
入試当日の朝の激励が行事化していたころ。
試験会場の校門前に、大勢の塾教師たちが並び、受験生を握手して送り出すのが恒例でした。
「リラックスして行け!」
「いつもどおりでいいからな!」
「大丈夫だから!」
「落ち着いて受けるんだぞ!」
「楽しんでこいよ!」
だいたいこんな言葉かけをしていますね。
しかし、これってどうなんでしょう?
天邪鬼な私はつい考えてしまうのです。
本当に、試験会場でリラックスなんかできるのでしょうか?
いつもどおりでいいのか? つまりいつもどおりケアレスミスをたくさんしていいのかな?
大丈夫の根拠は何?
落ち着けといわれても、そんなの無理に決まっています。
楽しめるはずがないですよね?
そもそも子供たちは、緊張していない=集中していない です。
緊張せずにテストを解くと、あり得ないほどのケアレスミスを連発するのです。
・漢字指定なのにひらがなで書く
・ひらがな指定なのに漢字で書く
・「誤っているものを選べ」なのに正しいものを選ぶ
・「すべて選べ」なのに一つしか選ばない
・「正しいものが無い場合は×と記入しなさい」なのに気づかない
・数字で答える問題にアルファベットで答える
・記号で答える問題なのに語句を書く
・都市名を答える問題で都道府県名を書く
・正式国名とあるのに略称で答える
・解答欄を間違える
さらにひどいものになると、問題用紙にはウのところに〇印が書いてあるのに、解答用紙にはエと答えている子まで。
この話をすると、生徒たちは口々に「あ、それよくやる!」と言うのです。
これらはすべて、緊張感の無さからくる集中不足によるものです。
生徒たちにはいつもこう話します。
「もし、入試問題がたった一問だけしかなかったとしたら?記号を1つ選ぶだけで合否が決まるのだったら?その1問に全力集中するよな。 問題を何度も何度も読み返し、ミスが無いかどうか確認し、そして丁寧に答を書く。その集中力で、すべての問題を解きなさい!」
皆うなずいていますが、テストを解かせると、ケアレスミスを連発します。
だいぶ昔になりますが、受験が終了し、見事難関校に合格したA君が遊びにきて嫌なことを言っていたのを覚えています。
ちょうどそのクラスには、いつもA君よりもはるかに成績の良かったB君がいて、二人は同じ学校を第一志望として受験しました。私の予想では、B君は合格するだろうけれど、A君は厳しいだろう、そう考えていたのです。しかし、結果は予想を裏切り、A君は奇跡の合格、そしてB君はまさかの不合格でした。
「先生、俺さあ、B君は受からないと思ってたんだ」
「何でだ?」
「だって、入試会場で、B君は浮かれてたんだよ」
A君によると、B君は、試験と試験の間の時間には、他の友達と一緒になって「今の国語、簡単だったよな」などと声高に話し合っていたのだそうです。
「俺なんか、緊張で手に汗かいているくらいだったっていうのに、あいつはすごく楽しそうでさ。そんなんでいいのか、って思ったんだよ」
深くうなずける話でした。
目の前の答案用紙が真っ白に見えるような緊張では困りますが、さすがにそんなことはないでしょう。
精神論が嫌いな私ですが、入試本番の時だけは、こうアドバイスしています。
「君の持っている集中力の最大値を見せてくれ」