
先日行われた渋谷教育学園渋谷中の帰国生入試「英語」を見てみましょう。
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Write a well-reasoned one-paragraph response to each of the following prompts.
1. T.S.Eliot’s poem "Rhapsody on a Windy Night" follows as a speaker down a city street that is at once familiar and mysterious. How does Eliot establish this mood in the poem?
2. Crime dramas and detective stories often involve a protagonist, alongside the audience or reader, gradually unraveling a mystery as they interpret clue and uncover new evidence. What character traits or habits or thinking do you think these detective types must have to succeed in solving their cases? (Or, crucially, solve them shile still keeping the story interesting?)
さて、今回の出題は何と「詩」でした。
それに対する設問は2問です。それぞれ解答用紙1ページ分、たっぷりと書くスペースが用意されています。
(意訳するとこんな問い)
1. T.S.エリオットの詩「風の夜のラプソディ」には、語り手が親しみやすくも神秘的な街路を歩く様子が描かれている。エリオットはどのようにしてこの詩にそのような雰囲気を醸し出しているのか?
2.犯罪ドラマや探偵小説では、主人公が観客や読者と共に、手がかりを解き明かし、新たな証拠を見つけながら、徐々に謎を解き明かしていくという展開がよくある。こうした探偵タイプの人が事件を解決に導くには、どのような性格特性や習慣、考え方が必要だと思いますか?(あるいは、物語を面白さを保ちつつ解決するためには?)
1の問いも難しいですね。詩の表現技法に言及しなくてはなりません。
そして2が、この問いだけ見ると意味不明ですが、詩の後には、謎の探偵小説が出されているので、それに関連した問いなのでしょう。
これは詩を読んでみないことにはわかりませんね。
けっこう長い詩なので、最初の段落だけ引用します。
Twelve o¹clock.
Along the reaches of the street
Held in a lunar synthesis,
Whispering lunar incantations
Dissolve the floors of memory
And all its clear relations
Its divisions and precisions,
Every street lamp that I pass
Beats like a fatalistic drum,
And through the spaces of the dark
Midnight shakes the memory
As a madman shakes a dead geranium.
詩ですからね。
ここで日本語訳する勇気は私にはありません。
T.S.エリオットといえば、『荒地』(The Waste Land)が有名ですね。
あえて彼の詩の特徴をいえば、断片的なフレーズを重層的に用いるとでもいえばいいのでしょうか。
そういえば、ミュージカル「キャッツ」は、TSエリオットの子供向けの詩集「ポッサムおじさんの猫とつき合う法」が原案となっています。
さらに劇中の名曲「メモリー」には、「風の夜のラプソディ」も組み込まれているのだとか。
たしかに、「ラプソディ―」といえば、日本語では「狂詩曲」となりますが、音楽の一ジャンルですので、この詩も音楽のつもりで味わうものなのでしょう。
ちなみに私は、リストの「ハンガリー狂詩曲」も、クイーンの「ボヘミアンラプソディ」も、ガーシュインの「ラプソディ・イン・ブルー」も大好きです。
さて、問題の詩はこんなかんじに展開します。
The lamp hummed:
"Regard the moon,
La lune ne guarde aucune rancune,
She winks a feeble eye,
She smiles into corners.
She smooths the hair of the grass.
The moon has lost her memory.
A washed-out smallpox cracks her face,
Her hand twists a paper rose,
That smells of dust and eau de Cologne,
She is alone
With all the old nocturnal smells
That cross and cross across her brain."
おっと、いきなりフランス語が混ざっていますね。
La lune ne guarde aucune rancune
月は恨みを抱かない、とでも訳すのでしょうか。
これ、いくらなんでも誰も(一部の生徒を除き)わからないですよね?
ちなみにこの詩は、エリオットがパリ在住時に書かれたようですが。
もしかして、このフランス語部分がミステリー?
そして次の文章、謎のミステリーですが。
タイトルも作者も書かれておらず、詩の次のページをめくると、いきなり文章が始まっています。これは謎過ぎますね。まさか「これもTSエリオットの詩の続き?」と思う生徒はいないはずですが。
実はこの文章は、Susan Glaspellの「A Jury of Her Peers」というミステリーの一部です。
グラスペルが生まれ育ったアイオワ州を舞台にしたこの作品は、マーサ・ヘイルという女性の1日を綴っています。ヘイル夫人は夫と保安官に同行し、残酷な夫ジョン・ライトを殺害した容疑で告発された女性、ミニー・ライトの自宅を調査するのです。20世紀初頭(戦前)ですので、男性による女性の抑圧や、性差別、さらに法が女性を暴力から守れない実態がテーマです。
The county attorney walked toward the stair door.
"I guess we'll go upstairs first—then out to the barn and around there."
He paused and looked around the kitchen.
"You're convinced there was nothing important here?" he asked the sheriff. "Nothing that would—point to any motive?"
The sheriff too looked all around, as if to re-convince himself.
"Nothing here but kitchen things," he said, with a little laugh for the insignificance of kitchen things.
こんな出だし(問題文の)ですね。
これも意訳するとこんなかんじになります。
郡検事が階段の扉に向かって歩み寄った。
「まずは二階へ上がろう——それから納屋へ回って、その辺りを探る」
彼は足を止め、台所を見回した。
「ここには重要なものは何もなかったと確信しているのか?」保安官に尋ねた。「動機を示すようなものは——何も?」
保安官もまた、自らを改めて納得させるかのように周囲を見渡した。
「台所用品以外は何もない」と、台所用品の取るに足らない様子を小さく笑った。
county attorneyはどう訳しましょうか。attorneyだけなら弁護士とでもしたいところですが、county attorneyとなっているので、郡の検事なのでしょう。捜査もしていますし。
insignificanceも難しい単語ですね。英検でいえば準1級レベルでしょうか。
長いので途中は省きますが、最後(この問題文の)はこうでした。
There was the sound of a knob turning in the inner door. Martha Hale snatched the box from the sheriff's wife, and got it in the pocket of her big coat just as the sheriff and the county attorney came back into the kitchen.
意訳してみます。
内側のドアでノブが回る音がした。マーサ・ヘイルは保安官の妻から箱を奪い取り、保安官と郡検事が台所に戻ってきたまさにその時、それを大きなコートのポケットに押し込んだ。
何かが起きています。これは消化不良になりますね。この続きが気になりますよね。
実はあとほんのちょっとで小説は終わるのです。問題文にはありませんでしたが、特別にご紹介します。
"Well, Henry," said the county attorney facetiously, "at least we found out that she was not going to quilt it. She was going to—what is it you call it, ladies?"
Mrs. Hale's hand was against the pocket of her coat.
"We call it—knot it, Mr. Henderson."
「さて、ヘンリー」と郡弁護士は冗談めかして言った。「少なくとも、彼女がキルトを縫うつもりはなかったことはわかったな。彼女は——何て言うのでしたか?」
ヘイル夫人はコートのポケットに手を当てていた。
「私たちは——結ぶと言うのです、ヘンダーソンさん」
すいません、ここだけ紹介しても、結局何の話なのかさっぱりでした。
興味のある方は、「The Owl Eyes library」というサイト、まあ青空文庫のような?ところで全文が公開されていますので読んでみてください。
TSエリオットの代表作「(荒地)」の全文もここで読むことができます。
それにしても、渋谷渋谷の帰国生入試の英語は難しいですね。英検準1級レベルだと落とされる、1級レベルが必要などと言われるのはうなずけます。
また、一般入試では要求されない、「 Essay Writing」のスキルを求められるのも特徴です。欧米、とくにアメリカの現地校では一般的なスキルです。
(1)Strong Central Idea
(2)Reason 1
(3)Transition
(4)Reason 2
(5)Conclusion
たとえば5つのパラグラフならこう書きます。
日本では、読解力のところで学ぶものを、実際に書く練習をするのです。いかにも自己主張の国というかんじですね。
しかし、扱われるテーマはさほど深いものではありません。それはそうですね。同じ12歳なら、日本もアメリカも同等の知的レベルのはずですから。むしろ日本の中学受験生のほうがよほど優秀だと思います。
また、詩の教育に注力されているのもアメリカの学校の特徴です。詩の技法・暗唱・創作などをかなり指導されます。
あくまでも私見ですが、渋谷渋谷の帰国生入試は、欧米、とくにアメリカの小学生を取りたいような気がします。
しかし、ここに大きな陥穽が待ち受けていることを忘れてはいけません。
英語だけは別クラスですが、他教科は全て日本語の授業を、一般受験で入学してきた生徒たちと一緒に受けるのです。
男子なら駒東・慶應普通部レベル、女子なら女子学院レベルの学力を持つ生徒たちと机を並べることになります。
つまり、「アメリカの小学生」だと完全についていけなくなるのです。
渋谷渋谷の帰国生入試は、「一般入試でも合格できるレベル」が必要です。
