・土地を利用したい人が求めるもの

・森林を保護したい人が心配していること

この対立を書くことが求められています。里山は、そもそも人の手が思い切り入って維持されている森林ですが、そこには目をつぶって、里山=保護したい森林と考えて書くことになりますね。

そうなると、「里山を開発して住宅地にしてしまった⇒だから野生の熊が町の中にまで出没するようになった」と書くことになりますが、こうした「ありきたり」の答は、この学校が求めているものとはちょっと違います。そもそも熊の出没問題は、里山の減少だけが原因ではなく、あくまでもその一つと考えられているだけですので。

 

(2)身近な例をあげる

「自分が住んでいる近所の街路樹が全て伐採された。枝の手入れや落ち葉の清掃の費用を節約するためである。しかしその結果・・・」

こんなふうにして、自分が直接知っている例を書くという方向性もあります。

この利点としては、身近な例なので書きやすいことがあげられます。何より、日ごろの生活でもそうした事象・問題に目を止めていたことがよいのです。まさに麻布の求める生徒像に合致します。

 

手前みそになりますが、拙著「ロジカルライティング」では、麻布中受験生を対象とした、論理記述トレーニングを紹介しています。そこでは里山についても論じています。

 

2025年の問題分析はこちらに書きました。

peter-lws.net